一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 小さく大きな物語61

チェイニーを諦めさせようと色々策を仕掛けてみるも、逆に怒らせて暴走させてしまったらしい。本当に吹き飛ぶぐらいの暴風の魔法が、俺達を何度も遠くへ飛ばしてしまう。しかし俺は超体力を持つ男。ついでにバールは超硬い。ダメージはあまりないけど近づくことが出来ないでいる。何度やっても吹き飛ぶばかりで、もうなんか面倒臭くなった俺達は、隙をついて町から脱出した…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士?)
メルトリウス(チェイニーの部下)


 マリア―ドに流れる大河から流れる一本の支流は、俺達の通る道の横を流れ、進む方向を同じくさせている。
 穏やかな日の光と爽やかな風は、のほほんという気分にさせるだろう。
 魔物が居なければのんびり歩いていたい場所ではあるが、魔物以外の危険が迫っていた。

「むあてえええええええええええ!」

「しつこいぞチェイニー! もう次の町が見える頃だぞ! いい加減諦めたらどうだ!」

「いいいやああああああああああだあああああああああああああ!」

 その道を馬車で爆走しているのが、俺達六人と、後ろから追って来る一人である。
 あれからもずっと続けられていたのだ。

「ふう、もういっそやってしまうか?」

「ストリア、矢を構えるのはやめて! 駄目だからね。駄目だからね!」

「う~ん、中々癇癪が収まらないわねぇ。あの子の親は大変そうだわ……」

 あれから一日と半日、向うが疲れたら引き離し、俺達が休んでいると再び現れたりを繰り返している。
 眠ることも出来ないし、相当迷惑この上ないが、一応役に立つこともあった。
 襲って来そうな魔物が出て来ると、チェイニーが風の魔法で吹き飛ばしてくれるから、移動としては楽なのだ。
 だからと言って、このままの状態で付き合いたいとも思わないが。

「ちょっと飛ばし過ぎよね。もう町が見えて来たみたいよ。馬が潰れる前に休ませてやりたいわ」

「いやそりゃそうなんだけど、後ろのあいつをどうにかしなきゃ休めないぞ」

 前に町が見えてきたが、このまま入ったら迷惑だろう。
 いや、そもそも入れてもくれないかもしれない。
 あの後ろのクソガキを退治するなり説得するなり、なにかしらしないとならない。

「おい、話しを聞けよ!」

「うるさああああああああああい!」

 町の近くギリギリまで連れて行って体力を削らせる。
 そこで一度説得してみようか。
 聞かない可能性がかなり高いけど……

「リーゼさん、あいつが今度疲れたら止まってくれ。俺が一度説得してみる!」

「そうね。じゃあお願いねレティ君。小さい子にはなるべく優しくね」

「出来る限りはそうするよ。出来る限りは……」

 この厄介な攻防は、町の手前二百メートル近くまで繰り返された。
 たぶん警備の奴には気付かれているが、こちらに応援には来やしないだろう。
 外のことは外で、それが何処の町でもある鉄壁のルール。
 離れた瞬間の魔物の進入で、壮絶な犠牲が出てしまうからだ。
 だからこそ、邪魔もなく落ち着いて話も出来る訳だ。

「はぁはぁはぁ……今度は逃げないのね? あのまま町に入れば良かったのに。そうしたら私の権力であんた達を捕まえて言うこと聞かせられたのに! 王都じゃなければ私の権力は絶対なのに!」

 チェイニーは疲れているが、まだまだ元気そうだ。

「ここまで来てまだそんなこと考えてるのかよ! 俺達はあの町によらなくても先に進んだって良いんだぞ?! まだ充分に食料も水も持っているからな! どうせ手ぶらで来たんだろうし、諦めるのなら多少食料や金の工面もしてやってもいいんだぞ?」

「そんなものはあの町の領主から頂けばいいだけの話なのよね! お兄ちゃんが心配することじゃないのよね!」

「果たしてそうかな? お前が本物の宮廷魔導士だとしてもその年齢だ、この町に本当にお前の顔を知っている奴がいるとは思えないな。お前が移動手段を求めるように町の移動も困難だしな。加えて護衛もいないし、偽物だと判断されれば投獄だってされるかもしれないぞ」

「……私が勝ったら行くって約束したのよね!」

「俺達負けてないし、ちょっと時間がなくて次の町に進んだだけだし! あのまま続けていたら勝ってたし!」

「だったらここで決着をつけてあげるのよね! 掛かって来おおおおおおい!」

 チェイニーが杖を構えている。
 しかしこいつを倒すのは俺一人じゃ無理だ。
 どうせ吹き飛ばされて痛い想いをするだけだろう。

「面倒だから嫌だね! お前こそ俺達の邪魔するなよ。同行したいってんなら王国に着いて来い。それが了解出来ないのなら俺達は徹底的に逃げるだけだぞ」

「……本当に私に同行する気はないのね?」

「くどい!」

「……お兄ちゃん、私がついて行ったら面倒をみてくれるのよね?」

「はぁ、大人しくこっちに着いて来るんならな。暴れるんならなしだぞ」

「やったぁ、食事からお風呂の世話までお願いね。あと生活費の工面と汚れちゃった服の換えも欲しいのよね。じゃあお願いね、お兄ちゃん!」

「はぁ?」

 まさか全部計算ずくだったんじゃないだろうな?
 流石にないよな?

「誰がそこまですると……ハッ、不味い!」

 俺に向けられる殺気。
 いや、俺というよりも、チェイニーに向けられていると言っていいだろう。
 放っているのはやはり俺の知ってる奴だ。
 というかストリアだ。

「子供とはいえ、私のレティに色目を使うとは、少々痛い目に遭って貰おうか!」

「おいストリア、子供相手に剣を向けてやるな!」

「安心しろレティ、ちょっとケツをぶったいて自分の立場というものを教えてやるだけだ! 五回ぐらいぶったたいて泣かせてやる!」

「私に挑むなんて愚かしいお姉ちゃんだわね! ぶっとばしてあげるわね!」

 やらんでもいい二人の戦闘が始まった。
 空を飛んだり暴風が吹き荒れたり、それを剣の一振りで切り裂いたりと、おかしな光景が見えて来る。
 幸い町も近いし、何か有れば避難してくるだろう。
 俺も怪我をするのも嫌だし、あの二人に関わるのはやめてとくか。

 暴れる奴は放っておいて、前の町へと馬車を進めた。
 門番とのやり取りは少々面倒ではあったが、無事にその中へ入って行く。
 この町は農場の町。
 農場が多く存在するとかそんなレベルではない。
 人が住む家の周りには柵さえなく、飼われている動物がそこら中に徘徊している。
 見える場所全てがそんな感じだから、たぶん全体的にそんな感じなのだろう。
 そして壁の中でそんな状態だから……
 ここはとても臭い。

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