一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
43 私にとっての頑張りとは。
私が猫の姿になってしまい、また別の護衛がやって来た。ダスクによって連れて来られたのは、赤色の鬼の様な奴なのだが、私の姿を見ると怯えてしまう。この男は猫が嫌いなんだそうだ。猫の私の前でそんな事を言うとは、喧嘩を売っているように聞こえる。呆れたダスクが部屋に押し込もうと扉を開けるが、私はそこがチャンスと跳び出した。怪しい男ダスクに向かい、大きく爪で引っかいてやった。しかしそれも続かず、私の体は掴み上げられた。男と一緒に部屋に放り投げられて、部屋の中に閉じ込められてしまう。怯える男と仲良くする事もなく何日か経ち、中庭で遊んでいると、薬が出来たと報告が来た…………
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ダスク (魔道研究所の職員)
グレアデル (新しく来た護衛)
イド (最後の青い奴)
「シャーン、良かったな、薬が出来たみたいだぞ!」
「やっとみんなと遊べるよ! 治ったらお姉ちゃんのこと友達に紹介するね!」
「うん、それはいいな!」
シャーンはその男から手渡された薬を受け取った。
それはかなり大きめのお弁当箱ぐらいある物で、大きな飲み口が付けられている。
たぶん飲むのだろうけど、一度で全部飲むのは無理だと思う。
「よし、早速使ってみよう!」
「うんそうだね!」
それに口を近づけて、シャーンは飲もうとするのだけど……
飲み口に口をつけた時、持って来た男に止められたのだった。
「あ、王子、それ塗り薬です。振れば出るようになっているので、顔から足の先まで全部塗ってくださいね。また足りなくなったら持ってきますので、足りなくなったら言ってください」
「そうなの?」
「はい、一月ぐらいは様子を見ますから、効果があればそれで研究所から出られるでしょう」
「まだ一ヶ月もかかるのか。う~ん、早く外に出たいなぁ」
「でも出られるぞ。楽しみだなシャーン!」
「うん、そうだね。それまでお姉ちゃんとたっぷり遊べるから平気だよ!」
シャーンはここから出られる事に、相当嬉しく感じているらしい。
不便はなかったけど、それでも閉じ込められていたのは嫌だったのだろう。
「そうだ王子、一人で背中を塗るのは大変でしょう。モモさんもその姿では無理ですから私が塗ってあげますよ。背中を出してください」
「え? うん。じゃあお願いね」
部屋にはもう一人居るのだけど、あいつは私が居ると役に立たなくなる。
やって貰った方が良いのだろう。
男がシャーンから薬の箱を受け取ると、その薬を手に取り出し、シャーンの背中を塗り始めた。
「どうです王子? 痛くはありませんか?」
「う、うん、痛くはないけど……」
なんだろう、男の手つきが妙にウネウネしている気がする。
それに肩が上下して息づかいも荒くなっていた。
とても怪しい。
何かが怪しい。
「あ、ああ王子、これは駄目ですね。自分では細かいところまで塗れないでしょう。私が丹念に、耳の凹凸からお尻の穴まで、この手で全て塗ってあげましょう。丹念に、丹念に、何度も何度も何度も何度も、情欲に赴くままに楽しみましょう王子……はぁ、はぁ……」
「ひっ……」
「お前、青い奴だな! シャーンから離れろおおおおおおおおおおおおお!」
やっぱり怪しいのは正解だったらしい。
正体を現したその男に、私は爪を剥き出して襲い掛かった。
ウネウネと気持ち悪い男の指を、ザシュッと深く切り裂くと、そこからは赤い血がながれている。
「いったッ! どあああ、血がああああああ! このクソ猫があああああああ!」
自分の楽しみを邪魔され、男が私に怒りを向けた。
「シャーン、そいつから離れろ! 早く!」
「う、うん!」
「し、しまった!」
男の隙をつき、シャーンが逃げて行く。
扉を抜けて行く先は、たぶんグレアデルの所だ。
男は追い駆けようとしているけど、私はそれをさせてはやらなかった。
でも男は落ち着き、私を見下ろしている。
「シャーンは私が護るぞ。お前はなんて倒してやる!」
「……ふっ、その姿で何を護れるんだろうね? 精々切り傷ぐらいしか作れないくせに。いくら傷を与えられたとしても、その程度の傷で私は逃げ出したりはしない」
「…………!」
「そしてえええええええ、お前さえ捕獲出来れば、もう一人の奴も無力化されるううううううう! あのダスクって奴も来る時間ではないし、何て都合の良い事ばかりなのだろうか! 待っていた甲斐があったぞおおおおおおおお!」
「お前なんかにやらせない! くらえええええええええええええええ!」
この体でもやれることはある。
右から左、足の間を抜けて引っかいて飛び退く。
動きを読んで敵の裏側へ回り、ガリっと背中の壁に爪を突き立てる。
ここならば相手の手も届かないと安心しているが……
「ぬああああああああ、鬱陶しい!」
男は倒れ込み、背中を地面に押し付けようとしていた。
私は背中から飛び退こうとするのだけど、爪が服に引っかかり、外れてはくれなかった。
「うあ、マズイ……ぎゃッ……」
男の体重が私の体に圧し掛かる。
無理な荷重が私の体にダメージを与えた。
骨が軋み、もの凄く痛くて、重い。
男は力を失った私を外そうと、着ている白衣を脱ぎ棄てた。
その間に何とか飛び退き脱出したのだけど、足がガクガクして動きも鈍り始めていた。
「ふっふぅ……私は負けないぞ……」
「よく頑張る。それは誉めてやろう。 ……ああ、そうだった。私の名を名乗っていなかったな。心して聞くのだな。この私こそが、青の中の青! 最後にして最高の青! 私の青は青く染まり、深く美しい青へと変わっている! 私こそが、至高の青。青にして蒼い色の、青き深欲のイドだ! どうだ、この青は。誰一人到達できなかった真の青だ! 王子と結ばれるのは、この私だけなのだああああああああ!」
イドと言うこの男は、威勢がいいだけで実際それほど強くはない。
少し前に来たあの女に比べれば、ハッキリ言って雑魚だろう。
でも今の私にとっては、こんな奴でさえ倒せない程に弱体化いる。
……違う。
元々の力がこれなのだ。
私が今まで強化されていただけだろう。
あの力を、人の体に戻りたい。
そう願っていても、この体は元には戻ってはくれない。
何を頑張れば元に戻るのだろうか。
私には想像がつかなかった。
逃げながら反撃を繰り返す私だったが、それも次第に続かなくなっている。
「終わらせてやるぞクソ猫おおおおおおおおお!」
「あう……」
追い詰められた私は、脱ぎ捨てられた白衣、そのたかだか一枚の布切れに袋詰めにされてしまったのだ。
この爪は、たった一つの布切れさえ切り裂くことができない。
頭だけを出されて吊るされてしまった私は、何時もの部屋に連れて行かれてしまう。
今日の為に開けられた部屋の前では、グレアデルが待ち構えている。
見るだけでもイドという男よりも、明らかに強いのだが……
「ひああああああ、も、モモさん。ひ、卑怯だぞ、モモさんを放せぇ……」
だけど私の顔を見ると、本当に役に立たなくなっている。
「お姉ちゃん……」
後に居るシャーンも、不安そうに見つめていた。
「……シャー……ン……」
どうしよう、もう声を出すのも辛い……
体に力が入らない。
瞼が重い。
私は知っている。
これが終わりの時なのだと……
家族を助けられないままに、私はまた命を落としてしまうのだろう。
……嫌だ!
そんなのは嫌だ!
私は家族を、シャーンを助けたいんだ!
「シャーン、私が……助けてやる……から! あああああああああああああああ!」
命を削る様に、力いっぱい声を出し、袋の中で暴れ続けた。
胸の辺りに燃えるような熱がたぎっていく。
力が……溢れて……
来た!
「無駄な足掻きだ。そんな事をしても……な、なんだ?! 袋が大きく?! うおおおおおおおおおおおおおお!」
小さな袋から跳び出したのは、元の人間の私である。
この姿になったからは……
「お前なんか、敵にはならないんだあああああああああああああ!」
「うぎゃああああああああああああああ!」
怒りのままに放たれた蹴りは、このイドという男を軽く吹き飛ばしたのだった。
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ダスク (魔道研究所の職員)
グレアデル (新しく来た護衛)
イド (最後の青い奴)
「シャーン、良かったな、薬が出来たみたいだぞ!」
「やっとみんなと遊べるよ! 治ったらお姉ちゃんのこと友達に紹介するね!」
「うん、それはいいな!」
シャーンはその男から手渡された薬を受け取った。
それはかなり大きめのお弁当箱ぐらいある物で、大きな飲み口が付けられている。
たぶん飲むのだろうけど、一度で全部飲むのは無理だと思う。
「よし、早速使ってみよう!」
「うんそうだね!」
それに口を近づけて、シャーンは飲もうとするのだけど……
飲み口に口をつけた時、持って来た男に止められたのだった。
「あ、王子、それ塗り薬です。振れば出るようになっているので、顔から足の先まで全部塗ってくださいね。また足りなくなったら持ってきますので、足りなくなったら言ってください」
「そうなの?」
「はい、一月ぐらいは様子を見ますから、効果があればそれで研究所から出られるでしょう」
「まだ一ヶ月もかかるのか。う~ん、早く外に出たいなぁ」
「でも出られるぞ。楽しみだなシャーン!」
「うん、そうだね。それまでお姉ちゃんとたっぷり遊べるから平気だよ!」
シャーンはここから出られる事に、相当嬉しく感じているらしい。
不便はなかったけど、それでも閉じ込められていたのは嫌だったのだろう。
「そうだ王子、一人で背中を塗るのは大変でしょう。モモさんもその姿では無理ですから私が塗ってあげますよ。背中を出してください」
「え? うん。じゃあお願いね」
部屋にはもう一人居るのだけど、あいつは私が居ると役に立たなくなる。
やって貰った方が良いのだろう。
男がシャーンから薬の箱を受け取ると、その薬を手に取り出し、シャーンの背中を塗り始めた。
「どうです王子? 痛くはありませんか?」
「う、うん、痛くはないけど……」
なんだろう、男の手つきが妙にウネウネしている気がする。
それに肩が上下して息づかいも荒くなっていた。
とても怪しい。
何かが怪しい。
「あ、ああ王子、これは駄目ですね。自分では細かいところまで塗れないでしょう。私が丹念に、耳の凹凸からお尻の穴まで、この手で全て塗ってあげましょう。丹念に、丹念に、何度も何度も何度も何度も、情欲に赴くままに楽しみましょう王子……はぁ、はぁ……」
「ひっ……」
「お前、青い奴だな! シャーンから離れろおおおおおおおおおおおおお!」
やっぱり怪しいのは正解だったらしい。
正体を現したその男に、私は爪を剥き出して襲い掛かった。
ウネウネと気持ち悪い男の指を、ザシュッと深く切り裂くと、そこからは赤い血がながれている。
「いったッ! どあああ、血がああああああ! このクソ猫があああああああ!」
自分の楽しみを邪魔され、男が私に怒りを向けた。
「シャーン、そいつから離れろ! 早く!」
「う、うん!」
「し、しまった!」
男の隙をつき、シャーンが逃げて行く。
扉を抜けて行く先は、たぶんグレアデルの所だ。
男は追い駆けようとしているけど、私はそれをさせてはやらなかった。
でも男は落ち着き、私を見下ろしている。
「シャーンは私が護るぞ。お前はなんて倒してやる!」
「……ふっ、その姿で何を護れるんだろうね? 精々切り傷ぐらいしか作れないくせに。いくら傷を与えられたとしても、その程度の傷で私は逃げ出したりはしない」
「…………!」
「そしてえええええええ、お前さえ捕獲出来れば、もう一人の奴も無力化されるううううううう! あのダスクって奴も来る時間ではないし、何て都合の良い事ばかりなのだろうか! 待っていた甲斐があったぞおおおおおおおお!」
「お前なんかにやらせない! くらえええええええええええええええ!」
この体でもやれることはある。
右から左、足の間を抜けて引っかいて飛び退く。
動きを読んで敵の裏側へ回り、ガリっと背中の壁に爪を突き立てる。
ここならば相手の手も届かないと安心しているが……
「ぬああああああああ、鬱陶しい!」
男は倒れ込み、背中を地面に押し付けようとしていた。
私は背中から飛び退こうとするのだけど、爪が服に引っかかり、外れてはくれなかった。
「うあ、マズイ……ぎゃッ……」
男の体重が私の体に圧し掛かる。
無理な荷重が私の体にダメージを与えた。
骨が軋み、もの凄く痛くて、重い。
男は力を失った私を外そうと、着ている白衣を脱ぎ棄てた。
その間に何とか飛び退き脱出したのだけど、足がガクガクして動きも鈍り始めていた。
「ふっふぅ……私は負けないぞ……」
「よく頑張る。それは誉めてやろう。 ……ああ、そうだった。私の名を名乗っていなかったな。心して聞くのだな。この私こそが、青の中の青! 最後にして最高の青! 私の青は青く染まり、深く美しい青へと変わっている! 私こそが、至高の青。青にして蒼い色の、青き深欲のイドだ! どうだ、この青は。誰一人到達できなかった真の青だ! 王子と結ばれるのは、この私だけなのだああああああああ!」
イドと言うこの男は、威勢がいいだけで実際それほど強くはない。
少し前に来たあの女に比べれば、ハッキリ言って雑魚だろう。
でも今の私にとっては、こんな奴でさえ倒せない程に弱体化いる。
……違う。
元々の力がこれなのだ。
私が今まで強化されていただけだろう。
あの力を、人の体に戻りたい。
そう願っていても、この体は元には戻ってはくれない。
何を頑張れば元に戻るのだろうか。
私には想像がつかなかった。
逃げながら反撃を繰り返す私だったが、それも次第に続かなくなっている。
「終わらせてやるぞクソ猫おおおおおおおおお!」
「あう……」
追い詰められた私は、脱ぎ捨てられた白衣、そのたかだか一枚の布切れに袋詰めにされてしまったのだ。
この爪は、たった一つの布切れさえ切り裂くことができない。
頭だけを出されて吊るされてしまった私は、何時もの部屋に連れて行かれてしまう。
今日の為に開けられた部屋の前では、グレアデルが待ち構えている。
見るだけでもイドという男よりも、明らかに強いのだが……
「ひああああああ、も、モモさん。ひ、卑怯だぞ、モモさんを放せぇ……」
だけど私の顔を見ると、本当に役に立たなくなっている。
「お姉ちゃん……」
後に居るシャーンも、不安そうに見つめていた。
「……シャー……ン……」
どうしよう、もう声を出すのも辛い……
体に力が入らない。
瞼が重い。
私は知っている。
これが終わりの時なのだと……
家族を助けられないままに、私はまた命を落としてしまうのだろう。
……嫌だ!
そんなのは嫌だ!
私は家族を、シャーンを助けたいんだ!
「シャーン、私が……助けてやる……から! あああああああああああああああ!」
命を削る様に、力いっぱい声を出し、袋の中で暴れ続けた。
胸の辺りに燃えるような熱がたぎっていく。
力が……溢れて……
来た!
「無駄な足掻きだ。そんな事をしても……な、なんだ?! 袋が大きく?! うおおおおおおおおおおおおおお!」
小さな袋から跳び出したのは、元の人間の私である。
この姿になったからは……
「お前なんか、敵にはならないんだあああああああああああああ!」
「うぎゃああああああああああああああ!」
怒りのままに放たれた蹴りは、このイドという男を軽く吹き飛ばしたのだった。
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