一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
40 小さく大きな物語59
魔法を持っていない俺だが、チェイニーの頼みは聞くことはできない。丁重に断るも、方法はどうするのかと聞かれて言葉に詰まった。自分ならラグナードの王にも会えると、地位をひけらかせている。それでも断わると、ジャンケンでの勝負を申し付けられるが、運が絡むそんなものを受ける事はできない。それも断ると、今度は地団駄を踏んで暴れる子供に変わってしまう。そんな暴れる俺達に、さっきの護衛の奴が気付いたらしく、チェイニーに合流し、仕方ないから決闘で決めるのを決めた…………
レティシャス(シャインの息子)ストリア (村娘)
リッド (村人) リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス (変な女の人) バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士?)
メルトリウス(チェイニーの部下)
俺が選んだのは、バールに、あとはこの俺である。
まあちょっと性格には色々と問題があるが、バールは盾として優秀だし、遠距離攻撃も出来る優れものだ。
リッドは対人戦には向いていないし、だからと子供手加減してしまうだろう。
ストリアは武器も優秀ではあるが、逆にやり過ぎるかもしれない。
ジャネスの姉ちゃんの実力は微妙に分からないし、頼りになりそうなリーゼさんには拒否されてしまった。 上手くやれそうなのは俺だけなのである。
「やっと俺を仲間と認めてくれたのだな。わかった、じゃあ明日は親子記念日だな!」
「ああ、そんな気分の日もあるかもしれないな」
っとバールには軽く了承をとり宿をとったのだが、その宿の中に泊まる客の中に、俺達をチラッチラ見て来る奴が大勢いたのだ。
きっと俺達を逃がさない為の処置なのだろう。
次の日。
一切何も認めていない俺は、バールを利用して決闘へと挑んだ。
チェイニーに指定されたのは、大きな屋敷の門前だ。
俺達六人はその場所へ向かい、門の前に立っていた執事に案内をされ、屋敷の中に入って行く。
前にデンと構える真っ白のお屋敷は、カラフルな町の中で唯一修復の跡がみられない。
たぶん最近造られた物なのだろう。
二つ目の城と言っていいほどに大きく、庭園は見事な赤いバラ園だ。
庭園の中央にあるのは石で作られた円形の広場で、遠くで見るとこの家の家紋が見えて来る。
誰の屋敷か……
この屋敷は親の物という事でもなく、チェイニーの私物だという。
こんな物を持っているとは、地位があるという嘘みたいな話を信じなければならないかもしれない。
まっ、それで負けてやるという話にはならないが。
その中央の広場には、あの二人が不適に待ち構えていた。
「あらお兄ちゃん、逃げなかったのは誉めてあげるわね」
「どうせ逃げられないように手を回していたんだろう。宿にも俺達を見ている奴が居たからな。別に俺達に付いて来なくてもいいんじゃないのか? 金があればギルドにでも依頼を出せるだろう」
「名も知れない馬の骨共に命を任せる気はないのよね。せめて国を渡れるぐらいの実力がなければ安心して眠る事も出来ないし、お兄ちゃんが引き受けてくれさえすれば、私は何の問題もないのよね!」
「だから受けないって言ってるだろう! 俺達にも理由があるんだ!」
「落ち着いてくださいチェイニー様、また言い合いになっては、無駄な時間が流れてしまいます。約束通りに勝負で決着をつけるとしましょう」
チェイニーがメルトリウスに止められている。
「……そうよね、一分で勝てるし、無駄な時間をとるのは愚か者のすることよね。では掛かっていらっしゃいお兄ちゃん.ベッキベッキに叩きのめして、無理やり同行させてやるから!」
俺達を相手に一分とは、相当自信があるようだ。
少し本気で相手してやらないといけないかもしれない。
クソガキとはいえ、子供に剣を振ったり、蹴りを入れるのも可哀想だ。
それ以外で勝つ方法は……
「出来る物ならやってみろ! 無敵の盾を持つ俺が負けると思ってるのか! じゃあ行くぞ盾!」
「盾って俺のことかレティ? そこはお父さんって呼んでくれた方が嬉しいな」
「バール、勝てなきゃ旅が終わるからな。気合いれろよ!」
「ふっ、この照れ屋さんめ」
誰が照屋さんだと突っ込むのを我慢し、決闘の準備が始まる。
執事の人が中央に立ち、手に乗せたコインを指ではじくらしい。
「がんばってレティ、僕応援しているよ!」
「ファイトよレティ君、ちゃんと勝って来なさい!」
「レティ、もし負けても気にするな。私が昼夜を問わず慰めてやるからな!」
「え~と、適当にがんばってね」
プラスにした物がマイナスになって、丁度均等になったような外野の応援が聞こえてきた。
緊張感もなく何時も通りと、俺の心は落ち着いている。
俺が何方から戦うのかといえば、クソガキではなくメルトリウスの方である。
手もわからない魔法の中に跳び込むほど、俺は命知らずではないのだ。
バールにもそれは伝えてあるから、もう話し合うこともない。
まず俺は、戦う前に相手を見て観察することにした。
メルトリウスは鎧を着こみ、剣と盾を持っている。
クソガキを護る前衛を受け持つようだ。
何らかの魔法を使えるのかと、それがちょっと心配ではある。
クソガキの方はというと、一応その手には青い玉が付けられた杖を持っているが、昨日の恰好と大差はない。
魔法を使うと自分で言ってたし、風の系統は確認済みだ。
子供の背丈では重い鉄の武具を扱うのは無理だろう。
隠し武器の類もたぶんないと思う。
貴族の類が暗器を使うとも思えないし、魔法に自信があるようだし、手投げの武器もないはずだ。
「では、合図を……」
一通りの観察を終え、双方の準備を確認した執事の人が、そろそろ良いかと宣言をする。
手に持つコインを親指で弾き、コインが空に投げられた。
あれが落ちた時に決闘が始まる。
だから俺はおもむろにクロスボウを取り出し、そのコインが落ちる前にチェイニーに射ち放った。
「?!」
コインを見ていたチェイニーには反応はできない。
放たれた矢は頬の横を抜け、後方の建物にビーンと刺さる。
勝負とは関係ないもので、当てる気のないただの威嚇ではあるが、それでもチェイニーは動きを止めた。
今まで命の危機を感じた事がなかったのだろう。
「チェイニー様!」
そしてコインが落ちた。
動揺しているメルトリウスがチェイニーを確認している。
そこが勝機と、俺は躊躇わずに突っ込んだ。
バールも当然動いている。
「!」
一気に決めようと剣線を閃かせるも、気付いたメルトリウスが盾を使い、俺の剣を防いでいる。
剣は盾に滑りそうとうな傷をつけるも、両断するのは至らない。
中々の盾である。
「クッ?! おのれ、穏便にしようとしているのに、ここまで卑怯なことをするのか?!」
「卑怯じゃない、旅の日常だ! こんな程度も覚悟できないなら、旅なんてやめた方がいい。魔物はどこからでも襲って来るぞ。空の上、水の中、足元の地面、馬の体の中なんてことも有り得るんだ。昼も夜も、寝ている時も、便所の時だって待っちゃくれない。俺達だって目的があるんだ、そんな旅に人を巻き込むなよ!」
「知っているさ。俺だって輸送隊には参加したことがあるんだ! 何時襲われるかも分からない恐怖と、仲間が死んでいく絶望は忘れる事はできない! 腕や足が吹き飛び、二度と戻らなくなった者も知っているさ!」
この言い合いも、チェイニーに植え付けた恐怖を増幅させるものだ。
向うが乗って来たのは僥倖だろうか。
恐怖心が増せば、上手くすれば諦めるかもと思っている。
あとはバールの動きだ。
向うはどうなっているのか?
「フンッ!」
「このぐらい!」
反撃にと振られた剣を、俺は下がりながら剣で受け止める。
組み合っていては盾の強撃にやられると、身を後へと傾け剣を逸らし、更に後方に距離をとる。
だが直ぐに追いかけて来るメルトリウスに、後に下がりながら射撃を繰り返した。
大きな盾と堅い鎧は、飛び出す矢を受け止めるのだが、足を止めのには成功したらしい。
そのまま射撃をしながら移動を繰り返し、横眼でバールの様子を確認する。
「く、来るな!」
「俺は優しい男だから逃げなくてもいいよ。たかだか数年経てば俺と君とは結ばれる運命にある。怖がらないで、大丈夫だから」
「うわあああああ!」
炎や風の魔法と、かなり大きめのやつを色々ぶつけられているのだけど、バールは平然としてチェイニーを追い掛け続けている。
「はっはっは、こ~いつめ~!」
「キャアアアアアアアアアア!」
さっきの恐怖心に加え、自分の攻撃が効かないという恐怖と、襲われる恐怖を味わっている。
こちらはそこそこ真剣なのに、バールはなんか楽しそうに追いかけていた。
俺達が勝つのも時間の問題だろうか?
レティシャス(シャインの息子)ストリア (村娘)
リッド (村人) リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス (変な女の人) バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士?)
メルトリウス(チェイニーの部下)
俺が選んだのは、バールに、あとはこの俺である。
まあちょっと性格には色々と問題があるが、バールは盾として優秀だし、遠距離攻撃も出来る優れものだ。
リッドは対人戦には向いていないし、だからと子供手加減してしまうだろう。
ストリアは武器も優秀ではあるが、逆にやり過ぎるかもしれない。
ジャネスの姉ちゃんの実力は微妙に分からないし、頼りになりそうなリーゼさんには拒否されてしまった。 上手くやれそうなのは俺だけなのである。
「やっと俺を仲間と認めてくれたのだな。わかった、じゃあ明日は親子記念日だな!」
「ああ、そんな気分の日もあるかもしれないな」
っとバールには軽く了承をとり宿をとったのだが、その宿の中に泊まる客の中に、俺達をチラッチラ見て来る奴が大勢いたのだ。
きっと俺達を逃がさない為の処置なのだろう。
次の日。
一切何も認めていない俺は、バールを利用して決闘へと挑んだ。
チェイニーに指定されたのは、大きな屋敷の門前だ。
俺達六人はその場所へ向かい、門の前に立っていた執事に案内をされ、屋敷の中に入って行く。
前にデンと構える真っ白のお屋敷は、カラフルな町の中で唯一修復の跡がみられない。
たぶん最近造られた物なのだろう。
二つ目の城と言っていいほどに大きく、庭園は見事な赤いバラ園だ。
庭園の中央にあるのは石で作られた円形の広場で、遠くで見るとこの家の家紋が見えて来る。
誰の屋敷か……
この屋敷は親の物という事でもなく、チェイニーの私物だという。
こんな物を持っているとは、地位があるという嘘みたいな話を信じなければならないかもしれない。
まっ、それで負けてやるという話にはならないが。
その中央の広場には、あの二人が不適に待ち構えていた。
「あらお兄ちゃん、逃げなかったのは誉めてあげるわね」
「どうせ逃げられないように手を回していたんだろう。宿にも俺達を見ている奴が居たからな。別に俺達に付いて来なくてもいいんじゃないのか? 金があればギルドにでも依頼を出せるだろう」
「名も知れない馬の骨共に命を任せる気はないのよね。せめて国を渡れるぐらいの実力がなければ安心して眠る事も出来ないし、お兄ちゃんが引き受けてくれさえすれば、私は何の問題もないのよね!」
「だから受けないって言ってるだろう! 俺達にも理由があるんだ!」
「落ち着いてくださいチェイニー様、また言い合いになっては、無駄な時間が流れてしまいます。約束通りに勝負で決着をつけるとしましょう」
チェイニーがメルトリウスに止められている。
「……そうよね、一分で勝てるし、無駄な時間をとるのは愚か者のすることよね。では掛かっていらっしゃいお兄ちゃん.ベッキベッキに叩きのめして、無理やり同行させてやるから!」
俺達を相手に一分とは、相当自信があるようだ。
少し本気で相手してやらないといけないかもしれない。
クソガキとはいえ、子供に剣を振ったり、蹴りを入れるのも可哀想だ。
それ以外で勝つ方法は……
「出来る物ならやってみろ! 無敵の盾を持つ俺が負けると思ってるのか! じゃあ行くぞ盾!」
「盾って俺のことかレティ? そこはお父さんって呼んでくれた方が嬉しいな」
「バール、勝てなきゃ旅が終わるからな。気合いれろよ!」
「ふっ、この照れ屋さんめ」
誰が照屋さんだと突っ込むのを我慢し、決闘の準備が始まる。
執事の人が中央に立ち、手に乗せたコインを指ではじくらしい。
「がんばってレティ、僕応援しているよ!」
「ファイトよレティ君、ちゃんと勝って来なさい!」
「レティ、もし負けても気にするな。私が昼夜を問わず慰めてやるからな!」
「え~と、適当にがんばってね」
プラスにした物がマイナスになって、丁度均等になったような外野の応援が聞こえてきた。
緊張感もなく何時も通りと、俺の心は落ち着いている。
俺が何方から戦うのかといえば、クソガキではなくメルトリウスの方である。
手もわからない魔法の中に跳び込むほど、俺は命知らずではないのだ。
バールにもそれは伝えてあるから、もう話し合うこともない。
まず俺は、戦う前に相手を見て観察することにした。
メルトリウスは鎧を着こみ、剣と盾を持っている。
クソガキを護る前衛を受け持つようだ。
何らかの魔法を使えるのかと、それがちょっと心配ではある。
クソガキの方はというと、一応その手には青い玉が付けられた杖を持っているが、昨日の恰好と大差はない。
魔法を使うと自分で言ってたし、風の系統は確認済みだ。
子供の背丈では重い鉄の武具を扱うのは無理だろう。
隠し武器の類もたぶんないと思う。
貴族の類が暗器を使うとも思えないし、魔法に自信があるようだし、手投げの武器もないはずだ。
「では、合図を……」
一通りの観察を終え、双方の準備を確認した執事の人が、そろそろ良いかと宣言をする。
手に持つコインを親指で弾き、コインが空に投げられた。
あれが落ちた時に決闘が始まる。
だから俺はおもむろにクロスボウを取り出し、そのコインが落ちる前にチェイニーに射ち放った。
「?!」
コインを見ていたチェイニーには反応はできない。
放たれた矢は頬の横を抜け、後方の建物にビーンと刺さる。
勝負とは関係ないもので、当てる気のないただの威嚇ではあるが、それでもチェイニーは動きを止めた。
今まで命の危機を感じた事がなかったのだろう。
「チェイニー様!」
そしてコインが落ちた。
動揺しているメルトリウスがチェイニーを確認している。
そこが勝機と、俺は躊躇わずに突っ込んだ。
バールも当然動いている。
「!」
一気に決めようと剣線を閃かせるも、気付いたメルトリウスが盾を使い、俺の剣を防いでいる。
剣は盾に滑りそうとうな傷をつけるも、両断するのは至らない。
中々の盾である。
「クッ?! おのれ、穏便にしようとしているのに、ここまで卑怯なことをするのか?!」
「卑怯じゃない、旅の日常だ! こんな程度も覚悟できないなら、旅なんてやめた方がいい。魔物はどこからでも襲って来るぞ。空の上、水の中、足元の地面、馬の体の中なんてことも有り得るんだ。昼も夜も、寝ている時も、便所の時だって待っちゃくれない。俺達だって目的があるんだ、そんな旅に人を巻き込むなよ!」
「知っているさ。俺だって輸送隊には参加したことがあるんだ! 何時襲われるかも分からない恐怖と、仲間が死んでいく絶望は忘れる事はできない! 腕や足が吹き飛び、二度と戻らなくなった者も知っているさ!」
この言い合いも、チェイニーに植え付けた恐怖を増幅させるものだ。
向うが乗って来たのは僥倖だろうか。
恐怖心が増せば、上手くすれば諦めるかもと思っている。
あとはバールの動きだ。
向うはどうなっているのか?
「フンッ!」
「このぐらい!」
反撃にと振られた剣を、俺は下がりながら剣で受け止める。
組み合っていては盾の強撃にやられると、身を後へと傾け剣を逸らし、更に後方に距離をとる。
だが直ぐに追いかけて来るメルトリウスに、後に下がりながら射撃を繰り返した。
大きな盾と堅い鎧は、飛び出す矢を受け止めるのだが、足を止めのには成功したらしい。
そのまま射撃をしながら移動を繰り返し、横眼でバールの様子を確認する。
「く、来るな!」
「俺は優しい男だから逃げなくてもいいよ。たかだか数年経てば俺と君とは結ばれる運命にある。怖がらないで、大丈夫だから」
「うわあああああ!」
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