一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

29 救出作戦。

ゴワスを退治するが、靴の力により私は体が痛くなってしまう。これで終わったと部屋に帰って行く。その途中でサルビアという女性に靴の改修をまかせ、私達は布団に入ってグッスリと眠りにつく。次の朝、昼になってもアビゲイルさんはやって来ない。お腹が減った私達は、何故か開いていた部屋の扉から出て、食料を探すのだった。何故か人の気配がしないこの施設で、私達は机や引き出しを開けて食料を探す。紙の束しか見つからないけど、頑張って続けると、食いしん坊な人の机を見つけた。私達はそれを食べ腹を満たすのだけど、さっきのサルビアが青化の原因が自分だと告白した…………


モモ     (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
サルビア   (魔道研究所の職員)


 サルビアが告白し、それを許したシャーン。
 シャーンが良いならと私もそれを許し、今この研究所の状況を聞いている。
 話しを聞くと、この施設の状況は何にも変わっていないらしい。
 私の解放した一人はまた掴まって、サルビアだけが隠れてやり過ごしたと言っていた。
 まだ敵はこの研究所の中に潜んでいるのだけど、私達の部屋の扉を開けようと、鍵を持つアビゲイルさんを必死で探しているらしい。
 普通に確認してたら開いていたのに、近づいたら私にバレるとでも思っていたのかもしれない。

「つまりですね、部屋に来ていないという事は、まだアビゲイルさんは捕まっていないということです! モモさんの力で暴漢達を退治しちゃいましょう!」
 
「ん~と、お姉さん、すごい時間が経ってると思うんだけど、なんでこんなに時間経ってるの?」

「……王子、女性には色々と秘密があるのです。必要な事をしていたら今の時間になってしまったのは仕方のない話なのです! 別にロッカーの中で寝てたわけじゃないのですよ!」

「寝てたんだな?」

「寝てたんだね」

「寝てませんから! 色々と準備をしていたんですよ。この靴も頑張って調整して、今では二倍ぐらい時間が伸びているのです! ……たぶん」

 あのボロボロだった靴は、今は綺麗に磨かれてピカピカになっている。
 その靴を手に持ち、サルビアが私に渡そうとしていた。 
 これをまた私に使えと言うのだろう。
 でも十分走るのも嫌なのに、倍になったらもっと嫌だ。
 だから私はそれを拒否することにした。

「たぶんって何?! いらない、私はいらないぞ!」

「使わなくても良いんです! 腰に下げればお洒落で可愛いですから、使いたくなったら使えばいいのです! ほら縛ってあげますから、ちょっと動かないでください!」

「お姉ちゃん、折角綺麗にしてくれたんだから貰ってあげなよ。また使うかもしれないし」

「えええええ、なんかやだ。お尻にポンポンあたるもん!」

「王子、挟み撃ちしてつけてしまいましょう!」

「ごめんねお姉ちゃん、でも僕必要だと思うんだ」

「わあああああ!」

 もしかしたら、前に戦った二人よりも、この二人の連携は完璧かもしれない。
 私は部屋の中を逃げ回るけど、ドンドン追い詰められて結局背中に付けられてしまった。
 歩く度にコツンコツン当たって違和感を感じてしまうけど、切り落とすのはシャーンが可哀想だろう。
 外すのを諦め、私はそれを受け入れるしかなかった。

「ううう、酷いぞ」

「ごめんね、お姉ちゃん。でも可愛いんじゃないかな?」

「です! 私がデザインした靴ですから当然可愛いに決まっています! おしゃれ度も強さもアップ、もう完璧じゃありませんか! あとはちょっと暴走するのを何とかすればいいだけです!」

「それが一番駄目だぞ。私もうあんな目には遭いたくない」

「モモさんの言い分は聞かないとして、今言い合いをしている暇はありません! まずは研究所の皆さんを助けるのが先決でしょう。さあ行きますよお二人共!」
 
 何となくこの人からも青みを感じる。
 髪や瞳も青くはないけど、この人が作ったから雰囲気を感じるのだろうか?
 まさか髪を染めてたり?
 試して見ようと、私は指をサルビアの頭に突き付けた。

「サルビア、髪が青くな~い!」

「私を疑っているのですかかモモさん。安心してください、私は正気ですよ。ええ、全然私は正気です。正気ですとも」

 青化していたら怒ったりするはずだから、たぶん正常なのだろう。
 あんまり納得はできないけど、私達はサルビアを先頭に移動を始めた。
 一応警戒してはいるものの、あれだけ騒いで誰も来ないのだから、この辺りに敵は居ないはずだ。

「たぶんですけど、私の見解では敵は二人居ると思います。見張りに一人、探索に一人でしょうね。この辺りに居ないとなると、地下に固められているのかもしれないわよ」

「ふ~ん、別に何人いてもいいぞ。シャーンの敵は全部倒してやるからな!」

「うん、お姉ちゃんなら出来るよね!」

 地下に移動した私達は、そこで縛られている人達を見つけた。
 中には青髪の人も見かけるけど、縛られているからは普通の人なのだろう。
 端から端まで観察を続けると、その中に縛られていない青髪の男達を見つけた。
 人数は二人で、今は手持ちのパンをかじって休憩している。
 鎧を着ていて、どちらとも人の体をしているけど、また変身する可能性もあるだろう。
 また硬くでもなられたら厄介だから、今の内に倒しておきたい。

 他の敵は……この部屋の中には居ないらしい。
 サルビアの言った通り、敵は二人だけだと思う。
 だけど人質との距離は相当近く、近づく前に盾にされてしまいそうだ。
 何か考えないといけない。

「モモさんチャンスです。その靴を使って、隙をみて天井から襲撃しましょう。この高さがあればきっと気付かれないでしょう。行くなら今ですよ」

「ええ、またこれを使うのか……私やだ」

「お姉ちゃんお願い、皆を助ける為だよ」

「うう、じゃあこれで最後にするから、もう言わないで」

「うん、わかった。僕はもう言わないよ。だからお願いね、お姉ちゃん」

「……じゃあ行くから。シャーンのことを頼んだ」

「任せてください!」

 私はサルビアにシャーンを任せて、靴を履き替える。
 敵の隙を見て音もなく壁をのぼり、高い天井に潜み進む。
 音も気配もなく近づく私に、二人はまるで気付いていない。
 そのまま敵の上に到達すると、止まらない足を無理やり動かし、天井に体を沈めて行く。
 バネの様に跳ね跳ぶと、体を回して足を向けた。

「ん? ……ッぎゃ!」 

 私の気配に気づいたのか、見上げた奴の顔に蹴りを叩きつける。

「な、何が?!」

 驚く隣の男に、続けて攻撃を仕掛けた。
 攻撃大勢を取らせぬままに、バキィとその男の頬を蹴り付ける。

「ぐはあああああああああ!」

 その男も吹き飛ばし、決着がついたかに思われた。
 でも私は、まだ止まることが出来ない。
 靴の制限時間はまだまだ続くのだ。
 たぶんあと十八分ぐらい。

「ぎゃああああああ、とまらないいいいいいいいいい!」

 そのまま時間切れまで部屋を回り続け、シャーンとサルビアが全員を救出した頃、私はまた地面に寝ころぶのだった。

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