一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

25 ピンチはチャンスでチャンスはピンチ。

マタタビの匂いから何とか生還した私は、シャーンを追って敵を追跡していく。部屋に閉じ込められている職員を助けたりして、地下に居る敵を発見した。シャーンは五人の蒼い奴に囲まれて奪い合いをされている。人数差もあり勝てないと、私は階段に潜んでチャンスを待った。五人の誰かを選ぶ様にと催促されているシャーンは、私の名前を呼んでくれた。その事に落ち込む五人に、私はここが行くべきタイミングだと、敵へと跳び出して行くのだった…………


モモ     (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
スメラ    (シャーンを狙う男)
フェルレース (シャーンを狙う女)
カステーラ  (シャーンを狙う女)
ゴワス    (シャーンを狙う男)
イレイザー  (シャーンを狙う女)


 あの五人は武器さえ落として四つん這いになっている。
 シャーンを救わなければならないが、ここで人数を減らさなければ勝ち目はない。
 誰を狙うのを吟味して、決めたのは厄介そうなリーチがある奴だ。
 丁度良く隣に並ぶフェルレースとカステーラを思いきって蹴っ飛ばし、私は怯えるシャーンの体を掴む。

「シャーン!」

「僕怖かったよお姉ちゃん」

「もう大丈夫だシャーン、私が助けてやるぞ! それにはまず残ってる奴を倒さないと!」

 シャーンを連れて敵の中心から脱出するついでに、まだ倒れているスメラを蹴り進む。
 倒した三人の髪の色も変わり、残ったのはたったゴワスという男と、イレイザーという女の二人だ。
 私はシャーンをおろして残りの二人を蹴り倒そうとするのだけど、二人は既に立ち上がり怒りに満ちた表情をしている。

「貴様、ゴワスの王子を奪ったでゴワスな! 王子はゴワスのものでゴワス! 返してもらおうかこの泥棒猫めええええ!」

「ふふふ、まだ君の物と決まってはいないよ。この際だ、あの猫を倒した者がシャーン王子を手に入れるとしよう。もちろんそれは、このイレイザーに決まっているのだけどね」

「それでいいでゴワスよ。どうせゴワスが手に入れるでゴワス! じゃあ先に行くでゴワス!」

「あ、ズルい! な~んて、ブリッツ・ファイヤ!」
 
 イレイザーの掌から、突然丸っこい炎の玉が現れた。
 タライの丸程度には大きい炎が、私に向かって飛んできている。
 その渦を巻いて向かって来る炎は、シャーンまでも巻き込みそうな勢いがあった。
 私に避けさせない為か、それともシャーンを動けなくしてでも手にいれようとしているのだろうか?
 青色に変わった彼らは、理性もなくしているのかもしれない。

 私は隣に居るシャーンを抱え、向かって来る炎を避けるが、ゴワスの巨体が迫って来ていた。
 体格の割には結構早いけど、私に追い着けるほどではない。
 まずは距離をとろうとするけど、ことごとくがイレイザーによって先天を打たれた。
 道の先に炎を放たれ動きを制限されてしまう。

「ぐぬぅ、もう少し適格にヤルでゴワス! この速さでは捕まえられないではないでゴワスよ!」

「別に君の為にやってるわけじゃないんだよ。その方が有利になるんじゃないかと思っただけさ。とっとと捕まえてくださいよ。まとめて焼き払ってあげますからね」

「その程度でゴワスが倒せると思う名でゴワスよ! でもゴワスは近接しか出来ないから行ってやるでゴワス!」

 二人の連携は意外とハマり、私達との距離を着実に詰めて来ている。
 兎に角あの後ろのイレイザーが邪魔なのだ。
 まずイレイザーを倒しておきたいのだけど、何も考えずに前に出ればゴワスに邪魔をされそうだ。
 体を掴まれればまた酷い目に遭ってしまう。
 それは絶対ごめんだった。
 直ぐに反撃を開始したい所だけれど、問題はこの場所だろう。
 障害物もなく、天井も高いこの場所では、壁や天井を使った戦い方はできない。
 私の機動力は半減してしまっている。
 今できることといえば、精々がステップで動きを惑わすぐらいだろうか。
 一度逃げるのも手かもしれないと、下りて来た階段へと向かおうとするのだけど……

「ふふふ、掛かったな化け猫め! このイレイザーはそこに行くと罠をはっていたのだよ! 食らうがいい、ブリッツ・ファイヤ!」

「!」

 階段の入り口に炎が当たり、ボワンと大きく炎が弾けた。
 少しずつ消えて行くけど、待っていればあの二人に追いつかれそうだ。

「おお、やるでゴワスな。これで逃げ場はないでゴワス! ここからじわじわ追い詰めてやるでゴワスよ!」

 炎に飛び込むならもしかしたら……
 でもシャーンに怪我をさせてしまうかもしれない。
 それは絶対駄目だ!

「お姉ちゃん、僕のことは気にしないで。少しぐらいなら平気だから」

「違うぞ、気にするなシャーン、私達は家族なんだから! このお姉ちゃんに全部任せろ!」

「……う、うん、わかったよ。僕お姉ちゃんに任せてみる!」

 シャーンを励まし私は敵の動きに集中する。
 もう階段は使えない、かなり遠くに別の階段もあるけど、同じ事を繰り返すだけだろう。
 右に左にと展開される炎の玉を避けるにはどうすれば。

「またもお姉ちゃんと、しかも家族とか言うんでゴワスか! これは許せないでゴワス!」

「このイレイザーでさえまだ言われた事がないというのに、とても頭にくるじゃないですか!」

「「ぶっ殺す!」」

 たかだかあの程度のやりとりでさえ、あの二人には気に入らないらしい。
 二人はそう言って、もっと激しく攻め込んで来る。
 ゴワスは怒りのままに前方に、イレイザーは道を塞ぐだけではなく、直接炎をぶつける動きも見せ始めた。
 でも私は移動を繰り返す内に、ほんの少しの光明を見つける。
 後方に居るイレイザーが、ゴワスの体に重なる時だけ攻撃が甘くなるのだ。
 私の体がゴワスに隠れて行動が分からないのだろう。
 きっとそこにこそ希望は隠されているはずなのだ。

「お、お姉ちゃん……」

「大丈夫、全然平気だぞ! シャーン、少し揺れるからしっかり摑まっていろ!」

「うん」

 青い奴等の激しい攻撃は、シャーンを怯えさせてしまっている。
 早く倒してやらなければと、私は攻撃を避けながら移動を繰り返す。
 何度も繰り返している内に、怒り任せに前に突っ込んで来るだけのゴワスに、ほんのりと疲れの色が見え始めた。
 ハァハァと息を切らし、体からは多量の汗が流れている。
 もう随分と動きも鈍り始めた。
 ついには動きを止めてしまい、私の反撃の機会がやって来たのだ。
 敵二人の体が重なるのを見計らい、私はゴワスに向かい走り始めた。

「倒してやるぞでっかいの。てええええええええええええい!」

「ゴワスを舐めるんじゃないでゴワス。逆にひねり潰してやるでゴワスよ!」

「おい、何時までも正面に立っているな! 私が見えないだろう!」

 私は二人の体が重なる様に移動を続け、ゴワスにぶつかる直前に空中に舞い上がる。
 ゴワスの背から転がる様に着地すると、狙うのは正面に居る邪魔な奴だ。

「なッ! この、ブリッツ・ファイヤ!」 

「ぎゃあ!」

 掌から炎が発射されるが、その反応は遅い。
 私達はもう避けているのだ。
 そのまま振り向いたゴワスに炎がぶつかり、大きく燃え上がる。
 死んではいないけど結構なダメージがあるようで、地面をゴロゴロと転がっていた。
 直ぐには立ち上がっては来ないだろう。
 その間にと、私はイレイザーとの距離を詰めて行く。

「ブ、ブリッツ・ファイヤああああ?!」

 発射される前の手を蹴り上げ、もう片方の足で顎を蹴り上げたのだった。
 イレイザーが戦闘不能になったのを確認すると、私は振り向きゴワスを見つめる。
 丁度立ち上がる所だったようで、私はシャーンを降ろして止めを刺そうとするのだけど。

「くふぅ、まさか全滅するとは思わなかったでゴワス。残りはゴワス一人とは、本気を出さざるを得ないでゴワスな! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ゴワスが体をブルブルと震わせて筋肉を盛り上げている。
 もしかしたら前に戦った男達のように、また変身したりするのかもしれない。
 私はその前に止めを刺そうと、盛大に蹴りを直撃させたのだった。

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