一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 中庭での息抜き。

レイバースが連れて行かれ、私は部屋に戻った。そこには本物の友達が来ていて、シャーンは凄く嬉しそうに遊んでいる。私は眠くなって目を閉じようとするけど、レーレは私の頭を叩いて邪魔をして来る。私は寝そうになるもそれを見続け子供が帰る時間になる。その時間にお母さんに呼び出され、部屋に向かって行く。お母さんからは魔道研究所という所にシャーンを預けると聞かされ、私もそれに同行することになる。私は早速そこに連れ去られ、部屋に閉じ込められてしまった。でもそこまで不便はなく、美味しい料理とかを食べて楽しく暮らしていた…………


モモ     (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
スメラ    (シャーンを狙う奴)


「私シャーンと外で遊びたい!」

「ああ確かに、こんな部屋に居たら息が詰まっちゃいますもんね。施設の外に出るのは許可が出ないと思いますけど、中庭だったらいけるかもしれませんね。一度上司に相談してみます。ではお食事をどうぞ」

 私は食事を配膳してくれるアビゲイルさんに、外に行きたい事を伝えた。
 アビゲイルさんは四十歳ぐらいの女性で、お話とかも聞いてくれる優しい人だ。
 反応は随分良く、この感じなら出れるかもしれない。
 それはとても嬉しいけど、今私はもっと嬉しい事がある。
 扉の下から入れられた食事のプレートに、見た事があるデリシャスな物が乗っているのだ。
 今回は肉じゃなく、小さな骨まで取り除かれた、大きなお魚の白身である。
 その身は煮られ、味の良さそうなソースがかかり、結構なボリュウムがあった。
 これは食いでがありそうだ。

「お、お魚だああああああああああああああああああ!」

 私は両手で拳を握りしめ、背を丸めながら絶叫した。
 前に食べたお肉も美味しかったけど、魚の魅力には一歩及ばないのだ。
 私は食事のプレートを手に取り、目当ての魚に噛り付く。

「美味い!」

 ホロホロと崩れる身と、ソースの味、魚の臭みは最高に食欲をそそらせる。
 ガブガブと食い進めていくが、シャーンの食欲はないらしい。

「お姉ちゃんお魚好きなんだね。僕あんまり好きじゃないから、お姉ちゃん食べていいよ」

「うん食べ……シャーンも食べないと駄目だ! 私お野菜食べた。シャーンもお魚食べないと駄目だ!」

 いくらお魚が好きでも、私はシャーンの分を奪ったりはしない。
 もし残ったらその時に食べるとしよう。

「う~ん分かったよ、僕も食べる」
 
 シャーンもお魚を食べ進めている。
 苦手と言っているけど、そこまで不味そうにはしていない。
 もしかしたら私が好きだからと、自分の分をくれようとしたのだろうか?
 私はシャーンの頭を撫で、他の物も食べ進めていく。
 全てを平らげると、充分にお腹を満たした。

「美味かった。ご馳走様だ!」

「うん、ごちそうさまでした!」

 二人でのんびりと食休みをしていると、アビゲイルさんがプレートを下げに戻って来ていた。
 その食器プレートを持ち、アビゲイルさんがさっきの答えを聞いたらしい。

「ああ、さっきの話ですけどね、上司に聞いてみたら出ても良いって話でしたよ。時間はかぎられていますけど、今から出て見ますか?」

「シャーン、どうする? 今から外に行くか?」

「うん、行きたい!」

「分かった、じゃあ行こう!」

「はい、ご案内しますね。ついて来てください」

 アビゲイルさんに案内された中庭には、今人は誰も居なくなっている。
 たぶん休みの時間は終わってしまって、この施設で働いているんだろう。
 アビゲイルさんも元の仕事に戻って行き、私達はたった二人でこの中庭に取り残された。
 中庭はあの部屋とは比べ物にならないぐらいに随分と広く、周りはこの施設の建物で囲まれている場所である。
 私が壁から全力で走ったとしても、十秒ぐらいかかるぐらいは広い。
 芝生が敷き詰められて、石ころとかは見当たらない。
 シャーンが転んでも怪我もしないだろう。
 子供が遊べそうな遊具は置いてないけど、少し大きなボールが転がっている。
 向うの世界で言うサッカーボールぐらいの物だ。
 あとはここで働く人たちが使いそうなベンチぐらいしかない。。
 一応日向もあるし、寝たら気持ちがいいかもしれない。

「お姉ちゃんボールで遊ぼう!」

「うん、遊ぶぞ!」

 ちょっと眠かったけど、私はシャーンと走る事を選んだ。
 シャーンから投げられるボールに私がじゃれ付き、弾いたボールを二人で追い掛けている。
 楽しい時間は長く続き、明らかに三時間ぐらいは越えた辺り。
 アビゲイルさんは少しだけと言っていたのに、誰も呼びに来ないのを不審に思い始めた。
 もしかしたら自分達で帰った方がいいのだろうか?

「シャーン、部屋に……」

 そう言葉に出そうとした時、この近くから何者かの気配が動いた。
 この気配はアビゲイルさんのものではなく、私の感じた事のないものだ。
 私達を呼びに来たのかと思ったけど、この感じは違う雰囲気を感じさせる。
 中庭の扉の前で立ち塞がり、こちらを見張っている感じがする。
 もしかしたらと、あの青い奴等なんじゃないかと、ちょっとだけ嫌な予感がしてきていた。
 私はボールで遊ぶのを諦め、シャーンの横へと配置につく。

「お姉ちゃん?」

「シャーン、動くな! なんか変な感じがする!」

「う、うん」

 私の気配探知の力では、扉の奥に居る奴を探知するぐらいで精一杯だ。
 あの壁や扉が私の聴覚を防いでいる感じがする。
 そのまま待ち続けていると、その扉が少しだけ開かれた。
 私は戦闘体勢を維持したまま、何が来ても良い様にとシャーンの前に立ち続ける。
 でも、何時まで経ってもその扉はそのままなのに、私の体に変調をきたした。
 頭の中をとろけさせるようなこの香りは、マタタビというものだろうか。
 凄く気持ちがいい。
 私はその場で寝ころんで、ゴロゴロと体を地面に擦り付けている。

「お、お姉ちゃん?」

「私なんか酔っぱらったぞ。逃げろシャーン」

「え~!」

 マタタビの匂いの為か、体に力が入らない。
 私はもう戦意を無くしたと同じだろう。
 相手は私の状態を見定め、小さく開いた扉を全開にしている。
 その扉の奥からは、青い髪の男が現れた。
 長く少しクルリとした髪は、肩のあたりまで伸びている。
 普通にしていれば精悍な顔立ちだけど、シャーンを見てにやけているのが気持ち悪い。

「クックック、貴様が猫であることはもう把握済みだ! 猫であるならば、マタタビにはめっぽう弱いだろうと思えば、やっぱりその通りだったなぁ! これで王子は俺達の物だあああああああああ!」

「お、お姉ちゃん……」

「ふにいいいいいいいいい……」

 だけど私は、全く動く事が出来ないでいる。
 ここに漂う匂いも強くなっているらしい。
 なんとか首を動かして周りを見ると、他の三つの扉も開き、そこからもマタタビの匂いが漂って来ていた。
 私達と言ったから、他にも仲間がいるのだろう。

「王子、これからは我々が、いえ、この青の電雷の一人、青の触欲のスメラがお守りしましょうぞ!」

「やだああああああああ!」

 シャーンが中庭を走り始めるけど、その男に追い詰められている。
 でも動けない私は、シャーンが攫われるのを見て居るしかなかった。

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