一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 筋肉三人組。

七日も経ちのんびりと過ごしている頃。あれから青い奴等の襲撃はピタリと収まっている。だがこの日は、色々と何かあると聞かされていた。それは護衛が増える事と、シャーンの友達が遊びに来る事なのだ。待っているとレーレという猫い人が現れる。攻撃的ではなく友好的なので、私は出された手に握手をして緊張を解いた。そしてシャーンの友達という連中がやって来るのだが、明らかに大人が子供服を着ている青い三人である。私とレーレはその三人に蹴りをくれてやるのだった…………


モモ       (天使に選ばれた猫)
シャーイーン   (王国の王子)
レーレ      (シャーンを狙う女)


「ぬごおおおおおおおおお!」

「ぐあはッ!」

「むぐおおおおおおおおお!」

 二人を蹴り飛ばし、真ん中に居る奴に丁度良くレーレとの連携攻撃が炸裂した。
 大きく仰け反り尻もちをつくが、まだまだ平気そうである。
 ダメージを受けながらも右側の奴が立ち上がり、戦いの気配を感じさせる。
 私は追撃をかけようとするのだけど、もう右の相手は戦闘準備を整えていた。
 まず部屋の扉を閉めてシャーンを護ると、その三人に向き直る。

「まさか我等の変装に気付くとは、敵ながら中々の推理力。少し侮っていたみたいだわい」

 一番右側の男がそう言っている。
 何をどう見た所で、その姿は最初から子供には見えていない。
 寧ろよくその変装でバレないと思ったものだ。
 そんなものを見破れないと思われていたのは、私としてもとても心外だ。

「この我こそは青の山脈の一人、青の求欲のゴウエンとは俺の事だ!」

 その男の筋肉が盛り上がり、無理やり着ていた服がビリビリと破れていく。
 他の二人と髪や瞳の色まで一緒だから微妙に見分けがつきにくいのだけど、一番いかつい顔がこの男だ。
 そのゴウエンという男は名乗りを終え、そしてまた一人、左に居る男が名乗りを上げる。

「この麗しき顔を足蹴にするとは、絶対に許さああああああああああん!」

 額から二つの角が生えて、肌の色までもが青くなる。
 体の大きさも変わり、やっぱり子供服がビリビリになっていた。
 これは向うの世界にも話しに伝わる鬼というものだろう。
 桃太郎の話は私も見た事がある。
 犬と猿とキジに倒される、体のわりに弱っちい奴だ。

「麗しき私は、青の流星の一人、青き増欲のアルファであるぞ!」

 そのアルファが名乗りを終えて、中央に居た一人が腕を組んだ。

「ふむぅ、そこそこやるようだが、シャーン君の護衛としてはまだ不足! この俺ならばおはようからお休みまで、体を密着させながら護衛して差し上げられるのだ! もちろんトイレも、お風呂場まで全てええええええええ!」

 その男の体も変化している。
 青い髪が逆立ち、顔がグググと変わっていく。
 顎が伸びて、大きくなった口から牙がのぞいている。
 これは猫ではなく犬だろうか?
 自分の方が大きいからと、ワンワン吠えて来る奴である。
 私はあまり好きではない。

「俺こそは青き空色の一人、青の我欲のレイバースだ! 女共よ、恐怖しておののくがいい!」

 三人がそれぞれに構えをとり、クイっと指を動かしている。
 私達を相手に相当自信があるのだろう。
 だが同じ大きさならば、どちらが上なのかを教えてやらなければならないようだ。
 私は牙をむき出し鋭い爪を出すと、まずはあの犬っころにでも攻撃しようと意識を向ける。
 隣のレーレも準備は良いようで、私が行くタイミングを待ってるのだろう。

「行くぞ!」

「ええ、御存分にお暴れになってくださいませ。この私がフォローして差し上げます!」

 まず私は犬っころに飛び掛かり、鋭い爪での応酬を始める。
 男だけあって力はそこそこあるようで、組み合うのは分が悪い。
 だが、力比べなんて私の趣味にはないものだ。
 ゆらりと躱して切り裂いてやろうかと動くのだが、相手の人数はそれをさせてくれないらしい。
 相手の数は三人で、いかつい顔の男は私に狙いを絞っている。
 残りの鬼の奴をレーレが相手してくれていた。

「くはは! 猫程度どうとした事でもないわ! シャーン君のことは私に任せ、病院のベットでも寝ているのだな!」

「レイバースよ、それは我の役目である。この女を潰したのちに、キッチリ決着をつけようぞ!」

「諦めるがいい。当然この私が勝つのだからな!」

「……!」

 人数差というのは中々に面倒だ。
 口論をしながらも、私の動きに合わせて来ている。
 キッチリ連携の取れた攻撃は、相手の隙を隙ではなくさせてしまうのだ。
 隙を感じ飛び込むも、背後からの強襲や横からの強撃を許してしまう。

「ここだああああああああ!」

「うッ!」

 ゴウエンの大きな拳が迫り、私は体を捻り直撃は避けるも、かすり傷でも意外と痛い。
 このまま続けていては私の方が負けるだろう。
 一度狙いを変えるしかない。
 私は壁を蹴り天井を足場にすると、方向を変えてまた壁を蹴る。

「くっ、ちょこまかと!」

「このレイバースに勝てぬと見て、時間稼ぎににでもシフトしたのか? レーレ頼みとは情けないことよ!」

 別に時間稼ぎが目的ではない、私はタイミングを計っているのだ。

「来た!」

 二人が私に振り向いた瞬間、それが丁度良いタイミングだ。
 角度、位置全てが完璧にそろっている。
 私は構える二人に真っ直ぐ突っ込み、一瞬で方向転換を試みた。
 もう一度壁を蹴り、天井に足をつくと、相手二人に防御を誘わせる。
 でも私は二人を狙った訳ではなく、方向を更に変えたのだ。

 向かったのはレーレの相手をしているアルファという奴。
 私に背後を向けて、気配に気付いてもいない。
 いや、私は気付かせる気などない。
 全力で音もたてずに走り寄って行く。

「……狙われているぞアルファ! そっちに女が行った!」

「ぬおおおおおおおお、追い着けん!」

 防御を崩し、私の狙いに気付いた二人が追い駆けて来ている。
 レイバースは私よりも速く、距離を詰めているがもう一人は付いても来れていない。
 そしてアルファという男が気が付いた所でもう遅いのだ。

「よそ見などさせるとお思いですか!」

 レーレの攻撃により動きを止められ、後頭部ががら空きである。
 一発目に耐えたこいつに手加減は必要なく、あとはただ全力で行けばいいだけだ。

「たあああああああああああああああ!」

「ごはああああああああああああああ!」

 動かない的への蹴りの一撃は、完璧な会心の一撃となり、相手の後頭部を射抜いた。
 床に倒れて色を変えると、そのままうごかなくなっている。
 だが安心するにはまだ早く、私の後ろにはレイバースが迫っているのだ。

「あの子犬さんは私に任せなさい。あなたはもう一人を頼みます!」

 人数的には五分となり、レイバースにはレーレが対応して行く。
 私はそれに頷き、残りのゴウエンへと向かった。

「ほう、このゴウエンに一人で挑むか! よかろう、掛かって来るがいい!」

 力で言えば他の二人に勝るとも劣らないが、こいつはただそれだけである。
 捕まえられれば危ないが、私はそれほど間抜けではない。
 動きも防御力も三人の中で一番低いこの男は、私の動きで翻弄ほんろうしてやろう。 

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