一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 小さく大きな物語51

何もしていないのにドンと倒れたヴァ―ハムーティア、一応警戒して目に矢を放ってみるもその動きはない。本当に死んでいると思った俺は、その体に触れて見てそれを確認した。体は冷たく、明るくなった部屋の中には、痩せこけた魔竜の姿がある。安心した俺達だが奥には大きすぎる卵があった。仲間の冒険者は卵を狙うが、俺達は下山して次の町に向かった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 バベルと呼ばれる巨大な塔に、俺達四人と他二人が到着していた。
 見上げてもその先端を見る事も出来ないぐらいに高いこの塔には、大勢の人間が暮らしていて、そのままバベルの塔の町と呼ばれている。
 建物自体がちょっと植物チックな感じを放っているが、暮らす人々は特に変わっている訳でもない。
 買い物に勤しむ主婦や、走り回る子供に、品物を売る大人達が見える。
 トラブルもなさそうで平和な町だ。
 昔この塔には一層ごとに罠が大量にあったらしいのだけど、この塔の二百六十階層以降それは見つからないらしい。
 現在はその上の階層を上り続け、何階層も調べているが、本当に何にもないという。
 一応二百五十五階層に転移装置があるらしく、それ以降は登るのも物を運ぶのも大変だからと、相当安く土地が売り出されているらしい。 
 だが、その転移装置が一切見つかっていないから、滅多に誰も買うことをしないという。
 俺達はその町に泊まる事となり、宿の女将から今の話を聞いたのだった。
 因みにバールとジャネスの姉ちゃんは別の部屋に泊まる事になっている。
 まあ仲間ではないから当然なのだが。

「じゃあ私は買い出しに行って来るから、あなた達は自由にしていていいわよ」

 リーゼさんは買い出しの用意をしている。
 あの山から直接町に向かったから、物資も相当に減っているのだ。
 買いださなければ次の町には進めない。

「あ、僕も行くよ母さん。人手があったほうがいいでしょ?」

「あらそう、じゃあお願いするわねリッド。その間に二人はデートでもしてきたら?」

「確かにそれがいいかもしれない! 私達も行こうレティ!」

 リーゼさんもストリアの味方らしく、積極的に俺達をくっつけようとして来るのだが、俺は何時も通りに断る事に決めている。

「俺はしないぞ。ちょっとギルドでも行って小遣いでも稼いで来ようと思ってるからな」

「そうか、二人でデートしつつお金を稼ぐとは、良いアイディアだぞレティ!」

「だから違うって!」

 どうせついて来るから、ストリアと言い合いしても無駄なのだ。
 俺は簡単に諦めて部屋の扉を開けるのだが、そこには聞き耳を立てていた二人の姿があった。

「レティ、ギルドに行くのなら俺も一緒に行ってやろう!」

「師匠、私もお手伝いいたします!」

「私の邪魔になるから帰ってくれ!」

 誰かといえば、バールとジャネスの親子である。
 別に友達でも旅の連れでもないから部屋を分けたのだけど、俺達の様子でも気になったのだろう。
 俺としては嬉しさ半分、邪魔さ半分といった所だ。
 まあ二人共実力だけはあるようだから、戦力だけは増えてくれるはずである。
 ストリアは二人っきりになる為に当然追い返そうとしているのだけど、この二人も言う事を聞いてくれないだろう。

「レティ、ギルドに行く前にご飯食べて行こうじゃないか。それで俺達の親密度を高めようじゃないか」

「行かない」

「師匠、私達も負けて居られません! 女同士ア~ンをして友情と愛情を深めておきましょうよ!」

「私はレティと行くんだ、そんなに行きたいなら一人で行くんだな」

 喋らなくても勝手に喋りかけて来るこの二人をなるべく無視し、俺達はギルドへと進んで行く。
 剣のマークのギルドへと入り、何か適当に終わらせられるものはないかと依頼書を見ている。
 まあ四人も居れば多少危険な事もできるだろうけど、今回は本当に軽いものを選ぶつもりだ。

「これで良いかな?」

 俺は依頼ボードから依頼書をやぶり、この階層から上層に荷物を運ぶものを選んだ。
 詳しくは何も書かれてなくて、結構高額だから、どうせ大荷物なのだろう。

「ほう、配送の依頼を選ぶとは、やはり俺達は運命の糸でつながっているのかも知れないな! 俺がやり方を手取り足取り教えてあげようじゃないか!」

「気持ち悪いから俺にくっ付くな!」

「まあまあ、いいじゃないかレティ」

 このバールという男は、俺の小さい頃を知っていると言うのだが、俺としてはちっとも覚えがない。
 俺が知らないんだから、バールがいくら俺の知り合いだと言っても、ただの知らない人でしかないのだ。
 一応べノム爺ちゃん達の知り合いらしいが、本当に知っているのかも怪しい。
 その知らない男が、自分の知り合いだと言って、いきなり好意をもってベタベタしてきたらどうする。
 どう考えても普通に気持ち悪いに決まっているだろう。
 一応勝手に付き合いが長くなっていってるが、仲間としての信頼はないに等しい。

「師匠、この依頼よくありませんか? 私達で受けちゃいましょうよ」

「だから私はレティと一緒が良いと言っているんだが!」

「私と師匠の仲じゃありませんか。そんなに照れなくてもいいですよ! じゃあこれ、二人で受けると受付に通しておきますね」

「こら弟子よ、勝手に持って行くんじゃない!」

 そう言いながらも、体を密着させて結構楽しそうに見える。
 こちらも同じ状況だというのに、なぜこうも気持ちが違うのだろう。
 もしバールとジャネスの姉ちゃんが逆だったなら、俺はもう少し楽しめて仲良くできたかもしれないのに、とても残念だ。
 で、結局どうなったかといえば、ジャネスの姉ちゃんが勝手に依頼を受けてしまい、俺はバールと行動を共にする事になってしまう。

「レティ、俺達の信頼の力をみせてやろう!」

「えええええ、お前と?」

 ハッキリと拒否の意思を見せてもバールは気にもしない。
 俺はこの変な奴と依頼主の元に向かって行った。

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