一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
2 美味い肉を味わって。
天寿を全うした猫の私は、鈴の音により目を覚ました。暗い空間で天使に出会い、違う異世界で人に転生する。思惑とは全く違い、家族にも会えなくなってしまったのだが、その世界で生きる事を決めたのだった。ご飯を探して城に向かい、襲われていた子供を助けると、その子供が私に御馳走してくれると言っている。御馳走にならなければと、私は子供について行ったのだ…………
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ブロンス (シャーンの護衛)
私は御馳走の為にシャーンという子供に連れられて城の中を歩いていると、前方から一人の男が走り寄って来ている。
「あああああ、王子が居たあああああああああああ!」
青い髪で青い瞳の青い胴鎧を着た青マントの男だった。
一体どれだけ青が好きなのだろうか?
私は警戒して攻撃体勢を取ろうとするも、このシャーンという子供は無造作に近づいて行く。
あの男は、このシャーンという子供の仲間なんだろうか?
あまり初めての人間に近寄りたくはないんだけど、御馳走をくれるという子供の知り合いに牙をむくわけにはいかないだろう。
シャーンがその男と合流すると、敵意もなく話を始めている。
やはり敵ではないらしい。
「もう、何時までトイレ行ってたの? モモさんが居なかったら危なかったんだからね?」
「モモさんって……誰です貴女?! 城の人じゃないですよね?! どうやって侵入を、え? もしかしてお客さんですか?!」
「もう、落ち着いてよブロンス。この人は僕の命の恩人なんだよ。だから今からご飯をご馳走するんだ」
「命の恩人って、え?! 何か有ったんですか! た、大変だ、早く治療をしなければ!」
「僕は怪我をしてないよ。全然大丈夫だから」
「いえ、ちゃんと検査をしなければ分かりません! 行きましょうシャーイーン王子!」
「ああモモさ~ん!」
ブロンスという青い男は、軽くシャーンの体を担ぎ上げて連れて行ってしまった。
よく分からないけど騒がしい男だ。
?
「……私のご飯は?!」
あの子が居なくなっては、私のご飯が食べられなくなってしまう。
急いであの子を追い掛けなければならない。
早くしなければと、私は急いで走り出した。
人の速さなんて私に比べれば遅いものだ。
だから簡単に追い着けると思ったのだけど、この城の中の造りは全然サッパリ分からない。
赤い絨毯も同じ並びの柱も、私には何もかもが同じに見えた。
二人は色々な部屋の中を通り抜け、複雑に動き続けている。
私はなんとかその気配を追い掛け続けると、一つの部屋で止まったらしい。
ただ……
「そこのお前止まれ! お前は一体何者だ!」
「待ってください、あの方は美しいので、きっと俺の恋人になってくれる人です! ちょっとお話を」
「わ、私のお姉さまになってくれませんか!」
とか色々変な奴に追いかけられている。
そんな奴等に付き合う積もりはなく、私はあの二人が入った扉に入って扉を閉めた。
鍵を閉めたから入っては来られないけど、ドンドンと扉を叩かれて凄く煩い。
兎に角私のお腹からは、グ~っとご飯の催促が始まっている。
早く何かを食べなければ。
この部屋の中を確認すると、前にはカーテンで仕切られている。
その中からは気配がしていて、二人が居るのは間違いない。
どうももう一人居るらしいけど、私はご飯の為にもあの子に会わなければと、カーテンの先へと進んで行くが……
「きゃあああああああああ、お姉ちゃんのエッチイイイイイイイイイ!」
「お、王子! 王子の貞操はこの私が護らせていただきます! あっちへ行って、そんな体で誘惑しないでください!」
カーテンの向こうには真っ裸のシャーンが蹲っている。
別に裸だからなんだと言いたいのだけど、人は私とは違う感覚を持っているらしい。
だが私としてはそんな事はどうでもいい話しなのである。
私はもう、とてもお腹が減っているのだ。
もし何もくれる気がないのなら、あのバッタを食べに戻りたい。
「ご飯を、私にご飯をちょうだい!」
「分かったから、分かったからちょっと待ってて~!」
「王子が、王子が女の人に言い寄られて! それは不味いです、体が目的ならまずはこの私から!」
「だからご飯を!」
ご飯を求めて催促するも、この少年は中々御馳走とやらをくれないのである。
どんな用事があるとしても、この私のご飯が最優先されないのは駄目なのだ。
私が二人と言い争いをしていると、この部屋に居たもう一人が騒ぎ出したらしい。
「ああもう煩いね君達は! そんなに腹が減ってるのなら、このジャーキーでも食っていなさい!」
白髪の目立つ老体だが、腹を膨らませてかなり元気そうである。
視力を補正する眼鏡という物を目に掛けて、椅子に座っていた。
その男が懐からジャーキーを取り出し、この私に向けている。
ジャーキーとは、私も一度だけ食べた事がある物だ。
噛む度に肉のエキスがしみ出して、口の中に広がっていくという美味いやつである。
もう腹に入れなければどうにもならないと、白衣の男から突き出されたジャーキーに噛みついて、ガシガシと噛み砕く。
塩気と肉の味が混じり合い、ピリリと胡椒という物の味が、私の口内を刺激する。
これが人の持つ味覚というやつだろうか?
猫であった時よりも随分と刺激的な味は、私の味覚を高めさせる。
渡された分すべてを平らげ、そして私は……
「もっとジャーキーを寄越すのだあああああああ!」
白衣の男に飛びついて、その男のジャーキーを求め始めた。
「や、やめたまえ、私には妻と子供、孫までもいるのだ。そんな体で求められても、私は、私はあああああああああ!」
私はまだお腹が減っているのだ。
男の体をまさぐって何か無いかと探しているが、美味そうな匂いはして来ない。
股間にある何かがピクリと反応しただけだろう。
この男はもう持っていないのだろうか?
私はそのままジャーキーを探しているが、横に居る青い男が子供に何か話している。
「駄目です王子、見ていては目が汚れてしまいます! まずは私の裸でも見て、一度心を落ち着かせましょう!」
「ええ、やだ……」
「王子、そんなことは言わず、この私と男同士の友情を深めましょう!」
「それよりお姉ちゃん、もうお腹いっぱいになっちゃった? ご飯食べる?」
「食べる!」
もう着替えを終えたシャーンにそう言うと、私はジャーキーを諦めた。
ジャーキーも美味かったけど、私はその御馳走とやらにも興味がある。
どんな缶詰が出て来るのかと、この盛り上がった胸を高鳴らせた。
シャーンの案内で食堂という場所へ移動し、椅子に座らされている。
ここには白いクロスをかけてある長いテーブルと椅子ぐらいしか見当たらない。
そのテーブルの上には、花瓶に飾られている花があるぐらいだ。
まさかこれを食えというんだろうか?
確かに草を食うのは毛玉を吐き出すのにも有用なことだ。
少し予想とは違ったが、まあ食べるとしよう。
私は花瓶に手を伸ばし、おもむろに赤い花の一本を口に運んだ。
「……不味い。全然美味くない……」
「お姉ちゃん、お腹が空いてるからって、お花を食べたら駄目だよ!」
「王子、もしかしたら彼女の家では、花瓶に生けてある花を食べないとならないという風習でもあるのかもしれません。温かく見守ってあげましょう」
「え?!」
まさかこれが御馳走ではなかったのだろうか?
とすると何を食べろというのだろう。
見渡す限り、私に食べられそうな物は…………
?
まさか自分を食えというのだろうか?
人を食うのは躊躇ってしまうけど、食べろと言われれば食べなければ失礼というものなのだろうか?
困った、それは困った。
「お姉ちゃんもう少し待ってね。もうすぐ来るから」
「待つ?」
「そうだよ、お話して待っていようよ」
シャーンが話しを始めると、私は適当に返事をして時間を潰し、やっとその時が来たらしい。
ぞろぞろと人がこの部屋にやって来て、次々に皿という物を置いていく。
その上には温かい肉や草が綺麗に並べられ、美味そうな匂いがしている。
スープと呼ばれる物や、サラダと呼ばれる物とかも色々あるらしい。
私の家族が食べていた物と似ている。
なるほど、これが料理という物なのか?
知らない物を知ってるという感覚は、中々に不思議なものだ。
とりあえず出て来たなら早速食わせて貰おう。
「いただきま~す!」
食べてみるとこの肉は美味い。
初めて味わうソースと言う物が、その味を引き立たせている。
私は再び大きな肉に、ガブッと口だけで噛り付いた。
かなり美味いのだけれど、ちょっと大きすぎて噛みきりにくい。
仕方なくこの手を使い、ブチブチと引き千切るのだった。
「「「「「……ええええええええええええええええ?!」」」」
「お、お姉ちゃん、フォークとナイフがあるんだよ?!」
「王子、真似してはいけませんよ! あれは絶対に下品です!」
何故だろう、子供とあの青い奴だけじゃなく、皿を持って来た奴等まで驚いている。
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ブロンス (シャーンの護衛)
私は御馳走の為にシャーンという子供に連れられて城の中を歩いていると、前方から一人の男が走り寄って来ている。
「あああああ、王子が居たあああああああああああ!」
青い髪で青い瞳の青い胴鎧を着た青マントの男だった。
一体どれだけ青が好きなのだろうか?
私は警戒して攻撃体勢を取ろうとするも、このシャーンという子供は無造作に近づいて行く。
あの男は、このシャーンという子供の仲間なんだろうか?
あまり初めての人間に近寄りたくはないんだけど、御馳走をくれるという子供の知り合いに牙をむくわけにはいかないだろう。
シャーンがその男と合流すると、敵意もなく話を始めている。
やはり敵ではないらしい。
「もう、何時までトイレ行ってたの? モモさんが居なかったら危なかったんだからね?」
「モモさんって……誰です貴女?! 城の人じゃないですよね?! どうやって侵入を、え? もしかしてお客さんですか?!」
「もう、落ち着いてよブロンス。この人は僕の命の恩人なんだよ。だから今からご飯をご馳走するんだ」
「命の恩人って、え?! 何か有ったんですか! た、大変だ、早く治療をしなければ!」
「僕は怪我をしてないよ。全然大丈夫だから」
「いえ、ちゃんと検査をしなければ分かりません! 行きましょうシャーイーン王子!」
「ああモモさ~ん!」
ブロンスという青い男は、軽くシャーンの体を担ぎ上げて連れて行ってしまった。
よく分からないけど騒がしい男だ。
?
「……私のご飯は?!」
あの子が居なくなっては、私のご飯が食べられなくなってしまう。
急いであの子を追い掛けなければならない。
早くしなければと、私は急いで走り出した。
人の速さなんて私に比べれば遅いものだ。
だから簡単に追い着けると思ったのだけど、この城の中の造りは全然サッパリ分からない。
赤い絨毯も同じ並びの柱も、私には何もかもが同じに見えた。
二人は色々な部屋の中を通り抜け、複雑に動き続けている。
私はなんとかその気配を追い掛け続けると、一つの部屋で止まったらしい。
ただ……
「そこのお前止まれ! お前は一体何者だ!」
「待ってください、あの方は美しいので、きっと俺の恋人になってくれる人です! ちょっとお話を」
「わ、私のお姉さまになってくれませんか!」
とか色々変な奴に追いかけられている。
そんな奴等に付き合う積もりはなく、私はあの二人が入った扉に入って扉を閉めた。
鍵を閉めたから入っては来られないけど、ドンドンと扉を叩かれて凄く煩い。
兎に角私のお腹からは、グ~っとご飯の催促が始まっている。
早く何かを食べなければ。
この部屋の中を確認すると、前にはカーテンで仕切られている。
その中からは気配がしていて、二人が居るのは間違いない。
どうももう一人居るらしいけど、私はご飯の為にもあの子に会わなければと、カーテンの先へと進んで行くが……
「きゃあああああああああ、お姉ちゃんのエッチイイイイイイイイイ!」
「お、王子! 王子の貞操はこの私が護らせていただきます! あっちへ行って、そんな体で誘惑しないでください!」
カーテンの向こうには真っ裸のシャーンが蹲っている。
別に裸だからなんだと言いたいのだけど、人は私とは違う感覚を持っているらしい。
だが私としてはそんな事はどうでもいい話しなのである。
私はもう、とてもお腹が減っているのだ。
もし何もくれる気がないのなら、あのバッタを食べに戻りたい。
「ご飯を、私にご飯をちょうだい!」
「分かったから、分かったからちょっと待ってて~!」
「王子が、王子が女の人に言い寄られて! それは不味いです、体が目的ならまずはこの私から!」
「だからご飯を!」
ご飯を求めて催促するも、この少年は中々御馳走とやらをくれないのである。
どんな用事があるとしても、この私のご飯が最優先されないのは駄目なのだ。
私が二人と言い争いをしていると、この部屋に居たもう一人が騒ぎ出したらしい。
「ああもう煩いね君達は! そんなに腹が減ってるのなら、このジャーキーでも食っていなさい!」
白髪の目立つ老体だが、腹を膨らませてかなり元気そうである。
視力を補正する眼鏡という物を目に掛けて、椅子に座っていた。
その男が懐からジャーキーを取り出し、この私に向けている。
ジャーキーとは、私も一度だけ食べた事がある物だ。
噛む度に肉のエキスがしみ出して、口の中に広がっていくという美味いやつである。
もう腹に入れなければどうにもならないと、白衣の男から突き出されたジャーキーに噛みついて、ガシガシと噛み砕く。
塩気と肉の味が混じり合い、ピリリと胡椒という物の味が、私の口内を刺激する。
これが人の持つ味覚というやつだろうか?
猫であった時よりも随分と刺激的な味は、私の味覚を高めさせる。
渡された分すべてを平らげ、そして私は……
「もっとジャーキーを寄越すのだあああああああ!」
白衣の男に飛びついて、その男のジャーキーを求め始めた。
「や、やめたまえ、私には妻と子供、孫までもいるのだ。そんな体で求められても、私は、私はあああああああああ!」
私はまだお腹が減っているのだ。
男の体をまさぐって何か無いかと探しているが、美味そうな匂いはして来ない。
股間にある何かがピクリと反応しただけだろう。
この男はもう持っていないのだろうか?
私はそのままジャーキーを探しているが、横に居る青い男が子供に何か話している。
「駄目です王子、見ていては目が汚れてしまいます! まずは私の裸でも見て、一度心を落ち着かせましょう!」
「ええ、やだ……」
「王子、そんなことは言わず、この私と男同士の友情を深めましょう!」
「それよりお姉ちゃん、もうお腹いっぱいになっちゃった? ご飯食べる?」
「食べる!」
もう着替えを終えたシャーンにそう言うと、私はジャーキーを諦めた。
ジャーキーも美味かったけど、私はその御馳走とやらにも興味がある。
どんな缶詰が出て来るのかと、この盛り上がった胸を高鳴らせた。
シャーンの案内で食堂という場所へ移動し、椅子に座らされている。
ここには白いクロスをかけてある長いテーブルと椅子ぐらいしか見当たらない。
そのテーブルの上には、花瓶に飾られている花があるぐらいだ。
まさかこれを食えというんだろうか?
確かに草を食うのは毛玉を吐き出すのにも有用なことだ。
少し予想とは違ったが、まあ食べるとしよう。
私は花瓶に手を伸ばし、おもむろに赤い花の一本を口に運んだ。
「……不味い。全然美味くない……」
「お姉ちゃん、お腹が空いてるからって、お花を食べたら駄目だよ!」
「王子、もしかしたら彼女の家では、花瓶に生けてある花を食べないとならないという風習でもあるのかもしれません。温かく見守ってあげましょう」
「え?!」
まさかこれが御馳走ではなかったのだろうか?
とすると何を食べろというのだろう。
見渡す限り、私に食べられそうな物は…………
?
まさか自分を食えというのだろうか?
人を食うのは躊躇ってしまうけど、食べろと言われれば食べなければ失礼というものなのだろうか?
困った、それは困った。
「お姉ちゃんもう少し待ってね。もうすぐ来るから」
「待つ?」
「そうだよ、お話して待っていようよ」
シャーンが話しを始めると、私は適当に返事をして時間を潰し、やっとその時が来たらしい。
ぞろぞろと人がこの部屋にやって来て、次々に皿という物を置いていく。
その上には温かい肉や草が綺麗に並べられ、美味そうな匂いがしている。
スープと呼ばれる物や、サラダと呼ばれる物とかも色々あるらしい。
私の家族が食べていた物と似ている。
なるほど、これが料理という物なのか?
知らない物を知ってるという感覚は、中々に不思議なものだ。
とりあえず出て来たなら早速食わせて貰おう。
「いただきま~す!」
食べてみるとこの肉は美味い。
初めて味わうソースと言う物が、その味を引き立たせている。
私は再び大きな肉に、ガブッと口だけで噛り付いた。
かなり美味いのだけれど、ちょっと大きすぎて噛みきりにくい。
仕方なくこの手を使い、ブチブチと引き千切るのだった。
「「「「「……ええええええええええええええええ?!」」」」
「お、お姉ちゃん、フォークとナイフがあるんだよ?!」
「王子、真似してはいけませんよ! あれは絶対に下品です!」
何故だろう、子供とあの青い奴だけじゃなく、皿を持って来た奴等まで驚いている。
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