一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
49 小さく大きな物語49
朝を迎えた俺達は、仲間達を起こしていく。また下山を提案する俺に、あの三人は言うことを聞かなかった。水と食料を持って登り始めるが、俺達はこの場で待つ事にした。それはもう登る必要がなくなったからなのだが、あの三人は気付かなかったらしい。俺達は風の少なくなったこの時間を利用し、焚き火使って狼煙を上げだした。朝から何度かそれを繰り返し、昼を回った頃、先に行ってしまった全員の姿が見え始めた。俺達は皆と合流して暖を取ると、洞窟の場所を確認しに行く事になる…………
レティシャス(シャインの息子)ストリア (村娘)
リッド (村人) リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス (変な女の人) バール (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米) メタリアス (黒髪の新米)
アウティーテ(桃色の新米)
で、その洞窟の前に到着した俺達だが、その中に入って確認するのかとリーゼさんが悩んでいる。
一応その姿を確認しておきたいんだろうけど、近づけば当然危険度は増していくのだ。
「さてと、洞窟は見つけたわね。一応魔竜の姿を確認したいのだけど、あんまり行きたくないわね」
「母さん、絶対やめたほうがいいよ。あんなものは人が敵うレベルじゃないから」
「まあ確かにね。全員がこの場所を知れたし、もう迷う事も無いでしょう。じゃあこれ以上進むのは止めておきましょうか。襲われたらひとたまりもないでしょうしね」
リーゼさんはこの場で引き返す事を提案し、戻る事を決めたのだが、ここで黙っていなかった奴等が居た。
「何を言ってるんだぜぃ! こんなに人数が居るんだからあの化物だって倒せるぜぃ! 俺達の力を見せてやるぜぃ!」
「そうだな! 相手はたった一体だ。俺達のコンビネーションを見せてやろうぜ!」
「美しさは罪! さあ皆、私に付いていらっしゃい!」
誰かといえば、あの三人である。
暴走する新米冒険者の三人は、ここでも健在だったのだ。
その三人は他の新米冒険者に呼びかけ、勝手に洞窟の中に入って行ってしまう。
自分の名声を得ようと何人かが続いて行くと、殆どの新米達が中に入って行ってしまったのだ。
あの三人だって恐ろしいほどの巨体を見ただろうに、そんな数人程度で勝てるレベルではないのだが、俺達が追って来るのを期待しているのだろうか?
担当の人達もそれを止めようと追い掛け、結局俺達六人だけが残された。
「これはちょっと不味いわね。まさかこんな事になるとは…………」
リーゼさんが思い描いたものとは違って来て居るらしい。
だけど俺達は知っている。
あんなものが人の敵う相手だとは思えないことを。
「えっと、追い駆けた方が良いのか? でもあんなもんどうやったって勝てないぞ」
「うむ、あれは無理だ。例え全員で行っても勝てないだろう」
「でも皆を見殺しにするのはちょっと可哀想だよ?」
「俺はレティの意見に従いますよ」
「私も師匠の意見に従います!」
全員の意見を聞き、リーゼさんが答えを出す。
「じゃあギリギリまでは追い掛けましょうか。もし危険なことになったなら、あの人達を置き去りにしてでも逃げるからね」
「うん分かった。じゃあそれにしよう」
俺達はそれに従い、新米達を追い掛け始めた。
洞窟の中を進み追い続けると、先に行った奴等に追い着いたらしい。
「やっと追い着いたぞ。もう危ないから戻ろうぜ」
「絶対嫌だぜぃ! ここで魔竜を倒せば俺達は英雄だぜぃ。この世界に俺の名を轟かせるんだぜぃ!」
「そこで指をくわえて見てるんだな!」
「美しく輝く一等星に!」
だが俺達の説得にも耳を貸してはもらえず進んで行ってしまう。
結局洞窟の奥にまで付き合わされ、あの魔竜の元へと到着してしまったのだ。
そして勝手に仕切りだした新米達三人は、戦いの準備を始めようとしていた。
「松明を投げて灯を増やすんだぜぃ!」
「魔竜の奴を暗闇から暴き出すんだ!」
「明るく照らし出される私も美しい!」
新米冒険者達が松明を投げ、続いて追って行った奴等も投げ始めた。
もしかしたら自分達で勝てるという淡い期待があったのかもしれない。
だが、バッと放り投げられた松明が、恐怖の物体を照らし出す。
ハッキリ言って照らし出されているのは一部だけである。
凶悪に大きいその姿を、まだ誰も認識してはいない。
大きな壁があると、その程度しか分かっていないだろう。
「さあ、皆行くぜぃ! 敵はこの奥だぜぃ! たあああああああ!」
「俺達につづけ!」
「私は全世界の希望になるの!」
我先にと威勢よく跳び出して行く新米全員だが、気合を入れて走り出したかに見えたそれは、言葉とは裏腹に相当に鈍い。
もう誰か先に行ってくれと言わんばかりである。
ここまでやっておいて今更怖くなったのだろうか?
もう歩いているほどとはいえ、それでも魔竜との距離は縮んでいるのだ。
新米達のその動き、声に反応して、魔竜の体が動き始めた。
ただ動く、それだけでも山が震動をするような音を出している。
「グギャラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「「「「「ぎゃああああああああああああああああ!」」」」」
そして、かなり近いどこかからかで、体の芯までが震えるような強烈な咆哮が響いた。
ついでに新米達の悲鳴も響いている。
「リッド、灯りを頼む。姿がわからなきゃしょうがないからな! 明るさは最大でいいぞ!」
「うん、わかったよ。じゃあ……フロア・ライティング!」
リッドの魔法で、この奥の大穴の光量が増していく。
天井の形や小石の一つでさえもハッキリ分かるようになると、魔竜の全貌があらわになった。
その全身は黒い毛で覆われて、大きな翼を持った竜である。
何度も言ったがもう一度言おう。
俺達の大きさなんて、この魔竜の爪の先端にも満たないレベルでしかないのだ。
剣を抜こうが槍を構えようが、本体に届き様がない。
矢を使ったとしてもその体に突き刺さりはしないだろう。
勝ち目なんてものは無い。
無いに等しいとかそんなものではなく、まるっきりに零である。
「「「ぴぎゃあああああああああああああああああ! やっぱり無理いいいいいいいいいい!」」」
そう言って逃げ出したのは、あれだけ威勢の良かった三人だ。
ハッキリその姿が見えてしまった為に、自分が挑もうとしていたものが、どれ程の物だったのかと理解出来たらしい。
体を歩いたり、その顔も見て居ただろうに、何故勝てると思ったんだろうか。
本気で謎ではあるが兎に角あれだ、全員をここまで連れて来ておいて、真っ先に逃げるなと言いたい。
「て、撤退、撤退しなさい! 早くしないと死ぬわよ!」
リーゼさんから撤退の指示が出て、ある程度実力がある者は後退し始める。
俺も逃げようと仲間に声を掛けた。
「よし、俺達も逃げるぞ!」
「待てレティ、あれを見ろ! 動けない奴等が居るぞ!」
ストリアの指摘で後方を見ると、初めて魔竜の咆哮を身に浴びたあの三人以外の新米達は、声すら上げられずにその場で動けずにいたのだ。
あんなものの攻撃を受け止められる訳もなく、もう見捨てるしかないと、そう思った時。
もしかしたら頼りになるかもしれない、あの男が動き出した。
「ふっ、ここは俺の出番だな。さあ行くぞ化け物! たあああああああああ!」
凶悪な魔竜ヴァ―ハムーティアに挑みかかるバール。
その腕と足を伸ばし、攻撃範囲を拡大させている。
だからといって、たかだか十メートル程長さが増えた所で、その体には全く届かない。
何か手が有るのかと期待した俺だったが、バールは反転して新米達数人を抱えて戻って来ていた。
「無理!」
「まあそうだと思ったわ!」
動けず残っているのは、あとたった一人である。
話した事もなければ顔さえも覚えていないのだが、助けようと思った時には俺はその足を動かしていた。
だがその一人に手を伸ばそうとした瞬間、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、という強烈な爆音と振動が響く。
魔竜の攻撃が来たかとそう思った俺だが、どうやらそれは違うらしい。
人の手どころか、魔族や天使だろうと倒せないであろうその魔竜が、俺達の目の前で倒れていたのだった。
レティシャス(シャインの息子)ストリア (村娘)
リッド (村人) リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス (変な女の人) バール (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米) メタリアス (黒髪の新米)
アウティーテ(桃色の新米)
で、その洞窟の前に到着した俺達だが、その中に入って確認するのかとリーゼさんが悩んでいる。
一応その姿を確認しておきたいんだろうけど、近づけば当然危険度は増していくのだ。
「さてと、洞窟は見つけたわね。一応魔竜の姿を確認したいのだけど、あんまり行きたくないわね」
「母さん、絶対やめたほうがいいよ。あんなものは人が敵うレベルじゃないから」
「まあ確かにね。全員がこの場所を知れたし、もう迷う事も無いでしょう。じゃあこれ以上進むのは止めておきましょうか。襲われたらひとたまりもないでしょうしね」
リーゼさんはこの場で引き返す事を提案し、戻る事を決めたのだが、ここで黙っていなかった奴等が居た。
「何を言ってるんだぜぃ! こんなに人数が居るんだからあの化物だって倒せるぜぃ! 俺達の力を見せてやるぜぃ!」
「そうだな! 相手はたった一体だ。俺達のコンビネーションを見せてやろうぜ!」
「美しさは罪! さあ皆、私に付いていらっしゃい!」
誰かといえば、あの三人である。
暴走する新米冒険者の三人は、ここでも健在だったのだ。
その三人は他の新米冒険者に呼びかけ、勝手に洞窟の中に入って行ってしまう。
自分の名声を得ようと何人かが続いて行くと、殆どの新米達が中に入って行ってしまったのだ。
あの三人だって恐ろしいほどの巨体を見ただろうに、そんな数人程度で勝てるレベルではないのだが、俺達が追って来るのを期待しているのだろうか?
担当の人達もそれを止めようと追い掛け、結局俺達六人だけが残された。
「これはちょっと不味いわね。まさかこんな事になるとは…………」
リーゼさんが思い描いたものとは違って来て居るらしい。
だけど俺達は知っている。
あんなものが人の敵う相手だとは思えないことを。
「えっと、追い駆けた方が良いのか? でもあんなもんどうやったって勝てないぞ」
「うむ、あれは無理だ。例え全員で行っても勝てないだろう」
「でも皆を見殺しにするのはちょっと可哀想だよ?」
「俺はレティの意見に従いますよ」
「私も師匠の意見に従います!」
全員の意見を聞き、リーゼさんが答えを出す。
「じゃあギリギリまでは追い掛けましょうか。もし危険なことになったなら、あの人達を置き去りにしてでも逃げるからね」
「うん分かった。じゃあそれにしよう」
俺達はそれに従い、新米達を追い掛け始めた。
洞窟の中を進み追い続けると、先に行った奴等に追い着いたらしい。
「やっと追い着いたぞ。もう危ないから戻ろうぜ」
「絶対嫌だぜぃ! ここで魔竜を倒せば俺達は英雄だぜぃ。この世界に俺の名を轟かせるんだぜぃ!」
「そこで指をくわえて見てるんだな!」
「美しく輝く一等星に!」
だが俺達の説得にも耳を貸してはもらえず進んで行ってしまう。
結局洞窟の奥にまで付き合わされ、あの魔竜の元へと到着してしまったのだ。
そして勝手に仕切りだした新米達三人は、戦いの準備を始めようとしていた。
「松明を投げて灯を増やすんだぜぃ!」
「魔竜の奴を暗闇から暴き出すんだ!」
「明るく照らし出される私も美しい!」
新米冒険者達が松明を投げ、続いて追って行った奴等も投げ始めた。
もしかしたら自分達で勝てるという淡い期待があったのかもしれない。
だが、バッと放り投げられた松明が、恐怖の物体を照らし出す。
ハッキリ言って照らし出されているのは一部だけである。
凶悪に大きいその姿を、まだ誰も認識してはいない。
大きな壁があると、その程度しか分かっていないだろう。
「さあ、皆行くぜぃ! 敵はこの奥だぜぃ! たあああああああ!」
「俺達につづけ!」
「私は全世界の希望になるの!」
我先にと威勢よく跳び出して行く新米全員だが、気合を入れて走り出したかに見えたそれは、言葉とは裏腹に相当に鈍い。
もう誰か先に行ってくれと言わんばかりである。
ここまでやっておいて今更怖くなったのだろうか?
もう歩いているほどとはいえ、それでも魔竜との距離は縮んでいるのだ。
新米達のその動き、声に反応して、魔竜の体が動き始めた。
ただ動く、それだけでも山が震動をするような音を出している。
「グギャラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「「「「「ぎゃああああああああああああああああ!」」」」」
そして、かなり近いどこかからかで、体の芯までが震えるような強烈な咆哮が響いた。
ついでに新米達の悲鳴も響いている。
「リッド、灯りを頼む。姿がわからなきゃしょうがないからな! 明るさは最大でいいぞ!」
「うん、わかったよ。じゃあ……フロア・ライティング!」
リッドの魔法で、この奥の大穴の光量が増していく。
天井の形や小石の一つでさえもハッキリ分かるようになると、魔竜の全貌があらわになった。
その全身は黒い毛で覆われて、大きな翼を持った竜である。
何度も言ったがもう一度言おう。
俺達の大きさなんて、この魔竜の爪の先端にも満たないレベルでしかないのだ。
剣を抜こうが槍を構えようが、本体に届き様がない。
矢を使ったとしてもその体に突き刺さりはしないだろう。
勝ち目なんてものは無い。
無いに等しいとかそんなものではなく、まるっきりに零である。
「「「ぴぎゃあああああああああああああああああ! やっぱり無理いいいいいいいいいい!」」」
そう言って逃げ出したのは、あれだけ威勢の良かった三人だ。
ハッキリその姿が見えてしまった為に、自分が挑もうとしていたものが、どれ程の物だったのかと理解出来たらしい。
体を歩いたり、その顔も見て居ただろうに、何故勝てると思ったんだろうか。
本気で謎ではあるが兎に角あれだ、全員をここまで連れて来ておいて、真っ先に逃げるなと言いたい。
「て、撤退、撤退しなさい! 早くしないと死ぬわよ!」
リーゼさんから撤退の指示が出て、ある程度実力がある者は後退し始める。
俺も逃げようと仲間に声を掛けた。
「よし、俺達も逃げるぞ!」
「待てレティ、あれを見ろ! 動けない奴等が居るぞ!」
ストリアの指摘で後方を見ると、初めて魔竜の咆哮を身に浴びたあの三人以外の新米達は、声すら上げられずにその場で動けずにいたのだ。
あんなものの攻撃を受け止められる訳もなく、もう見捨てるしかないと、そう思った時。
もしかしたら頼りになるかもしれない、あの男が動き出した。
「ふっ、ここは俺の出番だな。さあ行くぞ化け物! たあああああああああ!」
凶悪な魔竜ヴァ―ハムーティアに挑みかかるバール。
その腕と足を伸ばし、攻撃範囲を拡大させている。
だからといって、たかだか十メートル程長さが増えた所で、その体には全く届かない。
何か手が有るのかと期待した俺だったが、バールは反転して新米達数人を抱えて戻って来ていた。
「無理!」
「まあそうだと思ったわ!」
動けず残っているのは、あとたった一人である。
話した事もなければ顔さえも覚えていないのだが、助けようと思った時には俺はその足を動かしていた。
だがその一人に手を伸ばそうとした瞬間、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、という強烈な爆音と振動が響く。
魔竜の攻撃が来たかとそう思った俺だが、どうやらそれは違うらしい。
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