一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

45 小さく大きな物語48

野営をする為に新米達とマンツーマンで見張りをする事になるが、俺は残り物のハルバックスを選ばされ、順番は二番に決められてしまう。それは仕方ないと受け入れ、俺は一度眠りについた。かなり疲れが溜っていたのか、眠った事さえ分からないぐらいに直ぐにその時間が来てしまう。ストリアに起こされた俺は目覚めるが、もう一人はもう眠ってしまっていたらしい。ハルバックスを起こそうと手を伸ばすのだが、ストリアは俺との時間を過ごしたいらしい。それもいいかと二人っきりの時間を過ごし、結局朝まで話しをしていた…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 俺達は腹を満たし、今日の活動を開始しだす。
 もう朝の爽やかな空気が流れてきている。
 風も少し止んで穏やかな日を迎えようとしてた。

「よし、じゃあこのままここで待機しとこうか」

 俺は全員にそれを提案した。
 だが新米達三人は、それに納得していないらしい。

「なんでそうなるんだぜぃ! もう水も食料もあるんだから登ろうだぜぃ!」

 無茶でも無謀でもなくて、俺にはただ死にたがってるようにしか見えないぞ。

「そうだ、俺達の力があれば、どんな魔物だって軽く退治してやれるぜ!」

 じゃあ地下にいた奴倒して来てくれ。

「美しいから大丈夫!」

 それで大丈夫なら誰も死んだりしないわ!
 と、色々言いたい事はあるのだが、この三人が言うことを聞いてはくれないだろう。
 どうせ今回の初陣で、それなりの成果を上げて名声アップとか考えているのだろうが、そんな簡単にいかないのが現実である。
 何か武勲を立てさせてやれば納得してくれるのかもしれないのだが、この何もない山の上ではそれも難しい。
 ヴァ―ハムーティアを見つけたから、もうそれで良いと思うんだけど、きっとそれじゃあ駄目なのだろう。

「よしわかった、俺はお前達を見捨てたりしないぞ。この為にちゃんと水と食料も持って来たんだ。もうこれで飢えて死ぬことはないだろう。じゃあ俺達はここで待ってるから、後は勝手にしてくれ」

「うん、そうだね」

「ああ、無理をして登る必要もないからな」

「えええ、見捨てたりしないんじゃなかったのぜぃ?! 仕方ない、俺達三人で行くぜぃ!」

「ああ進もう!」

「美しい行進を見せてあげるわ!」

 三人が食料と水を持って山を登ぼろうとしている。
 薪を持って行こうとはしないのだけど、良いのだろうか?
 山の上はもっと冷えると思うのだけど。
 そのまま山を登り始めた三人だが、後ろを振り返り何度も此方を見返している。
 本当は来るんじゃないかと思われているのかもしれないが、俺達は本当に追っては行かない。
 何度も言うが、もう目的であるヴァ―ハムーティアの居場所は掴んでいるのだ。
 あとはこの場で待っていればいい。
 ただ、向う側に知らせる努力はしなければならない。
 俺はリーゼさん達に知らせる為に、用意していた物を出した。

「よしリッド、そっちの端を持ってくれ」

「狼煙をあげるんだね。持ったよ」

 俺とリッドは大きな布の端を掴み、その中に煙をためていく。
 今は随分と風が穏やかだ、今の内なら知らせることもできるだろう。
 風に散らされないようにと、なるべく多くの煙をためて、一気にそれを解き放った。
 ボワッと大きな煙が空に上がって、遠くの誰かにそれを伝えているのである。
 一度だけでは気付かないだろうから、それを何十回と繰り返し二時間ほど。
 もうそろそろ良いんじゃないかとその手を止めた。
 リーゼさんがこれに気付いていれば、ヴァ―ハムーティアを見つけたとは分からなくても、俺達が生きていることぐらいは知れただろう。
 それから定期的に狼煙を上げ続けて昼を回った頃、山の上の方から人影が見えだした。
 あの三人かと思ったら、それだけじゃないらしい。
 リーゼさん達全員を連れて、この場所へ向かって来ていた。
 あの三人も、どうやら無事に合流で来たらしい。
 上げた狼煙のおかげだろうか?
 どうであれ、合流しているならヴァ―ハムーティアの居場所の事も知っているだろう。
 俺はやっと帰れるとほんのりと緊張を解き、全員の到着を待ったのだった。
 それから暫くして、全員が無事に合流すると、焚き火があるこの場所で暖をとっている。
 久しぶりに合流して無事を確かめ合い、俺はリーゼさんと話しを始めた。

「リーゼさん、あの三人から聞いたかもしれないけど、魔竜の住処はみつけといたぜ。あとは下山したら俺達の仕事は終わりだ」

「その道にいた魔物も退治しておいたよ! でもまだ隠れているかもしれないから、一応魔物の特徴を教えるね」

「あれは少し危険なものだ。私達もピンチになったからな」

「うんそれも三人に聞いてたわ。でもあの三人が言ってた事とは何か話しが違うわね。三人だけで見つけたって言ってたわよ?」

「へ~、あの三人がそういうならそうなんじゃないの?」

 俺はそれを否定せずにそのまま受け流した。
 どうも俺達が来ないならと、全部自分達だけの手柄にしたらしい。
 近くに寄って来ないのはそれがバレたら怒られるとでも思っているんだろう。
 俺達はそんなものには興味はないし、別にどうだっていいんだけど、本当にいいのだろうか?
 何を言ったのか知らないけど、変に名声があると、あの魔竜と戦わされそうな気がするんだが。

「まっ、どうでもいいわね。一応それがあるか確認するから、全員でその場所に向かうわよ」

「えっ、俺達も行かなきゃダメなのか? あの三人が居れば充分なんじゃないの?」

「疑うわけじゃないけど、あの三人だけじゃ信用がないからね。確認の為よ」

「えっと、一応俺達も居たんだけど。なあ二人共」

「ああそうだな」

「そもそもあれ見つけたって言うより、ただ落ちてただけだからね」

「あら、あの三人が見つけたんじゃなかったかしら? 面倒がらずについて来るのね」

 リーゼさんは絶対分かって言ってるのだろう。
 ここに居る全員に、それがある事を分からせよとしているのだろうか? 
 多少時間はかかってしまうけど、これだけ人数が居れば何があっても平気だろう。 

「ところリーゼさん、であの変な親子は何処行ったんだ?」

「変な親子? ああ、あの人達ね。たぶんどこかでナンパしたりされたりしてるんじゃないの? 気にしてないから知らないわ」

 特に気にする事もないらしい。
 どうせただの行きずりだし。

「そっか、じゃあ俺達も気にしない事にするよ」

「そうだね」

「うむ」

 そんな噂をしていたら、その親子が俺達の会話を聞いていたらしい。
 かなり遠くからピョ―ンと足を伸ばし、たった数歩で此方に到着していた。
 それを追い掛け、ジャネスの姉ちゃんもこっちに来たらしい。

「ふっ聞きづてならないセリフを言わないでくれ。俺はこんなにもレティを愛しているのに、何故分かってくれないんだ? あ、そうだ今思いついた。うちの娘と結婚したら本物の家族になれるから。是非考えてみてくれ!」

「聞きづてならないのはこちらのセリフだ。誰と誰が結婚するだと?! 私のレティを渡すものか!」

「はあ? 私はこんなガキに興味ないから! それより師匠、久しぶりに稽古をおねがいします!」

「いいだろう、私のレティを取ろうというのなら、この私を越えてからいくがいい!」

「師匠、だから私は興味がないと…………」

 という争いが始まってしまうのだが、まあその争いは適当に終わり、俺達はまたあの洞窟へと向かうのだった。

「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く