一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

44 ここはお前の住処じゃねぇよ!

天使の背の高さを変えたが、帰ろうとする俺達について来る天使マスティア。追い払うのは不可能だとそれを諦めた。俺達はこの塔の町の管理者である双子に報告し、これでやっと帰れると思っていたのだが、まだ確認作業があると、俺だけ残され三週間もの時間をそれに費やしたのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マスティア  (塔の天使)


 三週間、それが俺が塔を調べ直した時間。
 ハッキリ言って、ただ登っているよりも面倒だった。
 罠のあった位置の確認、その効果がどんなものだったのかとか色々聞かれ、それを一つ一つ書き込み膨大な時間がかかってしまった。
 その間にも王国の仕事をしたりロッテとマッドの顔を見に行ったりと色々やっていたのだが、その三週間の間に問題が起こっていたらしい。
 俺が家で久しぶりの家族団らんを楽しんでいると、ロッテがその情報を教えてくれた。

「なんかね、最近来た天使の人が男の人を誘惑してるらしいよ」

「はぁ? ああマスティアのことか? あいつの目的は恋人を探すことらしいからな、誰か見つかったら落ち着くんじゃねぇのか?」

「ん~、何か違うみたいだよ。彼女を慕う男の人達が集まって教団みたいなものを作っちゃったらしいのよ。まさかべノムもそれに入ったりしないわよね?」

「俺にはロッテが居るからな、そんなもんに入りたいとは思わねぇよ。俺には一人で充分すぎるぜ」

「ふふ~ん、誰もロッテちゃんの魅力にはかなわないのだ!」

「まあ一応詳しい話しを聞かせて貰おうか」

「おっけ~!」

 俺はロッテに詳しい話しを聞いていく。
 最近忙しくて町の事は気にしていなかったのだが、どうやらあの天使が関わっているらしい。
 彼女は予想の通りに王国に住み着き、目的であった恋人を探したのだとか。
 それは上手く行ったらしいのだ。
 だが、相当というよりも、異常に上手く行き過ぎた。
 何故か王国に住む、恋人の居ない殆どの男が彼女に夢中になってしまったらしい。
 王国中に響く魔法の声で、自分と付き合いたい人は集まってとか言って男を集めたとか。
 それにより恋人の居ない男達が大量に押し寄せ、全員にキスをして回ったという。
 その中には小さな子供から、お年寄りの姿まで見えたらしい。
 一応彼女は美人で、今は可愛らしくもある。
 そんな彼女に激しいキスをされた純真な男達は、彼女だけを信望してしまったのだった。
 王国の男共はドンだけ純情なんだと言いたくなるレベルだが、力を求める為にキメラ化し、顔に自身をもてなくなった者も多い。
 自分がモテない、格好悪いと思っていた男達、それを全員受け入れて数千に達する数が集まったという。
 自分がモテると気づいた彼女だったが、その中から一人を選ぶ事ができなかった。
 私の為に何かしてくれた人にはキスのプレゼントをしてあげると言い、その教団が立ち上がってしまったらしい。
 それによりどうなったのか、もう直ぐ告白しようとしていた女や、目をつけていた男を奪われてしまった女達が、激しく怒ってしまったのだ。
 今その教団と女達との戦いが激しく繰り返されて、王国は大変なことになっているらしい。
 普通ならこんな事は起こらないのだが、これもやはり天使の力があっての事だろうか?
 これ以上面倒なことになる前に、俺も動いた方がいいだろう。

「俺はちょっと城に行って来る。家の事はまかせたぞロッテ」

「はいは~い」

 俺が城に行き、玉座に居るイモータル様に面会してみるのだが、王は凄く怒っているようだった。
 顔は笑っているのだが、部屋の中には暴風が巻き起こり、色々と散らかっている。
 親衛隊とかも遠くで見守っていたりするから、結構重大なことらしい。
 もう逃げ出したいぐらいだが、それをしたら何かしらやられる気がする。
 兎に角進んで話を聞こうと、俺は王の前へと進んで行った。

「聞きたいのだけれど、貴方があの天使を連れて来たんですよね? ねぇ、この惨状を一体どうしてくれるのでしょうか?」

「いや……あの、俺に言われても勝手に来たと言うしかないんですけど……それに他の奴等も居たはずで……」

「貴方の言い訳はどうでも良いのです! このまま放っておけば王国の地が乗っ取られてしまいます。それだけは何としてでも止めなければなりません! ですが彼女はただ恋人を募っているだけで、特に悪い事をしているわけではないのです。それが大問題なのです! これでは軍を送って制圧する事も出来ないではないですか!」

「あ、はい……」

「いいですかべノム、あの天使を連れて来た責任をとって貴方が何とかするのです!」

「しょ、承知いたしました……」

 もうそれを受けざるを得なかった。
 俺は外にあの天使を探しに出たのだが、空から見下ろしてみると、巨大円筒状の何かが建設されようとしていた。
 もう基礎部は造られ、二階部分に取り掛かろうとしている。
 これはまたあの天使が塔を作らせているのかもしれない。
 イモータル様が動かないのなら、これも合法に行われている物なのだろう。
 この王国が乗っ取られるというのも案外本当の事なのかもしれない。
 俺はそこに降り立ち、その建物の中へと入ってみると、何千もの規模の人間がこの塔を造りに参加していた。
 全員が男でもなく、何故か女の姿もチラホラ見える。
 その全員が彼女に執心しているのだろう。
 まだ内装にまでは取り掛かっていないようで、中央にはまるで王城の様に、あの天使の座る玉座があるだけだ。
 天使はその作業を見つめて、自分の為に塔が作られるのをうっとりと眺めている。
 この天使にとってはこれが理想の恋人というやつなのだろうか?
 別に造るなとは言わないが、この国の中でやるんじゃねぇと言いたい。
 兎に角これ以上の暴挙をさせる訳にはいかないと、俺は中央を真っ直ぐ進み、その天使の元へ歩いて行った。

「おいテメェ、この王国で好き勝手やってんじゃねぇよ! お前恋人見つけたいんじゃなかったのか? 何変なもん造らせてんだよ!」

「? 貴方は……ああ、では来てください。激しいキスをしてあげますのです」

「ちげぇよ! 俺は間に合ってんだよ! じゃくてだな、こんな所に塔なんて建てんじゃねえっていってんだ!」

「? この建物は皆さんが建ててくれたもので、悪い事にはならないと言ってたですよ? 私の愛の為に皆さんが勝手に造ってくれてるだけなのです。何故私が悪いのですか? ただ気に入らないというだけで追い出すのですか?!」

「何故ってお前……」

 これだけの人数が居れば法律に詳しい奴もいるのかもしれない。
 変に言い争ってもこっちが悪者にされそうな気がする。
 合法な事をしているのに力ずくとか、イモータル様の名に傷がつくだろう。
 それこそもし悪王等と呼ばれれば、盤石なこの国を脅かす事にもなりかねない。
 ただ人数が多いだけなら何とでもなるが、王国の民何千人もの精鋭と、俺一人では戦力差が違い過ぎる。
 力ずくは無理、恋人を探してやるという方法も、もう使えない。
 あと使えそうな方法といえば……いっそこの中から一人選んでやるとかか?
 だが俺が選んだところで彼女が納得しなければ意味がない。
 ここは彼女よりも、彼女に従う男共を揺さぶるしかないだろうか?

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