一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

43 永遠と伸びた塔の終わり。

天使の背を縮ませる為、俺は罠の発動に挑む。しかしそれはまた俺の体のサイズを変えてしまう行為だった。残りの罠は五つ、どう考えても大きくなりすぎると、俺は仲間に応援を頼んだ。軽くバールがそれを引き受け、やったと思ったのだが、一つ目の罠でいきなり失敗をしてしまう。もう失敗しか見えないのだが、方法を見つける為にも俺が二度罠を踏んだのだ。それでも方法がなく天使と言い争っていると、メイの手助けにより事なきを得たのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マスティア  (塔の天使)


 天使の背の高さがそこそこ変わり、今は百七十あるかないかぐらいだろう。
 背も縮み自分より高い相手も多くなった今なら、男もすぐに出来るんではないだろうか?
 まあ顔が好みだったとしても、この天使の性格について行けるかは微妙だが、それはその男次第だろう。
 で、俺達はこれでもうこの塔には用事がなくなった。
 あとはもうこの塔の管理者二人に報告して、マリア―ドの城に行って帰るだけである。

「はぁ、もうこれで文句はねぇだろう。俺達は帰るから後は勝手にやってくれ。ああそれと、この体を元に戻す為のスイッチを、一年以内に取り寄せてくれ。いいか、一年以内にな」

「わかったのですよ。努力してみますです」

「努力じゃなくてキッチリやってくれ。 ……いや、やっぱりいい。これ以上関わったら何が起こるか分からねぇし、これで我慢しといてやる。じゃあな、達者でやれや」

「マスティアさん、じゃあお達者で」

「マスティアちゃん、男と突き合うためには色々と作法がいるのです。腰の振り方とか色々とレッスンしなくてはいけませんから、とりあえずあのベットでお話しましょう」

 バールの奴が天使マスティアの肩に手を回し、やることをやろうとしている。
 あの二人がそれでいいのなら別に構うことはないのだが、あの天使もバールの事はもう何とも思っていないようだ。

「フンフンフンフンフンフンフンフン!」

「フゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」

 天使はバールの腰に手を回して逃げられないようにすると、そのままボディーブローを連発している。
 一度酷い目に遭わされているから当然だろう。
 俺は天使の気が済むのを待って、ボロボロになったバールを引きずり、他の仲間の居る場所へと向かって行った。
 因みに何故かはわからないのだが、俺達三人の後ろに気配があったりする。
 まさかついて来る気じゃねぇよなぁ?

「俺達は帰るんだ、ついて来られても困るぞおい」

「まだ恋人を見つけて貰っていませんのですよ?」

「俺はそこまで約束した覚えはねぇぞ! それはもう自分で探せや!」

「はい、そうしますですよ」

 そしてまた歩き出したのだが、後ろからは相変わらずあの天使が付いて来ていた。
 俺一人なら振り切るのも可能なんだろうけど、仲間達が居てはそれは無理だろう。
 とりあえず諦めずに、もう一度説得をしてみようか。

「もう一度言うが、俺達はもう帰るから付いて来ないでくれねぇか?」

「人が居る場所に行かないと恋人は造れないのですよ。ですから連れて行ってください」

「この塔の下に町があるから、そこに行ってみれば良いんじゃねぇの。この塔の下だから直ぐ行けるだろ」

「ですけど私人見知りなので、知らない人と話すのは怖くって。是非連れて行って欲しいのですよ」

「テメェは今までの行動を振り返ってから言いやがれ! 何が怖いだ、俺の方が怖いわ!」

「まあまあべノムさん、良いじゃないですか。下まで行くまでなら連れて行ってあげましょうよ」

 助け船を出したのはメイの奴だ。
 その助けたメイに対して、天使マスティアは顔を上げて見つめている。

「貴方は私の恋人になるですか?」

「いえ、それはないです。僕はエルさん一筋ですから!」

 メイはそう言い切っているが、エルとはまだ上手く行くかも分からない。
 いやむしろ八割方駄目な気がする。
 まあその話は置いておくとして、放っておいてもどうせ勝手に追って来るのだろう。
 俺も渋々了承して、この天使も付いて来る事になってしまった。
 兎に角この塔は制覇して、天使が居なくなったことにより、あれ以上の階には何もない。
 ただ何も無い階層が永遠と続いて行くだけだ。
 結局この塔の中には宝はなく、運が良かったら天使の恋人になれたというだけだろう。
 ハッキリ言って厄介事にしかならないし、そんなものは俺は要らない。
 塔を制覇した俺は、他人事の様に遠くで見守る仲間達と合流し、塔の管理者である双子に報告をしに行くのだった。
 
「「おお、まさか二百六十階層にまで到達するとは素晴らしい! やはり魔族の力というのは凄いのですね!」」

 同じタイミングで喋り出す双子。
 胸の名前が無ければ何方が何方なのかも分からない。
 その双子に今までの事を話し、二百六十階層まで制覇したと伝えたのだが、天使の話だけは全く信じてはもらえなかった。
 王国としては掃いて捨てるほど見かけていたのだが、この国としては違うのだろう。
 普通に俺達の仲間、魔族として見られているのかもしれないな。 

「俺達は金を貰いに行くから、じゃあこれで報告は終わりだな」

「ふう、やっと終わったのか。一度風呂にでも入ってゆっくりしたいわい」

「……お風呂!」

「ふぁいやふぁいや、ふぁいやああああ!」

「何を言ってるのか全然わからんが、お前も入りたいのだな? うむ、では男同士の友情でも深めようではないか!」

「隊長隊長、俺もそれに賛成です! 皆で風呂に入りに行きましょうよ。ええ、全員でね!」

「テメェの考えは読めてるんだよ! どうせ女共と一緒に入りたいとか言うんだろうが、それは却下だ! どうせまた大騒動になるにきまってんだからな! メイ、この馬鹿野郎を縛り上げとけ。お前の女も覗かれるからな!」

「はい、力いっぱい縛っておきます! 絶対動けないようにキツキツに縛り上げて、風呂の中にでも投げ入れておきます!」

「俺が死んでしまうから止めてくれないでしょうかメイ君」

「「あの皆さん待ってください!」」

 もう終わった気分でいた俺達に、双子が俺達を止めている。
 何か忘れているのだろうかと思ってる俺達に、この双子が言い放つ。

「「まだ確認が出来ていませんから、一緒に見て回りましょうか」」

「はっ、今からか?!」

 考えてみれば当然だった。
 言葉だけで信用できるほどの関係でもないし、一度この国を襲った王国の人間であれば当然だろう。
 俺は仲間達を下層におろし、双子と一緒に階層を周って行くのだった。
 それから本当に真面目に調べ始める双子だったが、俺にとっては二回目の何の面白みもない作業が続く。
 王国の仕事もあるからと、王国とこの塔を行き来する事約三週間。
 俺はやっとの事で二百六十階層までを隅から隅まで調べ尽くした。
 もう仲間達も国に帰らせ、あの天使もそれについて行ったらしい。
 他の天使に会ってみたいと言っていたから、きっとまた酷い事になっているんだろう。
 また王国に住み着くんじゃねぇかと若干の不安があったりするが、なる様にしかならねぇものだ。
 俺はマリア―ドの王に報告を済ませ、結構な報酬を受け取り借しを作ると、俺は王国へと帰って行った。

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