一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

40 天使マスティアとの無駄な言い合い。

巨大化した俺は、あの天使マスティアに殴られていた。防御力が上がって痛みはそれほどでもないのだが、その攻撃は俺の中央部へと向かっている。男の急所であるそんな場所を殴られては悶絶するだろう。それをやられるよりはと元の姿へ戻る為、俺は設置してあった罠の場所へ向かって行く。だがその罠に向かう途中、俺は天使に追いつかれる。股間を強打され、落とされて地面を滑っていく。殴り続ける天使を巻き込み、俺の体が縮んだのだ。殴り続ける天使も、自分の体の変化に気付いたらしい。扉の向こうの部屋に向かって飛んで行ってしまう。俺もそれを追い掛け、その中へと入って行った…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マスティア  (塔の天使)


「それをよこすのですよ!」

 天使マスティアは小さな体を使って、俺の手に持つ地図を狙っている。
 右から左からと襲い掛かって来るのだが、その動きは遅く、先ほどまでのキレのある機敏な動きではなくなっていた。
 きっと俺の時と同じで、今の全力がそれなのだろう。
 ただ、これがマスティアに必要なものであっても、そう簡単に渡してやる訳にはいかない。
 俺はそれを軽く躱し、この天使に条件を突きつけた。

「おい待て、さっきの事は謝ったし、もうそれなりの反撃もしただろう。俺と一度話し合わないか?」

「こんな状態にしておいて何を言っているのです! 地獄の底の底に叩き落としてやるですよ!」

 マスティアは言う事を聞いてくれる気がない様だが、もう怖くもなんともない。
 拳も蹴りもそこそこ痛いが、だからどうだというレベルである。
 何をしたところで素手だけでは勝ち目はないだろう。
 そしてさっきの言葉だ。
 自分の作った罠では元には戻れないというのなら、俺の手が必要だろう。
 その事を突きつけてやれば、きっと話しを聞くはずだ。
 だから俺は、もう一度キッパリと言ってやることにした。

「話しを聞いた方がいいぜ。自分一人じゃこの罠を解除する方法がないんだろ? 今までの事を水に流してくれれば、俺は手を貸してやってもいいぜ?」

「嫌です!」

「おい、そこは聞いとけよ! 体が戻らなくても良いのかよ?!」

「嫌ですうううううううううう!」

 この天使、どうあっても俺に復讐をしたいらしい。
 俺の話に聞く耳を持たず、何度も突進して地図を取り返そうと頑張っている。
 圧倒的な寿命があるから、別に今でなくとも良いとでも思っているのかもしれない。
 そうであればちょっと不味い。
 今後付け狙われる可能性もありそうだし、この場で和解をしておきたい所だ。
 だがこの天使に言う事を聞かせるにはどうすれば?
 俺が悩んでいると、向うもそれなりに考えていたらしい。
 自分の力では無理だと判断し、掌を上に向けて何かをしようとしていた。

「クッ、流石に使う気はなかったのですが、こうなれば仕方ないです! 天動兵機ダムキナよ、我が呼びかけに答えて顕現しなさい!」

 彼女が呼び出そうとしているのは、天動兵器と呼ばれる巨大な人型の像の事である。
 相当な強度と力を持つそれは、俺にとってはすこぶる相性が悪い物だ。 
 何処から来るのかと警戒していると、この塔の遥か上あたりで何かがぶつかった様な音が聞こえた。
 そしてこの塔がまた大きく揺れている。

「…………あっ、ここが塔の中だってことを忘れていたです! これでは使えないじゃないですか! どうするんですかもう!」

 どうやら塔の屋上にぶつかってそのままらしい。
 意外と間の抜けた奴だ。

「俺に言われたって知らねぇよ! いや違うな。これは神様が作ってくれた俺達が和解するチャンスだ。一回話し合って、それで終わりにしようぜ」

「はっ? 神様なんてなに馬鹿なこと言ってるんですか! 例え居たとしても、今この状況に口出しなんてさせませんから! さあ天罰をくらいなさいです!」

「おい、お前天使だろ。神様を否定していいのかおい?!」

「別に否定していません。神様なんてただの上司です! 別に尊敬とかもしていないし、こき使われるこっちの身にもなれって話ですよ! もう話しはいいでしょう。大人しく殺害されろ!」

「もう隠す気がねぇなテメェ!」

 天使はブンブンと飛び回り、拳や蹴りを繰り出して来ている。
 こんな事は早く済ませて和解する術を見つけたいのだが、その糸口が見つからない。
 俺の知っている情報といえば、この塔の罠を作れるとか、この塔の管理者だとか、だろう。

「くぅ、これでは抹殺できません! はっ、あれなら!」

「ペンを狙っていやがるな。それはさせねぇよ!」

 マスティアは素手では無理と、凶器を使う事に切り替えたらしい。
 だが今の俺なら、この天使よりも素早く、そして機敏に動けるのだ。
 軽く先回りをして、そのペンを懐に隠すのだった。
 しかしペンを防いだとしても、また何かしらの物を狙って来るだろう。
 永遠とこんな事を繰り返してられないし、動きながらでも考えを先に進めよう。
 この天使はヌイグルミを集めていて、そのヌイグルミは魔物の様な物ばかりだ。
 あとはまあ、背の高い恋人を探していたりすることだろうか?
 彼女の心を動かせるとしたら恋人探しを手伝ってやることか?

「防がれましたか! ですがこの部屋は私の部屋。何があるのかは知り尽くしているのですよ!」

「危険な物なんて渡さねぇよ。今の俺なら先回りして全部防いでやれるからな。 ……だからもう諦めてくれねぇか?」

 彼女が気に入るレベルの男で、彼女以上に背が高い人物。
 もうバールの奴は論外だろうし、この場に居るのは背の低い奴しか残っていない。
 顔が鎧の面でいいのならグラビトンを紹介してやっても良いのだが、たぶん気に入らないだろう。
 となるともう不可能に近い。

「この乙女の敵め、誰が諦めるものですか! 全世界の乙女達の為に、必ず八つ裂きにしてやりますです!」

「誰が全世界の乙女の敵だ! 少なくとも一人は味方はいるわ。俺の愛する妻とかなあ!」

 この世界全体を探しても皆無といっても良いんじゃないだろうか。
 だとしたら、もう他の方法を探すしかないだろう。

「お前は、お前は私の怒りに火をつけたあああああああああああああああああ!」

「なんでだよ! 俺が結婚してたら悪いってのかこの野郎!」

 まて、考え方を変えて見たらどうだろうか?
 背の高い男を探すんじゃなくて、彼女自身の背を縮めてしまえば、いくらでも男を見つけられるんじゃないだろうか?
 一度提案してみるとしよう。
 もしそれで駄目だったら、ぶっ叩いて鳥かごにでも閉じ込めてやろう。

「おいお前、一度落ち着いて今から言う事をちゃんと聞いとけ!」

「煩い黙れええええええええええ!」

「良いから聞いとけ! 背の高い男がいいってんなら、お前の背を縮めてみてもいいんじゃねぇのか?! 俺を許すっていうなら、それを手伝ってやってもいいんだぞ!」

 俺がその提案をした瞬間、彼女の怒りの攻撃が止んでいた。

「……是非手伝ってくださいです!」

 そう言って顔に満面の笑顔に変わっている。
 あれだけ怒っていたというのに、随分と変わり身の早すぎる奴である。
 いや、天使なんてこんなもんなのだろうか。

 またこの天使の気が変わらない内に、手早く終わらせてしまうとしよう。

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