一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

35 どう考えても有り得ない確率を、百パーセントで引き当てる者。

蛇を倒した俺達は、一つ上の階層へと上がって行った。二百六十階層は本当に何も無く、普通の塔の様相を見せていたのだ。色々と見て回るが何も見つからず、四隅にある巨大な柱を調べる事に。二つの柱は何も無く、三つ目の柱に扉をみつけた。俺はそれを開けようとするも、中から何者かの力で引っ張られてしまう。俺一人では抗えず、六人がかりで扉をこじ開けると、中からは女の天使が現れた…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


「んきゃあああああああああああああ!」

 扉から勢いよく飛び出したのは、真っ白な翼を生やした天使である。
 そのまま床につっぺし、顔をちょっと打ち付けていた。
 赤みがかかった黄色、いわゆる黄土色おうどいろの髪を長く伸ばした、大きな女だ。
 スレンダーとは呼べず、グラマラスとまではいかないぐらいの体型だろう。
 天使としては知らないが、人の規格としてはかなりの長身である。
 人の波にのまれたとしても、頭一つ二つ、とび出る彼女を探すのは容易なほどだ。
 因みになぜこの女が天使なのかと言われれば、王国の中にも翼がある人間は多く居るが、俺はこんな女を見た事がないからだ。
 この女に翼があることと、こんな馬鹿みたいな塔の中に居るのが天使の証だろう。
 関わり合いになりたくないと先ほど思ったばかりだというのに、噂をすれば影がさすという事なのか?
 ハッキリ言って帰ってくれてと叫びたいが、この天使が塔の管理者だというのが比較的高い可能性であるのは間違いない。
 正直話しかけるのも嫌なレベルではあるが、俺の体の為にも話しをするとしようか。

「痛い…………」

 そう言って天使は翼を羽ばたかせると、大きな体を浮き上がらせ、床へと着地した。
 やはり天使と言われるだけあって顔は美しいが、見下ろす目には敵意が感じ取れる。
 六人がかりでやっと勝てるぐらいの力は、この天使の実力を物語っている。
 戦えば絶対に強く、人の身では推し量れない出鱈目な考えでも持っているのだろう。
 その女はというと、首をかしげてこちらに言葉を投げかけた。

「痛いのですよ?」

「ああ、悪かったよ。中に入ってるのがアンタだとは知らなかったからな。怒ったなら謝るぜ。それよりちょっと聞きたい事が…………」

「待ってください隊長! ここは俺が話しをするべきでしょう! 俺はバールと言います。美しい貴女の名前を教えてはくださいませんか?」

「美しい……この私が? ……そう、そんな人間も居るのね…………? 人間? 悪魔ですか?」

 相手が女と見て、バール俺の前に割って入って来た。
 だが俺達の姿を見て、女は混乱しているらしい。
 初めてこの姿を見れば、そう思われても不思議じゃないだろうか?
 そして天使は悪魔を殺したいという衝動があるらしく、問答無用で襲って来ることもある。
 ただ、それを姿だけで判断しているんじゃないという所が救いだろう。
 一応誤解を解いておかないと不味いかもしれない。

「俺達は…………」

「俺を悪魔なんかとくらべないでください! 俺はこの世界で貴女を愛し、この塔から貴女を救い出すもの! 愛を奏でる勇者バールとは俺の事です!」

「あ、愛……なるほど、このワタシは貴方と結ばれる運命だったのですね。ワタシはマスティア、神が決めた運命というのならば従わなければなりません。ですがワタシ、小さい殿方には興味が持てなくて、殿方に抱きあげられるのが夢なのです。出来ればもう少し大きくなってからお願いしますですよ?」

 時間が経ってもそんなに大きくなんねぇよ!
 大体の奴はそこに行くまでに成長が止まるわ!
 と、ツッコミを入れてやっても良かったのだが、それをしたら怒るかもしれない。
 一応一人ぐらい願いを叶えてやれそうな男は知っているが、王国の正門に佇む鎧の巨人となった門番を気に入るのか微妙である。
 あの女にしても、バールの言葉に満更でもない顔をしている。
 このまま任せていてもいいかもしれない。

「ふっ、なるほど。貴女の目的が分かりましたよ。貴女はこの塔を使って、強くて大きな男を探しているのですね?!」

「な、何故分かったのです?! まさか本当に運命の相手だというのですか?!」

 おいコラ、そんな事の為に俺は苦労させられてたのかよ?!
 そんな知りたくもない真実を知らされ、もうこんな場所とは早くおさらばしたい。
 関わるのも嫌だし、後はバールに任せるとしよう。

「貴女は美しい、背が高くともそれは変わらない。そして俺の背の高さを気にしているのであれば、それは俺の前では無意味な事です!」

 そう言ってバールが自分の足を延ばしている。
 ほんの少し天使の女より高くなると、そこで高さが安定した。
 バールはスッと腰を抱き寄せ、彼女を見下ろす様はそこそこ絵になっている。
 その足だけが妙に長くなってるのを除けばだ。
 あの女は背が高けりゃ何でもありなんじゃないかと思ってしまったが、実際そうなのかもしれない。
 されるがままにされて、そこそこ嬉しそうである。
 そして彼女の願いを叶える為に、バールは彼女の体を持ち上げたのだ。
 このまま信用させれば俺の体を元にもどしてくれるかもしれない。
 頑張れバール、お前の手でその女を信用させてやるんだ。

「うぐぬおおおおおおおおおおおお…………」

 上手くいくかに思われたその作戦だが、バールの伸ばされた足がガクガクと震えている。
 伸ばされた足では、そこまで力が入らないのかもしれない。
 それともあれ程の力の持ち主である彼女の筋肉が、よっぽど重かったのだろうか。
 だからといって、そこで落としでもしたら、この先の展開が変わってしまう。
 絶対に落とすんじゃないぞバール!
 そう心の中で応援した俺だったのだが…………
 
「も、もう、無理…………」

 バールは、彼女だけは落とさないようにと後に倒れ込んだのだった。
 何かの技のようにスポーンと腕の中から発射された彼女は、空中で姿勢を直そうと努力した。
 だからこそそれが起こった。
 タダの横回転だったものが、無理に体を起こそうとした為に斜めとなり、真っ直ぐな縦回転へと変わってしまったのだ。
 どうなったかといえば、地上すれすれでそんな動きとなれば後頭部を打ち付けるのは確実である。

「させるかああああああああああああああああ!」

 俺はそれを防ぐために走り出した。
 足をガク付かせていた時点で何か起こるだろうと思っていた俺は、もしかしたらと予測していたのだ。
 この体であっても人よりは速く動ける。
 余裕で間に合うと走り、完璧に間に合ったのだ。

「あ…………」

 助けに入った俺が、掴む場所さえ間違えなければ完璧だっただろう。
 俺は急ぐあまり、彼女が自分で着地しようとした腕を掴み、無事にそれを邪魔してしまったのだ。
 言うまでもなく着地が出来ず、彼女はカッチカチの床に側頭部をぶつけてしまった。

「グガハアッ!」

 それだけならまだ良かった。
 この小さな体は彼女の動きに抗えず、揉みくちゃにされる内に何故か一つの技が完成してしまう。
 関節を決めながら投げ落とすような形となり、彼女自身の体重とスピードの乗ったそれは、最早狂気の一撃だっただろう。
 ドオオオオオオオオオオオンと倒れ、マスティアは目を回し、そして意識を失った。

「………………」

 …………これは不可抗力というやつだ。
 決して俺がやろうとしてやったわけではない。
 普通ならばこんな状況になるはずがないのだが、これも天使の力だというのだろうか。

 …………あああもう、こんな奇跡いらねぇんだよ!

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