一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

29 協力した方が早いだろうがよ!

一応エルを説得してメイとの付き合いを成功させてみると、メイは喜び庭駆けまわり、猫が丸まりそうになった。メイがエルに喋りかけ、趣味とか聞いてそこそこ盛り上がっている。そんな中、俺達はこの階層の壁際に到着したが、そこには動物のレリーフが取り付けられていた。そのレリーフの口元には穴が開き、中にはスイッチが見えている。それを押すと魔物が出る仕掛けらしく、軽く倒していくのだが、メイが恰好をつけたいらしく、俺と交代して敵を倒し続けて何百回目、強力な敵が出現した。手を貸そうとするも、一人で倒すと頑張るらしい…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


「ダメージカット!(ダメージ軽減) スピーディー!(移動速度アップ) ファイヤソード!(武器属性付属) ストレングスパワー!(攻撃力アップ) リーフリフレイン!(継続回復)」

 メイが像の魔物の攻撃を躱しながら、自身に強化魔法を掛けている。
 中にはこの世界にあるものも有るが、殆どが知らない効果のものだ。
 確かフレーレと戦った時に一度見せた奴だろう。

「スロウダウン!(速度低下) ストレングスダウン!(筋力低下) ペインファング!(継続する痛み) アルティメットチェイン!(掛かっている魔法の数だけ全魔法効果アップ)」

 そして相手に向かい、ありったけの弱体効果を付与させている。
 今まで使って来なかったのは、そこそこ魔力消費がデカいのだろう。
 その効果でメイの力が上がり、相手の力が下がっているのを感じるが、それでも相手とつり合う程にはなっていない。
 相手の腕一本なら何とか防げる様だが、残りの三本は無理だった。
 単純に四倍とはいかないまでも、手数で相当劣っている。
 相手の攻撃を誘い攻撃を仕掛けるも、残った三本の腕は更にカウンターで合わせてきていた。
 これを突破するのは一人では辛いだろう。

「くっ、中々手強い!」

「おいメイ、手伝ってやってもいいんだぞ?」

「いえ、僕一人で大丈夫です! 見て居てくださいエルさん、必ず一人で倒しますから!」

「………………」

 一人で倒すと息巻いているメイの言葉に、エルも手を出さずボーっと観察している。
 あれは恋人を見守る目じゃない、言った事はやれよという上司の目だ。
 そんな無駄な期待をされているメイは、ついに本気を出すらしい。
 敵の周りで動き回りながら、黄色く輝く魔法陣を描き出している。

「永遠を紡ぐ時の剣よ、我が手の中に顕現せよ! さあ来い!」

 手に持つ剣が消失し、代わりに青いオーラが立ち昇る青の剣が現れた。
 何か尋常じゃない雰囲気を出す剣ではあるが、たぶんあれがメイの奥の手だろう。
 もしあれで駄目なら俺も手を出すとしようか。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 そう思い相手の動きを見続けるが、あの剣の力は想像以上らしい。
 剣先に触れた相手の槍が、空中で留まりそのまま制止している。
 あの無駄に力が強そうな象の魔物でさえ、その槍を動かす事が出来なくなっていた。
 それもたかだか五秒程度のものではあるが、真剣勝負でその時間は致命的なものだろう。
 人であればそれで決着がつくレベルではあるが、相手は巨大な魔物である。
 反撃の機会は増えても勝てはしなかった。

「はああああああああ!」

 槍を動かそうとする腕を斬り付け、制止した槍が動き出すとまた槍を斬り付ける。
 逆の二本の腕に狙われないように動き、残っている一本の腕を相手に、避けて攻撃を繰り返す。
 また動き出そうとする槍を止めてと、相手にダメージを与え続けていた。
 だがあの剣にも弱点はあるらしく、どうやら生き物の動きは止められないようだ。
 あの象の魔物は動かない槍を手放し、素手の攻撃をし始めた。

「武器を捨てたか! しかしリーチを捨てたそんな大振りの攻撃では、僕には絶対当たらないぞ!」

 もう相手の二本の腕はボロボロだが、痛みすらも感じていないのだろうか?
 自分の傷などお構いなしに、メイに向かって攻撃を続けていた。
 言った通り、メイ一人でも勝ち目は充分にあるのだが、まだまだ相当な時間が掛かりそうな雰囲気ではある。
 しかし、ただ待ち続けて、何時までも時間を掛けているのも馬鹿らしい。

「あ~、一応見えないように手を貸してやるか?」

 もうそろそろ手を貸してやろうと、俺は出来る限りメイから見えない後方に回り込んだ。
 今の背の俺なら、正面に居るメイには見えないだろう。 
 俺はコッソリと後方に回り込み、敵に気付かれる前に、急所である首元へ剣を振り放つ。
 敵の邪魔もなく最高のタイミングで当てたが、今の力ではそれでも無理だったらしい。
 極太の相手の首には、少しばかりの傷さえも残らない。
 我ながら情けないほどだが、だからといって悲観する事でもない。
 俺なんか眼中にもないこの象の魔物に対して、同箇所への正確な攻撃を放つ。
 ガンと傷もない傷口へ斬撃がぶつかると、ほんの少し皮膚に亀裂が入った。

「お、何度かやりゃあいけそうだな」


「あああああべノムさん! こいつは僕が倒すって言ったのにいいいいいいいいい! エルさんに良い所を見せるって言ったのにいいいいいいいいい!」

 まだ攻撃をして間もないが、どうやらメイに気付かれたらしい。
 その目がハッキリと俺を捉え、口を開いて叫び出していた。

「ああ、気付かれたか。まあいいじゃねぇか、このままじゃ一時間経っても倒せねぇぞ? ボーっと待たされるだけのエルの身にもなってみろよ」

「そ、それはそうかもしれないですけど、僕のカッコいい所を見てくれれば時間なんて直ぐに…………」

「いや、奴の顔を見て見ろ。あれはお前を見て楽しんでる雰囲気じゃない。待たされまくって悟りでも開きそうじゃねぇか」

「うっ…………」

 メイは攻撃を避けながらエルの方を見るが、その瞳はもう何も見てはいない。
 膝を抱えて座り込み、ただあるがままを受けいれている。
 戦っている後の景色でも見ている様だ。

「し、仕方ありませんね。分かりました協力して倒してしまいましょう」

 エルの姿を見て納得したらしく、俺の参戦を受け入れたらしい。
 メイの奴は俺だけを参戦させるつもりだっただろうが、俺としては全員で戦う事を了承したと取るとしよう。
 だから俺は、エルに声を掛けて全員で戦う事にした。

「メイがピンチらしいぞ、助けてやれよエル!」

「えっ、俺はべノムさんだけに言ったんですが?!」

「あ、そうだったか? でももう言っちまったし、来いよエル」

「…………うん!」

 メイは驚いているらしいが、本気で退屈をしてたエルは頷いた。
 立ち上がって背伸びをすると、炎の剣を出現させて飛び上がる。
 もう戦闘意欲は充分らしく、炎弾の爆撃が始まった。

「はああああああああああああ!」

「おま、張り切るのはいいが、そうとう熱いぞこら!」

 エルは珍しく叫んで、俺達以外の場所は炎で埋め尽くされる。
 まあ俺達を避けてはいるが、その熱は相当だ。
 もう近寄るのは危険だと俺は後へ下がるのだが、メイはむしろ前に出るらしい。

「うおおおおおおおお、エルさんとの初めての共同作業! これで下がる訳にはいかない、いかないんだああああああああああ!」

 と、頑張っていた。
 二人の共同作業と、言える気がしなくもない戦いが始まった。
 炎の攻撃を浴びて焦げても耐え続けるメイと、もう巻き込むのさえも躊躇わなくなったエルだけの攻撃は、像の皮膚を焦げ付かせてめくり上げている。
 水の加護でも受けているのか、中々倒れない象の魔人だったが、最後の止めを刺すべくエルが向かって行く。

「ふううううううううううううう!」

 表面が効かないのなら内部からと、口の中へ無理やり剣を押し込み、外と内からこんがりと焼き上げられた。

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