一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

20 小さく大きな物語42

魔竜ヴァ―ハムーティアに落下した俺達は、手探りで道を探している。巨大なこの魔物から何とか降りるも、大きな瞳がこちらを見つめていた。魔竜の口が開かれ吸い込まれそうになるも、必死に耐え続ける俺達。その風が収まると、俺達はその場から逃げ出すのだった。無事に逃げ続け、魔竜が追って来ないのを確認し、俺達は一息ついたのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 あの化物ヴァ―ハムーティアから逃げ出した俺達。
 俺は巨大な洞窟を歩き、ストリアの手を引いていた。
 当然だがこの洞窟は、あんな化け物が出れるぐらい広く、横も縦も相当に巨大である。
 歩くのにも苦労するほどで、あれからまた一時間以上歩き続けた。
 もうそろそろ全員落ち着き、ストリアの手を放してもいいかとは思っているが、放す機会が中々ない。
 向うから放してくれたら嬉しいのだけど、たぶん放してはくれないだろう。
 そのまま手を引きながら出口を目指し、遠くから外の光が流れ込んで来ている。

「やった、出口だぞ! 皆急げ、あの化物が来る前に脱出するんだ!」

「ああ、行こうレティ、私達の幸せの未来の為に!」

 どうも違う意味に聞こえるが、気にしたら負けかもしれない。
 そんな外の光を目にすると、新米冒険者の三人が目を輝かせ、俺達を追いこして走って行く。
 余程嬉しかったのかもしれない、疲れも吹っ飛んでいる。

「おおおおおおおお、出口だぜぃ! さあ俺に付いて来るんだぜぃ!」

「ヒャッハーッ! お前には負けんぞハルバックス、先に出るのはこの俺だ!」

「私の美しさは光に映えるのよおおおおおおおお!」

 俺も確かに急げとは言ったが大丈夫だろうか?
 あの化物以外にも何かが潜んでいるかもしれないのに。
 何もないから大丈夫だとは思うが、俺達もなるべく急ぎ追い掛けると、洞窟の外へと脱出した。

「うっ、眩し…………」

 一気に走り出た為か、外の光が目に眩しい。
 俺は眩しさを堪えながら状況を確認すると、この場所は生命に溢れていた。
 綺麗な花が一面に咲き、とても良い匂いが感じられる。
 蝶が舞い、鳥の声も聞こえていた。
 こんなのんびりした雰囲気だが、それで油断していいという話ではない。
 俺は警戒を強め、二人に注意を促した。

「なんか随分綺麗な所だが、見た目だけに騙されるなよ? 綺麗だからって魔物が居ないとは限らないからな」

「うんそうだね、まずこの場の安全確保からしないとね」

「ああ、分かっている、こんな時の為にリーゼさんに叩きこまれたからな」

「魔物が出て来るかも知れないな。ストリア、武器を抜きたいから、ちょっと手を放してくんない?」

「………………」

「おい聞けよ!」

 顔を背けても手を放してくれないストリア。
 俺はその手を必死で外し、警戒をしながら周りを調べるが、襲い掛かって来る魔物はいないらしい。
 この洞窟の奥には化け物が居るんだ、魔物ですら近寄りたいとは思わないだろう。
 皆脱出してホッとしているが、今居るこの位置が何処なのかと、リーゼさん達とどのぐらい離れているのかと、色々知りたい事が山積みなのだ。

「はぁ、一応魔物は居ないらしいぞ。一応安心したけど、これから如何するかだよな。山を登るか、下りるか、それとも此処に留まるか。さて、どうしようか?」

「ふむ、留まるのは問題外だろう。あの化物が出て来ては、私達に勝ち目がないからな。だから二択だ、登るか、下るだ」

「うん、落ちた場所からかなり離れてしまったし、母さん達がこの場所を見つけられるとは思えないかな。それが良いかもね。でも、そうだね、まずこのまま横方向に進んで見て、行けそうな方を選んでみようよ」

「ん、横は気付かなかったな。じゃあマッドの言う通り、横に行ってみるとするか。じゃあ左右のどちらかだけど、一度地図を確認してみるか」

 俺達は地図を確認し、太陽の方向を見て、大体の位置を絞っていく。
 たぶん、そうとう東へズレてしまっている気がする。

「やっぱり西だろうなこれは。じゃあ準備は、しなくて良いな。このまま向かうぞ」

「うん、そうだね。じゃああの三人を呼んで来るよ」

 凄い静かにしているなと思えば、三人が花の咲く大地に寝そべり、リラックスしまくっている。
 この状況で随分気楽なものだが、今の状況を気づいていないんだろうか?
 下手したら遭難で、食料も水もそれほどにないというのに。
 一応保存食や水は多少は持っているが、かなり節約して精々二日分でしかない。
 それまでに仲間と合流、もしくは町へ行くか、生き残る為に食料を探してみるかだ。
 しかしながら、俺とストリアとリッドの三人は、リーゼさんによる厳しい訓練を受けている。
 多少ならなんとでもなるが、問題は横でノホホンとしている三人だろう。
 食料とか水とか、ちゃんと持っているのだろうか?
 リッドが三人を起こし、此方に連れて来ると、俺は三人に聞いてみた。

「おいお前達、ちゃんと水とか食料とか持ってるんだよな?」

「心配しなくても有るんだぜぃ!」

「フッ、心配するなよ、俺達はそんなヘマはしない」

「そうよ、水と食料ならちゃんと馬車に載せてあるから安心よ!」

「はっ? ダメじゃん! 今手持ちの物はないのかよ?!」

「さっきお腹が減ったから、三人で食べましたぜぃ」

「フヒッ、美味かったぜ!」

「疲れた体に染み渡ったわね」

 俺達が地図でも調べてた時にでも食ったんだろうか?
 食料が尽きる前に合流出来れば良いのだが、もし駄目なら、こいつ等の食糧も探さないと駄目らしい。

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