一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 俺の体は元に戻り、そして……

森の中を進む俺とマルクスは、何十度もの虫の襲撃を突破し、仲間を追っている。それでも中々追いつけず、俺達は新な敵と遭遇した。地面から伸びる木の根のような物を斬り裂きくが、相手の再生速度は強烈なものだ。ジリ貧となる戦闘に、マルクスの奥の手が発動する。剣に魔法をかけ、炎がその根から本体を焼き滅ぼした。しかしそれだけでは収まらず、周りの木々へと燃え広がり出した。暑さと熱はドンドンと上がりだし、俺達は入り口に逃げ出す。だが俺一人だけ置き去りにされ、炎にまかれそうになるが、仲間の助けにより無事生還したのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マルクス   (ラグナードの兵士)


「なんて駄目な隊長なんでしょう、付き合わされる俺達はたまったもんじゃないですよ。本当に駄目ですねぇ隊長って。ほら、もう一度謝ってください。ほら早く!」

「うるせぇ、俺は、もう何度も謝っただろうが! あんまりしつこいとぶん殴るぞコラ!」

 そう言ったのは、あれからに十分も過ぎた事だった。
 あれから十回ほどは謝ってやったが、それでもしつこく言い続けるので、そろそろ頭に来ている。
 例え正論であろうと、無駄にしつこく言い続けられるのは強要と一緒だ。
 次まだ言いやがったら、思いっきりぶん殴ってやる。
 まあ今のこの体じゃあ、バールにとって全く効かないだろうけどな。

 今この階層の森は、煙も炎も完全に消え去り、半分が炭とかしている。
 その炭の熱も収まり、ボロボロに崩れてしまった。
 もう辺りは見通しやすく、魔物が動けば軽く分かりそうだ。
 合流した俺達は、一度安全な階層へ降りる事になる。
 そこで全開にまで体力を回復させ、ちょっとばかり目を閉じた。

 俺や仲間達が目を覚ました頃、一人だけ顔面を焦げ付かせ、眠っているというより気絶しているのがバールの奴だが、聞くまでもなく予想が出来る。
 どうせ寝ているエルにでも手を出そうとして、全力で拒否られたのだろう。
 まあそんなのは何時もの事だ、気にするまでもない。
 食事をとって再び上階へ向かう頃にはバールも目覚め、軽く食事をかっ込み、俺達を追って来た。
 上階に再び向かった俺達が探索を開始する。
 見やすくなったこの階層で、罠を探すのは容易かった。

「おお、マジか! この青色のスイッチは、二百階層にあった物と同じだ! もしかしたらこれを踏めば戻れるかもしれねぇ! 早速踏んで…………」

 待て、と、そこで俺は思い留まった。
 警戒音の鳴った罠のスイッチは、青と赤だけだったはずだ。
 俺が縮んでしまったあの罠の色、あれはなんだっただろうか?
 思い出すが、青だった気もしなくもない。
 あの宝の罠、あれが何方でどんな形であったか思い出せないが、これが元に戻れる物だとは限らない。
 万が一これ以上縮んでしまったら、俺は人間には見えなくなるだろう。
 試そうにも一度だけしか発動しない。
 結局踏み込むしか手がないらしい。

 意を決して足を踏み下ろそうとするも、その前にダルタリオンが大物を発見した。

「敵襲! というより、元から見えていたと言った方がいいだろうな。まあ何は兎も角、全員戦闘準備だ!」

 見えていた全ての樹木が絡み合い、一つの生物と化している。
 タダの木だったものが、もう今は色も形も生き物のそれだろう。
 表皮は黒鉄の色と変わり、葉は鋭い刺の様に、赤でしかない目のような物が出現し、見渡せないぐらいに幅広い。
 その大口からは、刺となった葉を大量にはき出し始める。
 だがその攻撃は、思ったほどにはキツイものではない。
 バールとメイに先頭を任せ、防衛体制を取らせているが、その場からは動けないらしく、こちらからすれば、大きな的のようなものだ。

「うわ、デカ! というかなんですかあれ、木の化け物ですね。やっぱりもう一回燃やした方が良いんじゃないですか? ほら、エル、ランツ、やっちゃって」

「ふぁいや!」

「…………ん!」

 一度は鎮火した森の炎だが、また二人の力で着火しようとしていた。
 エルの炎弾と、ランツの炎の渦は、広大な森の魔物へと放たれ、大きく炎が炸裂する。
 マルクスのものと比べても強烈な炎は、木々にぶつかり体を燃やすかに思われた。
 しかし変化した魔物の体に、その炎は利かず、直撃した炎は力を失い霧散していく。
 ただ生えていた葉の部分は燃えるらしい。
 燃えた端からまた再生が始まり、あまり意味がないが。
 炎が利かないとなると、物理攻撃か、メイの魔法ぐらいしかないが、この規模の魔物を、それで倒せるのかと言えば無駄な努力だろう。
 どうせ再生能力も持っているだろうしな。

「どうしますか皆さん、この魔物を倒すのは相当大変な気がしますけど」

「ああ確かにそうですね、もう随分上に来ましたし、これ以上進まなくても良いと思います! 隊長、今後は小さな体を存分に生かして生きて行ってくださいね」

「はぁ?! そんなもん嫌にきまってるだろうが! それにまだ戻らないと決まった訳じゃねぇ。この罠を踏めば、俺は元の大きさに成れるはずだ! これで、如何だ!」

 俺は力いっぱい押し込むと、どこかで聞いた警報音が鳴り始めた。
 ビー―――と音が鳴ったのを確認すると、俺は自分の体を確認する。
 辺りの景色が変わり、自分の体が変わり行くのが分かった。
 ガッと拳を握り、俺は歓喜したのだ。

 俺の体は見る間に巨大化し、元のサイズへと成長を果たす。
 そして俺、は二メートルを超えるの巨人へと進化したのだ。

「おい待て、なんだこりゃあ?」

「…………隊長、育ちすぎじゃないですか? 分かった、背の高さでも気にしていたんでしょう?」

「してねぇよ! こんなんじゃ帰れねぇじゃねぇか!」

「う~ん、たぶん倍率が違うんでしょうね。戻るには何十回と試すしかないと思いますけど、どうしますべノムさん? 一応ギリギリ人間サイズとも言えなくないですよ?」

「戻すに決まってんだろうが! こんなんじゃ生活にも苦労しちまうわ!」

「ふむ、ではあれを退治しなければならん訳だが、その体でやれるのだな?」

「このぐらいの空間なら動くのにも支障はねぇよ。じゃあ久しぶりに刻んでやるとするか! んじゃテメェ等、行くぞコラアアアアアアアアアアアアアアア!」

「応よ! ワシ等はこの陣形を維持したまま、前進。上空の葉や、地に潜んだ根の攻撃にも注意せよ!」

「では行きます!」

「エル、じゃあ俺の後ろに!」

 エルは頷き、言ったバールの後ろには付かず、メイの後ろに移動している。
 代わりにダンダリオンがその背中を剣でつつき、先に進めと命じていた。
 最後尾にはランツを置き移動を開始し、それを見ると俺は速度を上げ、この巨大な化物を刻み始めた。

「うおおおおおおおおおおラアアアアアアアアアアアアア!」

 枝なんぞは軽く振るだけで斬り飛ばし、極太の幹を軽く両断する。
 小さく縮んだ時は力が落ちたが、デカくなった今の状態だと頗(すこぶ)る調子がいい。
 速度もパワーも、元の倍ぐらいにはなっている気がする。
 

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