一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 双剣の巨人討伐。

二百五十六階層に上がった俺達、その階層の壁には、巨大な目が幾つも埋め込まれている。中央部には巨大な双剣を持った一つ目の巨人の像が置かれていた。メイが言うには、この階層のマップはすでに完成され、強敵が居ると言いう。どう考えてもあの像が怪しく、先制攻撃とばかりに炎の攻撃を当てたのだが、どうも効果がないらしい。足を進ませ、像に近づくと、石だった像に変化が起こった。その体が徐々に元に戻り始めていたのだ。このぐらいなら利くんじゃないかと、また攻撃を仕掛けるが、その像に効果は見られなかった。結局像を囲むように仲間を配置し、像の手前まで進む事に。バールの先制攻撃で先頭が始まり、巨大な一つ目が潰された。だがそれにもかかわらず、性格な攻撃が後方の三人に襲い掛かったのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


「ふぁふぁいいいいい?!」

「ぬおおおおおおおおおッ?!」

「ギャッ!」

 武器や籠手で防御して、直撃は避けているが、巨人の力ある攻撃は、三人を壁にまで弾き飛ばした。
 三人とも壁を破壊し、かなりのダメージがあるらしい。
 大きくせき込み、息を整えている。
 男二人はそこまで心配していないが、軽いエルは勢いがつき、二人よりダメージがあるらしい。
 立ち上がる事も出来ず、座り込んでしまった。
 だがその目は死んでおらず、何時攻撃が来ても良い様に、敵を見続けている。
 無理に此方に来るよりは少し休んでからで良いだろう。

「エル、そこで休んでいろ、こっちはこっちで何とかするぜ!」

 エルは頷き、そこに留まっている。
 男二人はかなり頑丈で、もうこちらに走り出していた。
 その間にも、メイとバールが敵の攻撃を受け止めたりしているが、巨人の攻撃は激しく、防戦一方と言った方がいいだろう。
 それ程の激しく強烈な攻撃を続ける巨人だが、その巨大な瞳は治りきっていない。
 耳が良いとか、臭いがするとか、たぶんそんなものではないだろう。
 あの壁にある瞳が、どう考えても怪しいのだ。
 今フリーなのはエルだが、まだ動けそうもないらしい。
 だったら手が空いている俺が行くしか方法がないだろう。

「俺はちょっと離れる、お前等、此処は任せたぜ。バール出来る限り目の再生はさせるなよ」

「えっ、隊長まさか逃げるんですか?!」

「逃げねぇよ! いいからちょっと待ってろや!」

 俺は敵の後方へ進み、壁にある目玉に飛び蹴りをくれてやった。

「オラアアアアアアアアアアアア!」

 蹴りは目玉に直撃し、俺の力でも涙目にさせる事ぐらいには出来るらしい。
 破壊するのはどう考えても無理だが、これでも充分効果があるだろう。
 目玉が乱立していなければだ。
 一つ二つ潰した所で、あまり意味がない。
 俺だけだと無理だと、休んでいたエルに声を掛けた。

「おいエル、動かなくて良いから俺に手を貸せ。壁の目玉を潰すぞ!」

「…………うん……やる!」

 エルは立ち上がると、両手から炎弾を飛ばし、目玉を一つずつ焼いている。
 巨人とは別で、壁の目玉には炎が利くらしい。
 負けてられないと俺も目玉に蹴りをくらわせていく。
 エルと俺の(ほとんどエルの力)により、壁の目玉は殆どが破壊された。
 今巨人の動きは、かなり正確性を失っている。
 たまに鋭い攻撃も来るには来るが、防御している二人にとっては、防御しながら攻撃をするぐらいには楽になっている。
 ダルタリオンとランツの攻撃も、敵の攻撃を潜り抜けて巨人の体へ直撃し始めた。

「とおおおおおおりゃあああああああああ!」

「ふぁいいいいいいいいいいいいいいや!」

 ダルタリオンの剣が体を薙ぎ斬り、ランツの燃える拳がぶつけられる。
 それでも決定的なダメージは与えられない。
 超回復力と、巨人の纏う鎧が、急所の部分を防いでしまっているからだ。
 あの鎧を何とかしたいが、そう簡単に破壊できるほど、容易い鎧ではなさそうだ。
 炎への耐性はもちろん、メイの放つ魔法に対しても、殆ど通していない様に見えた。
 幸い、というか、兵士であるならば、誰だって鎧の外し方は心得ている。
 戦っている五人には無理でも、俺ならばあるいは?
 やってみる価値はあるだろう。

「エル、俺は巨人の鎧を外してみる。お前は行けそうなら戦いに参加しろ」

「…………うん」

 エルの返事を聞き、俺は巨人の兜へ飛びついた。
 その時、丁度放たれたメイの電撃が、俺の体へ直撃したのだ。

「んぎゃッ!」

「あっ…………すみませんべノムさん、そんな所に居るとは思わなかったので…………」

 キメラ化しているから多少の耐性はあるが、俺は痺れてしまい、地面へと転がった。
 横には目が見えず、大暴れしている巨人が居る。
 踏まれたら間違いなく死ねる巨大な足や、触っただけで真っ二つにされそうな巨大な剣が床を抉っていた。
 痺れて動けず、まな板の鯉状態は続く。
 それにいち早く対応してくれたのは、言わずと知れた馬鹿野郎(バール)だ。

「ああ、危ない隊長! てええええええええええい!」 

 そう言って腕を伸ばし、思いっきり俺をビンタしたのだ。

「ぐおおおおおおおお!」

 踏み潰されるよりマシで、助けてくれた事にも感謝するが、ここぞとばかりに思いっきり叩かれた気がするのは、俺の気のせいじゃねぇよな?!
 メイの奴は事故のようなものだが、この馬鹿の顔はニヤついている。 
 しかし一応助けられたんだ、国に帰ったら、こき使ってやるだけで許してやろう。
 俺は痺れからの回復を待ち、メイに注意をする。

「おいメイ、絶対魔法は使うなよ! ランツもだぞ?!」

「は、はい!」

「ふぁいや!」

 エルを見ると、分かってると言う様に頷いている。
 それを確認すると、俺は再び巨人の兜へ飛びついた。

「ぐぬぬぬぬぬぬ!」

 ガシッと兜を掴むが、ハッキリ言ってスゲェ重い。
 だが完全に動かない訳じゃない。
 ほんの少しだが、何とか動かせる。
 時間を掛ければ如何にかなると思うが、ずれる兜を直す様に、大きな巨人の手がそれを直してしまう。
 無駄な事だったかと思ったが、どうもそうでもないらしい。
 兜を直すタイミングで、仲間達が強烈な攻撃を放つ。
 ダルタリオンが鎧の隙間に剣を突き入れ、ランツがそれを、相当強く叩き入れた。

「ぐおおおおおおおおおおおお!」

 巨人は痛みに叫び、手に持つ双剣を振り回す。
 もう兜の事は気にも留めていないらしい。
 今ならいけるか?
 やるしかない!

 俺は全力を尽くし、暴れる巨人から、巨大な兜を引っぺがした。

「ぬぬぬぬぬぬぬ、ぬああああああああああああああ!」

 ガランと兜が床に落ち丸い禿げた頭がむき出しとなり、俺はそこから飛び退いた。

「全員、むき出しの頭を狙え! 全力でいけよおおおおおおおおお!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

 エルとランツの炎が飛ばされ、メイの雷撃が巨人の頭上に降り注ぐ。
 バールは隙を見てやりを直撃させた。
 ダルタリオンは助走をつけ、まだ突き刺さったままの自身の愛剣を踏みつけ、懐に持っていた短剣を引き抜いた。

「止めは貰ったあああああああああああ!」

 ドンッ、と刃の根本まで頭に突き刺さり、大きな巨人に止めが刺される。
 力を失った強大な巨人は、揺れる程の大音を鳴らし、大地に体を沈み込ませるのだった。

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