一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 おい、このロープを切ってくれ!

縮んでしまった体を戻す為、俺は歩きながら罠を探し続けた。しかしこの体では時間が掛かり過ぎると、バールの足に体を括り付けることを提案した。だがバールはそれを嫌がり、状態変化を無効にできるメイの奴が手を上げ、俺はメイの足に括り付けられる。メイと一緒に行動し続けると、また警報音のようなものが聞こえだす。何も起こらないと思われたそれだが、ダルタリオンの指摘で上の方に宝箱が出現したのだ。エルの手でそれが開けられると、宝箱の中に有ったボタンを押したらしい。それにより、頭上から大量の水が落ちて来た。実際はそれ程じゃない水の量だが、今の俺には途轍もない水量なのだ。無駄にダメージを負ったが、上に昇る階段を見つけられたらしい…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)






 上層へ進む階段が出現するが、俺達にとってこの階段は全く意味がない。
 この階層にある、全ての罠の解除が目的だからだ。
 余裕があったら上の階を制覇するとは、今の俺は考えていない。
 兎に角体を戻して、この階層のみで終わらせてやろうと思っていた所だ。
 しかしこの階段が出現したとなると、この階層にある大きな柱の扉は、全く意味がないのだろうか?
 いや、この出現した階段すらも罠だとも考えられるか?
 あんな水をぶっかけたり、おかしな罠ばかりあるんだ、充分あり得る。
 もし全部回った時に、あの階段しかなければ、正解という事だろう。
 後回しにしてもいいか。

「あの階段は後回しだ。このまま西に進むから、丹念に罠を探して行くぞ」

「う~む、案外敵の出現が少ないな、これではワシの力を見せてやれないではないか」

 ダルタリオンはそういいながら、盾のように幅の広い大剣を振り回している。
 実際盾としても使えるのだろうが、あんな物を近場で振り回さないでほしい。
 俺から見るとデカすぎるその剣が、体の横を通り過ぎるのは恐怖を感じる。
 だが一応元上官だ、多少は我慢しないと不味い。

「出ないなら出ないでいいぜ、その方が楽でいいからな。じゃあ進めメイ」

「あ、べノムさん、ちょっとだけ待っていてください。もしかしたらと調べてみたのですが、どうも罠のある場所が分かりそうですよ」

「おお、マジか?! だったら頼むぜ!」

「はい、マッピングした情報では、今まで踏んだ罠の位置のの対角線に、同じ罠の反応があります。で、それを更に倍に広げると…………この階層にある殆どの場所が分かるわけです。まあその対角線にない物もあるかもしれないので、絶対とはいえないですけど」

「いや、充分な情報だぜ。場所が分かればわざわざ探す必要はないからな。ある場所を潰して、後はざっと見て、無ければ次の階層へ上がるとしよう(体が戻らなければ)」

 メイの案内で、罠を発動させ続けている。
 その場所も寸分たがわず、随分と時間短縮が出来るらしい。
 俺はというと、まだメイの足に繋がれている。
 決して楽をしようという訳ではない。
 罠の場所が分かるのなら、ロープを外した方がいいかもしれないが、歩かれるのも気持ち悪いし、直ぐ外したいのだが、万が一に見落とした罠が発動してしまう事も考えられる。
 なので俺は、まだメイの足の横に繋がれているのだ。

 しかし罠を踏み続けるも、俺の体を戻すものは見つからず、最終的に柱にある扉を開ける事となった。
 その中がどうなっているのかと、ヒントのように、柱の扉は一つだけ開いている。
 開いているというよりは、打ち壊されたといった方が正しいだろう。
 扉だった物は、相当な力で内側から破壊されている。
 その中は薄暗く、調べた所で何も無い。
 何があったのか判断出来ないが、気を付けるに越した事はないだろう。

「ふ~む、これは中々期待が出来そうだな。うむ、何時でも来るが良いわ、ワハハハハ!」

「ふぁいやああああああああああああ!」

「エル、ここは戦い好きな奴等に任せて、俺達はあっちで休憩してこよう! さあこっちだ、巻き込まれない内に早く!」

「…………ぶっ、ころ!」

 騒がしい奴等だが、それは何時もの事だと、俺はメイに指示を出す。

「じゃあメイ、扉を開け。どう考えても何かあるから注意しろよ」

「はい、わかりました。じゃあ開きますよ」

 巨大な扉メイの手で開けられると、その中から大型の巨人が現れた。
 三メートル近くの中々の奴で、此奴の目も一つしかねぇ。
 それがこの塔の特徴なのかと、考えるが、決めつけてしまうのも危険だろうな。
 その巨人が俺達を見下ろすと、手に持った大きな木槌を振り上げた。
 普通なら怯んでしまいそうなそんな巨人も、馬鹿共に掛かればタダの得物と化すらしい。
 敵の出現に、嬉々として跳び出すのが、剣を振り回したダンダリオンだ。
 ランツ、エルもそれに続いて行く。

「おおおおお、大当たりだあああああ! 先陣はワシが頂く! 続け皆のものおおおおおおおおおお!」

「行く、ふぁいいいい、やッ!」

「…………やる!」

 やる気になっている三人とは別に、何時も通りこのバールの馬鹿は、一切やる気がなさそうだ。

「隊長、何か面倒そうなんで、俺ちょっと休んでていいですか?」

「よしメイ、敵がもう一体増えたぞ、此奴もやっちまえ」

「まあ確かに、そういう人を粛清するのも軍の在り方ですよねぇ。残念ですバールさん、生まれ変わったら俺達の世界にでも転生してください」

「えっ、本気でやる気なんですか?! いや、今のはちょっとした冗談なのでは?! いやいやいや行きます、行きます!」

 本気で斬り掛かろうと剣を抜いたメイに、バールは諦めたらしい。
 バールも大概だが、このメイも冗談の通じない男だ、多少注意を払った方が良さそうだ。
 バールが敵に突っ込み、メイも敵に意識を向けたらしい。
 自信に色々と魔法を掛け、剣を抜いて巨人に走り出した。

「行くぞおおおおおおおおおおおおお!」

 走り出す?
 歩くのでもかなり気持ち悪かったのだが、さらに振動が激しくなり。
 俺はもう不味い状況に追い込まれている。

「おい待てメイ、走るのは不味い。うおおおおおお気持ち悪い。吐く、吐いちまう! 戦いはあいつ等に任せればいい。いや戦いたいなら止めはしないから、とりあえずこのロープを外してからにしてくれ!」

「はあああああああああああ!」

 俺の言う事を聞いてはくれず、仲間達の元へ急ぐメイ。
 ダルタリオンを狙う木槌を、助ける様に剣を振り上げた。
 本当は斬り飛ばすつもりだったかもしれないが、そうは上手くいかなかったらしい。
 案外堅く、ガンと二つがぶつかり、弾き合う。
 やはりあの化物フレーレと付き合おうとしただけはある。
 まあ振られたんだが。
 ダンダリオンや、エル、ランツ、バールもそこそこは頑張り、戦いは優位に運んでいる。
 いやそれよりも…………

「うえっ、それより、このロープを切ってくれええええええええ!」

 やはり戦いに集中しているからか俺の声には反応を見せず、どうにもならなくなった俺は、自分でガシガシとロープを切るしかなかったのである。
 しかも俺の自慢の刃は切れ味が悪く、全然切れてくれない!

 大きな木槌が横に落ちたりとかする中、俺は必死こいてロープを切り続けるのだった。

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