一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 水もしたたる良い男じゃねぇから!

俺はこの塔にある罠にはまり、自身の体を縮めてしまった。力もスピードも落ち、どうにもならずに仲間達の元へ。何とか戻る事が出来たが、俺はバールにハエのように叩きつけられた。そのまま踏みつけられそうになるものも、エルに助けられ事なきを得た。追い掛けて来た魔物が追い着き、男共三人が相手をするらしい。まあその三人の相手にもならず、魔物を排除するのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)






 体を元に戻す為には結局罠を踏むしかなく、俺は怪しそうな場所をテクテクと歩いている。
 今俺が居る場所は二百五十五階層の、北東の突き当りの壁あたりで、そこから真北方面へと向かっていた。
 基本罠を踏まなければ魔物は出て来ないから、無駄に気を張る必要もないが。
 だが手分けして探索してしまえば、万が一にでも俺の体を戻す罠でも踏まれてしまえば、二度目のチャンスは何時になるのか分からない。
 だがそれも、縮んでしまった俺の足では、この階層を歩き尽くすのにどのぐらいの時間が掛かるか。
 壁や天井も調べるとなれば、十日、一月、いやもっと掛かりそうな気がしないでもない。
 そんな期間俺達が帰らなければ、ロッテが息子のマッドを連れて乗り込んで来るのは確実だろう。
 いやそれ以前に、王国に利益があるとはいえ、こんな事にそんな時間を使っていられない。 
 出来る限り早く終わらせなければ。
 何か方法は…………?
 俺は周りを見つめ、仲間を見る。

「よしバール、お前ちょっとこっち来い」

「はぁ、何かするんですか? おかしなことはしないでくださいね。俺の体は世界中の女の子の為にあるんですから」

「いいから来いやこの野郎!」

「はいはい、隊長。はぁ、仕方ない、じゃあ特別ですからね。お~よしよし」

 そういって俺の元に来ると、頭を撫で始める。
 馬鹿にされてるとしか思えねぇし、もうぶった切ってやりたい!

「誰が撫でろっつった、この馬鹿野郎が! いいからそこに立ってろや!」

 大きな手を振り払い、足元を蹴っ飛ばすが、利いた様子がみられない。
 元に戻った時は覚えて置けと、俺はバールの足元に立ち、多少立ち直ったメイに指示を出す。

「おいメイ、ちょっとここで縛ってくれ。そうすれば、バールが歩けば俺も歩いた事になるだろう」

「え、ああ、はい、じゃあ縛っておきますね」

「ちょ~っと待ってください隊長、その場合、罠は俺もくらう事になるのでは?」

「安心しろ、その時はその時で考えてやる。お前の女には全員巨人になって退治されたと言っておいてやる」

「絶対嫌です! そういうのは俺じゃなくて、別の誰かにしてくれませんか。そこにいるメイ君とか、ランツでもいいじゃないですか!」

「ふぁいいいいいいいいいいいや?!」

「…………ッ!」

「ランツ、そのおかしな口調をヤメロ。そしてエル、お前もやりたそうにするんじゃねぇ。お前に何かあったら、国に居る女共に俺が吊るし上げられるからな!」

「ああ、じゃあ僕がやりますよ。女の人にやらせる訳にはいきませんし」

 そう軽く言ったのが、異世界から来た男メイだ。
 自身が罠に掛かるのをいとわないとは、流石は勇者って奴か。
 落ち込んでなければ頼りになりそうだ。
 隣に居る馬鹿に見習わせてやりたい。 
 しかし本当にいいのだろうか?
 自分が巨大化したり、縮んだりするかもしれないのに。

「おい、いいのか? この馬鹿なら何が起ころうと問題ないが、下手したら俺みたいになるんだぞ?」

「えっ、酷くないですか隊長?」

「あ、心配ないです。状態変化無効は習得済みですから。もし同じ罠をふんだとしても、僕だけは無事なはずですよ」

「ふ~ん、じゃあまあ頼むとするか。ならお前の足首に俺の体を縛り付けて…………」

 エルの手により縛り付けられた俺は、メイの足に水平に括り付けられた。
 これで歩いても着地が同時に行われるし、たぶんメイが逆の足で踏んだとしても、効果は有ると思う。
 というか、効果が無いと困る。
 メイに括り付けられた俺は、メイを足として進み始めた。
 
 カツンカツンと、歩く度に、俺も地を踏みしめるのだが、歩く足の回転が、括り付けられた俺にとっては少々気持ち悪い。
 まあこのぐらいは我慢しようと、俺はそれを我慢し続けた。
 いくつかの罠を発動させ、真北辺りに到着する頃、罠の一つにビー――という警報音が響く。
 魔物の出現恩でもなさそうだ。
 これは期待できるかもしれない。

「来た、おい来ただろ! 元に戻れ!」

 しかし大きく成ったりする気がしない。
 メイが俺を見下ろし、その姿を確認している。

「見た限り何も起きないですよ? 大きくなる気配もないですし、体にも特に変化はありません」

「お前はどうだ、何か変化があったか?」

「いえ、特になにも?」

「ああ、外れだったんじゃないですかね隊長」

「はぁ、ハズレなんてあるのか?! 次だ次、次へ行くぞ!」

「む、おい待て、あそこを見るのだ。壁の上に宝箱が出現したぞ!」

 ダルタリオンが壁の上を指さすと、大きく飾り付けられた金色の宝箱が出現している。
 高さは四メートル近く上で、手を伸ばしても届きそうもない。
 取れない場所に出現させると刃、なんつう意地の悪い仕掛けだろう。
 まあ俺達は飛べるから、特に苦労はしないだろう。
 しかしあの宝箱あの中に解除するスイッチがあるとは思えない。
 エルにでも任せるとするか。

「良しエル、お前ちょっと見て来い。何か有ったら持ってこいよ」

「ん」

 たった一言そういうと、エルが空を飛び上がり宝箱を開けに行く。
 どうも鍵も掛かっていないらしく、軽くパカッと開くと、その中を調べ始めた。
 何か小首をかしげ、その中に手を伸ばすと、何か天井からザーと音がする。
 俺は上方を見上げると、俺にとってはとんでもねぇ量の水が降って来た。
 体を縛り付けられているから、逃げようにも逃げられない。
 メイも動く気がないのか、その場に留まったままだった。

「どわあああああああああああああ!」

 バシャーンと、バケツを引っくり返したというか、大きな浴場の湯舟を引っくり返したかの水が、俺の頭上に直撃する。(俺の感じでは)
 圧倒的な水の量は、俺の意識を奪いそうになる程激しく痛い。
 首でも折れるんじゃないかという程だ。

「うぐぉ、痛ぇ…………おいコラ、何で避けねぇんだお前は! ビッチョビチョになっちまったじゃねぇか!」

「あ、すみません忘れていました。あのぐらいの水だったら得に問題無かったので。ごめんなさい」

 そういうメイは、濡れた様子さえ見せず、髪をファサっとかき上げていた。
 何かおかしな魔法でも使っているのだろう。そういうのがあるのなら先に言って欲しかったぞ。
 無駄にダメージを受けた俺に、煽るようにランツが何か言おうと踊り出した。

「ふぁいいいいいいいいや、はっ、はっ!」

「おめぇはなんだ、普通に話せるだろうが!」

「ふぁい…………あれです」

 やっぱり普通に喋れるんじゃねぇか。
 それは気にせず指さされた方向を見ると、そこには上層に伸びる階段が現れていた。
 ちげぇよ、俺が欲しいのはそれじゃねぇから!

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