一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

90 神英隊のにちじょう。

王がクジを引き、ラグナ―ドに軍配が上がった。黒い男もそれで納得して引き下がる。だが土産は欲しいとダダをこねているが、俺達はそれより宝石が欲しいのだ。男を引き止め、宝石を渡された、それを本物と確認した俺達は、ラグナードに帰還をする。帰り道では色々あったが、無事に到着する。疲れ果てた俺達だが、隊舎には大隊長が待ち構えていた。俺は宝石を受け渡すのだが黄色いヒヨコが町中に現れ、大隊長にぶつかってしまう。その際宝石の入った包みがその足に絡みつき、逃げ去ってしまった。どう探しても見つからず、俺達の任務は失敗してしまった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド    (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット    (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス      (王国の兵士)
べノムザッパー        (王国の兵士)






 あの宝石騒動から二週間。
 結局宝石の行方は知れず、神英隊は罰を兼ねて一月もの時間を、休暇もなく働かされていた。
 因みに、大隊長もタダでは済まなかった。
 三ヶ月の減給と、降格まで提案されたらしいが、代わりの奴の評判が悪い為、他にやれる者が居ないからと、それは許された。
 案外大隊長の復帰を願ってなのかもしれない。
 その三ヶ月、代わりに大隊長の座に就いた奴は、かなり張り切って、もうそろそろ本気で死人が出そうなレベルだったが、ようやく三日間の休暇が貰えるらしい。
 もうセリィ以外はぐったりとして、家に帰る気力もない。
 机に突っ伏し、まさに死にかけの俺達の元に、あのグリア―デがこの国にやって来た。
 バンと隊舎の扉を叩き開け、もの凄く煩い声が鼓膜に響く。

「皆様お久しぶりですね。喜んでくださいまし、この私は、ディレイド殿の助けにより、無事に元より高い地位に就任いたしましたのよ! これも貴方達のおかげと言えなくもないでしょう。だから今回、お礼をお持ちいたしました! 何だと思いますか? そう、それはこの私の護衛ですわよ! 今日から三日間、宜しくお願いしますわね」

「グリ~ひさしぶり!」

「ちゃんと呼びなさいと言ったでしょうが。覚えの悪い人は嫌いですわよ?」

 そう言いながらも、特に悪い気はしてないらしい。
 セリィ以外の俺達はというと…………

「「「「………………」」」」

 それを聞き流し、目を閉じようとするのだが、体をゆすられて眠らせてはくれないらしい。

「寝ようとしているんですか、これは上官の命でもあるんですよ? しっかりと護衛してくれないと後々どうなってもしりませんからね!」

「…………命令であっても無理だ。今の俺達には睡眠が必要だ。それでも俺達に護衛をさせたいのなら、ここで十二時間待っていてくれ。寝ないと本当に死ぬ…………」

「無理だよう、もう無理なんだよう。休ませてよう、死んじゃうよう」

「…………もう、セリィは可愛いなぁ、むにゃ…………」

「んぐううううううう、ぐふううううう、んぐううううううううう、ぐふううううううううう」

 グリア―デの騒がしさを気にもせず、安らかに?眠っている二人。
 俺とガルスは少々羨ましがっている。

「こっちに帰ってからも休みがないんだ。俺達の休みを奪わないでくれ…………」

「ふん、本当に駄目みたいですわね。ではまた後ほど来ます。それまで休んでいるといいでしょう。では部下達、この者達を馬車にでも押し込んであげなさい!」

「「ハッ!」」

 部下が居るのなら、案内なんて要らないはずだが、余程気に入られているのかもしれない。
 背後に隠れたグリア―デの部下により、俺達全員は馬車へ押し込まれてしまった。
 何をされるんだろうという恐怖もなく、床に転がされた俺は、机より寝心地がいい事に気付き、そのまま目を閉じる。
 ガタガタと馬車の揺れはむしろ心地よく、全員グースカと何時間も眠り続けた。
 もうそろそろ起きてもいいな~と思い出す頃、自分の状態がおかしなことになっているのにハッと気づく。
 頭の近くから良い匂いが漂っているのだ。
 首の下には、温かい何かを枕にしていた。
 大きさからして太腿だろうけど、目を開けない俺は考え続ける。
 この太腿は男のモノではない。
 しかもラクシャーサのものと、セリィのものより柔らかい。
 あの二人は鍛えているからもうちょっと堅いのだと思い至り、俺はこれがグリア―デのものだと気づいた。
 まさか俺に気でもあるのか? このまま目を開けてみるのもいいかと瞼(まぶた)を開けようとするが、ちっとも開かないので、もう一度眠りにつく。

「ぐが~」

 また眠りに落ちた俺だったが、更に何時間か経った頃に動きがあった。
 何時間も膝枕とかしていたから、足が痛くなっていたのだろう。
 耐えられなくなったグリア―デが、俺を膝の上から叩き落した。

「何時まで寝てるんですかあああああああああああああああああ!」

「うげっ」

「んぎゃっ」

「ぐほぉ!」

 ガルスとドル爺もそのとばっちりを食い、ダメージを受けている。
 しかしそれより眠気が優先だと、二人は再び眠りについている。
 中々根性が入っているが、俺はたたき起こされたのだった。
 
「痛いじゃないか、何をするんだお前は」

「何をするかじゃないですわ、一体何時まで寝こけて居れば満足するんですか! さっさと町の案内をなさい!」

 馬車の中は随分と暗く、俺は体を起こして馬車の外を見た。
 やはりもう日が落ち始めている。
 かなりの間待っていてくれたのだろうけど、突き落とさなくてもいいだろうに。

「いや、もう夜だろう、俺達はそろそろ家に戻りたいんだがな。それともまさか俺の家にでも付いて来る気か?」

「ああ、それはいいですわね、では全員でマルクスの家に泊まります! さあ案内いたしなさい!」

「はぁ、全員て全員か? 俺の家はそんなに広い家じゃないんだがな。どう考えても入りきらないぞ」

「いいから案内なさいな!」

 その無駄に怖いグリア―デの顔に、俺は自分の家の場所を教えることとなった。
 俺の家に到着するも、仲間達はずっと眠ったままだ。
 まあどうせ家には入れないからと、馬車の中で寝かせ続ける。
 俺の家は一人用の、かなり小さいものだ。
 仲間は馬車で寝かせればいいとしても、グリア―デと護衛を入れるだけでも無理だろう。
 そもそも床にも大量の剣が飾られ、移動する隙間ぐらいしかない。
 ここで眠ることは不可能だ。
 ついでに言えば、壁や天井にも剣が抜き身で取り付けられている。

「予想はしていましたが……ここまでとは。しかたありません、護衛の皆様は宿に泊まるとよろしいでしょう。ここには私一人で泊まります」

 護衛の奴等が頷き、家の外へでていってしまった。
 そしてグリア―デが泊まると言っても、俺の家にはベットが一つあるだけである。

「おい、本当にここで眠る積もりか?」

「じゃあ俺は外に出ているから、何か有ったら呼んでくれ」

 そう言って俺は家から出ようとするのだが、グリア―デに腕を掴まれてしまう。
 俺と一緒に寝たいとでもいうのか?

「女の誘いを断るのですか?」

「はぁ、俺は下っ端兵士で、お前は貴族なんだろう。どう考えても釣り合わないぞ。止めておいた方がいい」

「あ~、そうでした、マリア―ドからお礼を兼ねて剣を持って来たのですけど…………」

「よしグリア―デ、俺と結婚しよう。俺にはお前しかいないみたいだ、で、その剣は何処にある? どんな剣だ? 良い剣なんだろうな?」

「本当に分かりやすい人、私よりも剣で動くんですね」

「当然だ、剣は素晴らしいからな! 」

「分かっていたことですけど、なんかムカつきますね。やっぱり一人で寝ますから、貴方は外で寝て居なさい!」

「いたッ、おい蹴るな!」

「煩い、ここまで来た私の苦労も考えなさい!」

 何故か怒ったグリア―デは俺を蹴り出し、自分の家を追い出されてしまう。
 だが丁度良いと、剣が有ると思われる馬車の中を探るのだが、持って来たと言われた剣は一本も見当たらなかった。
 落ち込んだ俺は、仲間達が眠る馬車の中で、またまた眠るしかなかったのである。

 朝が来て、起きた俺達だが、事件はここで起こった。
 グリア―デが馬車の座席に隠した収納の中に、見たこともない剣があったのだ。
 薄っすらと緑色のその剣は、魔法耐性があるといい、王国側と接触して作って貰ったとグリア―デが言っていた。
 まあ何を交渉したのか知らないが、これがあるのは良い事だ。
 そんな剣を見た俺は、冗談交じりに再び求婚するのだが、その瞬間を、あのセルレーンに見られてしまった。
 どうも丁度休暇が重なって、会いに来たくなったらしい。
 
「貴女、一体誰なんですか! 私のマルクス様に近づかないでくださいよ!」

「あらあら、貴女こそ誰なんでしょうか? 高々平民が私に意見するとは良い度胸ですわね」

「クゥッ、身分がなんです、やってやりますよ!」

「てやあああああああああああああ!」

「私に敵うとお思いですか?!」

 二人が俺の為に、取っ組み合いの争いを始めている。
 止めた方がいいのだろうが、その前に、実は重大なことがある。
 仲間達にも知られていないが、俺には人間の婚約者がいたりするのだった!

        END


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