一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

88 結末。 神英の兵隊編(END)

ゴーレムの壁を打ち壊し、その天井を落とすも、べノムはその天井を斬り崩し、脱出してしまう。無防備になった仲間の男四人は倒され、俺達が不利になる。あの男が何処から現れるか狙いを絞り、魔法を使うも時間切れとなる。その剣を投げつけ通路を一つ崩すも、道はまだ三方向ものこされていた。迷わず魔法を使い、それを待つも、フェイントをかけられ、また剣を壊してしまった。相手が迫り、最後の手を使う事に決め、隠してあった火炎(ひえん)を引き抜く。俺と相手の首には、同時に刃が突き付けられ、結局は引き分けとなる。そして王の提案で、譲渡国にはクジで選ばれる事となった…………

マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド    (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット    (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス      (王国の兵士)
べノムザッパー        (王国の兵士)






 王の部下が作ったクジを、マリア―ドの王が軽くクジを引いた。
 そのクジを開くと、更に軽い様子でそれを読み上げる。

「ラグナードに決定ダ、ヨウ! フーッ!」

 どうやら二分の一の確率に勝てたらしい。
 俺はべノムに振り向き、宝石を渡すように要請した。

「さて、王が此方に渡すと言っているんだ、嫌だとは言わないよな?」

「チッ、分かってるさ、渡してやるよ。しかし王様、俺達もタダじゃあ帰れないんですよ。何か土産(みやげ)があると嬉しいんですけどね、ここらで平和条約でも結んでみたらどうですか?」

「じゃあそれでいいヨウ!」

「王よ、それはなりませんぞ!」

 そう止めたのは、治療を終えたディレイドだった。

「戦時を終えて直ぐにそれでは民は絶対納得いたしません! せめて十年、いえ、もっと様子を見るべき事ですぞ! それを受け入れるにしろ、ただ受け入れるでは話になりません、此方としてもそれなりの見返りを求めなければ!」

「そうなの~? う~ん、大臣が一人居なくなっちゃったし、君聖右大臣に任命するから、その辺適当にやっといてヨウ!」

「はっ? 私が大臣ですか、いや、それは…………いえ、やりましょう! ではべノム殿、向うで早速話を致しましょうか」

「だな」

 二人が歩いて行くが、まだ俺の手には宝石はない。
 べノムの肩をガッと掴み、もう一度引き渡しを要求した。

「おい、まだ宝石を渡して貰っていないんだが?」

「チッ、気付いたか。まあ仕方ねぇな、じゃあ渡してやるぜ。ほらよ」

 べノムは胸元から包みを取り出し、それをポンと放り投げた。
 それをパシッと受け取り中を確認すると、目的の赤い宝石があった。
 たぶんこれが本物だとは思う。

「確かに貰った。偽物にすり替えたりはしてないよな?」

「しねぇよ!」

 一応王に確認をとり、宝石が本物だと確認し、俺はそれを懐にしまい込んだ。
 やっと目的を達したと、安心ばかりはしていられない。
 このとんでもない高額の宝石を持ち帰らなければならないのだ。
 盗賊グリア―デや、魔物、魔族も、もしかしたら狙って来るかもしれない。
 接触する人間にも気を使わなければ。
 正直帰りの方が、心情的に大変な気がする。

「それでは王よ、これで失礼させて貰います」

「オ~イエ~イ! 今後とも、マリア―ドを宜しくねぇファーフゥ!」

 腰を振ったりと、俺には理解出来ない動きをしながら、手を振っている。
 今後のこの国の行く末が心配だが、まあそれはこの国の人々に任せておけば良い事だ。
 俺は王に別れの挨拶を済ませ、仲間の元へと戻って行った。
 俺が戻ると、ラクシャーサも復活して、他の仲間達も起き上がっている。

「全員無事だな? 随分と手間取ったが、無事に宝石を手に入れた。じゃあもう帰るとするか」

「うむ、任務は持ち換える事だしな。しかし魔物にやられるようでは何の意味もなくなるぞ」

「う~ん、いっそ輸送隊と合流して行きたいけど、今の時期ってまだ無いよねぇ」

 ガルスの言っている輸送隊とは、国同士の物資交換を行ったりと、大部隊で荷の護衛をして向かうものだが、二月に一度行われるものだ。
 時期としては、その日取りとは合っていない。
 ギルドの個別輸送もあるが、それはそれとして、色々と問題がある。
 残念ながら、ギルド内の人選など信用すら出来ないのだ。
 冒険者といえば聞こえはいいが、要は賞金稼ぎである。
 宝石の事がなくとも、自分達の命の為なら、仲間以外の命を犠牲にするのもいとわない。
 そういう者も多いと聞く。
 隊が全滅しそうだったから、馬車の馬を奪って一人逃げた。
 仲間を食わせている間に逃げ延びた。
 そんな話は良く聞く話だ。
 それが悪いとは言えないが、信用するには値しない。
 結局は俺達は、信用ある、この五人で旅をするしかないのである。

「大事な宝石を持っているんだ、変な奴等に近づかれたりはしたくないな。何時も通り、この五人で旅をするとしよう」

「ねぇ、マルクス、グリア―デと良い雰囲気だったのに、挨拶して行かなくていいのか? きっと寂しがってるんじゃないか?」

「? 何時俺があの女とそんな関係になったんだ? あいつはこの国の貴族なんだ、ラグナードの下っ端兵士にはそんな権限はない。アイツの事は、きっとディレイドが手を回してくれるだろう」

「ふ~ん、それならそれでいいけどね。セリィ、ラグナードに帰るよ」

「うん、わかった~!」

 五人は準備を終えてこの首都を出発した。
 多くの町を経由して、また様々な出会いと別れが繰り返され、この日、俺達は、無事にラグナードへ帰還したのだった。
 この国に無事に戻れたのは、ただ運が良かっただけだろう。
 時刻は昼、疲れているとはいえ、今は報告を上げることが先決だ。
 こんな宝石を持っていては、満足にやすめない。
 だがガルスはそうとう休みたいらしい。

「はぁ、もう疲れたよぅ。大隊長に報告する前に、一回家で休んで来ない?」

「休むのは、この石を大隊長に渡してからだ。万が一という事もあるからな。自国とはいえ油断はするなよ。られでもしたら大事だ」

「ほら、もうちょっとだから頑張れよガルス!」

「ガルスがんば~!」

「儂より若いんだ、先にくたばる事は許さんぞ」

「うひいいいいいいいい」

 俺達は旅の積み荷を降ろす為に、我が愛しの隊舎によると、既に俺達の帰還を聞きつけたのか、大隊長ボーグ・ブラッドゴールドが、俺達の帰還を待ちわびていた。

「帰還ご苦労、さて、無事にやり遂げた報告を聞こうか。もちろん、宝石は無事なのだろう?」

「はい、ここに…………」

「…………む、確かに。ではこれは、俺が責任をもって預かろう。宜しい、では褒美として、お前達は充分な休息をやろう。具体的には一週間の休暇だ。存分に楽しむのだぞ」

「はい、存分に楽しみます。では全員で大隊長を見送るぞ。これを終えれば休暇だ、間違っても倒れるなよ?」

「「「おおおおおお!」」」

「お~!」

 俺達は大隊長を見送るのだが、その時、有り得ない事態が起こった。
 ラグナードの町中で警報が響いたのだ。
 ガンガンと鳴らされる警鐘が、何かしらの危険を知らせている。
 状況は全く分からなかったのだが、何故か見た事のある黄色い物体が、俺達の、いや大隊長の上に、黄色い物体が降り落ちた。

「ぐはぁああああああ!」

「「「「大隊長!」」」」

 なんの対応も出来ず、猛スピードで突っ込まれたのだ、もの凄い勢いで吹っ飛ばされて、ズリズリと転がっている。

「ぐおおおおおおお、い、一体なにが?! ハッ?! 宝石が無い、何処だ、何処へ行った?!」

「ピヨッ!」

 俺は黄色い物体を見ると、どうにも見た事がある形をしている。
 あれはあの塔の中に居た、巨大化したヒヨコだ。
 この警報はあのヒヨコのものかと気付いたものの、その足元に宝石の包みが引っかかり、ヒヨコと共に逃げ去って行く。
 苦労して持って来たというのに、奪い去られてしまったらしい。

「何をしている、追い駆けろ!」

「はい、行くぞお前達! 全力で走れ!」

「ああもう、行くよ、行けばいいんだろ!」

「全く、少しは労わって欲しいものだわい」

「や、休みが…………」

「セリィ、がんばる~!」

 そう大隊長に言われたものの、あのヒヨコの速さは知っているのだ。
 一応追い掛けるものの、どうやった所で追い着けるはずもなく、ヒヨコはラグナードの町中を走り回り、屋根を飛び移り、そしてこの国から逃げ出してしまったらしい。
 捜索隊まで出され、大規模に捜索されたのだが、一切その行方は知れず、捜索打ち切りとなってしまった。
 それにより、結局俺達は任務失敗とされてしまい、罰を受ける事になってしまうが、大隊長の手から掻っ攫われたということで、まあ休暇が無くなっただけで済んだのだった。
 結局、この旅で残ったのは、俺の腰にある火炎ひえんだけだ。
 俺はこれだけで満足なのだが、休みが貰えない他の奴等は、まるでやる気がない。
 というか、連日の捜索までされて、肉体的にも限界だ。
 だがしかし、任務はやらなければならない、俺達はただの下っ端なんだから。

                 END

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 黄色いヒヨコは走り抜ける、町中の屋根を、何なよく分からないけど怖い奴等に追いかけられ、仕方ないから逃げ続けた。
 怖い魔物から逃げ去り、地面をつつき虫とか食べて凌いでいるが、中々お腹いっぱいにはならない。
 そろそろ大人にもなりたいのだが、この体はちっとも成長してくれない。
 大きな魔物に食べられそうになったり、妙な旅人に追い掛けられたりと色々あり、そんな日が何日も続いて行く。
 ふと足元を見て、何か引っかかっていることにようやく気付くと、くちばしでそれを剥がして、その臭いを嗅いでいる。
 嘴で突っつき、赤いそれが食べられない物と知ると、それを放ってまた走り出した。
 何日も何日も、何年も何年も。
 そして何時の日か、彼は運命の出会いを果たすだろう。
 安心して身を任せられる旅の仲間達と…………
 その仲間の一人からは、何処かで嗅いだ臭いがしていた。


                  END2

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