一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

87 続く戦い。

アリーからあの黒い魔族の特性を聞き、準備を終えた俺達はその日の戦いに挑む。王城の庭での戦いが始まろうとしていた。俺は味方全員に話を振り、攻撃の準備を整えている。相手の男の注意を逸らし、ラクシャーサの大魔法が展開された。天からは熱水が落ち、黒い男は逃げ惑う。俺達は大地に潜ませていたゴーレムをドーム状にさせて、アリーにより掘られた地下へと避難した。此方の作戦はまだ終わっていない。地下に降りて来たらセリィに止めを刺してやろうと思ったが、どうも降りては来てくれないらしい。それはそれで次の作戦に移れると、俺以外の男達が、ゴーレムのドームの外に現れた。その壁を叩き壊すと、ゴーレムの天井が、べノムの頭上に落ちて行った…………

マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド    (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット    (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス      (王国の兵士)
べノムザッパー        (王国の兵士)






「「「「せえのおおおおおおおおおおお!」」」」

 外に出た四人の力で、ドーム状になったゴーレムが崩れ去り、ドゴーンとその天井が、べノムに向かって落ちて行く。
 地下に降りても、残ってもタダでは済まないのだが、黒い男べノムは、天井を斬り裂く事を選んだらしい。

「ウオオオオオオオオオッ、この程度で俺がやられると思ってんのか!」

 その上部は斬り崩せないように頑丈に作っていたはずだが、べノムの斬撃はそれを斬り裂き、空へと脱出してしまった。

「いッてぇな、コラァ!」

 多少ダメージを受けたらしいが、これは予定とは違う。
 あれに押しつぶされるか、此方に逃げ込んで来ると思っていたんだが。
 その地上からは、仲間達の悲鳴が聞こえだす。
 あの速度では、善戦することもできないらしい。
 
「ぎゃあああああああああ」

「ぬおおおおおおおおお!」

「はわわわわわわ…………」

「た、隊長、降参こうさんんんんんん…………」

「今更言うんじゃねぇよコラアアアアア!」

 外に出た四人の声も聞こえない。
 これはたぶん、四人共倒された、そう見るべきだろう。
 だとしたら此方の不利は否めない。
 動けるのは俺とセリィだけで、ラクシャーサは座り込んで歩けない。
 戦うのは無理だろう。
 俺はセリィに指示を出し、後方にある道の一本に狙いを絞った。

「セリィ、今狙っている方向だけでいい、それ以外は気にするな。いいか、俺が負けたら降参するんだぞ。そうすれば痛い目に遭わないで済む」

「わかった!」

「よし、小さな音も聞き逃すな。やるぞ!」

 俺はラクシャーサの前に立ち、前方の道を確認した。
 床には灯りとして置いた松明が、燃えて地下を照らしている。
 俺の前には仲間達が通った道が四本、まだ敵が入って来る気配はないが、そのどれかから入って来る可能性が高い。
 きっとセリィの狙っている道からは入って来ないだろう。
 相手の速さを考えて、風の刃は使えそうもない。
 優位に戦えそうなものは炎だが、炎を燃やす為には空気がいる。
 此処で使えば酸欠は免れないだろうか?
 だったら残りは一つしかない。

「大地の神よ、我がつるぎに具現せよ! 出でよ、轟烈ごうれつつるぎ!」

 ブロードソードに引力と斥力の力が宿る。
 振り下ろす事も出来ない狭い通路で、切っ先を前に向けたまま敵の行動を待った。
 時間が流れて行くが動きはない。
 使った剣が無駄になりそうだ。
 このまま剣を無くすよりはと、力のあるうちに、その剣を前方に投げつける。
 道の先の地面に落ち、ヴンと洞窟を振動させた。
 その一本の道が崩れて、残りの道は三本。
 手持ちの剣は残り一本、だからといって、魔法を使わない手はない。
 発動までに時間が掛かる剣の魔法では、相手の速度に間に合わないのだ。
 だからこそ、使わなければ絶対に勝てない。

「大地の神よ、我がつるぎに具現せよ! 出でよ、轟烈ごうれつつるぎ!」

 力が再び現れ、魔族の動きを待ち続けていると、見張っていた通路の先に、黒色が増した気がする。
 それが相手の黒だと判断出来ないが、タイミング的にはこのぐらいかと、一気に剣を突き出した。

「ッ!」

 俺に手応えはない。
 確かに魔族は動いた。
 だが剣の遥か先に、あの黒い魔族は足を止めている。
 フェイクを掛けられたのだ。
 安全策を取ったのだろう。
 時間が経ちすぎて、剣はボロボロと崩れ去り、手に持った剣は綺麗にに消え去ってしまった。

「そんな力があるとは驚いたが、どうやらそれで打ち止めらしいな。降参したら許してやらないこともないぜ?」

「そんな必要はない、来るなら来い!」

「いい覚悟だ、それともまだ何かあるのか? 答えるはずもないか…………んじゃ行くぞ!」

 黒い魔族が此方へ進んで来る。
 相手は警戒しながら、速さを緩めている。

「セリィ!」

「うん!」

 俺の後方セリィはもうこちらに弓を構え、その矢が発射された。
 ピュンと俺の耳元を通り抜け、魔族の元へと向かったのだ。
 俺の体で、その行動は隠されている。
 地下の洞窟は薄暗く、矢が発射されたことすら絶対に分からないはずだった。
 だがあの男は体を浮かせて天井に張り付くと、その一矢を躱してしまう。

「あっぶねぇな、とんでもねぇ腕だが、もう二発目は撃たせねぇぜ!」

 黒が迫り、一気に加速している。
 もう俺の打てる手は一つしか残されていない。
 俺は地面に埋めて隠してあった、置いてある火炎ひえんを引き抜いた。

「「………………」」

 魔族の首筋には俺の火炎ひえんが突き付けてある。
 これで俺の勝ち、そう思いたい所だが、俺の首筋にも黒い刃がそえられている。

「決着だな」

「ああ、俺の勝ちだぜ」

「それはおかしい、俺の方が早いと思ったんだがな?」

「ああん、速さで俺が負けるかよ。俺の方がちぃと速かったぜ」

「例えそれが事実だとしても、俺の後ろにはセリィが居る。あの腕を見ればわかるだろう、この状態であれば、アンタを狙うのは容易いぞ」

「さあ、そいつはどうだろうな? 腕だけじゃどうしようもない事も有るだろう。お前の体を盾にしたら致命傷にはならないからな」

「並の腕ならそうなるかもしれないが、セリィは本物の天才だ、壁を跳弾させて命中させることも容易いぞ」

「たかが一発で仕留め切れると? 一発程度どうってことはないんだぜ? 俺が痛みを感じる前に、その女も叩き伏せてやれるんだぜ? …………試してみるかぃ?」

「「………………」」

 こうなってしまえば、もうあの王にでも判断してもらう他ないだろう。
 だが七人がかりで四人もやられている。
 こちらの負けと言われても不思議はない。
 俺は刀をおろし、べノムもそれにならうと、この地下から脱出して仲間達の様子を見た。
 四人共倒れてはいるが、死んではいない。
 やはりそれなりに手加減はされていたらしい。
 仲間の無事を確認した俺達は、王の元へ向かい、その判断を仰いだ。

「そんなことを言われても、地下で色々やってた事なんて見えないしぃ。俺にはわっかんなくない? じゃあもうダイスでも持って来て、それで決めちゃえヨウ! もうそれで良いだろうフッフー!」

 本当に最後は運任せとなるが、ダイスでは駄目だ。
 この黒い男が不正をし兼ねない。

「それでも良いですが、この男が不正をする可能性があります。見えないぐらい速いからと、自分の好きな目を出すかもしれません。やるのならばクジで頼みます」

「あん、やらねぇよ! 喧嘩売ってるのかコラ!」

「あんたが、やるやらないの話じゃない、出来る出来ないの話だ。此方にそれを見抜く術はないからな」

「チッ、じゃあもうそれでいいから、後で結果に文句言うなよ?」

「それは此方のセリフだ」

「はい、じゃ~それで!」

 王の一言で直ぐにクジが作られ、王がそのクジを引くのだった。

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