一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
83 魔族の力。
戦いは優位に運んでいた。惜しむことなく剣の魔法を使い、多くの敵兵を叩き斬った。残り八人、戦力が逆転し、全員で大臣に突っ込んだ。魔の力を見ていた敵兵は、俺と組み合わず、ただ道を開くのみで、大臣の元に行くと、俺は大臣を昏倒させた。それで終わるかに見えた戦いだが、大臣の部屋から二人の足音が響いた。一人はアリーという魔族と、もう一人、黒色の男がやって来ている。見なかった事にするかと、戻ろうとするが、一瞬で背後に回り込まれ、俺の腕を掴まれてしまった…………
マルクス・ライディーン (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス (王国の兵士)
俺は剣は下ろしたが、その男から一秒たりとも目を逸らさなかった。
だが目の前にはその男は居なくなり、今この俺の腕を握っている。
距離にして百メートルはこえる距離、それを一瞬で…………
魔法、いや、それを使う素振りもなかった。
何かおかしな特殊能力でも持っているのか?
俺は左手でフリッサを引き抜くが、だが、それを引き抜いた瞬間、俺の体は地に叩きつけられていた。
「ぐはッ」
仲間達が心配して駆け寄り、その男達に剣を向けている。
「うぬっ、貴様は何者だ! その者から手を放して貰おうか!」
「どどどどう見ても魔族だよ! 不味いよこれ、不味いよ!」
「落ち着かぬかガルスよ、精神を落ちつかせよ、目を凝らせ、こんな者を相手にしては、何時死んでもおかしくはないぞ」
「クッ、マルクスを放せ!」
「マル~!」
黒い男は、全員に武器を向けられるも、涼しい顔をしている。
それに、先ほど剣を手放した兵士達も、もう一度剣を拾おうかと悩んでいるらしい。
不味い状況になった、アリー以外にももう一人居るとは思わなかった。
その黒い男は仲間達の方へと向き直り、質問された答えを答えるらしい。
「俺が何者かって? 俺はべノムってもんだよ。見て分かるかも知れねぇが、王国の者だぜ。さて暴漢共、大臣さんに手ぇ出すとは、ふてぇ野郎共だ、退治してやるから掛かって来な!」
「いやちょっと隊長、手を出したら不味いですよ。その人達暴漢じゃなくて、ラグナードの使者ですからね。もし何かあったのなら隊長一人で謝りに行ってくださいね」
「はっ?! マジで? いや、知ってるなら早く言えよ。おいお前、謝るから今のは無しで頼む」
そんな黒い男は、俺から手を離して距離をとる。
俺は落ちた剣を拾って立ち上がるのだが…………
さてどうしよう?
この男に勝てる手順が見つからない。
ディレイドも反応出来ないとなると、勝ち目がない。
今の所、襲って来ないのだけが救いだろうか。
その黒い男が思案を巡らせ、一つの答えを出した。
「色々と誤解があったようだ。どうだろ、一度話し合って落ち着こうぜ」
その提案は俺達にとって魅力的な話だった。
戦ったとしても、確実な死が待っている。
しかし万が一ということもある、一応聞いておくとしよう。
「わかった、だが一つ教えてくれ、あの赤い宝石は持っているのか? それは俺達が受け取る予定の物だ。大人しく渡して貰おうか」
惚ける、知らないのなら関わる必要はない。
もしも持っているのなら…………
べノムの答えは、俺達にとっては、嫌な答えだった。
「宝石だと? なるほど、大体の事情はわかったぜ。だがこれは王国が貰う事になってるんだ、お前達に渡す事は出来ねぇぜ。諦めて帰るんだな」
それはもう、俺達と敵対すると言っている様なものだろう。
あちらも国の任務として来ているのなら、べノムという男も退くわけにはいかないはず。
どうせそこで気絶している大臣が、ラグナードに渡すのが嫌だからと、王国側に話を振ったのだろう。
だったらまだ説得の余地はあるだろうか?
言うべきことは言わなければ。
「本当にそう思うのか? あんた達の取引は、この国の王に認められていない、その大臣の独断だ。此方との取引こそが正式なものなんだよ。ラグナードとしては、いや、このマリア―ドとしてもだ、王国側に強奪されたと見られても仕方がないぞ? どうする、これを聞いてもまだ奪い去る積もりか?」
「そういう大事な事は、アンタの証言一つで信じる訳にはいかないんだよ。とりあえず、色々と話しを聞く必要がありそうだ」
「それなら、この国の王にでも聞いてみるといい。王ならば何方が嘘を言っているのか分かるだろう。まあ今は出掛けているらしいがな」
こうなってしまえば、俺達が争って決着をつけられる話ではなくなっている。
今はこの大臣を縛り上げて、王の帰還を待つべきだろう。
俺達は周りの兵士を威嚇しながら、大臣を連れて、その大臣の部屋へと移動した。
俺達の実力、更に魔族まで居るとなれば、下手な事はしないと思うが、さて…………
まずはと、この気持ちよく眠っているダブロイン大臣を、平手で強く打ち、叩き起こすのだった。
「おい起きろダブロイン、お前の企みは全て破たんしたぞ。このまま行けば、国益に背いたとして、たぶん処刑が妥当だろうな。どうする? 王が戻ったのなら、釈明でもしてみるか?」
ハッと気づき、自分の状況を知ったダブロインだが、自分が縛られ、周りを囲まれているというのに、この大臣は余裕の笑みを浮かべている。
「さて、何のお話でしょうか。私は賊の進入があったと聞いたため、追い払おうとしたまでのこと。もし間違えていたというのなら、謝りましょう。それにですよ、例え隣にある町を巡るだけといえど、野には恐ろしい魔物がそこかしこに潜んでおります。王がお戻りになられないこともあるかもしれませんぞ?」
「き、貴様、まさかあんな馬鹿であれ王は王、それを、それを暗殺しようなどとは思っておるまいな?!」
ディレイドが驚いて聞き返すが、この大臣反省する気はないらしい。
更なる独白が続くのだ
「ふあははは! 私は特に何もしておりませんが、もう十分もすれば何か起こるのかもしれませんな? まああんな馬鹿が居なくなって貰えた方が、この国の為だ。真の王になられる王子の為にも、この私が次の王として踏ん張りましょうぞ!」
「ぬううううううううううう!」
十分(じゅっぷん)それが王を襲うリミットなのだろう。
しかし、何処に居るのかもわからないその王の元に、どうやってもたどり着ける時間ではない。
俺達の話を聞き続けていた魔族のべノムが、冷静に話しを切った。
「どうやらさっきの話は本当らしい、確かに、十分程度じゃ王の元に駆けつけるのは不可能だ。ただし、この俺以外ならな! さぁて、大臣さんよ、アンタの運も此処までだぜ」
「いや隊長、そんな事言ってる場合じゃないですよ。行くならサッサと言ってください、間に合わなかったら事ですよ?」
「お前だって俺の速さを……ってまあ言い合ってる場合じゃねぇよな。じゃあちょっくら行ってくらぁ」
今までその場に居たべノムという魔族が、一瞬で扉を開けて、この場から掻き消えた。
あの男の能力、ただ速さがあるというだけのようだが、尋常な速度ではないらしい。
しかし、扉の外は武器を持った敵で溢れているというのに、ちゃんと閉めて行けと言いたい。
俺達は扉を閉め、その帰りを待ち続け、三十分後、べノムは何事もなく戻って来ていた。
片腕に王と思われる男を連れて。
マルクス・ライディーン (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス (王国の兵士)
俺は剣は下ろしたが、その男から一秒たりとも目を逸らさなかった。
だが目の前にはその男は居なくなり、今この俺の腕を握っている。
距離にして百メートルはこえる距離、それを一瞬で…………
魔法、いや、それを使う素振りもなかった。
何かおかしな特殊能力でも持っているのか?
俺は左手でフリッサを引き抜くが、だが、それを引き抜いた瞬間、俺の体は地に叩きつけられていた。
「ぐはッ」
仲間達が心配して駆け寄り、その男達に剣を向けている。
「うぬっ、貴様は何者だ! その者から手を放して貰おうか!」
「どどどどう見ても魔族だよ! 不味いよこれ、不味いよ!」
「落ち着かぬかガルスよ、精神を落ちつかせよ、目を凝らせ、こんな者を相手にしては、何時死んでもおかしくはないぞ」
「クッ、マルクスを放せ!」
「マル~!」
黒い男は、全員に武器を向けられるも、涼しい顔をしている。
それに、先ほど剣を手放した兵士達も、もう一度剣を拾おうかと悩んでいるらしい。
不味い状況になった、アリー以外にももう一人居るとは思わなかった。
その黒い男は仲間達の方へと向き直り、質問された答えを答えるらしい。
「俺が何者かって? 俺はべノムってもんだよ。見て分かるかも知れねぇが、王国の者だぜ。さて暴漢共、大臣さんに手ぇ出すとは、ふてぇ野郎共だ、退治してやるから掛かって来な!」
「いやちょっと隊長、手を出したら不味いですよ。その人達暴漢じゃなくて、ラグナードの使者ですからね。もし何かあったのなら隊長一人で謝りに行ってくださいね」
「はっ?! マジで? いや、知ってるなら早く言えよ。おいお前、謝るから今のは無しで頼む」
そんな黒い男は、俺から手を離して距離をとる。
俺は落ちた剣を拾って立ち上がるのだが…………
さてどうしよう?
この男に勝てる手順が見つからない。
ディレイドも反応出来ないとなると、勝ち目がない。
今の所、襲って来ないのだけが救いだろうか。
その黒い男が思案を巡らせ、一つの答えを出した。
「色々と誤解があったようだ。どうだろ、一度話し合って落ち着こうぜ」
その提案は俺達にとって魅力的な話だった。
戦ったとしても、確実な死が待っている。
しかし万が一ということもある、一応聞いておくとしよう。
「わかった、だが一つ教えてくれ、あの赤い宝石は持っているのか? それは俺達が受け取る予定の物だ。大人しく渡して貰おうか」
惚ける、知らないのなら関わる必要はない。
もしも持っているのなら…………
べノムの答えは、俺達にとっては、嫌な答えだった。
「宝石だと? なるほど、大体の事情はわかったぜ。だがこれは王国が貰う事になってるんだ、お前達に渡す事は出来ねぇぜ。諦めて帰るんだな」
それはもう、俺達と敵対すると言っている様なものだろう。
あちらも国の任務として来ているのなら、べノムという男も退くわけにはいかないはず。
どうせそこで気絶している大臣が、ラグナードに渡すのが嫌だからと、王国側に話を振ったのだろう。
だったらまだ説得の余地はあるだろうか?
言うべきことは言わなければ。
「本当にそう思うのか? あんた達の取引は、この国の王に認められていない、その大臣の独断だ。此方との取引こそが正式なものなんだよ。ラグナードとしては、いや、このマリア―ドとしてもだ、王国側に強奪されたと見られても仕方がないぞ? どうする、これを聞いてもまだ奪い去る積もりか?」
「そういう大事な事は、アンタの証言一つで信じる訳にはいかないんだよ。とりあえず、色々と話しを聞く必要がありそうだ」
「それなら、この国の王にでも聞いてみるといい。王ならば何方が嘘を言っているのか分かるだろう。まあ今は出掛けているらしいがな」
こうなってしまえば、俺達が争って決着をつけられる話ではなくなっている。
今はこの大臣を縛り上げて、王の帰還を待つべきだろう。
俺達は周りの兵士を威嚇しながら、大臣を連れて、その大臣の部屋へと移動した。
俺達の実力、更に魔族まで居るとなれば、下手な事はしないと思うが、さて…………
まずはと、この気持ちよく眠っているダブロイン大臣を、平手で強く打ち、叩き起こすのだった。
「おい起きろダブロイン、お前の企みは全て破たんしたぞ。このまま行けば、国益に背いたとして、たぶん処刑が妥当だろうな。どうする? 王が戻ったのなら、釈明でもしてみるか?」
ハッと気づき、自分の状況を知ったダブロインだが、自分が縛られ、周りを囲まれているというのに、この大臣は余裕の笑みを浮かべている。
「さて、何のお話でしょうか。私は賊の進入があったと聞いたため、追い払おうとしたまでのこと。もし間違えていたというのなら、謝りましょう。それにですよ、例え隣にある町を巡るだけといえど、野には恐ろしい魔物がそこかしこに潜んでおります。王がお戻りになられないこともあるかもしれませんぞ?」
「き、貴様、まさかあんな馬鹿であれ王は王、それを、それを暗殺しようなどとは思っておるまいな?!」
ディレイドが驚いて聞き返すが、この大臣反省する気はないらしい。
更なる独白が続くのだ
「ふあははは! 私は特に何もしておりませんが、もう十分もすれば何か起こるのかもしれませんな? まああんな馬鹿が居なくなって貰えた方が、この国の為だ。真の王になられる王子の為にも、この私が次の王として踏ん張りましょうぞ!」
「ぬううううううううううう!」
十分(じゅっぷん)それが王を襲うリミットなのだろう。
しかし、何処に居るのかもわからないその王の元に、どうやってもたどり着ける時間ではない。
俺達の話を聞き続けていた魔族のべノムが、冷静に話しを切った。
「どうやらさっきの話は本当らしい、確かに、十分程度じゃ王の元に駆けつけるのは不可能だ。ただし、この俺以外ならな! さぁて、大臣さんよ、アンタの運も此処までだぜ」
「いや隊長、そんな事言ってる場合じゃないですよ。行くならサッサと言ってください、間に合わなかったら事ですよ?」
「お前だって俺の速さを……ってまあ言い合ってる場合じゃねぇよな。じゃあちょっくら行ってくらぁ」
今までその場に居たべノムという魔族が、一瞬で扉を開けて、この場から掻き消えた。
あの男の能力、ただ速さがあるというだけのようだが、尋常な速度ではないらしい。
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