一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

81 小さく大きな物語35

ぶっ殺してあげると襲い掛かって来るジャネスから逃げ惑い、リーゼさんとストリアの元へ向かい、さっとその後ろに隠れた。俺達を殴り飛ばそうと迫るジャネスを、リーゼさんが投げ飛ばし、何故か戦いが始まるが、ストリアの背後からの強襲によりジャネスは倒れて気を失った。これ以上暴れられないように縛り上げると、俺達はとりあえず腹を満たすのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)






 ストリアとリーゼさんの料理は美味しく、腹を満たした俺達だったが、この転がしているジャネスお姉さんをこのまま此処に転がして置いたら危ないと、全員で家の中へと運び込むのだった。
 さっきはジャネスの裸で驚いたけど、よく見るとこの家、ジャネスの家という訳ではないらしい。
 所々ジャネスの私物が転がっているが、それ以外はこの家の中に物がないのだ。
 寝台はあるが、そこに布団もなく、服をしまうようなクローゼットもない。
 どう見ても人が住んでいる雰囲気ではなさそうだ。
 たぶんジャネスも、この家を見つけて勝手に休んでいただけだろう。
 それなら別に、この姉ちゃんに気にすることもなさそうだ。
 そう思い至った俺達は、この家の中で勝手に寝転がり目を閉じた。

 疲れがたまり、直ぐに眠ってしまった俺達だが、静かな時間も直ぐ終わってしまったのだ。
 気絶していたジャネスが目を覚まし、大声を上げて叫んでいる。

「ぎゃあああああああ、いやあああああああああ、やっぱり私の体が狙いだったのね。やめてええええええええ、たすけてえええええええええええええ! 助けてお母さああああああああん、バールうううううううううう!」

「バールううううう?」

 その名前は、俺達の知ってる名前だが、出来れば関わり合いになりたくない人物だ。
 まさか噂をすれば出て来るんじゃないかと少々警戒する俺だが。

「…………まあそうタイミングよく来ないよな」

「きゃあああああああああああ、いやあああああああああああああああああああ!」

「レティ君、ちょっとその口をふさいじゃって。私はまだ眠いのよ」

「あ、は~い」

 特に出て来なかったから、ジャネスの煩い口をくつわで塞ぎ、再び俺達は眠りについた。
 ジャネスとバールの関係は少々気になるが、今は眠りを優先させることにした。
 俺達がスッキリと目覚め、ジャネスのロープを解き解放するのだが、俺達を見て暴れ出しそうだから男の俺達は家の外に出て聞き耳を立てている。
 その家の中から話し声が聞こえだした。

「え~っとジャネット、それであの、え~っと、とりあえずごめんね」

「ごめんねじゃ……いえもういいです、この私を倒すのですから、さぞや名のある闘士なんでしょう。そんな人に負けたからには、貴方の言うことを聞きます。これからは師匠とお慕いして参ります!」

「倒したのは私じゃなくて、そっちのストリアちゃんだから、なるならそっちの弟子になるのね。断れると思うけど」

「私は別に構わんぞ。子分に成りたいというならさせてやる。ただし、私達は今旅をしているんだ。なるのならそれからにしてくれ」

「分かりました師匠、私も一緒について行きます!」

 全く持って話が通じない姉ちゃんだ。
 旅の途中だというと、ついて来るという。
 まあ俺としては女の人が仲間になるのは構わないんだが、着替える度に覗いただのと言われるのは勘弁してほしい。
 それより、バールの名を出したのが気になる。
 俺達が気になってるように、中の二人もそれなりに気になっているらしい。

「それで、貴女ってバールって人の恋人か何かなの? 私達も多少知ってるんだけど、ちょっと教えてくれないかしら」

「バールは、バールは私のお父さんです! 私は各地に散らばった兄弟を探しに、バールを探す旅をしているんです!」

「各地に散らばったって、そんな子供が何人もいるの?!」

「はい、私ももう十人以上は会いましたから、予想では世界で百人を超えると考えています。たぶんこのまま放って置いたら、世界が私達の兄弟で溢れてしまうでしょう」

「へ、へ~……あの男、何してるのかしらホント…………」

「つまり弟子は、その生き別れの父親の性癖を正す為にみつけようとしているのだな?」

「はい師匠、その通りでございます!」

 もう完璧に、師匠と弟子の関係が構築されようとしている。
 ストリアの方が年下なんだけど、実力の世界じゃ関係ないのだろうか?
 そんな弟子の話はまだ続くらしい。

「ですが旅の途中に巨大な恐ろしいものと出会い、仲間と逸れて、命からがらこの廃墟の町に到着したのでございます」

 恐ろしいものって、俺達も出会ったあの凄い奴か。
 あれ意外には考えられないだろう。
 だって二匹も三匹もそんなのが居たら、この世はもう滅んでいるはずだし。
 今頃倍々で増えまくって、人間なんて一踏みにされているだろう。

「仲間とはいえ、その内情はただの旅の行きずり、危険を冒して私を探したりはしないでしょうね。でもその話も昔の話です、旅の仲間が居ない私は、どうにかこの町を出れないかと考えました。しかしそこで思い至ったのでございます。この町で一人で済む女が居ると知れば、バールの奴も現れるんじゃないのかと。それから一月、動物を狩ったりと色々凌いできましたが、現れるのは物見遊山の馬鹿男ばかり。もうそろそろこの町ともおさらばしようと思っているのですが、一人で脱出するのは無理と、次の真面な旅人を待っていたんです! お二人であるなら身の危険もないですし、同行をお願いします! さあ、女三人の旅を始めましょう!」

「言っとくけど、さっきの男の子達は私達の連れだからね。一人は私の子供だし、五人が嫌なら他をあたってくれないかしら?」

「そうだぞ弟子よ、レティは私の夫で離れる事なんて出来ないんだ! そのへんを理解してもらおうか!」

「そ、そうだったんですね、あの人が師匠の旦那さん……そうですか…………そうですか…………大丈夫です、私我慢しますから!」

 誰が夫だ!
 いやそれより、我慢するって何?!
 そう叫んで今直ぐ否定したいところだが、ストリアの発言は何時もの事だ、同行するなら後で教えるとしよう。
 そしてこのジャネスが仲間になると思われた、その時。

「この町に女が一人で済んでいると聞いたんですが、誰か居ませんか?!」

 そう叫んだ男の声、それこそバールというエロ魔人の声だったのだ。

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