一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

78 川を渡ろう。

ディレイドと共に魔族が居る場所へ向かったが、そこからはイビキの音が聞こえてきていた。起こしに行こうとするディレイドを引き止めるも、騒がしさに魔族が起きて来る。俺はそいつと話してみるが、あくまでも王国の為にしか働かないと、大臣の味方というのを否定した。俺達はその魔族と和解して、此処からの脱出口を聞くのだが、出口は存在していないという。ただ出れる場所はあると、地下にあった川の向こう岸を教えるのだが、一度相談してどうするのかと考える。結局渡る事になるのだが、グリア―デだけは反対をし、説得するのは大変だと、気絶させた…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド・マグロイド    (マリア―ドの偉い人?)
グリアーデ・サンセット    (領主の座を狙う女)
アリー・ゲーティス      (王国の兵士)






 俺達は答えを決め、またワニ男の居る場所へ戻って来ていた。
 そのワニは俺を見て、選択を投げかける。

「決まったみたいだね、じゃあ聞くよ、俺と此処で戦うのか、それとも見なかった事にして捌の所にいってくれるのか、もしくは俺に運ばれて脱出するのか」

「手を貸して貰いたい、こんな所で死ぬ訳にはいかないからな。ただ、一人ずつだと妙な事は考えないで欲しい、俺達も色々と用意があるからな」

「それはお互いにね。じゃあ誰から運んでしまおうか?」

「それは俺だ、その次はそこで寝ている女で頼む」

「じゃあそれで頼まれたよ。早速行くとしようか」

「待ってくれ、その前に自己紹介をしておこう。俺達はアンタの名前さえ知らないんだ、お互い知っておいても良いだろう」

「まあ、構わないけどね。俺は王国軍のアリー・ゲーティスです」

「なんか名前もそれっぽいな」

「はっ?」

「いや、何でもない。俺は…………」

 俺達は自己紹介を終え、アリーに案内された通路の奥には、その腕で切り崩された岩盤の破片が落ちている。
 その横には、それを運ぶためにあるのだろう、大きな荷車が置いてあった。
 さらに先には、川へ続く大きな穴が開けられている
 隣の通路のものよりもかなり大きい。
 装備を着けたままでも充分通れそうだが……本当に大丈夫なんだろうか? 
 今更だと気持ちを切り替え、アリーの腹の前に括り付けられた。
 その顔が横にあるのはひたすら怖いが、我慢するしかないだろう。
 穴の下には激しく流れる急流が見え、この中に飛び込むのかと、躊躇する。
 ハッキリ言ってそれも怖い。

「じゃあ行きます!」

「ま、待ってくれ。どのぐらい息を止めて居ればいい?」

「あ~? う~ん、たぶん三分ぐらいじゃないっすかね」

「三分……三分? 待ってくれ、精々一分ぐらいにしてくれないと息が持たん。いや、一分でもかなりきつい、息継ぎの為に少し上がってくれるんだよな?」

「ああそうだよね、俺が出来るからって皆出来ると思ってたけど、無理だよね。じゃあ一分したら一度顔を上げるんで、その時に息をしてくださいよ。その代わりその分流されるんで、五分は掛かると思いますよ」

「わ、分かった、やれるだけ頑張ろう」

 大きく息を吸い込んで、バシャンと、急流へとダイブした俺とワニの男。
 水の中は光もなく、息を吸う事も出来ない。
 その時間が三十秒、不安と緊張で、もうかなり苦しくなる。
 これはちょっとギリギリだと思った頃、アリーが水から顔を上げた。

「ブハァッ! ハッ、ハッ」

 少し息を整え、また大きく息を吸い込むと、再びアリーが水の中へと沈み込み、また一分。
 二度目の潜水は、一度目よりずいぶん辛い。
 気絶したままでは、グリア―デは運ぶことは出来ないかもしれない。
 無事に渡る事が出来たら、アリーに伝えて貰うか。

「グファァァッ! ゼハァ、ゼハァ、ゼハァ…………」

 潜るのを躊躇ちゅうちょしてしまうが、もう半分来てしまったので戻るのも無理だ。
 ちゃんと渡してくれるらしいが、他の仲間がこれに耐えられるのか、微妙な所だ。
 ドル爺やディレイドはかなりきつい事になる予感がする。
 俺は三度目のダイブをする為、大きく息を吸い込もうとするが、その前にアリーが水の中へ突っ込んだ。

「じゃあ行くよ」

「ちょっ、まっ…………」

 あまり流されるのを嫌ったのだろう、三度目は準備を整えることなく行われてしまった。
 息が出来ないその苦しみは、もう拷問の域に達している。
 もうヤバイ、もうヤバイと、それでも必死に耐え続け、一分。
 息を吸いたいけど吸えないという困った状況は、俺の体を暴れさせようとしている。
 意識が遠のきそうになる頃、アリーがぐったりしそうな俺を水の上へと出してくれた。

「ブファアアアアアアアア! ハッハッハッ、マジで、ちょっと待って、三十秒、三十秒だけ頼む…………」

「いや、それはちょっと無理ですよ。急がないと向う側に渡れないですから。はい、息吸って~」

「お、おい、はああああああッ…………」

 今度は多少用意が出来たが、四回目だからやはり辛い。
 ギリギリ、本当にギリギリ死にそうになりながら川を渡り切り。
 俺は生き延びる事ができたのだった。

「ぬはあああああああああッ、…………つ、辛い、ハァハァ」

「じゃあ次の人運んで来るから、待っててくださいよ」

 アリーが行ってしまう、その前に、言うべきことを言わなければ。

「ま、待て、合言葉は剣だ。それを皆に伝えてくれ…………」

「ケン? わかった、伝えとく、じゃあ次の人を連れて来るから待っててね」

「…………あ、ああ…………ゲホッ」

 バシャンと川に飛び込む音が聞こえる。
 俺を抱えて三分で着くと言っていたから、それより早く到着するだろう。
 俺は息を整え、次のグリア―デが来るのを待った。
 暫くすると、アリーにグリア―デが縛られ、川に飛び込んで来た。
 …………ん? ちょっときつ過ぎて何か忘れている気がするが、何だっただろうか?

 仲間に急げと言われたのか、アリーが息継ぎもなくこの場に到着した。
 三分よりは短いと思うが、二分ちょっと水の中を潜らされたグリア―デは、グッタリとしている。
 そうだった、グリア―デの事を言うのを忘れていた。
 今更思い出しても遅いが、やってしまったものは仕方がない。
 アリーがまた向う側に行き、俺はちょっと心配になってグリア―デの状態をみた。

「おいグリア―デ、無事に川を渡れたぞ、起きろ…………」

「………………」

 返事が無い、起きて来ない。
 …………息が、無い!

「しょ、衝撃を与えれば生き返るかもしれない。もうやるしかないだろう」

 俺はグリア―デの心臓辺りに、思いっきり掌を押し込んだ。
 ドンと一発押し込むと、グリア―デの体に変化が起きる。
 カハッとせき込み、飲みこんでいた水を吐き出す。
 これは行けると思った俺あ、グリア―デを抱き起こし、水を出せるようにと背中を叩く。

「カ八ッ、ゲホ……ハァハァ…………」

「目を覚まして良かった。もう無事に渡り切ったぞグリア―デ。これで地下から脱出出来るぞ!」

 グリア―デは今の状態が分からず、辺りを見回し、自分の濡れた体を見た。
 そして何故か唇に手を当て、俺を見ている。
 肩を震わせ、右手が力強く握られると、ひねり気味の右の拳で俺の顔を殴るのだった。

「このッ、外道がああああああああああああああ!」

「ぐっふぉおおおおおおおおお」

 命を助けてやったというのに、何か殴られてばかりだな。
 顔が凄く痛いぞ。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品