一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

70 神と魔のはざまの国。

まだ客扱いという俺達、仲間達と話し合い、この状況を理解していく。多少理解が深まった所で扉から先ほどのディレイドが現れた。相手は剣に手を掛けている。どうも戦う気はなさそうだったが、その実力を知るために戦いを挑む俺達、戦ってみるとその実力は相当高く、そろそろ良いかと剣を納めるが、不意に放ったセリィの技がディレイドの頭に突き刺さる。死ぬことはなかったが、かなり怒ったディレイド、だが、ラクシャーサの癒しで治し、そのディレイドと情報交換をする…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド          (マリア―ドの偉い人?)






 扉の外から心配するように兵士の一人が声を掛けて来ている。
 まああんな大声を聞けば当然だ、むしろ遅かったぐらいか。

「ディレイド様! 何か争う音が聞こえた気がするのですが、大丈夫なのでしょうか?!」

「別に何もない! 例えそんなことがあろうと、この私が負けるはずがないだろう! 貴様達はそんな心配などせず、城の見回りでもしていろ!」

「ハッ、失礼しました!」

 多少怒気混じりのディレイドの声に、扉の後ろに居ただろう兵士達が移動していく。
 もう傷も残っていないのだが、いまだに怒り続けるディレイと、情報交換をすることになる。
 開いている椅子をガンと引き、ドスンと座り、俺達に今一度尋ねる。
 
「でッ! お前達は何をしにこの城に来たのか、今一度話せ! 全て、余すところなく全てだ!」

 どうせなら、一番最初から話すとしよう。
 変に誤解させても嫌だからな。

「では俺達がラグナードから来たところから話そう。あれは俺達が王城へ行って魔法の力を得た帰りだった。俺達の隊舎の大隊長が現れ、俺達に命令を下したんだ、マリア―ドから国宝の赤いダイヤを譲渡して貰って来いとな。準備してこのマリア―ドまで旅をして来たわけだが、色々な事があったぞ、本当に色々とな」

「何だと! ではやはりラグナードも了承していたのだな?! それでは取引が行われなければ此方としても不味いのではないか?! この情勢でもしラグナードに手を切られてしまえば、魔族どもが再び襲って来る可能性が?!」

 それはどうだろうか?
 マリア―ドが取られれば隣に魔族連中が来ることになるし、ラグナードもそれはしないだろう。
 ブリガンテは正直何方に流れるのか微妙な所だ、強い方につくとなると、ラグナードを見捨てる可能性がある。
 ラグナードが孤立無援の状態になれば、もはや勝ち目は薄い。
 とはいえ、その辺りは上の人間が考える話で、俺達の隊には関係のない話だ。
 それでも話としては使えるな、交渉の手として使わせてもらうとしよう。

「流石に、そこまではしないだろう。マリア―ドまで落とされれば、此方も危ういから。しかしそれなりの制裁はするだろう、我が国との約束を反故にしたのだから」

「クッ! どうせあの馬鹿王がもっと友好を深めたいとかで決めた事なのだろうが、これではまた我が国の地位が危ぶまれるわ! クソッ、クソッ、クソッ、あの馬鹿王め!」

 やはりその馬鹿王だという王が関わっているんだろうか?
 因みにマリア―ドの王と言えば、まだ幼い子共が成る予定だったが、流石に五歳にも満たない者を王にたてるのは無理だと、その母親が選んだ者が代理となっている。
 その代理の者が余りにも無能で、変更を求めたりしているが、まだ返答はないらしい。
 やはり王としての血筋が無いと無理だと、今は王になる子供に、王としての勉学を積ませている。
 だがそれにも、まだ十年はかかるだろう。
 まあそれは、マリア―ドの問題で、此方が口を出す問題じゃないが、宝石の話は別だ。
 俺達の今後にも関わる、言いたい事は言わせて貰おうか。

「王が無能だとかは俺達には如何でも良い話だが、宝石を渡すのか渡さないのかサッサと決めて欲しいところだな。で、結局グリア―デは何処へ行った? ディレイド、お前が隠したりはしていないよな?」

「フン、そんなことはするものか! どうせその女を捕まえたのは、王排斥派の連中だろう。その中で一番あやしいとなると…………ダブロイン・ホークアイか、その辺りだろう。どうせ国宝を奪われると見て、強硬策に出たのだろうが、これではラグナードとの関係が悪化してしまうではないか!」

「だったらそのダブロインという奴に会ってみるか。俺達を前にすれば、何か動きがあるかもしれないぞ」

「そう簡単にはいかんぞ? ダブロインの奴は魔窟に通じているとも言われておる。ラグナードを切って魔の者と通じようとしているのかもしれないからな。奥の手とやらで、魔族が出て来てもおかしくはない。」

「魔族ね…………」

 魔窟、魔城、魔の者、色々と呼ばれるが、元はこの大陸の小さな一国のことである。
 ほんの数年前までは王国と呼ばれていたが、ラグナードとは真逆の、魔の力を求めて、人であったその姿まで変えてしまったと言う。
 魔法を授けてくれた上の者の話だと、魔法は神の力だと言っていたが、実際はその王国という国から流れて来た者達の力により、ラグナードの中にも広がっている。
 その魔法の力が広がったのと同じくして、この世界には魔物と呼ばれるものも広がってしまったのだ。
 神を信仰するラグナードでは、もちろん敵性国家として認識されている。

「例え魔族が出て来るにしろ、行かなきゃ国に帰れないからな。全員それでいいよな?」

「うむ、儂はそれで構わんぞ、魔族が相手となればこの儂の腕も鳴ろうというものだ! 相手にとって不足なしだ!」

「私も構わないぞ、このまま帰ったらどんな罰が来るか分からないし。魔族も退治して隊の名声アップだ!」

「えっ、魔族?! やだ、帰りたい。魔族って魔族だよ?! 絶対やだよ!」

「はぁ、ガルスって弱虫だなぁ、まだ居るのかも分かってないんだから、居ないことだって充分あるんだぞ。それに手ぶらじゃ帰れないんだから、頑張らなきゃだろ!」

「ガルスよわむし~!

「う~、何とでも言えばいいよ、出来れば出ないで欲しい、すっごく」

「まあガルスが行きたくなくても俺達は連れて行くが、無理やり引きずられるのと自分の足で歩くのはどっちがいいい?」

「えええ?! わかったよ、歩けばいいんだろ歩けば」

 若干やる気のない男も居るが、もし魔族が居るとなると、戦力は多い方がいいだろう。
 俺は目の前の男(ディレイド)までを戦力として期待しようと、言葉の釘をさす。

「あんたにも期待しているぞ。ラグナードと今後も付き合いたいというのなら、俺達に手を貸すんだな」

 ディレイドは少し返事に詰まるが、馬鹿だという王にも相談できず、独自の判断をくだす。

「…………良かろう、この世界に魔物を放った魔族共と仲良くする気などないからな。私の判断で、ラグナードに手を貸すとしよう」

「そうか、ではその大臣とやらが居る場所に案内してもらうぞ」

 そして俺達はダブロインという大臣に会いに行く事になった。

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