一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

66 捜索。

教会の下見を終えた俺達、取引の日となり教会で待ち続けている。だが相手はなかなか現れず、三十分ほど待ち続け、ようやく相手が現れた。顔すら見せないヴェールを纏い、十人もの人数が俺達の元へ。合言葉を確かめ、それが本物だと分ると、俺達は左側の扉を潜って奥の部屋へ。聖堂と同じ造りのもう少しだけ小さな部屋。そこで取引が行われたが、宝石を手渡された俺は、その相手から剣で刺されてしまった。だが買っておいた短剣(ナイフ)により、その攻撃は止まり、十人との戦闘が始まった。人数差のある相手との戦いとなり、俺達はセリィを中心として背中を四人で囲む。目の前の相手に集中し、攻撃を防ぐが中々キツイ。そんな中、中心にいたセリィが、天井に向けて三本の矢を放った。その三本は相手三人に命中し、一気に此方に戦局が傾いた。続けて放った矢は相手の注意を天井に向ける。俺達は狭い入り口の通路に退避し、チェックをつけた…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)







 回復された敵が襲い掛かるが、首元にナイフを突きつけた二人を突き飛ばし、部屋の中へ押し込むと、俺は剣先を向けて勝利宣言をした。

「動くな! 俺達はこの部屋の中なら一撃でお前達を全滅させられる魔法があるぞ! 試しにやってみるか?」

「…………ただのハッタリだ、全員かかれ!」

「「「「「………………」」」」」

 敵リーダー格の男がそれを命じるが、今の所動く奴は居ない。
 狭い通路側に入ったために、敵の数の有利はなくなり、ゴーレムという魔法も披露している。
 そして圧倒的なセリィの技量は、俺達全体の評価を押し上げているのだろう。
 頭の中に、それが有り得ると考えているのかもしれない。
 実際使えるのだから、このまま動かないでいてくれると嬉しいが…………
 リーダー格の男だけが指示を飛ばしている。

「どうした、行け、行くのだ! この私の命令が聞こえんのか!」

 すでに移動させたゴーレムが、入り口の前に立ちはだかっている。
 このゴーレムを倒さないことには、俺達に指一本触れることは出来ない。
 もう戦うのは無駄だと判断し、大半の敵が剣を落とす。
 流石にそれを見て、もう勝ち目がないと判断したんだろう、リーダー格の男が降伏の意思を示す。

「わかった、もう勝ち目がないことは認めよう。私達はここで降伏しよう」

 そう言って、下に落ちた宝石を拾い、手に持っている。
 降伏してくれたのは歓迎するが、まだ俺達は何故襲われたのかも理解していない。
 理由を聞くために、俺はその男にたずねた。

「結局お前達は何者だ。俺達の取引相手ではないのだろう? 何の目的で俺達を襲ったんだ?」 

 その俺の質問に、男は憎しみを浮かべ、そして笑い出した。

「ふはは、この私達が何者かだと? 取引相手ではないだと? 私達は本物だよ、本物の君達の取引相手だよ! 理由が知りたいのなら教えてやるさ。この国が、お前達ラグナードに従うつもりはないという事だ! 何がマリア―ドがラグナードに従属するだ、そんなことは馬鹿げている! 従うならそちらだろうが、マリア―ドから生まれた従属国が!」

 マリア―ドから分かれたのは確かだが、従属国ではなくて兄弟国と言って欲しい。
 だが最近はラグナードの方が力を増して、マリア―ドが従うことが増えている。
 それで不満をもったということか?

「俺はあんた達の事情なんて知らないが、国同士の取引を勝手に中止するなら、それなりの覚悟がいるぞ。文句があるのなら自分達の王に言うことだな」

「あの王がマリア―ドのことを考えるはずがないだろう! 代々伝わった国宝のこの石を渡すぐらいだからな! あの男はタダの国賊、相談するだけ馬鹿らしいわ!」

「だったらどうする、もうお前達に勝ち目はないぞ。もう諦めたらどうだ?」

「確かにそうだ、もう勝ち目はないだろう。だが! この石だけは絶対に渡さん! お前達に渡すぐらいなら、こうしてくれるわ! やれ、皆の者おおおおおおおおおおおおお!」

「「「応!」」」

 男の腹心の部下だろう三人が返事をし、後方の壁へと移動して行く。
 何かするつもりなのかと観察するが、それは俺のミスだった。
 男達が上の方にあるステンドグラスを、剣を投げて叩き割り、そしてその場所から宝石を投げ捨てたのだ。

「うはははは、本当はお前達が持ち逃げしたことにしようと思ったのだがな、念の為に仲間を待機させてよかったわ! もう絶対に見つからないぞ、二度と、二度となあ!」

「しまった、急いで追い掛けなければ!」

 俺は直ぐに追いかけようとするのだが、ドル爺がそれを制止する。

「待つのだマルクス、このまま追い掛ければ、必ず追撃されるぞ! 先に此方の対処をするのだ!」

 確かに、ゴーレムを倒して追い掛けて来るのは必至だ。
 後ろから追い駆けられれば、人数的に不利な俺達は、また辛い戦いを強いられる。

「クッ……ラクシャーサ、追撃出来ないように入り口をふさいでやれ! 出来る限り頑丈にな! 悪いがセリィは先に行ってくれ、お前が一番速く走れるんだからな。ガルス、お前も行け!」

「まかせろ~!」

「わかった、セリィのことは任せといて!」

 セリィとガルスが教会の外に跳び出し、敵を野追撃を始めた。
 そしてラクシャーサが魔法を使い始める。

「了解だ! 泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊つちくれ人人形ひとにんぎょう!」

 魔法により、ゴーレムというより、分厚い泥の壁が出現する。
 それは通路の入り口を塞ぎ、敵の進退を妨害した。
 一メートルはこえる分厚さの壁からは、そう簡単には脱出出来ないだろう。

「行くぞ皆、急げ!」

 俺達は急ぎその場所へと向かうのだが、その場所には赤い宝石は無く、あの男の部下であろう人物が地面に転がっている。
 セリィとガルスは?

 駄目だ、見当たらない。
 二人が倒して敵を追ったのか?
 いや、それとも宝石を独り占めしようと、敵同士で仲間割れでもしたのか?
 
 俺は倒れた一人を観察した。
 争った跡はなく、きっと後ろから殴られたのだろう。 
 ガルスが後ろからぶん殴ったか?

 その場で手掛かりを探すが何もなく、隊の集合場所である宿で帰りを待ち続けた。

 あれから一時間、セリィならとっくに追い着いても良い時間。
 もうそろそろこの場所に戻って来ても良い時間帯だ。
 ガルスが居るから問題はないと思うが…………

 ダダダと宿の廊下を走る音が聞こえる。
 それは俺達の部屋の前に止まると、バンと扉を開いた。
 待ち続けていたセリィがラクシャーサに飛びついている。

「ラク、ただいま~!」

「お帰りセリィ、無事でよかったよ」

 そして後方から、かなり遅れてガルスが走って来た。

「セリィ、足早すぎるよ…………ふぅふぅ…………」

「待ってたぞ二人共、宝石はどうだ、みつかったか?」

「いやぁ、それがね、偶々近くに居たグリア―デに掻っ攫われたみたいだよ。後ろ姿をセリィが追い掛けて行ったけど、なんか途中で餌付けされて、まかれたみたい」

「アイツか……盗賊をしていたから不思議じゃないが……クソッ、運が悪い!」

「う~む、このままでは国に帰れんぞ、どうにかして取り返さなければ」

「そんなの皆分かっているって! でも何処行ったか分からなきゃ探しようもないだろ!」

「ラクごめん、セリィ探せなかった」

「いいんだよ、セリィは悪くない。私達じゃ誰が取ったか分からなかったんだからな。セリィが居てくれたからグリア―デが持って行ったって分かったんだよ」

「そうだな、それだけでも大収穫だ。あとは俺達に任せておけ」

「うん!」

 そう、グリア―デが持って行ったと知れただけでも、この先を考えれる。
 あいつの事なら俺達も知らない訳じゃない。
 ならどう動く?

 あいつなら、どう動く?
 
 たまたま宝石を見つけた……本当にそうだったかのか?
 何か伝手があって俺達と別れて、そこでも断られていたとしたら、どうにもならなくなって俺達の近くを見て居たのかもしれない。
 近くで盗み見て居たグリアーデは、飛び出した宝石を見て、掴んだ…………
 違う、そこには敵の一人が居た。
 あいつも貴族で領主の一人だった女だ、あの国宝の宝石を知っていてもおかしくはない。
 だから、宝石が盗まれたと思って、それを奪取したのか?
 だったらそれを持ったグリア―デは何をする?
 俺達の元へは持って来なかった、だったら金に変えるのか?
 いや、国宝であるあの宝石の換金は難しいし、コレクターに投げ売り出来る金額じゃない。
 グリア―デの求めるものは、領地と己の家の復権だ。
 だから行くべき場所は………… 

「城だ、マリア―ドの城に向かうぞ!」

「「「応!」」」

「お~!」

 俺はそう皆に指示を出し、マリア―ドの城へと向かったのだった。

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