一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

64 取引当日。

グリアーデの頼みで城に行くが入れてもらえず、怒ったグリア―デは俺達と別れて何処かへ行ってしまった。仕方ないと、取引場所へ下見に向かう俺達。その場所は大きな教会で、その中を調査して行く。内部を見て回った俺達は、ある程度の地形を知り、準備を整えて次の日を迎えた…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)

600話!






 下見を終え、出来る限りの準備をした俺達。
 それぞれにその日を過ごし、約束の日の約束の時間。
 俺達は昨日の教会の入り口にやって来ていた。
 相手が誰かは知らされていないが、間違えない為に合言葉を教えられている。
 さて、誰が声を掛けて来るか…………
 そのまま五分、時間はとうに過ぎているが、相手はまだ現れない。

「ふむ、何かトラブルかのぅ? それともただ遅れているだけか?」

「えっ、もしかして俺達のこと知らないから分からないんじゃ? それとも場所が違うとか?」

「もし間違ってたら、すっごく不味いんじゃないの。最悪取引中止になるんじゃないか?」

「いや、ラグナードの鎧を着てるんだ、分からないはずがないだろう。場所もこの此処で合っているはずだが、一応もう一度確認してみるか」

 俺は懐にある指令書を読み返した。
 しかし教会の名前や場所、時間も間違ってはいない。
 やはり相手側のトラブルか?

「特に間違ってはいないらしい、もう少し待ってみよう」

「うむ、そうだな」

 そのまま待ち続け、三十分、十人もの黒服の集団が俺達の元にやって来た。
 顔には黒いベールをかぶり、正体を明かさないようにしている。
 見られたら不味いのか?
 兎に角俺は、相手に向かって合言葉を言ってみた。

「ラグナードはマリア―ドと共にあり、親愛の情を」

「…………マリア―ドはラグナードの友として、永劫の従属を…………」

 男の発した言葉は正しい合言葉だ。
 この集団が目的の人物で間違いはならしい。
 その合言葉を言うと、この黒衣の集団は、無言で俺達の前を進み、教会の中へ入っていく。
 ついて来いというのだろうか?
 
「よし、俺達も行くぞ。くれぐれも油断はするなよ」

 皆がうなずき、俺のあとに続いて来る。
 黒衣の集団を追って行くと、閉まっていた左に有った扉の鍵を開け、その中へ入って行く。
 こちら側は多くの部屋があり、個室か何かになっているのだろう。
 そのまま真っ直ぐ進むと、三方に道が分かれている。
 上に伸びる階段と、舞台に続く右の道、正面には大きく広い部屋があった。
 中央にあった聖堂を少し小さくしたような、そんな部屋だ。
 この場所で取引をするのか?
 どうにもかなり怪しいが、俺達はその広場に進み取引を続けた。

「では目的の物をお願いします」

「………………」

 黒衣の男達のリーダーらしき男は、懐から布で包まれた物体を取り出した。
 俺はそれを受け取ろうと手を伸ばす。

「確認致します」

 包んである布を開き、中を確認すると、思った以上に大きく、真っ赤に燃えるような宝石が見えた。

 これがレッドダイヤモンドか、これの一欠けらでも有れば、どれほどの剣であっても買い放題だ!
 いや落ち着け、そんなことをしたら此処に居る全員どころか、一族まで皆殺しにされる。
 ここは落ち着いて、任務として割り切ろう。

 俺はもう一度布に包み、それを懐に入れようとするのだが、俺達を囲む黒衣の十人が、襲い掛かって来たのだ。
 俺の腹部を刺すように伸ばされた剣は、そのまま真っ直ぐ進んでいる。
 取引じゃなかったのか?!
 何故こんな事を?!

 必至で体を動かし避けようとするが…………
 駄目だ、このタイミングでは避けきれない?!

 ドッ!

 其の剣は俺の腹部へと沈み込む。
 かなりの力を込めていたのだろう、腹の奥まで衝撃が来る。

「ガ八ッ!」

 手に持った宝石が、カランと地面へと転がる。

「ま、不味い、マルクス、今回復を!」

 俺の身を案じ、慌てるラクシャーサを手で制止た。
 普通なら俺は死んでいた、だが俺には愛すべき剣があったのだ。

「慌てなくてもいい、隠してあったナイフが役に立ったからな。やっぱり買っといてよかったな、短剣と言えど立派な剣だ、この俺を護ってくれるとは素晴らしい。今後は短剣も集めないといけないな」

 俺は相手の剣を掴み、腰の火炎ひえんを抜き放つ。
 俺達を襲った理由を聞きたい所だが、まだ人数的にも不利だ。
 抜き放った刀を使い、リーダー格の男へ一撃。
 その脚を斬り付け、その動きを奪った。

「ぎゃああああああああああああああああ!」

 かなりの深手を負わせ、この男はもう動く事が出来ないだろう。
 俺は隊の皆に命令する。

「セリィを中心に背中合わせで固まるぞ! バラけるな、各個撃破されたら勝てないぞ!」

「わかっとるわい、何時も通りだ」

「あ~、何でこんな事になってるんだろ。俺達って運が悪いのかな?」

「ガルス、愚痴ってないで陣形を組むよ! セリィはそこで動かないで!」

「わかった~!」

 残りは無傷の九人、俺達はセリィを中心に、背中合わせに陣を組んだ。
 相手の一人は、怪我をした一人に走り寄り、治療を行おうとしている。
 放っておきたくはないが、今はこの囲まれた状態を何とかしたい。

 ギャンッ! ガシン! ゴッ ギィィィィン!

 だが考えをまとめる間もなく、相手の攻撃は俺達を狙う。  
 相手の剣に火炎ひえんを合わせ、鍔迫り合わせた。
 俺と刀を合わせたこの男、そこそこの実力がありそうだ。
 力を入れるが、中々弾き返せない。
 だがそんな事よりも、重大なことがある。

「うおおおおおおおおおお、俺の火炎ひえんに傷がつくだろうが、何てことしてくれるんだ!」

「おい、今言ってる場合じゃないだろ! そんな事より、私がゴーレムを作るから、それで此処から脱出するぞ! セリィ、そこから援護出来るよね? 私の前の何人か牽制して、出来れば倒しちゃって!」

「ん、まかせろラク!」

 結構広い部屋とはいえ、この中で弓を扱うのはリスクが伴う。
 しかも俺達に囲まれ、かなりきつい状態だ。
 だからセリィは弓を上に向け、天井に向かって三本同時に矢を放った。
 その矢は羽根を先端に飛ばされ、天井でその矢の後ろ側がカツンと当たると、敵の鎧の隙間に向けて、落下して行く。
 結果、その三本全てを、後方の三人に命中させるという神業を成功させた。

「ぐあぁ!」 「ぎぃやああ!」 「うぁあッ!」

 スピードは無く、威力も大したものではないが、肩口、足、腕に突き刺さる。
 一人は剣を手放し、一人はうずくまり、一人は慌てて回復を求めに行く。
 それを偶然だと判断し、リーダー格の男が治療を受けながら叫んでいる。

「慌てるな、そんなもの偶然に決まっている! こちらの方が数が多いんだ、気にせず目の前の相手に対処しろ!」

「「「「………………!」」」」

 だがそれは間違いだ。
 本物の天才であるセリィは、天井に向けてもう一射、三本の矢を放つ。

 ヒュッ…………ガッガッガッ!

 再び天井に当たり落ちた三本の矢が、相手の体へと落下した。
 相手二人は警戒していたのかそれを防ぐが、一人は警戒もせず首元へ突き刺さる。
 
「ぐぎゃあああああああ!」

 防御した二人に斬り込んでみたが、後方に下がられ避けられた。
 陣形を崩して追い掛けるかとも思ったが、今は部屋の出口に向かうのが先決だ。
 俺はまたセリィに矢を放つよう命令した。

「セリィ、続けろ、一度だ!」

「ん、わかった~!」

 セリィがまた弓を天井に向けると、それが偶然ではないと知り、残った三人が上ばかりを気にしだす。

 よし、ここが突破するチャンス!

「ラクシャーサ!」

「分かってるよ! …………泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊つちくれ人人形ひとにんぎょう!」

 アレンジを加えたラクシャーサの魔法は、泥のゴーレムを人のように小さく作り、敵の一人へ向かって行く。
 残りは出口の前に居るたった二人。
 俺は全員に命令を出した。

「出口に向かえ、一気に突破するぞ!」

「「「 応! 」」」

「お~!」

 ガルスが後方で盾を構え、俺とドル爺が二人を相手にぶつかった。
 攻撃は受け止められたが、その横を抜けたセリィとラクシャーサが、相手の背中を取る。

「動くなよ、動いたら死んじゃうぞ!」

「なよ!」

 チャキっと首元にナイフを突きつけられ、その二人は剣を手放し、おとなしく降伏したのだ。
 ここで王手チェックだ。
 入り口は精々一人しか通れず、大勢が居ても意味がない。
 そしてラクシャーサの魔法は、彼等を一撃で葬る魔法を使えるのだ。

 もう彼等には勝ち目はない。 

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