一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

55 二百階層ペット探し。

サイクロプスを倒した俺達は、正直このまま探索するのかを悩んでいた。俺の腰には刀しか持って来ておらず、次の戦闘では魔法を使わなきゃ勝てないかもしれない。俺はこの依頼を切り上げ、あんな強敵を倒したのに、たった十万ぽっちを受け取るのだった。しかしこのままでは旅を続けられないと、自分達の手で馬車の車の部分を作ることを提案する。自分達だけでは無理と判断し、職人と一緒に作らせることに。あまり大勢で行っても邪魔になるかと、俺とガルスはギルドに向かい、依頼を探した。丁度良く張られた依頼書を破り、俺達はその依頼を受けたのだった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)






 ある程度装備を整えた俺とガルスは、なんとか二百層の道を発見し、その階層へとやって来ていた。
 俺の腰には火炎ひえんとブロードソードが三本。
 これだけ持っていればもしもの時にも躊躇(ためら)わずに済むだろう。
 武装した俺とガルスは、到着した二百階層を見回している。
 壁床天井までも白く小さな花が咲き、この階層はその花の匂いに満ちている。
 別に嫌な香りではなく、ほんのりと漂い、気にする程でもない。
 この場所は暗くなくて、むしろ明るいぐらいだ。
 周りには上の階層と同じく、大きな柱は所々に存在し、中には罠があったりするのだろう。

「へ~、綺麗な所だね。多少危険でも、買い手がつくのは分かるかな」

「罠は解除されていない所もあると書いてある。この柵の外がそうなんだろうな。無暗に踏み込んだりはするなよ?」

「分かってるって」

 そして、この一層だけでも迷いそうな程に広いのだが、依頼者の元までは安全な道が示されている。
 柵が作られ、移動に迷う事はない。
 道を進み続けると、小さくも立派なコテージのようなものが見えて来た。
 質素とはかけ離れており、金や銀の装飾や、壁には有名な画家にでも描かせたのか、アート作品のとなっている。
 庭には色々な彫像が並び、まあ見ただけで金持ちと分かる。
 依頼者の名前は依頼書に書かれているから知っている、ドグローブ・スロースターという人物らしい。
 俺はその家の扉を叩き、依頼者へと面会した。

「こんにちはドグローブさん、ギルドからの依頼でやってきました。依頼内容を確認したいのですけど、お時間よろしいでしょうか?」

「ギルド? ああそうかね、早速来てくれるとは早いものだな。少し待ちなさい、今部屋着なのでね、外着に着替えるから」

「分かりました、外で待たせてもらいます」

 わざわざ着替えなくても良いのだが、見栄っ張りな性格なのだろうか?
 少し待っていると、家の中から二人の親子が出て来るのだった。
 扉から出て来たのは、十歳程度の男の子と、その父親と思われる男だ。
 子供の方は真っ直ぐ切りそろえたキノコのような髪で、カボチャのような短パンが印象的だ。
 父親の方は、金歯に金の刺繍、金の指輪に他にも色々。
 兎に角金が多く、太っていて髪もちょっと後退がはじまっている人物だ。
 扉から出て来た親のドグローブが俺達を見て依頼の内容を話した。

「おおふ、お待たせしたね。君達がギルドから来たのだね? では早速なのだがね、我が息子のペットが居なくなってしまったのだよ、如何にか見つけてはくれないか?」

「はい、我々はその為にきました。ある程度は依頼書に書かれていましたが、一応もう一度特徴をおしえてください。もし思い出したことがあればそれも含めて」

「じつはわしはそのペットとやらを見た事がなくてな、それは息子に説明させます。では説明してあげなさいマッグローブ」

「はい父上。では説明させてもらいます」

 子供の情報と侮れないほど鮮明な説明がなされ、俺達は居なくなったペットの特徴を知ったのだ。
 居なくなったのは掌に乗るぐらいの小さな黄色いヒヨコで、この階層で見つけたらしい。
 それを隠れて飼っていたのだが、そのヒヨコが目を離した隙に逃げ出したのだと。
 追い掛けて行ったのだが、危険な柵の外へ跳び出し、追い駆けるのは諦めざるを得なかったらしい。
 そこで父親に頼み、俺達が派遣されたのだ。

 柵の外は危険なのだが、あの危険な柱の中に入るには、扉をくぐらなければ無理だ。
 そんな小さなヒヨコに、扉を開けるわけがない。
 …………とすると、多少危険は少なくなるのか?

「わかりました、それでは探させて貰います。一応戻って来る可能性もあるので、その辺りはご注意を」
 
「うむ、頼んだぞ」

「お願いします!」

「では失礼します。行くぞガルス」

「ああ、行こう!」

 俺とガルスは、あの子供が逃がした場所へと向かってみることにした。
 あのコテージの庭から北方面、分からなくならない様に、印として傷をつけておいたらしい。
 俺達はそれを探し出したのだった。


「あった、ここじゃないかな?」

「どれだ?」

「ほら、これだよ」

 柵の上部に小さな傷がついている。
 一応他も見渡たすが、他には同じような傷はない。
 此処で間違いなさそうだ。
 俺達はその場所から外に出て、ペットのヒヨコを探し始めた。
 ガルスが前方に立ち、防御の姿勢を取りながら進み続ける。

「ガルス、足元には注意しろよ、花の下には何が隠されているのか分からないからな」

「うん大丈夫、一応何が来ても良い様に構えてるし。でも毒とかは来ないで欲しいなぁ」

「安心しろ、その時は俺も一緒だ。足元には気を付けて…………」

 カチッ ビーーーーーーーーーーー!

 俺の足の下に確かに何かがある感覚がある。
 それを踏んだと同時に、少しの間警戒音が流れている。
 今の所何も起こっていないが、この足を上げたらきっと何かが起こるんだろう。
 そんな俺を見て、警報音が聞こえなかったらしいガルスが、不審に思っている。

「あれ、どうしたのマルクス、まさか何か踏んだの?」

「どうもそうらしいな。俺は後方に跳んでみるから、お前はその場で何があっても良い様に構えておけ。移動して他のスイッチを踏んでも困るからな」

「分かった、気を付けて」

「ああ、じゃあカウントダウンだ。いくぞ、三、二、一、零!」

 俺は意を決して後方に飛び退き、防御の体制を取るのだった。
 俺は地面に着地するも、特に何も起こらなかった。

「?」

「何もないね。もしかしてもう発動した後だったんじゃないの?」

「そうだったのかもな」

 俺は少し安心して構えを解くと、ガルスが上を向いて何かを指さした。

「あっ!」

「なんだ、敵か?!」

 俺は上を向くと、それがもう目の前に落ちて来ていた。
 その物体は、殆どの人が知っているんじゃないだろうか。
 銀色で丸く、凹んだ形のそれは、金ダライだ!
 咄嗟とっさに剣を抜こうと腰に手を伸ばすのだが、俺はその時重大な事に気付いてしまった。
 このままこんなタライを斬り付けたら、絶対剣の刃が悪くなる!
 いや、駄目だ、それは駄目だ!  
 一瞬ためらってしまった俺は、それを避けるタイミングを失い、金ダライ顔面で受け止めたのだ。
 ゴンッと顔の上にタライが落ちる。

「グフッ!」

「うわ、痛そう」

 実際痛いのだ。
 もの凄く痛いのだ。
 金ダライは結構重く、思った以上に痛い。
 しかも鼻にガンッとぶつかり、鼻がとても痛い。
 倒れそうになるのを踏ん張り、俺はその痛みを耐えきった。

「…………これが罠か、案外恐ろしいな。タライとはいえ、ものすごく恐怖があったぞ」

「う~んとマルクス、鼻血が出てるよ」

「知ってるから、それは言わなくてもいい」

 俺はハンカチで鼻をぬぐい、ペット探しに向かおうと足を踏み出すのだが…………
 一歩あるくごとに金ダライが、花の咲く天井から落ちまくるのだった。

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