一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

48 小さく大きな物語26

レッドマリンに勝利した俺達だが、相手は報酬を渡すのをためらっている。それは親の手掛かりだと言い、その代わりにと金を貰うのだった。勝負が終わったし帰ろうとする俺を、何故かレッドマリンが呼び止める、宿の裏手に連れて行かれ、秘密の依頼を受けるのだった。それはこの宿の主であるローレンシアが、レッドマリンの親なのかもしれないと、俺に二人っきりで会う機会を作って欲しいと。何か面倒なんで他の人に頼んでくれと言うのだが、今更断るのかと、剣を抜き斬り掛かろうとして来る。仕方なく俺は彼女の依頼を受けるが、仲間にも言う名と言われてしまうのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア  (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ   (リッドの母ちゃん)
ローレンシア(遊宴の町の領主)レッドマリン(遊宴の町を狙う人)





 ローレンシアさんとの二人っきりの面会がしたいとレッドマリンに頼まれるのだが、仲間にも理由を言うなと無茶な事を言われてしまう。
 仲間には理由は話さず、勝負の結果を伝える為にローレンシアさんを探していると説明しといた。
 それから俺達は帰りを待っているのだが、一向に帰って来る気配がない。
 もしかしたらこのまま、ほとぼりが冷めるまで帰って来ない気かもしれない。
 行き違いになるからと、俺はリーゼさんとリッドを残し、町へと繰り出そうとするが…………

「この町は特殊だから、本当は行かせたくないんだけど、変な事に巻き込まれない様にしなさい。あ、飛び出して行ったストリアちゃんも見つけたら必ず連れ帰って来てね」

 と言われてしまった。
 もうすでに巻き込まれた感が酷いんだが、今更言った所で仕方ない話だ。
 因みに、ストリアの事は心配していない。
 彼奴の腕は知っているし、変に絡んで来る奴等が居たら返り討ちにしてしまうだろう。
 何故か色々やる事が増えていくが、まあ何とかなるだろうと宿から跳び出すのだった。
 宿の外は、朝も夜も代り映えがしない、普通の町ではあり得ないピンク色の空間が各箇所に漂っている。
 隣にレッドマリンが居るから、なるべく視線を外すようにはしているが、外した先からも同じような状況になっているので意味がない。

「はぁ、馬車の中でチラッと見ただけだけど、やっぱり凄いところだなこの町」

「おい、変な風にみられるだろうが、一切私に話しかけるな!」

「折角手伝ってやってるっていうのに何だその態度は。俺と一緒なのが嫌なら、ついて来なければ良かったのに」

「馬鹿者め! あの人が私の母親だったなら、一秒でも早く会いたいではないか!」

 微妙に赤くなって、そんな事を言っている。
 案外可愛らしいところもあるんだな、この人。

 こんなピンク色が充満する町でも、普通に食べ物や屋や洋服屋は存在している。
 ラブ宿ホテルとアダルトグッズを売ってる店に挟まれ、普通の飯屋があったりする。
 なければ生活出来ないから当然だが、もの凄く違和感を感じてしまう。
 本当は何かあるんじゃないかと少し覗いてみても、中は普通そのものだ。
 ちょっと変わったものが有るかと期待したが、そうでもないらしい。

「貴様、妙な場所を覗いているんじゃない! 私が恥ずかしいだろうが!」

「いや、変な所じゃなくて普通の飯屋だからな。何か妙に目立つから気になっただけだって。それにローレンシアさんを探してるんだから、色々見て行かないと駄目だろうが」

「クッ、確かにそうだが……まさか貴様、私をあの宿に引き入れる積りではあるまいな?!」

 あの宿というのは、ローレンシアさんの宿じゃないところの事だろう。
 近場にあるピンクっぽい宿の事だろう。
 だが俺にだって選ぶ権利ぐらいはある。
 この女がシャインであったなら俺だって誘っていたかもしれないが、これはタダの依頼主だ。
 しかも無理やり依頼を受けさせて、剣まで向けて来る。
 むしろ誘ったら俺の命が危うい。

「いやいや、しないしないしない。行きたいのなら一人でどうぞ。俺はスッキリして出て来るのを待ってるからさ」

「誰がそんな所に行くと言ったか馬鹿者め! ああ全く、こんなことを言い合ってる暇はないというのに! 貴様、探す気がないというのなら、この場で叩き斬ってくれるぞ!」

「いやいやいや、探します、探させてもらいますって!」

 誘わなくても斬られそうになるから、どっちみち同じだったらしい。
 しかし探すにしても何処へ行ったのか…………
 ローレンシアさんの居場所は分からないが、ストリアの居場所なら何となく予想がつく。
 たぶんだが、エロい下着でも買いに行ったんではないだろうか?
 そう、丁度あの辺りにある下着屋とかに…………

 俺が見た先には、女性用の下着を扱っている店がある。
 試しに中を覗いてみると、俺は労せずにストリアを発見出来た。
 ストリアの手には大量の下着があり、それを胸にあてたり腰にあてたりと、何か悩んでいるらしい。
 あれからずいぶん経つが、ずっとこれをやっていたんだろうか?
 女性の買い物は長いと聞くが、出来れば付き合いたくないものだ。
 う~ん、リーゼさんは連れて帰って来いと言ったが、此処からなら宿も近いし迷うこともないだろう。
 下着屋の中に入るのもはばかられたので、戻って来てまだ居たら声を掛けることにした。
 
「おい、彼奴はお前の仲間なのだろう、声を掛けなくても良いのか?」

「あれはまあ後回しでいい、ストリアはこの辺りのチンピラに負けるレベルじゃないし、身の安全は保障されているぞ。むしろやり過ぎて捕まったら不味いけど……リーゼさんが気にしてたのはそっちだったり? …………店の中に居る限りは大丈夫かな」

「そんな心配は如何でも良い! 彼奴に声を掛けないんだったら早く行くぞ! 私にだって他の公務があるんだ、何時までもこの町に留まっては居られないからな!」

「と言っても、あの人何処に居るんだろうな? こんな宿とかには入らないだろうし、金も持ってなさそうだから外食とかもしなさそうだし、金が掛からなくて時間が潰せるような所は? 何か手掛かりとかないのかよ?」

「初めて会う私が知る訳がないだろう! お前の知恵を絞って探し出せ!」

 いや、俺だって知らねぇよ!
 っと、そんな風に叫びたい。
 怖いからしないけど。
 一応あの人この町の領主だし、知ってる人も多いかと、周りの人に話でも聞いてみようかと思ったが、どうも全員話しかけ辛い。
 殆どがカップルで、話しかけるなというオーラが出まくっている。
 たまに一人の人が居ても、俺が声を掛けてもスルーして何処かへ消えて行くのだ。
 俺に話しかけられるのも嫌なのかと少々怒りがわいてきたのだが、頭を切り替えローレンシアさんを探す事にした。

「う~ん、本当に何処行ったんだあの人。何か手掛かりになりそうなものは…………お、町の案内板が出てる。これで店の場所が分かるかもな」

 愛の宿、アダルトグッズ屋と、まあ色々な場所が書いてあるが、注目するべきはそれ以外の場所だ。
 
「こんな看板で何が分かるというのだ。別にあの女の居場所は書いていないぞ」

「知り合いの所とかだったら探しようがないけど、他の場所だったらこの看板だけでもある程度絞れるだろ。この看板には町の全部が描かれているから、エロい所は全部消して、あの人金持ってないから、金が掛かりそうな遊び場とかもない。とすると、喫茶店で茶でもしてるのか公園に行ったか、それとも誰も居ない場所に一人で居るか、食材売り場でウロウロってのもありえそうだよなぁ。カップルが居る中で一人でボーっとしてるのも可笑しいから、そんな奴等が居そうな場所も外して、うん、大体五か所ぐらいいじゃないか?」

「ほう、なら行ってみるとしよう。だがもし無駄足になったら…………」

 どうせ斬るとか言うんだろうけど、もう脅しには慣れた。
 もしそうなったとしたら、この女から逃げ出すとしよう。
 徹底的に鍛えられた、この俺の足には絶対追いつけないからな。

「行ってみれば分かるだろう。じゃあ近くの喫茶店からだな」

「そうだな、全てを周り終えた時には貴様の命は消えるだろう。あの女が居る事を祈るんだな」

 俺は何時でも逃げられる準備をして、レッドマリンと共に各地を回るのだった。

 喫茶店、公園、小さな丘に、図書館、其の四か所目の図書館で、ローレンシアさんの姿を発見する。
 何も入っていない買い物カゴを床に置き、楽しそうに本を読んでいた。

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