一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

37 頑張って到着した町。

 魔物の群れを退治した俺達だが、馬が逃げてしまった荷台部分を正直どうするのかと悩んでいた。
 いやまあ、荷物を置いて行かないようにする為には、俺達の手で引っ張るしかないのだが。
 奪われた馬車を止める為とはいえ、馬を逃したのはちょっと痛かったな。
 出来れば急いで動かしたいが、また魔物が襲って来る前に、俺にはやらなければならない事がある。
 そう、次の戦闘の為に、コレクションの中からまた何本か選ばなければならないのだ。


「さて、どれにするべきか…………パタにショーテル、カスカラ、バスターソード、フランベルジュ。ツヴァイハンダー、フィランギ、シャムシール。バックソード、ブロードソード、タコーパにメッサ―。タルワール、それとクレイモア。う~む、悩むぞ。まずブロードソードを使うとして、次に使うべきは…………」


「そんなことは如何どうでも良いわい。なんならわしが選んでやろうか?」


「それは駄目だ! 魔法を使う度に武器がなくなってしまうんんだぞ、値段も考慮してきちんと選ばなければ俺は破産してしまうんだ! 毎回戦闘の度に武器を失てしまっては、俺だけ毎回赤字じゃないか! 大量生産品だって結構高いんだからな!」


「はぁ、なんか大変なんだねぇ。でもさぁマルクス、何時までも此処に止まってたら不味いんじゃないのかなぁ?」


「だから今グリア―デに頑張って貰ってるんじゃないか。彼女が頑張ってくれれば、俺達も早く進めるんだからな」


 今ロープで縛り上げたグリア―デで馬車を引かせている。
 馬の代わりにしているのだが、全くと言っていいほど進んでない。
 一応罰の意味が強いので頑張ってもらいたいところだ。
 本当に全然進まないので、今はセリィとラクシャーサが手伝ってやっている。
 荷台を引っ張るグリア―デの前で、彼女をグッと引っ張っていた。


「ちょっと、そんなに引っ張らないでください! な、内臓が出そうです! もう少し手加減をして…………」


「セリィ、もうちょっと強く引っ張ろう! この女には酷い目にわされたんだからね! もう思いっきり引っ張っていいんだよ!」


「ん! セリィ頑張る!」


「んにああああああああああああ!」


 人より強いエルフの力により引っ張られ、グリア―デは妙な悲鳴をあげている。
 その内ショック死でもされても困る、助けてやるためにも、剣を選ばなければ。
 ブロードソードと、パタを選んだ俺は、腰に火炎ひえんを差したまま、二本を腰に差すのだった。
 少々重いし動き辛いが、戦う為には必要なのだ。
 俺の悩みを分かってくれる奴は少ない。
 このドル爺も、全く分かってくれないのだ


「どうせ腰に差しとるんだ、その刀を使えばいいではないか? 使ってやらなければ武器にも失礼だろうに」


「それは違うぞドル爺。ちゃんと武器に合った敵に使わなければ、剣が欠けたりするじゃないか。そうなったら大変だろう。もう一本買いなおしたり、修理にださないとならないじゃないか!」


「修理よりも魔法の為に取っておけば良いではないか。ストックがあれば悩む事もないだろう」


「何を言っているんだ! 多少欠けたからといって、それが壊していい理由にはならないぞ!」


「ああもう、その話はもういいわい。それよりあの娘が不味そうだぞ、そろそろ助けた方がいいんではないか?」


 今はもう声さえ聞こえない。
 俺はどうなってるのかと覗いてみると、彼女は気絶して、体をカクカクしている。
 ちょっとやり過ぎたか?
 じゃあそろそろ止めてやるとするか。


「お~い、もうそろそろ許してやれ。それ以上やると本当に死ぬぞ」


「ん、そうか? じゃあ止まるぞセリィ、今度は皆で引っ張るよ」


「ん!」


 彼女が引っ張られるのが止められて。
 念の為に回復魔法をかけてやると、彼女はハッと目を覚ました。


「いやあああああああ!」


 俺達の顔を見ると、普通に逃げ出そうとしている。
 だが引っ張るのを止めただけで、ロープは解いていない。
 繋がれたロープと荷台の重さで、彼女は後に引き倒されてしまう。


「ギャッ!」


 一応受け身は取ったらしく、怪我もしていない。


「お~い、もう許してやるから、俺達と一緒に荷台を引っ張ってもらうぞ。まあ安心しろ、今度は普通に引っ張るだけだ」


「ほ、本当ですか……? 私の体を弄んで、口に言えない様な事をして、最後には奴隷として売り払う気じゃないんですか?!」


「あのなぁ、俺達をどう思ってるのかしらんが、そんな事はしない。出来ればお詫びとして武器を何本か買って貰いたいが、今のあんたにはそんな金はないだろう。まあそれは諦めるとして、このままこの場所に留まるのも危険だし、町はまだ遠いんだ。皆の荷物も置いて行けないから、一緒に手伝ってくれないか」


「…………分かりました。でももう二度と私に手を出さないでくださいね」


「ああ、約束しよう。また変な事をしない限りはだが」


 やけに素直に納得したグリア―デは、今後何かたくらんでいるのかもしれないが、今は彼女と和解して、全員で車輪つきの荷台を引っ張って行くのだった。
 かなりの移動距離を移動し、道中の激戦の為に、俺はブロードソード、パタ、メッサ―とフィランギまで失ってしまう。
 残りの剣は十本と、腰に差す火炎ひえんだけである。
 つまり、あと十一本しかないのだ。
 このままでは帰るまでにも武器が足りなくなる。
 いや、絶対に足りない。 
 その剣が欲しくてたまらない俺と、仲間達は、この鉄銀の町へ辿たどり着いた。


「ふう、やっとたどり着いたわい。マルクスよ、まだ予定の日程までは日があるのだろう? 休憩がてら、一度この町で休まぬか?」


「はぁ、確かにねぇ、私も休む野に賛成だ。明日辺りに体が不味い事になっていそうだしさ」


「俺も賛成、もう死ぬよこれ」


「セリィ、元気!」


「うん、頑張ったねセリィ、でも今日はお休みだよ。こんな日にまだ働けなんて言わないよなマルクス?」


「そうだな、俺も色々やる事があるからな。皆ゆっくり休むといい。だが明後日からはまた働いて貰うぞ
。その日までには疲れを残すなよ?」


「わかってるよ。じゃあ早速宿を探すぞ!」


 俺達は宿を探し、それぞれに自分の時間を楽しんだ。
 そして休憩を終えた日、この町を出発する前に、まだこの町でやる事がある。
 この町は名の通り、鉄や銀の採掘で成り立っている町だ。
 だからこそ鍛冶や武器屋にしても良質な物が多い筈である。
 剣を手入れするのも、手に入れるのも絶好なのだ。


 という訳で、俺はこの町で、今度こそ剣を買いたいのだが、手持ちの金がそんなにないのだ。
 っと、その前に、この町にまで運んだグリア―デをどうするのか、という問題がある。
 勝手に居なくなってくれればベストだったのだが、そうも行かなかった。
 この火炎ひえんを買ってしまった為に、金がないというのだ。
 だから返せというのだが、もちろん俺は火炎ひえん返すつもりはない!
 剣を買う為にも、彼女をこの町で降ろす為にも、どうにかして金がいる。
 もう一つ、馬車に繋ぐ馬の問題。
 これを解決しなければ、次の町に進む事が出来ない。




 だから俺は、この町で隊長権限を発動し、金を稼ぐと決めたのだった。



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