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秀典

36 小さく大きな物語23

 宿の庭で、急遽レッドマリン達との勝負が開催される事となる。
 レッドマリンは、大きな箱を用意して、その中にクジを入れるのだと。


「自分達の好きな競技を紙に書き、この箱に入れるといい。運がよければ有利になるかもしれないぞ」


 不正が行われない様に、勝負自体もクジ引きで決められるらしい。
 俺達と相手が自分の得意な競技を紙に書き、それを箱の中に詰めている。
 何が出るかは後のお楽しみだ。
 そんで五回戦を戦うのだが、まずはリッドが一番手を務めた。
 人数は一人足りないが、もう一回戦えば良いだろう。


「じゃあ頑張ってくるよ!」


「おう、行って来いリッド。どんな勝負だろうと勝ってこいよ!」


「任せたぞリッド、私は応援している」


「行ってらっしゃいリッド、私にいいところを見せるのよ!」


「任せといて!」


 ドンと胸を叩いて、リッドが勝負の場へと進み出た。
 相手はレッドマリンの部下で、生意気そうな黒髪ボブの女だ。


「フンッ、掛かっていらっしゃい坊や。この私に勝てるのかしら?」


 リッドのことを見下げて、不適そうに笑っている。
 そして今から勝負の方法が決められるらしい。
 レッドマリンが箱から一つの紙を引き当てた。


「さて、この紙には勝負の方法が記載されている。何が出ても文句は聞かんぞ。では勝負の方法は…………何だこれは、変顔対決だと?」


 変顔対決?
 こんな場面で、そんな勝負を入れる奴は、俺は一人ぐらいしか思い浮かばない。
 たぶんリッドが書いたのだろうと予想したが、やはりその通りだったらしい。


「あ、それ、僕が入れたやつだ。より面白い顔をした方が勝者だよ!」


「…………参りました」


 そんな勝負が始まる前に、対戦相手の女は降参してしまった。
 よっぽどやりたくなかったのだろう。
 そんな態度に、レッドマリンが怒り出す。


「おい! まだ始まってもいないだろうこの私に恥をかかせる気か!」


「でもでも、私はそんな事やりたくありません! じゃあ誰か他の人が変わってくださいませんか?!」


「「「「………………」」」」


 レッドマリンを含め、相手側は誰一人手を上げない。
 結局相手は何もせずに負けを認めて、俺達が一勝いっしょうした。
 自分もやりたくなかったレッドマリンは、大人しく負けを認め。


「今回だけは負けを認めてやろう。だが次の勝負はこうはいかんぞ! プニトニーお前が行け!」


「はい、レッドマリン様!」


 引き続き二つ目の勝負が行われるらしい。
 プニトニーと呼ばれた女がが前に進むと、此方からはストリアが進んだのだ。
 相手は女だが、かなり良い体格をした奴で、ストリアと比べると、一回りぐらい違う。
 力勝負となったら不味いかもしれない。
 レッドマリンが次の競技を引こうとするが。


「では次の競技に移るぞ。さて次の競技は…………」


「待て!」


 それをストリアが止めたのだった。


「先ほどは其方が引いたのなら、今度はこちらが引かせて貰うぞ」


「…………いいだろう。好きな物を選ぶといい」


 箱の中に手を入れるストリアは、二つに折り畳まれた紙を取り出した。
 その紙を開き、ストリアがニヤついている。
 何だか嫌な予感がする。


「ふッ、私は引き当てたぞ! 次の勝負は、レティに好きだと言われて、耐えられなくなった方の負けだ!」


「おい待て、一体なんだその勝負は?! 俺に何をさせる気だ!」


「ふっ、この紙に書いてある通りだ。レティが私に…………私達を口説いて耐えられなくなったら負けとなるゲームだ!」


 相手も微妙な顔をしているが、好きな競技を入れろと言った手前、文句を言ってはこなかった。
 座った二人を相手を何故か口説く事になってしまう。


「え~っと、可愛いなストリアとプニトニー」


「違う! もっと気持ちを込めないと、駄目だぞレティ! もっともっと、私への愛を叫ぶんだ!」


「え~…………はぁ、二人共綺麗だな~」


「違うぞレティ、もっとこう、愛してるとか、今日の夜に抱きに行くとか言ってくれないと困る! 私の特徴をめてくれても良いのだぞ!」


 こんな時に自分の欲望を満たそうとするな!
 だが勝つ為には言わなきゃならないのか?
 因みにプニトニーの方は微妙に照れている。
 言われなれてないのだろう。
 一応勝つチャンスだし、もう少し真面目に言った方がいいのだろうか?


「ふぅ……いいかストリア…………とプニトニー。俺は君の事をずっと前から好きだったんだ。今直ぐ君を抱きしめたい。どうだろう、今夜あたり俺と一緒に夜のデートでもしてみないか?」


「レティ、私はその言葉を待っていたぞ! フフフ、今日の夜は忙しくなりそうだ。早速今から準備しないと! 勝負は私の負けで良い。私はちょっと買いたい物があるから、町へ出掛けて来るぞ!」


「お~い! 行ったって俺はしないからな!」


 ストリアは走って何処かへ行ってしまった。
 一体何を買いに行くというのだろう。
 ただ勝負の為に言っただけだというのに。
 残された俺は、軽くプニトニーさんを見ると、何故だか頬を赤らめてこう言ったのだった。


「…………わ、私も、夜は空いているのよ」


「いや本気にされても困るんだけど」


 ストリアが先に何処か行っちゃったから、結局俺達の負けとなり、三戦目の勝負が始まる。
 今度はリーゼさんが出ることとなり、対戦勝負が決まるのを待っていた。


「さてと、私は一体何をすればいいのかしら? 出来ればあんまり難しいものじゃない方が良いわね」


「慌てずとも今直ぐに教えてやるわ! さあデルダイアよ、お前の出番だ!」


「はい、レッドマリン様。このわたくしが必ずや勝利を持ち帰って参ります!」


 そのお姉さんは、少しおとなしい感じの、落ち着いた雰囲気の女性だった。
 ゆったりとした服を着て、長い茶色の髪を肩に回している。
 その女性が前に出ると、次の勝負が読み上げられた。
 勝負は、東の国に伝わるという華道というものらしい。
 だがリーゼさんは困っている。
 まあした事がないのは知ってるけど。 


「え~っと、華道って何? 私そんなもの聞いた事がないんだけど…………」


 そんな困っているリーゼさんに、対戦相手のデルダイアさんが、親切に説明をしてくれるのだった。


「華道とは、美しく花を飾り、そして活かす業なのです。人々を楽しませ、そして、場にあった花を活けるのも大事な事です。これはあの場にある剣山に花を差し、美しく飾り付けるお勝負です!」


「あ~、なんかめんどくさそうね。まあやってみるけど、多分勝てないわよねこれ」


 結果、善戦する気配もなく、何も良い所もなく敗れ去ったリーゼさん。
 一勝二敗と負けている中、この俺の番になったのだ。


「よっしゃ、じゃあ俺の番だな。でも俺達四人しかいないから、この勝負で二勝ってことにしていいか?」


「…………駄目だな。人数が居ないのならば、誰か連れて来るのだな。それと、一度戦った者は認めないぞ。そうでなければ公平とは言えないからな。もし私が三度出れば、確実に全て勝ってしまうだろう?」


 言われてみればちょっとズルいのか?
 だが此処に俺達以外の人間は居ない。
 誰か一人連れて来なければ!


「うを~、しょうがない。リッド、ローレンシアさんを呼んで来てくれ!」


「え~っとレティ、言いにくいんだけど、勝負が始まる前に出て行くのを見たよ。もう結構時間が経ってるし、探すのは無理じゃない?」


「はぁ? マジか!」


 どうしようもなくなった俺達だが、そんな俺達を見かねて、一人の人物が現れたのだ。


「ふはははははは、困っている様だなレティ。はあああああ、とおおおう!」


 何処からともなく声がして、俺は周りを見渡した。
 すると屋根の上にシュタッと着地する人物が見える。
 宿屋の屋根の上に現れたのは、青い仮面を被った、どうみてもバールにしか見えない奴だった。
 声も同じだし。






 誰も居ないし此奴で良いかと、諦め半分で引き込むことにした。



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