一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

31 一人と皆と第三者。

 スコルピオの部屋の中。
 ウレンの立ち合いにより、色々と部屋の中を見て行ってる。


「おい、なんて物を見せるんだ、私はそんなところを探さないぞ! 探すんなら男三人でやって!」


 開けたクローゼットの中には、スコルピオの下着の数々が並んでいる。


「まあわしも触りたくないな。おいガルス、ちょっと手を突っ込んでみてくれ」


「絶対嫌だよ! そんな場所には何もないよ! ほら、えっ~と、あの、盗賊が下着なんて狙うはずがないじゃないか」


「確かにそうだな。ウレンさん、俺達は盗賊に狙われそうな物を探しているんだ。何か狙われそうな物を知らないか}


 ウレンは少し悩んで、俺の言葉に答えた。


「そうですね、例えば宝石や宝剣の類でしょうか。売ればとんでもない金額になったりしますからね。剣は美術品の価値も高いでしょう。狙うならばその辺りなんではないですか?」


 ウレンはそう答えて、グリア―デの顔を見ている。
 盗賊とバレたかと思ったが、そういう感じではないらしい。
 一目ぼれでもしたのか?


 その見つめられているグリア―デが、ウレンに案内をお願いした。


「ではその場所へ案内をお願いします!」


「はい、了解しましたグリア―デ様」


「………………」


 彼女は髪型や服装を変えて変装をしているのだが、ウレンは彼女の名前を言い当てた。
 グリア―デは領主の娘だというので、知ってる人物は居てもおかしくない。
 だとすると、こちらの狙いを読まれているのか?
 あまり状況はよくないな。


 一度撤退したいが、その場所は知っておきたい。
 俺達はウレンの案内で、宝物庫へ案内されて行く。
 その道中にも色々な人が働いているのが分かる。
 掃除をしている人達も、とくには不満もなさそうだ。
 宝物庫へ到着すると、二人は躊躇うこともなく、その宝物庫の扉を開けてしまうのだった。


「これは中々のものだね。領主様って儲かるんだなぁ」


「おお、宝物庫というだけはあるわい。中々の品ぞろえだな」


「セリィあれほしい!」


「これは人の物なんだから取ったら駄目だよ」


 宝物庫の中には、宝石や絵画、彫刻から色々な物が入っているのだが、一番目を引くのは正面の壁に掛けられている宝剣だ。
 ジョワユーズという剣をベースに、柄の部分には宝石が幾つもあしらわれ、とても持ちにくそうになっていた。
 刃の部分にも幾つか穴が開き、金の鎖が垂れさがっている。
 その鎖の先端にはハート型のくさびのような物が。
 これでは斬り付けても鎖が邪魔で、敵にダメージが与えられない。
 俺としては残念だが、剣としての機能は殆ど失われているのだ。


 その剣を見て、グリア―デが駆けだそうとするのだが、ウレンとカルージャにより進路をふさがれてしまったのである。


「………………!」


「グリア―デ様、やはり貴女にはこの町を任せる訳には参りません。貴女は人を見ておられない。我らのことも覚えては居ないのでしょうね」


「貴方達は一体誰なの!」


 驚くグリア―デにウレンが表情を崩さず、それに答えた。


「先ほど名乗ったでしょう。俺達はウレンとカル―ジャだと。まさか、この顔と名前をご存知ないのですか? 貴女が小さい時からお仕えして来た私達を。確かに私達は貴女のそば付きではありませんでしたが、何度も放したこともあったでしょう!」


「そんな人達知りません!」


「ふん、だから貴女は切られたんですよ! この屋敷の中の使用人は、一人残らず貴女の小さい頃から知っている人達なのですよ。誰一人気付かなかったのですか?!」


 話を聞く限り、グリア―デを裏切ったのはスコルピオではなく、この屋敷の、いや、グリア―デの使用人達なのだ。
 恐ろしく人望がなかった彼女に、愛想を尽かしたのだろう。 
 予想だが、ここまでなったのはグリア―デだけが原因じゃない気がする。
 先代の父親の頃から、あまりよく思っていなかったはずだ。
 たとえ彼女が領主の座を取り返したとしても、ここまで人望がなければ無理だな。


 このままグリア―デに付き合っても勝ち目がない。
 スコルピオには不正はなく、人望もある。
 そして盗賊を捕まえられなければ町に閉じ込められる。
 だとすると、俺達がとるべき行動は…………


 俺はグリア―デの後ろに近づき、襟首を掴むと、仲間へと命令を下した。


「ドル爺、ガルス、グリア―デを拘束するぞ!」


「なッ! 前金も支払ったのに、私を裏切る気!」


「まあ、仕方ないのう」


「じゃあ覚悟してね!」


「わ、私に酷いことをする気なの?! や、やめて、いやああああああああ…………」


 暴れるグリア―デを拘束し、余計な事を喋らせないように猿轡をした。
 そんな俺達を信用せず、ウレンとカル―ジャは剣を向けている。


「今更仲間割れですか? そんなことをしても無駄ですよ。彼女は此処で捕まって…………」


「俺達は彼女の仲間じゃありませんが、このまま彼女を突き出してしまえば命も危ういでしょう。それは貴方達も望まないんじゃないですか? 彼女のことは小さな頃から知っているのでしょう。本当にそれで良いと思いますか?」


「何を…………」


「ワルザーさんとの交渉を、俺達に任せてください。なんとか両方が納得する方法を考えてみますので」


「………………」


 あまり納得はして貰えなかったが、スコルピオの元へ向かっている。
 因みに、ウレンとカル―ジャが俺達に剣を向けていたりして、まだ全く信用されていない。
 その部屋の中、スコルピオは優雅にティーを飲んでいる。
 まずはこちらの状況を伝えなければ。


「ワルザーさん、盗賊の女を掴まえました」


「ほう、ご苦労。では下がってよいぞ」


「いえ、もう少し話すことがあるのです。俺の話を聞いてはもらえませんか?」


 スコルピオはグリア―デを見下ろし、それを承諾した。


「ふむ、よかろう。貴様等の言いたいことを言ってみるがいい。その代わり、もし私が納得出来なければ、お前達も罰を受けてもらうことになるぞ」


「はい、じつは彼女は、この町の前領主の娘で、名をグリア―デというのです。継承の儀のごたごたで彼女がその資格を失ったのはご存知ですよね?」


「いや、私は前任の人物のことは何一つ知らぬな。その娘が前領主の娘だということも今初めて知ったわ。だがその女にどんな理由があるとしても、この私の地位を脅かすものは許さん。当然罰を受けてもらうぞ」


「いえ、どうも地位を奪ったのはワルザーさんの方で、このグリアーデという女性は被害者でして、罰を受けるのならワルザーさんの方ではないでしょうか?」


「何を言っている! 何故私が罰をうけなければならないのだ! まさか私を嵌めようとしているのではないだろうな!」


「ワルザーさん、少し落ち着いて話を聞いてください。ワルザーさんがやったわけではありませんが、彼女を嵌めて地位を奪ったのは、この屋敷に居る使用人全てです。彼等を雇っている貴方にも責任はあるんじゃないですか? 最初から仕組まれていた、そう思われても仕方ないでしょう」


 ワルザーはウレンとカル―ジャを一瞥し、もう一度こちらに向き直る。


「…………なるほど、この私に責任があるとはそういうことか。しかし私は指示した覚えもなく、話を聞いたこともない。今更剣を奪った所で、領主の座など奪えるはずもないだろう。それとも私が指示した証拠でもあるというのか?」


「いえ、ないですね。ですがそういう疑念をもたれて貴方は狙われたのです。そんな使用人を雇ってしまった不運と思って、ここは諦めてはくれませんか?」


 スコルピオは目をつぶり考えを巡らせている。


「…………駄目だな。理由がどうあれ盗みを働く者は許さん。盗みをしても許されると噂が立てば、この町の治安が危うい。今後どうなるのか分からんからな」


 やはり駄目か。
 俺は諦めようとしていたが、スコルピオは言葉を続けた。


「我が屋敷を襲撃するような奴は、本来打ち首でも足りぬが…………だが、そうだな……多少の恩情を掛けてやってもいい。屋敷の使用人の罪を差し引いて、グリア―デ、貴様にはこの町からの退去を命じる。今日中に荷物を纏めて町から出て行くがいい!」


「どうも、恩情感謝します」






 俺は激しく暴れるグリア―デを担ぎ、この町からの出発の準備を始めた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品