一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
8 小さく大きな物語16
精霊の森の中は、不思議な生物で溢れていた。
空中を飛び回る小さい妖精のような奴が、たまに顔面に飛び蹴りして、そのまま去って行く。
そう痛くはないのだが、何かすごいムカつく奴だ。
そして今も、俺の顔にだけに蹴りが飛んできている。
「何だこの森! 何でこんなに人をムカつかせるんだ! あれも魔物なんだろう、ぶっ潰してやろうか!」
俺は手を上げて、それを叩き落そうとするのだが、顔を隠した女に行動を諫められた。
「やめておけ、あれを攻撃すると百倍になって返って来る。どうなっても良いというなら止めはしない、でも全員巻き込まれる」
「えっ、そうなのか?」
一応聞いておこうと、叩き落そうとした俺の手が止まった。
本当だったら危うい所だった。
もう少しで攻撃してしまう所だった。
しかしおかしな森だ、この森の中にいるのは全部魔物だと思うのだが、それ程怖い奴だとは思えない。
俺の知ってる魔物なら、あんなぐらいの小さい奴でも、人と見たら我武者羅に襲い掛かって来るのだが。
…………まさか魔物ではないのだろうか?
俺はフヨフヨと漂う丸い虹色の物体に手を伸ばし、軽く手を触れてみた。
「おい、それに手を振れると、痺れて爆発するぞ」
「えっ? ぎゃッ!」
触れた掌から死なない程度の電撃が流れ、ボンと破裂したのだ。
だが爆発と言ってもそう大したものではない。
空気が弾けて、爆風が起きる程度だが、俺は仰け反り、気絶してしまった。
「おいレティ、意識をしっかりもて! リッド、早く治療を頼む!」
「ああ、直ぐにやるよ!」
そんな俺はストリアとリッドに荷台に運ばれ、寝かされているらしい。
馬車が石を踏んだ衝撃でハッと目を覚まし、リーゼさんに状況を聞いてみた。
「リーゼさん、皆無事か?! あの丸いの触れると爆発するぞ!」
「ああ、私も見てたから知ってるわよ。でもレティ君、分からないものには触れては駄目よ。さっきみたいになるからね」
「リーゼさん、そういうことは先に言って欲しかった…………」
「あらレティー君ったら、私が教えた事をもう忘れたのね。そういう事もキッチリ教えていたはずだけど、もう一度叩き込んだ方が良いのかしら?」
「いや大丈夫! 俺はちゃんと覚えているから!」
「ふ~ん、だったらいいんだけどね」
そういえばそんな事も言っていた気がする。
実はあんまり覚えていないが、メモには残してある。
後でもう一度読み直してみよう…………
俺は馬車から身を乗り出して外を見ると、森を抜ける所だった。
抜けるといっても出れた訳ではなく、その中の村に着いたらしい。
ただし、小さな子供から大人まで、全員この女と同じ格好をしている。
徹底的に凄く怪しい。
そんな掟でもあるのだろうか?
「あ、やっと起きたんだねレティ、ずっとピクピクしてたから危ないと思ったけど、無事で良かったよ。ストリアなんてすっごい心配してたんだよ?」
「当たり前だろうリッド! レティが居なくなったら私の将来はどうなるんだ! 二人の幸せな家庭の夢が台無しだろう!」
おう…………そんな事を思っていたのか……
しかし俺には、シャインという心に決めた人が居るんだ、キッパリ諦めてくれストリア。
「今日森を出るのは無理だって言われたから、今晩はこの村で泊めてくれるらしいよ」
「この村で泊まるのか?! 大丈夫か此処? すんごい怪しいんだけど」
「安心しろレティ、もし何かあったら私が護ってやるぞ!」
「うん、まあその時はよろしく」
俺達の話を聞いていたこの女は、特に気にした様子もみせない。
気にしすぎだったか?
「話はついたか? じゃあ私の家に案内してやる。家からは一歩も出るな。約束を破ったら、森の出口まで案内はしない」
「ああ、分かったぜ!」
そして俺達は、いまだに名前も名乗らない女の家に泊まったのだった。
女の家は木材と葉っぱで作られた物で、窓や隙間は閉じられ、囲炉裏の炎の灯りが部屋の中を照らしている。
通気性は凄く良く、風が中に入り込んでいるし、手の届かない高い場所には煙を逃がす窓もつけられている。
まあ煙で中毒になったりはしないだろう。
そして案内してくれた女は、勝手にやれと出て行ってしまった。
見も知らない俺達に付き合う程、お人好しではないのだろうな。
馬車から持ち込んだ食料で食事を作り、ある程度警戒しながら俺達は眠りにつくのだった。
「じゃあ寝るかレティ、ちょっと寒いかもしれないし、私が添い寝でもしてやろう」
「いや大丈夫だストリア、俺は馬車でも一人で寝てたんだし、このぐらいなら程よく丁度良い。まあ寒いのならリーゼさんにでもしがみ付いて寝せて貰え」
「私は構わないわよストリアちゃん。じゃあ一緒に寝ましょうか」
「いや違う、私は寒いんじゃなくて!」
「じゃあおやすみー」
「こら、寝るなレティ!」
そんなこんなで、安心して眠りについた俺達だが、俺はその夜目を覚ました。
他の皆はグッスリと眠っている。
特に何も問題はない。
俺はというと、まあ何の事はない、ただちょっと尿意をもようしただけだ。
トイレを家の中で探すが、特にそのような物は見つからない。
そんな造りもしていないし、家を借りているのに漏らすのは不味い。
「い、家の中にはないのか?」
もう一度見渡してもやっぱり見つからなかった。
俺は仕方なく家の扉に手を掛けるのだが、
ガチャ、ゴッ、
押しても引いても、ガンガンやっても全く開いてくれなかった。
まさか家から出られない様に鍵でも掛けたのだろうか?!
あの女なら有り得るかもしれない!
ハッキリ言って、どう考えても朝までもたせられないぞ!
皆が気持ちよく寝ている所に悪いが、俺はこのままでは漏らしてしまう。
これは超緊急事態だ。
ちょっと声を上げさせてもらおう!
「おい、ちょっと、誰か居ないのか?! 此処を開けて! 俺トイレ行きたいんだけど! ねぇ、誰か居ないのか?! おい、コラ、返事をしろ! 俺の沽券に関わる重要な事態なんだ、誰か返事を! 誰かあああああああああ!」
「…………一体なに? 敵でも来たの?」
「えっ? なに? 如何したのレティ!」
「まだ夜なんじゃないのか? 流石に迷惑だぞ」
まあそんな叫びを聞けば、寝ている全員はバッと起きてしまう。
それは日頃の訓練の賜物なのだが、こんな時は目覚めなくても良いと思うんだ。
だが俺はそんな事を言ってる余裕はない!
俺はトイレを求めて扉を叩き続けたのだった。
「うおおおおおおおおお、俺をトイレに行かせてください! 謝っても良いです、お願いします、トイレをください!」
「はっ? レティ君トイレに行きたいの? そんな事で騒がない…………ん? トイレないのこの家? …………ないと分かるとちょっと行きたくなって来たり…………」
「ぼ、僕も行きたくなってたり…………」
「…………私も…………」
「「「「 誰か、開けてください! 」」」」
絶対聞こえているはずだが、そんな騒ぎをしていても、誰も扉を開けてはくれなかった。
「…………これは仕方ないわ。扉を壊わしましょう! 私達はこんな所で終わってはいけないもの!」
「確かにそうだ、俺達には未来があるんだ! 行くぞストリア、リッド! 未来の為にこの扉をぶち壊すぞ!」
「ああ任せろレティ!」
「うん、仕方ないよね!」
俺達は未来の為に、邪魔な扉をぶち壊し、それぞれに違う道に進んで行くのだった。
空中を飛び回る小さい妖精のような奴が、たまに顔面に飛び蹴りして、そのまま去って行く。
そう痛くはないのだが、何かすごいムカつく奴だ。
そして今も、俺の顔にだけに蹴りが飛んできている。
「何だこの森! 何でこんなに人をムカつかせるんだ! あれも魔物なんだろう、ぶっ潰してやろうか!」
俺は手を上げて、それを叩き落そうとするのだが、顔を隠した女に行動を諫められた。
「やめておけ、あれを攻撃すると百倍になって返って来る。どうなっても良いというなら止めはしない、でも全員巻き込まれる」
「えっ、そうなのか?」
一応聞いておこうと、叩き落そうとした俺の手が止まった。
本当だったら危うい所だった。
もう少しで攻撃してしまう所だった。
しかしおかしな森だ、この森の中にいるのは全部魔物だと思うのだが、それ程怖い奴だとは思えない。
俺の知ってる魔物なら、あんなぐらいの小さい奴でも、人と見たら我武者羅に襲い掛かって来るのだが。
…………まさか魔物ではないのだろうか?
俺はフヨフヨと漂う丸い虹色の物体に手を伸ばし、軽く手を触れてみた。
「おい、それに手を振れると、痺れて爆発するぞ」
「えっ? ぎゃッ!」
触れた掌から死なない程度の電撃が流れ、ボンと破裂したのだ。
だが爆発と言ってもそう大したものではない。
空気が弾けて、爆風が起きる程度だが、俺は仰け反り、気絶してしまった。
「おいレティ、意識をしっかりもて! リッド、早く治療を頼む!」
「ああ、直ぐにやるよ!」
そんな俺はストリアとリッドに荷台に運ばれ、寝かされているらしい。
馬車が石を踏んだ衝撃でハッと目を覚まし、リーゼさんに状況を聞いてみた。
「リーゼさん、皆無事か?! あの丸いの触れると爆発するぞ!」
「ああ、私も見てたから知ってるわよ。でもレティ君、分からないものには触れては駄目よ。さっきみたいになるからね」
「リーゼさん、そういうことは先に言って欲しかった…………」
「あらレティー君ったら、私が教えた事をもう忘れたのね。そういう事もキッチリ教えていたはずだけど、もう一度叩き込んだ方が良いのかしら?」
「いや大丈夫! 俺はちゃんと覚えているから!」
「ふ~ん、だったらいいんだけどね」
そういえばそんな事も言っていた気がする。
実はあんまり覚えていないが、メモには残してある。
後でもう一度読み直してみよう…………
俺は馬車から身を乗り出して外を見ると、森を抜ける所だった。
抜けるといっても出れた訳ではなく、その中の村に着いたらしい。
ただし、小さな子供から大人まで、全員この女と同じ格好をしている。
徹底的に凄く怪しい。
そんな掟でもあるのだろうか?
「あ、やっと起きたんだねレティ、ずっとピクピクしてたから危ないと思ったけど、無事で良かったよ。ストリアなんてすっごい心配してたんだよ?」
「当たり前だろうリッド! レティが居なくなったら私の将来はどうなるんだ! 二人の幸せな家庭の夢が台無しだろう!」
おう…………そんな事を思っていたのか……
しかし俺には、シャインという心に決めた人が居るんだ、キッパリ諦めてくれストリア。
「今日森を出るのは無理だって言われたから、今晩はこの村で泊めてくれるらしいよ」
「この村で泊まるのか?! 大丈夫か此処? すんごい怪しいんだけど」
「安心しろレティ、もし何かあったら私が護ってやるぞ!」
「うん、まあその時はよろしく」
俺達の話を聞いていたこの女は、特に気にした様子もみせない。
気にしすぎだったか?
「話はついたか? じゃあ私の家に案内してやる。家からは一歩も出るな。約束を破ったら、森の出口まで案内はしない」
「ああ、分かったぜ!」
そして俺達は、いまだに名前も名乗らない女の家に泊まったのだった。
女の家は木材と葉っぱで作られた物で、窓や隙間は閉じられ、囲炉裏の炎の灯りが部屋の中を照らしている。
通気性は凄く良く、風が中に入り込んでいるし、手の届かない高い場所には煙を逃がす窓もつけられている。
まあ煙で中毒になったりはしないだろう。
そして案内してくれた女は、勝手にやれと出て行ってしまった。
見も知らない俺達に付き合う程、お人好しではないのだろうな。
馬車から持ち込んだ食料で食事を作り、ある程度警戒しながら俺達は眠りにつくのだった。
「じゃあ寝るかレティ、ちょっと寒いかもしれないし、私が添い寝でもしてやろう」
「いや大丈夫だストリア、俺は馬車でも一人で寝てたんだし、このぐらいなら程よく丁度良い。まあ寒いのならリーゼさんにでもしがみ付いて寝せて貰え」
「私は構わないわよストリアちゃん。じゃあ一緒に寝ましょうか」
「いや違う、私は寒いんじゃなくて!」
「じゃあおやすみー」
「こら、寝るなレティ!」
そんなこんなで、安心して眠りについた俺達だが、俺はその夜目を覚ました。
他の皆はグッスリと眠っている。
特に何も問題はない。
俺はというと、まあ何の事はない、ただちょっと尿意をもようしただけだ。
トイレを家の中で探すが、特にそのような物は見つからない。
そんな造りもしていないし、家を借りているのに漏らすのは不味い。
「い、家の中にはないのか?」
もう一度見渡してもやっぱり見つからなかった。
俺は仕方なく家の扉に手を掛けるのだが、
ガチャ、ゴッ、
押しても引いても、ガンガンやっても全く開いてくれなかった。
まさか家から出られない様に鍵でも掛けたのだろうか?!
あの女なら有り得るかもしれない!
ハッキリ言って、どう考えても朝までもたせられないぞ!
皆が気持ちよく寝ている所に悪いが、俺はこのままでは漏らしてしまう。
これは超緊急事態だ。
ちょっと声を上げさせてもらおう!
「おい、ちょっと、誰か居ないのか?! 此処を開けて! 俺トイレ行きたいんだけど! ねぇ、誰か居ないのか?! おい、コラ、返事をしろ! 俺の沽券に関わる重要な事態なんだ、誰か返事を! 誰かあああああああああ!」
「…………一体なに? 敵でも来たの?」
「えっ? なに? 如何したのレティ!」
「まだ夜なんじゃないのか? 流石に迷惑だぞ」
まあそんな叫びを聞けば、寝ている全員はバッと起きてしまう。
それは日頃の訓練の賜物なのだが、こんな時は目覚めなくても良いと思うんだ。
だが俺はそんな事を言ってる余裕はない!
俺はトイレを求めて扉を叩き続けたのだった。
「うおおおおおおおおお、俺をトイレに行かせてください! 謝っても良いです、お願いします、トイレをください!」
「はっ? レティ君トイレに行きたいの? そんな事で騒がない…………ん? トイレないのこの家? …………ないと分かるとちょっと行きたくなって来たり…………」
「ぼ、僕も行きたくなってたり…………」
「…………私も…………」
「「「「 誰か、開けてください! 」」」」
絶対聞こえているはずだが、そんな騒ぎをしていても、誰も扉を開けてはくれなかった。
「…………これは仕方ないわ。扉を壊わしましょう! 私達はこんな所で終わってはいけないもの!」
「確かにそうだ、俺達には未来があるんだ! 行くぞストリア、リッド! 未来の為にこの扉をぶち壊すぞ!」
「ああ任せろレティ!」
「うん、仕方ないよね!」
俺達は未来の為に、邪魔な扉をぶち壊し、それぞれに違う道に進んで行くのだった。
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