一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

12 小さく大きな物語13

 ラグナードに到着した俺達は、足りない物を買い出しして直ぐに出発しよとしていた。
 しかしそれはリーゼさんに止められ、俺達四人は手分けして、この町の状況を確認している最中である。


 それも四国合同で王国へ攻め入るという今の状況を確認したい為なんだけど、町中に変わったものはみられなかった。
 町中は平和そのもので、多くの兵士が歩き回るとかそんな事もない。


 ブリガンテと多少違う所があるとすれば、この町全体の建物の色だろう。
 殆どの建物は淡い水色で、赤や緑で文字の様なマークが描かれている。
 そんな町中を歩き続ける俺だけど、まず如何調べれば良いのかと悩んでいた。


「やっぱり城を見た方が分かり易いのかなぁ?」


 遠くに見える城を見上げるが、こんな旅の冒険者に見学させてくれる場所ではない。
 透明にでもなれたらと思うのだけど、そんな魔法は俺には使えないし、そもそも魔法ってどう覚えるんだろうと思うてしまう。
 まあ俺はそんなレベルだった。


 今度リッドに話を聞くのも良いかもしれない。
 まあ一回城に向かってみようと歩き出した俺は、その道中を進んで城の前に到着した。
 その城門前で城を見ている俺なのだけど、門を護って槍を持っている兵士に、ジッと見られている。


「………………」


 ちょっと右を歩いても、左に移動しても、その視線は俺に向けられたままだ。
 どうしよう。
 ちょっと話しかけてみようか?


「あ、あの~…………」


 カチャっと槍を向けて、それ以上動くなと言われている気分だ。
 もう一歩でも前に出たら襲い掛かられる。


「城の中って見せて貰う事って、できないですよね?」


「………………」


「で、ですよね~」


 これ以上刺激しないように後に下がり、俺は町中へと戻って行った。
 このまま馬車に戻るのもしゃくなので、もう少し町の中をプラプラしていると、建物の角を曲がろうと足を踏み出したら、俺の体にパンをくわえた女の人がぶつかって来たのだ。


 桃色の髪、俺と同じぐらいの年齢、そして何となく何処かの学校で見た事がある服装を着たその彼女は、尻もちをついて地面に倒れている。


 なんだろう?
 もの凄くベタな展開な気がする。


「痛ぁい……もうっ、気を付けてよ!」


「あ、悪い、ちょっとボーっとしていて気付かなかったんだ。ごめんな。ほら、手を貸してやるよ」


 両足を広げ、そのスカートの隙間から、チラリと白い物体が見える彼女に、俺は視界に映るそれを仕方なく眺めながら、その彼女へと手を伸ばした。


 いや待て!
 白の中に、うっすらと赤いシミが!
 完全に視線をらせなくなった俺は、この女の術中にはまっていたのだった!


「ふっ、見たわね? 私のパンツを見たからには、この私の頼みを聞いて貰います! まさか断るなんてことはないでしょうね? そうするのだったらそうすれば良いですけど、ただし、今此処で大声で痴漢だと叫んでやるから!」


「ま、まさか、その赤い物も作り物だとでもいうのか?! 最初から俺をめる為に?!」


「フフフ、当然でしょう! 視線を逸らさせない為に、ワザと赤いインクをつけておいたのです! 馬鹿な男はパンツから目を逸らせず、罠に掛かると言う寸法です! 更に、この町に冒険者が来た事は直ぐに伝わっていて、貴方達の行動は逐一報告されていました! 今頃他の仲間達も私達の仲間に引き入れられている頃でしょう!」


 まさかそんな巧妙な罠があるとは!
 俺はこの事で世の中の広さを知ったのだった。


「じゃあ俺、急ぎの用事があるから。また今度話し合おう」 


「キャアアアアアアアアアアアア、痴漢よおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 関わらないでおこうと逃げようとする俺に、この女は俺の足にしがみ付き、躊躇ためらいなく大声で叫んだのだ。
 その為に町行く人達は振り向いて、俺達の方を見続けている。
 このままでは勝手に犯罪者にされてしまう。
 そんな冤罪は絶対ごめんだ。


「おい分かった、その頼みを聞いてやろう! だからもう叫ぶな! ちょっと、おいいいいいいいいい!」


「キャアアアアアアアアアアアむぐッ…………」


 この騒ぎに駆けつけて来た兵士に気づいた俺は、この女の口を塞ぎ、横に抱えながら走り出した。
 路地裏を滅茶苦茶に走り回って、何とかその兵士を回避したのだが、問題はこの女だ。
 俺が逃げたらまた叫びかねない。
 まずこの女に話を聞いて、よっぽど無茶な要求じゃなければ引き受けてみようかな。


「もう俺も観念した。お前の話を聞こうと思う。だからもう叫ぶなよ?」


 口を押えられながらうなずく女に、あんまり信用できないな~と思いつつ、それでもこのまま手で押さえるのは面倒になって、俺は女から手を放した。


「この私、ウェリス・クラウザーの元へようこそ。じゃあ早速働いて貰うわよ奴隷五号! この私と共に、このラグナードの王城を焼き払ってやるのよ!」


 なる程、この女はレジスタンスとかそんな感じの奴等なのだろう。
 しかも俺の事を奴隷三号とか言ってたから、まだメンバーも五人ぐらいしか居ないんじゃないだろうか? 
 俺は快くそれを受け入れ…………


「きゃあああああああああああ、テロリストよおおおおおおおおおおおおおおお! たっけてええええええええええ!」


 と全力で俺は叫んだ。
 すると異常なほどの速さで兵士達が集まって来て、俺の周りを取り囲んでしまうのだが、先ほどの女はもう居なくなっていた。


「おい貴様、テロリストというのは貴様だな?! よし、連行し…………」


「ち、違います! さっき女が居たんですけど、俺が叫んだら居なくなったみたいです! さっき叫んだのも俺だし」


「そうか、確かに同じような声をしているな? だったらその女の特徴を聞かせて貰おうか」


「はい喜んで!」






 俺はその女の特徴を徹底的に話し、この場から解放してもらえた。
 因みに、仲間と合流した俺だが、誰一人変な罠には引っかからなかったという。



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