一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 小さく大きな物語12

 ストリアは勝つには勝って、他の二人も治療をうけているのだが、宿の親父達にはそれが気に入らなかったらしい。
 今も誰が勝ったか言い合いをしている。


「今のは無効だ! 最後弓を使っていないじゃないか! それに使われたのは剣だ、剣の宿の勝ちだというのなら認めてやろう!」


「なにを言っておる! あの剣は盾の男の物だ。勝ったのは盾の宿だろうが!」


「違うわッ! 弓が勝ったに決まっているだろうが! 確かに最後だけは弓を使わなかったが、それはそれ、勝ちは勝ちだ!」


 結局何も解決しないままだが、宿に泊めて貰った恩は返した。
 また面倒になる前にリッド達の元に戻るとしよう。


 戦っていた二人も、宿に向かって行っている。
 たぶん仲間と合流して、また戦えと言われる前に脱出するつもりだろう。
 俺は親父達に気付かれない内に、ストリアの手を引き、リッド達の元に逃げ帰った。


「ただいまー!」「ただいま」


「おかえり、レティ、ストリア」


「お帰りなさい二人共、それで勝負はどうなったの? ちゃんと勝てたのよね?」


「ああ、私は弓で二人と戦って勝つには勝った。だが宿の親父達は納得しなかったがな」


「へ~、詳しく話を聞こうじゃないの」


「話すのは良いけどさ、あの親父達が戻って来たら、また戦わされそうなんだ。だから馬車の中で移動しながら話すよ」


「じゃあそうしましょうか。リッド、用意は出来てるわよね?」


「勿論だよ母さん、何時でも出発できるよ」


「じゃあ早速出発だ!」


 急いで自分の荷物を片付け、馬車の中に積み込み、そしてブリガンテに向かう馬車の中、俺は先ほどの話の続きを二人に話す。
 相手がどんな人物なのかとか軽く説明し、勝負の結果を話した。


「ふ~ん、ストリアちゃんが剣を拾っちゃったから、宿の人達がもめてしまったのね?」


「そうだよ、確かにストリアは弓しか駄目だって言われてたけど、落ちてる武器を使うなとは言われてなかったからな。それで宿の親父三人は、無効だとか自分の勝ちとか言い合って、決着がつかなくなっちゃったから、俺達はその間に逃げて来たんだ。これ以上戦わされるのも馬鹿らしかったからな」


「確かにそれはルール違反じゃないかもしれないわ。じゃあ二人は、それが良いと思ったからやっしまったのよね? ルールには記載されていないけど、やれるからやるべきだと判断したのよね?」


 あれ?
 これはもしかして、怒られそうな雰囲気なのか?


「あ、ああ、私は勝つ為には、それが有りだと思ったぞ。勝てる手が目の前にあるのだから、使わないのは馬鹿だろう」


「レティ君もそう思ったのよね?」


「ああそうだよ。だって実戦なんだぜ? 弓だって本数に限りがあるじゃん。無くなってしまったら弓で殴るより剣を使うだろ?」


「リッド、貴方はどう? 有りだと思う? それとも無しだと思う?」


「う~ん、確かに実戦形式の決闘だったんだけど、決められたルールでは弓で戦うんだから、使っちゃいけないと思うんだ。だからこれはストリアの負けになるのかな?」


「おばさんはどうなんだ? この話は有りだったのか、無しだったのか?」


「私? リッドには悪いけど、私は勿論それは有りだわ。それが大事な戦いなら隠して短刀でも持ち込むし、砂を掴んで目潰しだってやっちゃうわよ。ただ今回の話は、相手の落とした武器は使っても良いのか、それが問題なのよね? だったら有りよ、武器を落とした相手が悪いだけね」


「じゃあやっぱり俺達の勝ちだな!」


「それはどうかしらね、実戦形式ではあるけど、それが正しいのか決めてるのは私達じゃなくて、その宿の三人なのよ。その三人が正しいと言えばそれが有りになるし、駄目だと言えばそれは無しになるのよね。だけど、その三人は争っているから、答えは一生でないでしょうね」


「リーゼさんは何を言いたいんだ。私にはよく分からないぞ?」


「そうねぇ……この話に正解なんてない、正しさなんて人それぞれっていうことよ。宿の人達の様に一つの武器にこだわるのも別に間違っていないわ。遠距離から近距離までそれでやれるのなら、それはそれで有りだし、極めるのも悪い話じゃないわ」


 武器を極めるか、それも一つの形なのだろう。


「……でもその逆だって有りなのよ? 武器は武器、出来る事は限られると、ただの勝つ為の手段として割り切ってしまうのも有よ。 ……まあ何を言いたいのかというと、ただ闇雲に動くんじゃなくて、どの方向に成長するのか今から決めときなさいって話よ。どの方向に進むにしろ、それでも出来ない事は出来ないし、自分の弱点ってのも見えて来るのよ。それにね、仲間がどの方向に成長するのか分かっていれば、攻撃のフォローもし易いでしょう」


 俺は自分の剣を見る。
 この剣を使い始めてからだが、この剣以外で戦おうとは思えない程に、とても運命を感じている。


「剣か武器か、か……うん、俺はこの剣にこだわりたいな。まあ出来る限りだけど」


「私は別にこだわりはない。使えないと判断したら、この剣だって捨てて新しい剣を使うぞ。武器は武器だ」


「僕は前線には立てないからね。遠くから使える魔法を使うしか出来ないよ。だから選択肢はないかな」


「もうすぐ町に着くわよ。足りない物を確認して買い出ししないとね」


 話している間に、もうラグナードの町が見えて来ている。
 村の為にも、早くあの町で色々と買い出しをして、俺達は先に進まなければならない。






 そして町に到着した俺達は、軽く検査を受け、ラグナードの町に入った。



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