一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
33 まおうぐんのにちじょう。(馬鹿親達の日常)
何故か六人もの女性達と結婚させられた俺イバスは、小さな自宅の庭で、滅多に無い平和な時間を楽しんでいた。
天気も良く、他に居るのはといえば、横で茶を啜っている、フレーレさんのお祖母さんぐらいだろう。
本当に平和だ。
フレーレさんは友達と出掛け、ルシアナリアさんは食材の買い出しに、レーレさんは服を身にショッピングに出かけてしまい、アスメライさんとエリメスさんは二人だけの任務へ行ってしまった。バラリエはたぶんその辺を飛んでいるか、兄のべーゼユールの所に向かったか、たぶんその辺だと思う。
何故仕事もせず自宅で寛いでいるのかといえば、この間の教会の破壊と、町で暴れた事の責任者として、自宅で謹慎中なのである。
「ああ、いい日だ、凄く良い日ですよ。こんな日が毎日続けばいいのに。 …………しかしお祖母さん、毎日のように来ますよね。暇なんですか?」
「暇と言えば暇なんじゃが……近々お前さんに良からぬ事が起きると占いに出てのぅ、どんな目に遭ってしまうのかと期待しとるんじゃ。きっとまた面白い事になるのじゃろうなぁ…………ヒャッヒャッヒャ」
「ええ? そうなんですか? それは大変そうだなぁ」
お祖母さんが遠い目をして、何かを期待している。
このお祖母さんの占いは、当たるのか当たらないのか、微妙に判断し辛い所がある。
まあ色々とおかしなことをしていたから、あまり信用出来ないのだが、言われたことは、一応気に止めておこう。
そんな俺の平和を打ち壊すように、この世界ではない、何処か遠くの異世界の、一軒の民家に手紙が届けられた。
送ったのは、俺と結婚した六人の内の一人、天使バラリエである。
手紙に、その宛先が記載されている。
書かれている住所とは、バラリエの実家のものであった。
天界の町にならぶ瓦屋根の一軒家。
そこがバラリエの実家である。
ポストに投函された手紙を、バラリエによく似た母親ウリアが、チラッと読んでいる。
「あら? バラリエちゃんからお手紙が来たわ。どれどれ…………大変、お父さんに知らせないと!」
バラリエの母から手紙を受け取った父親ベルーゼが、その手紙を見て震えている。
金髪でオールバック、背の高さはべーゼユールと似ているが、口髭を生やして、少し歳を取った感じだろう。
「な、なあ母さん? 何かバラリエの奴、人間とケコーンしましたとか書いてあるのだけど、ケコーンって一体なんなのだろうなぁ、まさか結婚の事じゃあないよなぁ、ははは」
「お父さん、これは人間語で、結婚って読むんですよ? 人間との結婚なんて、バラリエも思い切ったことをするわねぇ。一度挨拶にいかないとだわ」
怒った父親は、手紙を力任せにビリビリに破り捨てている。
「ふ…………ふざけるなああああああああああああああ!」
「お、お父さん?」
「母さん、儂ちょっと人間界に行って来るうううううううう! 待っていろよクソ人間がああああ! 我が可愛いバラリエに手を出す事は儂が許さん! 首を洗って待っているが良い! ふおおおおおおおおおおおおおおお!」
「行ってらっしゃいお父さん。夕飯までには帰ってきてねええええ!」
ベルーゼがウリアに見送られ、空の果てへと飛んで行った。
何処にでも親馬鹿というものは居るようである。
例えそれが天界だったとしても。
その父親が現れたのは、王国から遥か上空の、バラリエ達が現れた場所である。
「はああああああああああああ、現れよ、愛の神イシュタルよ! その愛を以て、我が仇敵の頭上を打ち砕けええええええええ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ベルーゼの呼びかけにより現れたのが、バラリエやイバスが操るものよりも一回り巨大な天使だった。
ガッチリとした胸部に、太い脚、その背には、指の骨が翼になった様な飾りを持っている。
武装は特に見当たらないが、手だけが倍ぐらいの大きさになっていた。
そんな巨大な物がブレーキも掛けず、王国の地に落ちたのだから、轟音を立てて地面はひび割れ、ドシンと大地が震動した。
一応人が居ないところに落ちて、被害はそれ程ないが、いきなりそんなものが現れたのだから、王国は瞬時に警戒態勢取った。
王国兵に周りを囲まれ、その天使が叫んだ。
「我が愛しの娘バラリエを、手籠めにした相手は誰だああああああああああああああ! 出て来ないのなら、徹底的に破壊してやるぞこの野郎! バラリエちゃん、相談もなく結婚するなんて、お父さん、怒っているんだからねッ!」
その場に居た全員が理解した。
これはイバスの奴が原因だと。
そんな彼等が、俺を呼びに来るのは当然の摂理だった。
バラリエの父親の声を聞き、絶対関わったら不味いと、逃げ出そうとしたところに、空からやって来た黒い人に縛り上げられ、一瞬のうちに現場に連れて来られたのだった。
座った体勢をしている天動兵器、その中にはきっとバラリエの父親が乗っているのだろう。
「貴様がバラリエちゃんの純潔を奪って、体を弄んだゴミ人間野郎か! この場で殺してやる、死ねええええええええええええええ!」
「ええええええええ! ぼぼぼぼぼ僕は何もしてませんてええええええ!」
縛られてどうやっても逃げられそうもない俺の上に、天動兵器の凶悪極まる拳が迫って来ている。
あんなん食らったら、どうやったって死んでしまう!
「ほわああああああああああああああああああ!」
俺何回危険な目に遭うんだろうと思いつつ、その圧力に目を綴った。
ガンと打ち降ろされた拳が何かにぶつかるのだが、俺の体はまだ潰されてはいなかった。
その拳を受け止めているのは、頼もし過ぎるお嫁さん達全員だった。
「ふう、間に合ったわー! イバス君ったらまたまた危険な目に遭ってるのね? もしかしてこれって運命なのかしら? 今度お祓いでもして貰いましょうか?」
フレーレさん。
「御主人様に手を出す者は、例え身内といえど許しては置けません! 今誰に手を出したのか、まずは教育してさしあげましょう!」
ルシアナリアさん。
「イバス様! お待たせいたしました、この私が、真っ先に到着いたしましたよ! 後で誉めてくださいまし!」
レーレさん。
「誰が一番最初だって?! 完全に同時でしょうが! 褒められるのなら全員でしょう!」
アスメライ。
「全員となると、やっぱり年齢順じゃないかしら? じゃあ私が最初でいいわよねぇ?」
エリメスさん。
「ふ、そんなものはジャンケンに決まっているだろう。 …………それにしても、まさかお父さんと、こんな形で別れるとは思わなかったぞ。では、私の男に手を出したのを後悔しながら、さっさと死んで行くが良い!」
そしてバラリエ。
「ま、待てバラリエ、お父さんはお前を助けに…………」
「きっちり死ぬが良い!」
「「「「「「はあああああああああああああああああ!!」」」」」」
「わ、儂は助けに来ただけなのにいいいいいいいいいいいいいいい!」
娘のバラリエを攻撃する訳にも行かず、お父さんは六人の攻撃受け続けた。
そしてもうやり過ぎなんじゃないかって頃、俺はお父さんを許し、命を助けてあげた。
「え~と、もう止めときましょうよ、お父さんも可哀想ですし。僕ももう怒っていませんから」
六人は俺の言う事を聞いてくれて、その手を止めた。
「クッ、まさか君に命を助けられるとは……分かった、バラリエちゃんの事は認めてやろう。そうしないとバラリエちゃんに嫌われるし。ただし、十年に一回は家に帰って来る事が条件だ! それが守れないのなら、バラリエちゃんは家に連れ返すからな! 分かったか人間よ!」
「はい、約束します。だからお父さんは、もう二度と来ないでくださいね?」
「ふ、儂から約束を破ったりしない。それにバラリエちゃんと会う事が出来たし、もうこんな場所に用はない。ではサラバだ!」
「もう来るなよお父さん! 次は千年後ぐらいに会おう!」
こうして、何やかんやあった俺の物語は、これをもって幕を閉じて欲しいのであった。
十日後。
「あらお父さん、エリメスが結婚したんだって。何かお祝いしなきゃあねぇ」
「ちょっと待てえええ! この追伸というのはなんだ?! 何でアスメライまで同じ人物と結婚しているんだ?! そんな男は許さああああああああああああああん! 今からその男を退治しに行って来るぞ! お前も付いて来い!」
「そうですね、もしかしたら騙されているのかも! 急いで助けに向かいましょう!」
そしてまた俺の命が危険にさらされるのであった。
END
天気も良く、他に居るのはといえば、横で茶を啜っている、フレーレさんのお祖母さんぐらいだろう。
本当に平和だ。
フレーレさんは友達と出掛け、ルシアナリアさんは食材の買い出しに、レーレさんは服を身にショッピングに出かけてしまい、アスメライさんとエリメスさんは二人だけの任務へ行ってしまった。バラリエはたぶんその辺を飛んでいるか、兄のべーゼユールの所に向かったか、たぶんその辺だと思う。
何故仕事もせず自宅で寛いでいるのかといえば、この間の教会の破壊と、町で暴れた事の責任者として、自宅で謹慎中なのである。
「ああ、いい日だ、凄く良い日ですよ。こんな日が毎日続けばいいのに。 …………しかしお祖母さん、毎日のように来ますよね。暇なんですか?」
「暇と言えば暇なんじゃが……近々お前さんに良からぬ事が起きると占いに出てのぅ、どんな目に遭ってしまうのかと期待しとるんじゃ。きっとまた面白い事になるのじゃろうなぁ…………ヒャッヒャッヒャ」
「ええ? そうなんですか? それは大変そうだなぁ」
お祖母さんが遠い目をして、何かを期待している。
このお祖母さんの占いは、当たるのか当たらないのか、微妙に判断し辛い所がある。
まあ色々とおかしなことをしていたから、あまり信用出来ないのだが、言われたことは、一応気に止めておこう。
そんな俺の平和を打ち壊すように、この世界ではない、何処か遠くの異世界の、一軒の民家に手紙が届けられた。
送ったのは、俺と結婚した六人の内の一人、天使バラリエである。
手紙に、その宛先が記載されている。
書かれている住所とは、バラリエの実家のものであった。
天界の町にならぶ瓦屋根の一軒家。
そこがバラリエの実家である。
ポストに投函された手紙を、バラリエによく似た母親ウリアが、チラッと読んでいる。
「あら? バラリエちゃんからお手紙が来たわ。どれどれ…………大変、お父さんに知らせないと!」
バラリエの母から手紙を受け取った父親ベルーゼが、その手紙を見て震えている。
金髪でオールバック、背の高さはべーゼユールと似ているが、口髭を生やして、少し歳を取った感じだろう。
「な、なあ母さん? 何かバラリエの奴、人間とケコーンしましたとか書いてあるのだけど、ケコーンって一体なんなのだろうなぁ、まさか結婚の事じゃあないよなぁ、ははは」
「お父さん、これは人間語で、結婚って読むんですよ? 人間との結婚なんて、バラリエも思い切ったことをするわねぇ。一度挨拶にいかないとだわ」
怒った父親は、手紙を力任せにビリビリに破り捨てている。
「ふ…………ふざけるなああああああああああああああ!」
「お、お父さん?」
「母さん、儂ちょっと人間界に行って来るうううううううう! 待っていろよクソ人間がああああ! 我が可愛いバラリエに手を出す事は儂が許さん! 首を洗って待っているが良い! ふおおおおおおおおおおおおおおお!」
「行ってらっしゃいお父さん。夕飯までには帰ってきてねええええ!」
ベルーゼがウリアに見送られ、空の果てへと飛んで行った。
何処にでも親馬鹿というものは居るようである。
例えそれが天界だったとしても。
その父親が現れたのは、王国から遥か上空の、バラリエ達が現れた場所である。
「はああああああああああああ、現れよ、愛の神イシュタルよ! その愛を以て、我が仇敵の頭上を打ち砕けええええええええ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ベルーゼの呼びかけにより現れたのが、バラリエやイバスが操るものよりも一回り巨大な天使だった。
ガッチリとした胸部に、太い脚、その背には、指の骨が翼になった様な飾りを持っている。
武装は特に見当たらないが、手だけが倍ぐらいの大きさになっていた。
そんな巨大な物がブレーキも掛けず、王国の地に落ちたのだから、轟音を立てて地面はひび割れ、ドシンと大地が震動した。
一応人が居ないところに落ちて、被害はそれ程ないが、いきなりそんなものが現れたのだから、王国は瞬時に警戒態勢取った。
王国兵に周りを囲まれ、その天使が叫んだ。
「我が愛しの娘バラリエを、手籠めにした相手は誰だああああああああああああああ! 出て来ないのなら、徹底的に破壊してやるぞこの野郎! バラリエちゃん、相談もなく結婚するなんて、お父さん、怒っているんだからねッ!」
その場に居た全員が理解した。
これはイバスの奴が原因だと。
そんな彼等が、俺を呼びに来るのは当然の摂理だった。
バラリエの父親の声を聞き、絶対関わったら不味いと、逃げ出そうとしたところに、空からやって来た黒い人に縛り上げられ、一瞬のうちに現場に連れて来られたのだった。
座った体勢をしている天動兵器、その中にはきっとバラリエの父親が乗っているのだろう。
「貴様がバラリエちゃんの純潔を奪って、体を弄んだゴミ人間野郎か! この場で殺してやる、死ねええええええええええええええ!」
「ええええええええ! ぼぼぼぼぼ僕は何もしてませんてええええええ!」
縛られてどうやっても逃げられそうもない俺の上に、天動兵器の凶悪極まる拳が迫って来ている。
あんなん食らったら、どうやったって死んでしまう!
「ほわああああああああああああああああああ!」
俺何回危険な目に遭うんだろうと思いつつ、その圧力に目を綴った。
ガンと打ち降ろされた拳が何かにぶつかるのだが、俺の体はまだ潰されてはいなかった。
その拳を受け止めているのは、頼もし過ぎるお嫁さん達全員だった。
「ふう、間に合ったわー! イバス君ったらまたまた危険な目に遭ってるのね? もしかしてこれって運命なのかしら? 今度お祓いでもして貰いましょうか?」
フレーレさん。
「御主人様に手を出す者は、例え身内といえど許しては置けません! 今誰に手を出したのか、まずは教育してさしあげましょう!」
ルシアナリアさん。
「イバス様! お待たせいたしました、この私が、真っ先に到着いたしましたよ! 後で誉めてくださいまし!」
レーレさん。
「誰が一番最初だって?! 完全に同時でしょうが! 褒められるのなら全員でしょう!」
アスメライ。
「全員となると、やっぱり年齢順じゃないかしら? じゃあ私が最初でいいわよねぇ?」
エリメスさん。
「ふ、そんなものはジャンケンに決まっているだろう。 …………それにしても、まさかお父さんと、こんな形で別れるとは思わなかったぞ。では、私の男に手を出したのを後悔しながら、さっさと死んで行くが良い!」
そしてバラリエ。
「ま、待てバラリエ、お父さんはお前を助けに…………」
「きっちり死ぬが良い!」
「「「「「「はあああああああああああああああああ!!」」」」」」
「わ、儂は助けに来ただけなのにいいいいいいいいいいいいいいい!」
娘のバラリエを攻撃する訳にも行かず、お父さんは六人の攻撃受け続けた。
そしてもうやり過ぎなんじゃないかって頃、俺はお父さんを許し、命を助けてあげた。
「え~と、もう止めときましょうよ、お父さんも可哀想ですし。僕ももう怒っていませんから」
六人は俺の言う事を聞いてくれて、その手を止めた。
「クッ、まさか君に命を助けられるとは……分かった、バラリエちゃんの事は認めてやろう。そうしないとバラリエちゃんに嫌われるし。ただし、十年に一回は家に帰って来る事が条件だ! それが守れないのなら、バラリエちゃんは家に連れ返すからな! 分かったか人間よ!」
「はい、約束します。だからお父さんは、もう二度と来ないでくださいね?」
「ふ、儂から約束を破ったりしない。それにバラリエちゃんと会う事が出来たし、もうこんな場所に用はない。ではサラバだ!」
「もう来るなよお父さん! 次は千年後ぐらいに会おう!」
こうして、何やかんやあった俺の物語は、これをもって幕を閉じて欲しいのであった。
十日後。
「あらお父さん、エリメスが結婚したんだって。何かお祝いしなきゃあねぇ」
「ちょっと待てえええ! この追伸というのはなんだ?! 何でアスメライまで同じ人物と結婚しているんだ?! そんな男は許さああああああああああああああん! 今からその男を退治しに行って来るぞ! お前も付いて来い!」
「そうですね、もしかしたら騙されているのかも! 急いで助けに向かいましょう!」
そしてまた俺の命が危険にさらされるのであった。
END
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