一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

31 流されっぱなしの人生は、どうにかして決着された。(天空より来たりし威光編END)

 今俺は、バラリエの背中の上に正座させられ、三時間にも及ぶ説教を続けられていた。
 下敷きになっているバラリエは、何度か起き上がろうとしていたけど、その度に五人からの制裁を受けて、たぶん起きているけど、倒れて居る振りをしていた。
 彼女がそれで納得して、大人しくしてくれるならそれで良い。


 その説教も、次のセリフで終わる事になるのだが…………


「さて、説教はここまでにしましょうかー? それでイバス君は、私達の中で、一体誰を選ぶのかしら?」


「なるほど、今度こそ決着をつけようって訳ね? 良いわよ、さあイバス、私を選びなさい!」


「ふっ、何を仰っているのか。御主人様が選ばれるのは、この私!」


「今更逃げることは許されません。キッチリ責任を取って貰いましょう!」


「イバスさんは私と結婚するんです!」


 勿論私よね?
 という顔で、全員が笑みをうかべている。
 俺も一度はフレーレさんを選ぼうとしたのだが、今はちょっとその顔に、躊躇いを覚えている。 
 出来ればもうちょっと落ち着いた日に答えたいと思うんだ。
 そう思っている俺だけど、それを口にしたら、きっとまた酷い目に遭うのだろう。


「え~っとそれは…………」


 如何やり過ごそうかと考えているのだが、良いアイディアが浮かんでこない。
 時間稼ぎに、震える指で一人一人をなぞって行こうとするのだが、最初に指をさしたフレーレさんの所で、ピッタリと指が止まった。


「やっぱり私を選んでくれたのね、じゃあ結婚式の続きをしましょうか」


 それは俺の意思じゃなく、俺の指先をガッシリと握った、フレーレさんの所為だった。


「そんな事で、御主人様をやれるものかあああああああああああ!」


「いやああああああああああああ!」


「はあああああああああああああ!」


「きええええええええええええええええ!」


 他の四人が怒り狂い、フレーレさんに攻撃を仕掛けようとするのだが、俺を軽く抱き上げたフレーレさんは、その四人の攻撃を躱している。


「ねぇイバス君、もう私に決めちゃってね。後悔はしないと思うわよー?」


 激しい攻撃を躱しながら、俺の唇に、キスをするフレーレさん。
 どれだけ逃げ惑っていても、彼女の腕は俺を掴み、もう逃げられない。
 ふう、と息を吐き出し、俺はもうそれを決めた。


「はい、僕はフレーレさんを選びます」


「ええ、これから宜しくね、イバス君。幸せになりましょうねー!」


「「「「「させるかああああああああああああああああああああ!!」」」」」


 血涙を流しながら、諦めない四人と、さっきまで大人しくしていたバラリエまでが攻撃に加わったのだ。 
 俺は選んだはずなんだけど、結局選んでも選ばなくっても状況は変わらず、ただ今日のご飯は何を食べようかと、現実逃避するのだった。
 ボロボロになる町並み、俺達に恐怖する町の人々、そんな状況が何時までも続いたのだから、大量の兵士に取り囲まれても無理はないだろう。


「全員その場を動くな! 大人しく城まで同行して貰おうか!」


 たった六人を相手にしてるというのに、地上から空までビッシリと兵士が武器を向けていた。
 まあ全員の実力を知っているのなら、それは間違っていないだろう。
 俺とフレーレさんは、冷静にそれに従うのだけど、他の五人は全く止まろうとしない為、取り押さえられてしまった。
 縛り上げられた俺達は、王城の玉座の間にて転がされていた。


「…………私も関わっているので、大目に見てはいたのですが、流石にこれ以上被害を増やすのは容認できません。これ以上混乱させない為にも、例外的に貴方には全員と結婚して貰います!」


「えええええええええ!」


「えええええええええ! イバス君は私を選んでくれたのよー! 今更全員となんて、酷いわよー!」


「御主人様と結ばれるのならば、私は一向にかまいません! 是非そうしようではありませんか!」


「クッ、腕ずくでは敵いませんから、それであれば、ギリギリ納得して差し上げても良いでしょう! イバス様、どうぞよろしくお願いいたします!」


「ま、まあ結婚をして貰えるのなら、それもありなのかしら? うん、まあそれでいいです」


「仕方ないわね、イバスったら私がいないと駄目なんだから、もうそれで良いわよ」


 誰にするか悩んでいた苦労が、全く無駄に終わってしまった。
 やっと落ち着いたかと思ったその時、最後の一人のバラリエが、空気を読まずに発言するのだった。


「うむなる程、人間との結婚か、まあそれも良かろう。良し分かった、ではこの男との初夜は私が最初に貰うから、他の者はちょっと待って居ろ。邪魔をするなよ?」


 バラリエは、何処かに隠してあった刃物でロープを切り裂き、俺の体をガシっと掴んだ。
 そのまま俺は、悪者に攫われるお姫様の如く、ピューっと連れ去られたのだった。
 しかし、力任せにロープを引き千切り、その俺を追って来ているのが、フレーレさんだ!


 助けてフレーレさん!
 俺はここよー!
 と、まあそんな叫びはしなかったのだけど、かなりの大ピンチになっている。


 空を飛び去ったバラリエは、フレーレさんと距離を開け、俺を王国の町の外にまで連れ去り、平地の三本並ぶ木の真ん中で、俺はロープで縛られたまま、抵抗出来ない状態でいる。


「さて、邪魔者はいなくなった、では一発やってしまおうじゃないか。安心しろ、私がリードしてやるからな」


「いや、あの、こ、これはちょっと…………まままままままま待ってください!」


 バラリエが真っ裸となって、俺の貞操が危うくなった時、途轍もない速度で追い駆けて来たフレーレさんが、この場に追い着いた。


「ふう、やっと追い着いたわー! じゃあ帰りましょうかイバス君、直ぐに助けてあげるからね!」


「さっきのお前か……そうだ、思い出したぞ! お前は、我がティアマトの背中を蹴り付けた奴だな! 良いだろう、決着をつけてやろう! 不意打ちで勝ったと、誤解して貰っても困るからな!」


「そう……だったら掛かって来なさい! 私の力を思い知らせてあげるわー!」


「我が情事を邪魔する者は許さん! 現れよ、天空のティアマトよ、この者に捌きの鉄槌を!」 


 ティアマトとは、たぶんあの巨大兵器のことだろうか?
 しかし、それを呼んでも、何時までも現れる事はなかった。


「…………そうだった、まだ修理中だったのだ。仕方がない、では三人で楽しもうではないか」  


「貴女は邪魔だから、ちょっと寝ててねー!」


「グフッ…………」


 生身のバラリエなんて、フレーレさんの敵にはならず、簡単に倒されて転がっている。


「じゃあイバス君帰り…………う~ん、また邪魔者が入りそうだしー、丁度良いかしら?」


「え?」


 うん、何というか、何というかだった。
 縛られた俺がどうなったかというのは、言わぬが華というものだろう。
 六人と結婚させられてしまった俺は、毎日が騒々しく、恐怖するような毎日を送っている。
 これもまあ、幸せと言えば幸せなんだろうなと思いつつ、逃げるようにベットの下に隠れるのだった。






 …………結局人生流されっぱなしだったよ! 






   END



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