一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 愛とは奪い取るもの。

 俺は城に軟禁というなの監禁され、この日、女性四人が王国を裏切った。
 裏切ったといっても、王命であるこの結婚に反対しただけなんだが。
 まあそれでも立派な裏切りである。
 明日の結婚式を迎える前に、一通の予告状が城に届けられたらしい。


 内容としては、俺を奪いに来ると書かれていたらしい。
 無駄に暇な警備兵が、軽く話してくれたのだが、あの四人が優秀であっても、無理だとおもう。


 そして、予告状が届けられたイモータル王はというと、もし警備兵を突破し、俺を連れ去る事が出来たならと、それを認めてしまったのだから、結婚式が酷い物になるとしか思えなかった。


 そして、運命のこの日を迎えた。
 城のメイド達に、無理やり服を着替えさせられ、盛大な結婚式が行われようとしていた。
 民間人の結婚なんて簡素なものだが、どうも俺は、王や貴族の様な、結婚式をさせられようとしているらしい。


 俺が連れられたのは、大きな教会だった。
 準備が整うまではと、またベットのある休憩室みたいな場所で、閉じ込められていた。扉の前にも、その後ろにも兵士が見張っており、如何にも逃げられそうもない。


「あの、トイレ行きたいんですけど。駄目でしょうか?」


 警備の男が、無言で部屋の中にあった部屋を指さしている。
 部屋の中にトイレが有るのか。
 やっぱり外には出られそうもなかった。
 それに、もし逃げ出そうとすれば、俺はきっと処刑されてしまうだろう。
 軽く小用を済ませた俺は、結婚式の準備が出来たようで、教会の入り口に立たされた。


 教会の外にも、多くの観客が俺を見ている。
 何をするのか分からな俺は、ボーっと待っているのだが、俺と結婚するであろう彼女、フレーレさんが、真っ白いウェディングドレスと言う物を着て、俺の前にやって来た。
 ヴェールを被り、顔も隠されているが、それでもとても美しく感じられる。


 彼女が俺の腕をガッチリ掴むと、祝福の音楽が始まった。完全にロックされており、俺は自力では動けない。


「じゃあイバス君。行きましょうか」


「いや、あの……はい…………」


 周りから拍手で迎えられた俺達は、教会の中へと進みだした。というか、そうするしか出来なかった。


「「「「待ったあああああああああああああああ!!」」」」


 声のした教会の屋根を見上げると、俺を連れ去ると予告した、四人が屋根に立って居た。
 真っ白な、フレーレさんと同じ、ウェディングドレスを着て、飾り付けられた剣を此方に向けている。


 あれは、ケーキ入刀用の物だろうか?


 そんな四人が屋根から飛び降り、バッと地面に着地した。
 膝を突きながら、そのまま一人が立ち上がった。
 最初に立ち上がったのは、蜥蜴の皮膚を持ったエリメスさんだ。
 彼女が立ち上がると、此方に剣を向けている。


「私はエリメス。イバスさんに最初に出会った女です! この出会いは奇跡や運命でもなく、宿命なのです! 生まれる以前から決定された物なのです! さあイバスさん、この私を選んでください!」


 それだけではなかった、彼女の後ろからは、真っ赤な魔法の炎が弾け、金色の輝きを放つものが落ちてきている。
 それを放ったのは、観客の中の一人だ。
 そんな演出が出来ている事に、俺は気付いてしまった。
 聞いた予告状の事から何から何まで、たぶん、全部仕組まれていると!


 二人目はアスメライさんが立ち上がっり、上空に剣を向けた。
 彼女はこの中で、唯一人の姿を保っている人間だ。


「イバスとは呼び捨てで呼び合う仲! この中では一番私が仲が良いの! 運命も宿命も王の命さえ乗り越えて、結ばれるのは私なのよ! さあイバス、この私を選びなさい!」


 水の蒼い水の玉が弾けた。
 周りに飛び散った水しぶきは、人に当たっても濡れる事はなく、太陽の光で煌いて見えている。
 水を得意とする彼女が、魔法を使っていない所をみると、やはり観客が使ったのかもしれない。


 三人目はレーレさんだ。
 猫の様な外見の彼女は、クルっと横に回転し、空中に剣を薙ぎ払った。


「イバス様は、大の猫好きであるイバス様は、とても私の事を好いておられるのです! 今後私と結婚なされれば、誰より貴方を幸せにしてさしあげます! この私の命に代えても! さあイバス様、この私を選んでくださいませ!」


 背後からは銀色の輝きが発せられる。
 その銀は輝きを変えながら、四方八方に真っ直ぐ飛んで行く。
 何処かにぶつかると、サラリと崩れ、砂と成って消えていく。


 最後に立ち上がったのが、ルシアナリアさんだ。
 剣を地面に振り下ろし、左手を背後に伸ばし、ポーズを取っていた。


「私は御主人様に助けられ、この地にやって来た女なのです! ご主人様がいらっしゃらなければ、私はただの魔物と成り果てていたでしょう! ご主人様はこの私のものなのです! 貴方の様なぽっと出に、簡単に渡してなるものですか! さあご主人様、この私と共に、幸せな家庭を築きましょう!」


 その背後からは緑色の蔦が伸び、赤い花が愛という文字を印している。


 対するフレーレさんは、自身に掛けられたヴェールをめくり、四人に対して拳を構え、戦いの準備を整えた。


「私はイバス君以外は考えられないのよー。もう彼を誰にも渡したくないの。欲しいのならー、本当に求めるのなら、力ずくで掛かっていらっしゃい! 全員打ち倒して、今日挙式をあげてあげるからー!」


 天空から、虹色の煌きが降り注いでいる。
 全員が一対四という状況となり、戦いが始まろうとしていた。
 そんな彼女達を見た二人の観客の声が聞こえた。


「これは、聞いた事がある。古代王国に伝わった、一人の男をめぐる儀式だ! 見守る観客までも、決着がつくまで家にも帰れず、見守るしかないという儀式だ! もし途中で帰ったものが居たら、全員が罰を受けたと聞くぞ!」


「はぁ? 本当にそんなものが有ったのか? 出来れば早く帰って、娘の面倒を見たいんだけどなぁ。まあ母ちゃんに任せてはいるんだけど、心配だぜ」  


 そんな儀式なんてあるの?!
 俺も初めて聞いたんだけど!
 そんな言葉にビックリしている俺は、何も出来ずに立ち尽くしていた。
 王命令でなければ、逃げ出したい。


 まだ戦いは始まっていないが、最後に一人、決定的な人物が現れる。
 七色の煌きの中に現れたのは、この国の王、イモータル様だ。
 俺達を見下ろし、審判の時を告げた。


「この場で生き残った者に、このイバスを贈呈しましょう! 文句もやり直しも認めません。さあ、決着をつけなさい!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」






 その言葉に、五人の女性達が、一斉に動き出した。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く