一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
28 小さく大きな物語9
ミレニアを連れて、宿に戻った俺は、リゼさんとリッドに頼み、魔法を教えてもらえるようにお願いした。しかしリーゼさんと、リッドの反応はあまり良くない。
「つまり、私とリッドに魔法を教えてもらって、相手に勝ちたいと? やめた方が良いんじゃないかしら? そんな事をしても関係が悪化するだけだわ。まず話し合って、自分に出来る事をした方が良いわ」
「僕もそう思う。別に無理に勝たなくったって、相手と肩を並べる事は出来るんだよ? 例えば、その人の攻撃進路を補助したり、敵の攻撃を防いだり、それだって立派に肩を並べているといえることだよ」
「でも私は、あの人に勝ちたいんです。どうか、お願いします!」
魔法を教えるのを嫌がっているという訳でもなく、まず話し合えと説得していた。だが上層階のセリフを聞いていた俺としては、彼女を勝たせてあげたい気持ちがあった。もう一人の女は、このミレニアのことを、雑魚とか自分に従えとか言ってたし、あまり話を聞くタイプには見えなかったからだ。
「いいじゃん、魔法を教えるぐらいさ。魔法を教えとけば、あとはミレニアが何とかするって。どうせ俺達はもう直ぐ居なくなるんだし」
「レティ、それは無責任というものだ。相手の知らない魔法を使えば、確かに勝てる可能性は上がるだろう。しかしこれは命懸けの戦いではないんだ。剣同士で戦っていると思い込んでいる相手にとって、それは本当に使っていいものなのか? 相手を怒らせるだけかもしれないんだぞ?」
「うっ…………」
ストリアの意見に、もしかしたらそうなってしまう可能性もあるかもと、思ってしまった。卑怯な真似と捉えられれば、相手はミレニアを拒絶するかもしれない。それはミレニアも望まないだろう。三人の意見を聞いて、彼女も言葉を失っている。やはり安請け合いしてしまったのは間違いだったかもしれない。
「ふむ、折角レティが連れて来た客だ、このままこのまま帰すのは少し可哀想だな。私達が、お前の剣筋を見てやろう。四人で見れば、成長速度も四倍とはいかないが、多少は多くなるだろう」
「ほ、本当ですか! 是非お願いします!」
「レティの頼みだからね。僕も文句はないよ。母さんも、それで良いよね?」
「ええ、それで良いわよ。ただね、私達にはあまり時間がないということは、ちゃんと覚えてるわよね、レティ君?」
「お、覚えてるよ、皆が危険だってことも知ってるさ。だから今日だけ、今日だけだから!」
「ありがとうございます皆さん! 私、絶対頑張ります!」
そして俺達四人は、彼女を鍛えようとするのだが、まず彼女の実力を見ようと、その型を見た。その彼女のレベルは、俺達の想像を遥か超えていた。
「母さん、どうしよう。僕もこれ程とは思わなかったよ。彼女の実力は、僕の想像以上だよ!」
「う~ん、そうねぇ。体力面は伸ばしようが無いから、まず剣の握り方から覚えた方が良いんじゃないかしら?」
彼女の剣の感想はというと、そもそも剣の握り方がなっていないし、振るスピードも全然ない。体力は直ぐに尽きて、座り込んでしまう。確かに上層階での戦いはちゃんと見なかったんだけど、これは酷い。
「レティ、相手の女というのは、もしかしてこれに毛が生えたレベルじゃないだろうな?」
「いやあの、どうなんだろう? 俺もちゃんと見てないし。あの、ミレニアって、剣術を始めたばかりとか?」
「はい、私は今日で一週間ぐらいでしょうか。彼女はまだ四日も通ってないというのに、なんでこんな差がついているのか、やっぱり育ちの所為なんじゃ…………」
一週間でこのレベルって、むしろどうやって教えたらこうなるんだろうか? 動きを見るだけでも、多少は覚えれるだろうに。教えた奴が、面白がってやってたんじゃ?
「いや、あのねミレニアさん。四日も一週間もそんな大差ないわよ? まああれよ、彼女が天才だとしても、貴女がちゃんと振り方でも覚えれば、今ならそこそこ戦えるんじゃないかしら?」
「ほ、本当ですか!」
「だったら私に任せろ。そのぐらいなら一日で叩きこんでやれる。では早速始めようか、剣術の基礎訓練を」
「お、お願いします!」
ストリアにより、ミレニアに剣術の基礎を叩きこんで行く。叩き込むと言っても、軽い素振りの数回と、何故その握りにしないといけないかという論理が講義されている。その講義の後、数回の素振りで、見違える程に成長した。どれ程の成長かというと、ヒョロッとした剣だったのが、シュッっと音が鳴るくらいには成長出来たらしい。それでも十回も振ると疲れてしまうのだが。
俺はというと、そんなストリアの講義を聞いて、フムフムと頷いている。ある程度はシャインに教わることが出来たのだが、それでも知らないことが多かった。
両手を使う護りの型やら、相手の動きを誘う剣先の揺らしなど、色々と。まあ俺達が相手をするのは魔物が主だから、そんなに役には立たないのだけど、覚えておいても損はなさそうだ。今までより真面になったミレニアと、早速相手の彼女を呼び出した。まあこれ以上先に成長されたら不味いからなんだけど。
その相手のライラックは、それに応じて、指定の場所にやって来た。もう一人、女の仲間を引き連れて。その女を見て、ミレニアが驚いている。
「せ、先生、ブロディア先生も見に来たんですか?! 嬉しいです、是非私の活躍を見て行ってください!」
「そ、そうね、頑張って頂戴ミレニアさん。私も応援しているわ」
そんな彼女は、此方を見ていない。やましい事でもあるんだろう。ミレニアに適当な事を吹き込んだ事とか。俺が見つめている事を理解すると、彼女は後を向いてしまう。
「また私に挑もうっていうのですの? 雑魚がどれだけ頑張っても、この私には勝てないのよ。もう諦めたらどうかしら?」
彼女が剣を構えた。俺が見る限り、その持ち方は明らかにおかしい。前のミレニアと同じ握りをしていた。簡単に言うと、両手を胸の前で、上にして手を広げて見てくれ。それを握った状態で柄を握っている。これは明らかにおかしい。
「ふっ、ライラック、私は気付いてしまったの。その持ち方より、こっちの握り方の方が剣を振りやすいってね! もう貴女には負けないわ! さあ、掛かっていらっしゃい!」
「舐めた口をききますわね! これは先生に教えてもらった、正式な持ち方なのですよ! これを否定するなんて、貴女にはお仕置きが必要ですね! それでは、行きますわよ!」
二人の戦いが始まった。正道の剣を使うミレニアと、何だかよく分からない攻撃をしているライラック。その二人の実力は、何故か互角だった。ライラックが、あんな状態でも剣を振れるのは、並外れた柔らかい体があってのことだろう。持った剣を掌で左右に持ち替え、俺では出来ないような恰好で剣を振り下ろしていたりする。
「クッ、まさか、ここまでやるようになっているとは思わなかったわ、ミレニア! 今までどれ程の修練を積んだというの?!」
「私には先生の剣が合っていなかっただけのことよ! さあ、ライラック、戦いを続けましょう!」
「負けるものかああああああああああ!」
そんな戦いから目を逸らしているのが、ブロディアといった先生だった。俺はその先生の元に行ってみると、先生が嫌がり逃げて行く。俺はそれを追い掛け、その方をガシッと掴んだ。
「なああんた、実は剣なんて使った事ないだろ?」
「す、すみませんでしたあああああああああああ! 実は外で魔物を倒したとか適当な事言ってたら、師匠になってくれって頼まれて、それで、その、適当に教えてたら、何故か強く成っていっちゃって、それでなんか、本当の事を言いだし辛くて…………」
「謝るなら俺じゃなくて、あの二人に謝ったらどうだ?」
「折を見て、考えます…………」
あの二人の戦いは、まだ続いている。無駄に面白い動きをするライラックに、それを相手にしているミレニア。俺達は、もうなんか面倒臭くなったので、次の町へ進む事にした。
「つまり、私とリッドに魔法を教えてもらって、相手に勝ちたいと? やめた方が良いんじゃないかしら? そんな事をしても関係が悪化するだけだわ。まず話し合って、自分に出来る事をした方が良いわ」
「僕もそう思う。別に無理に勝たなくったって、相手と肩を並べる事は出来るんだよ? 例えば、その人の攻撃進路を補助したり、敵の攻撃を防いだり、それだって立派に肩を並べているといえることだよ」
「でも私は、あの人に勝ちたいんです。どうか、お願いします!」
魔法を教えるのを嫌がっているという訳でもなく、まず話し合えと説得していた。だが上層階のセリフを聞いていた俺としては、彼女を勝たせてあげたい気持ちがあった。もう一人の女は、このミレニアのことを、雑魚とか自分に従えとか言ってたし、あまり話を聞くタイプには見えなかったからだ。
「いいじゃん、魔法を教えるぐらいさ。魔法を教えとけば、あとはミレニアが何とかするって。どうせ俺達はもう直ぐ居なくなるんだし」
「レティ、それは無責任というものだ。相手の知らない魔法を使えば、確かに勝てる可能性は上がるだろう。しかしこれは命懸けの戦いではないんだ。剣同士で戦っていると思い込んでいる相手にとって、それは本当に使っていいものなのか? 相手を怒らせるだけかもしれないんだぞ?」
「うっ…………」
ストリアの意見に、もしかしたらそうなってしまう可能性もあるかもと、思ってしまった。卑怯な真似と捉えられれば、相手はミレニアを拒絶するかもしれない。それはミレニアも望まないだろう。三人の意見を聞いて、彼女も言葉を失っている。やはり安請け合いしてしまったのは間違いだったかもしれない。
「ふむ、折角レティが連れて来た客だ、このままこのまま帰すのは少し可哀想だな。私達が、お前の剣筋を見てやろう。四人で見れば、成長速度も四倍とはいかないが、多少は多くなるだろう」
「ほ、本当ですか! 是非お願いします!」
「レティの頼みだからね。僕も文句はないよ。母さんも、それで良いよね?」
「ええ、それで良いわよ。ただね、私達にはあまり時間がないということは、ちゃんと覚えてるわよね、レティ君?」
「お、覚えてるよ、皆が危険だってことも知ってるさ。だから今日だけ、今日だけだから!」
「ありがとうございます皆さん! 私、絶対頑張ります!」
そして俺達四人は、彼女を鍛えようとするのだが、まず彼女の実力を見ようと、その型を見た。その彼女のレベルは、俺達の想像を遥か超えていた。
「母さん、どうしよう。僕もこれ程とは思わなかったよ。彼女の実力は、僕の想像以上だよ!」
「う~ん、そうねぇ。体力面は伸ばしようが無いから、まず剣の握り方から覚えた方が良いんじゃないかしら?」
彼女の剣の感想はというと、そもそも剣の握り方がなっていないし、振るスピードも全然ない。体力は直ぐに尽きて、座り込んでしまう。確かに上層階での戦いはちゃんと見なかったんだけど、これは酷い。
「レティ、相手の女というのは、もしかしてこれに毛が生えたレベルじゃないだろうな?」
「いやあの、どうなんだろう? 俺もちゃんと見てないし。あの、ミレニアって、剣術を始めたばかりとか?」
「はい、私は今日で一週間ぐらいでしょうか。彼女はまだ四日も通ってないというのに、なんでこんな差がついているのか、やっぱり育ちの所為なんじゃ…………」
一週間でこのレベルって、むしろどうやって教えたらこうなるんだろうか? 動きを見るだけでも、多少は覚えれるだろうに。教えた奴が、面白がってやってたんじゃ?
「いや、あのねミレニアさん。四日も一週間もそんな大差ないわよ? まああれよ、彼女が天才だとしても、貴女がちゃんと振り方でも覚えれば、今ならそこそこ戦えるんじゃないかしら?」
「ほ、本当ですか!」
「だったら私に任せろ。そのぐらいなら一日で叩きこんでやれる。では早速始めようか、剣術の基礎訓練を」
「お、お願いします!」
ストリアにより、ミレニアに剣術の基礎を叩きこんで行く。叩き込むと言っても、軽い素振りの数回と、何故その握りにしないといけないかという論理が講義されている。その講義の後、数回の素振りで、見違える程に成長した。どれ程の成長かというと、ヒョロッとした剣だったのが、シュッっと音が鳴るくらいには成長出来たらしい。それでも十回も振ると疲れてしまうのだが。
俺はというと、そんなストリアの講義を聞いて、フムフムと頷いている。ある程度はシャインに教わることが出来たのだが、それでも知らないことが多かった。
両手を使う護りの型やら、相手の動きを誘う剣先の揺らしなど、色々と。まあ俺達が相手をするのは魔物が主だから、そんなに役には立たないのだけど、覚えておいても損はなさそうだ。今までより真面になったミレニアと、早速相手の彼女を呼び出した。まあこれ以上先に成長されたら不味いからなんだけど。
その相手のライラックは、それに応じて、指定の場所にやって来た。もう一人、女の仲間を引き連れて。その女を見て、ミレニアが驚いている。
「せ、先生、ブロディア先生も見に来たんですか?! 嬉しいです、是非私の活躍を見て行ってください!」
「そ、そうね、頑張って頂戴ミレニアさん。私も応援しているわ」
そんな彼女は、此方を見ていない。やましい事でもあるんだろう。ミレニアに適当な事を吹き込んだ事とか。俺が見つめている事を理解すると、彼女は後を向いてしまう。
「また私に挑もうっていうのですの? 雑魚がどれだけ頑張っても、この私には勝てないのよ。もう諦めたらどうかしら?」
彼女が剣を構えた。俺が見る限り、その持ち方は明らかにおかしい。前のミレニアと同じ握りをしていた。簡単に言うと、両手を胸の前で、上にして手を広げて見てくれ。それを握った状態で柄を握っている。これは明らかにおかしい。
「ふっ、ライラック、私は気付いてしまったの。その持ち方より、こっちの握り方の方が剣を振りやすいってね! もう貴女には負けないわ! さあ、掛かっていらっしゃい!」
「舐めた口をききますわね! これは先生に教えてもらった、正式な持ち方なのですよ! これを否定するなんて、貴女にはお仕置きが必要ですね! それでは、行きますわよ!」
二人の戦いが始まった。正道の剣を使うミレニアと、何だかよく分からない攻撃をしているライラック。その二人の実力は、何故か互角だった。ライラックが、あんな状態でも剣を振れるのは、並外れた柔らかい体があってのことだろう。持った剣を掌で左右に持ち替え、俺では出来ないような恰好で剣を振り下ろしていたりする。
「クッ、まさか、ここまでやるようになっているとは思わなかったわ、ミレニア! 今までどれ程の修練を積んだというの?!」
「私には先生の剣が合っていなかっただけのことよ! さあ、ライラック、戦いを続けましょう!」
「負けるものかああああああああああ!」
そんな戦いから目を逸らしているのが、ブロディアといった先生だった。俺はその先生の元に行ってみると、先生が嫌がり逃げて行く。俺はそれを追い掛け、その方をガシッと掴んだ。
「なああんた、実は剣なんて使った事ないだろ?」
「す、すみませんでしたあああああああああああ! 実は外で魔物を倒したとか適当な事言ってたら、師匠になってくれって頼まれて、それで、その、適当に教えてたら、何故か強く成っていっちゃって、それでなんか、本当の事を言いだし辛くて…………」
「謝るなら俺じゃなくて、あの二人に謝ったらどうだ?」
「折を見て、考えます…………」
あの二人の戦いは、まだ続いている。無駄に面白い動きをするライラックに、それを相手にしているミレニア。俺達は、もうなんか面倒臭くなったので、次の町へ進む事にした。
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