一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 王命令は絶対です。

 天使べーゼユールのおかげで、バラリエが大人しく捕まり、王城の玉座の間に、連れて来られていた。今は全員縛り上げられている訳だが。あれだけの戦いが有ったというのに、殆どの天使は、気絶したぐらいにしかなっていない。なんて頑丈なんだろう。


 で、今代表として、この戦闘の首謀者バラリエが、王の前に座らされている。俺も一応、最初に発見した人物として、王城のこの部屋に呼ばれた訳だけど、イモータル王に直接会うのは初めてだから、ちょっと緊張している。


 俺はかなり後ろの、多くの兵の中に紛れ込んでいる。因みにあの四人と、フレーレさん、あとバベル君は、この場には居ない。城の中に避難していた、民間人の誘導等にかりだされていたからだ。


 そろそろ王の準備が整い、バラリエを見据えて、口を開こうとしていた。


「さて、バラリエさん。この王都を混乱させた罪は重い。 …………と、言いたい所ですけど、貴女の様な方に、また攻めて来られても困るのです。もう許してあげますから、帰ってもらえませんか?」


 此方の軍は大怪我が多発していたけど、回復魔法のおかげで死人は無しだ。これは奇跡と言っても良い。もし誰か一人でも死んでいたなら、今どうなっていたことか。


「ふん、悪魔モドキが許してやるか? まあ負けたのだから、甘んじて受け入れてやろう。こちらとしても、人間に負けたなど、恥ずかしくて誰にも言えぬからな。ただし、兄は連れて帰らせて貰うぞ? その為に来たのだからな」


 あんなに縛り上げられているのに、随分態度がデカい人(天使)だ。下手したら死んでたと言うのにな。


「それは別に問題ありません。どうぞお好きに連れて帰ってください。その人は王国の為に働いている訳でも、護ってくれてる訳でもありませんからね」


 王様は、勝手に暮らしているだけの天使には、容赦がないらしい。護ってやるつもりもないと。


「いやいや、勝手に決めないでください。俺にだってやる事があるんですから、まだ天界に帰る訳にはいかないんですよ」


「な、何故?! 兄さんは、私と帰りたくはないのか? もう百三十年も家を空けてるじゃないか、もうそろそろ帰らないと、皆が心配するぞ。勿論この私もだ」


 百三十年って、天使の感覚が分からない。本当にサッパリだ。そんな時間を放っておいて、そろそろ帰らないとって、昼に遊びに行って、夜帰る位の感覚なんだろうか?


 よく分からない天使の生態は置いておいて、王様が説得を続けている。


「どうせまだカードゲームをしてるんでしょうけど、お土産にカードの詰め合わせでも付けてあげますから、一緒に天界とやらに帰りなさいな。グーザフィアさんと一緒にね」


「グーザフィアだと?! 彼奴もこの地上に居るのか! まさか兄さん、それで帰らないと言ってるんじゃないだろうな?」


 そのべーゼユールは、バラリエの問いかけに、横を向いて口笛を吹き、誤魔化しているつもりだけど、全く誤魔化し切れていない。


「クッ、分かった。彼奴と戦っても、こっちには勝ち目がない。兄さんを連れて帰るのは諦めよう。その代わり、私もこの地上に残る事にしたぞ!」


「この国に、戦争を仕掛けるつもりが無いというなら、別に構いませんが。貴方方の仲間は、この地上に、やって来たりしないのでしょうね?」


「あと十数年ぐらいなら、きっと大丈夫なはずだ。この兵士全員は天界に返すし、わざわざ自分が負けたと言いふらす奴は居ない。それなら問題はないだろう? 兄さんもそれで良いだろう?」


「ま、まあ、グーザフィアと喧嘩しないでくれるのなら良いですけど。お許しいただけるのでしょうか、イモータル王」


「この国に不安をもたらして、何も無しとはいきませんよ? …………そうですね。貴方達天使三人には、週に一度のキメラ討伐を仕事にしてもらいましょう。勿論、お断りにはなりませんよね?」


「ええッ?! 俺とグーザフィアもか?! まあ、妹の為だから俺は手伝っても良いんですが、グーザフィアはきっと嫌がりそうだぞ?!」


「ならそうですね…………やってくれると言うのなら、先ほど言ったカードの詰め合わせを贈呈しても宜しいんですが。それで貴方が説得をしてくれませんか? 無理だった場合は、グーザフィアさんの分も、お二人で頑張ってください」


「まあ一応聞いてはみますがね、期待はしないでください」


 どうやら決着がついたらしい。これで一件落着かと思われたその時、イモータル王から、俺の名前が呼ばれた。


「さて、この異変に、いち早く気づき、尋常ならざる活躍をしたイバスとやら。此方に来なさい」


「は、はい!」


 呼ばれた俺は王の前に出て、その場で膝を突きいた。もしかしたら褒美でも貰えるんじゃないかと甘い考えを持っていた俺だけど、王の顔は、そんな事をしてくれるような表情をしていない。俺を見下げるような目をしていた。


「貴方がイバスですか。では少々聞く事がありますから、キッチリ答えなさい。貴方があの巨大兵器を持ち帰ったから、天使が来たというのは本当なのでしょうか?」


「あの、は、はい…………」


「確かに貴方は戦場で活躍しました。ですが、この騒ぎを起こした首謀者だというのなら、話は別です。いくら知らぬ事とはいえ、貴方の所為でこの国は危険に晒されたのです。貴方にはきっちり罰を受けて貰いましょうか!」


「うぅぅ…………はい。きちんと罪を償うつもりです…………」


 死刑になりませんように。死刑になりませんように。死刑になりませんように!


「幸い、こちら側にも彼方側にも、亡くなった者は一人も居ませんでした。ですので、ここで宣言しなさい。フルール・フレーレと結婚すると!」


「えええええええええええええ!」


 周りの皆がざわついている。これが罰とは…………まさか、王様は、レアスさんや、エルさんと同じく、フレーレさんのお友達なんじゃ?!


「彼女は王国最強。そんな彼女の血を絶やす訳にはいきません! どうしました? 受けるのではなかったのですか? まさか体だけ楽しんで、捨てるという訳ではありませんよね? さあ、返事をなさい、さあ早く!」


 間違いない、あの話を知ってるってことは、あのレアスさんか、エルさんに繋がっている。


 その宣言を聴き、周りのざわめきが大きくなった。あの話は終わった筈なのに、まだ俺を苦しめるのか。してないと、本人から聞いたと言わなければ……………。


「あ、あの、失礼ながら、フレーレさんの口から、ハッキリと、していないと聞き及んでおりますので、僕に責任はないかと…………」


 俺の説得を聴き、王が判断を下した。


「…………この者を処刑台に送りなさい」


「ハッ!」


 近衛兵の二人が俺の腕を掴み、この部屋から退出を…………。


「ま、待ってええええええええええええ! ごめんなさい、結婚します、結婚しますから! 助けてください王様ああああああ!」


「ならば宜しい。では明日結婚式を執り行います」






 王命令で結婚するように言われてしまった俺は、死にたくないからそれを受け入れた。



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