一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 占い師との再会。

 アストライオスの性能を報告した俺は、フレーレさんとの待ち合わせの場所へ向かっていた。 その道中、俺は朝出会ったあの占い師に、再び出会ってしまった。


「あの、ちょっと…………」


「…………ッ!」


 あ、俺の顔を見ると、いきなり走って逃げだして行く。 やはり詐欺師か何かだったのだろう。 俺は占い師のお婆さんを追い掛けるのだが、途轍もないスピードで、お婆さんが逃げ続けている。 まるで、何時でも逃げられる様に、鍛え続けている様だ。


「ちょっと、待ってください! 僕のお金を、返してください!」


「騙される方が悪いんじゃ! バ~カ、バ~カ! 追い付けるものなら追い着いてみるのじゃな! ひゃ~っひゃっひゃっ!」


 俺も全力で走っているのだが、お婆さんに追い着く事が出来ない。 このまま追い続けていたら、何時追い付けるかも分からない。 フレーレさんとの待ち合わせにも、これでは遅れてしまいそうだ。


「今日はお前さんに付き合ってる暇はないんじゃ、諦めて帰るんじゃな、ヒャッハー!」


「クッ、仕方がない、今回は諦めるとしましょう。 次回こそ、必ず捕まえますからね!」


 俺はお婆さんとの追いかけっこを諦め、フレーレさんとの待ち合わせの場所へ急いだ。 待ち合わせの場所は、中央広場の噴水の前、良く男女の待ち合わせの場所に使われている場所だ。


 その噴水の前に、美しい女性が立って居る。 勿論それはフレーレさんで、さっき会った時とは違い、美しくコーディネートされている。 赤いドレスは胸を強調されて、長いスカートには動きやすい様に、長くスリットが入っている。 左腕の甲殻の手が少し目立っているけど、それは仕方のない事だ。


「イバスく~ん、こっちよ~!」


「お待たせしましたフレーレさん。 あの、す、素敵なドレスですね」


「ありがとう、二人に見繕って貰ったんだけどー、似合ってるのなら良かったわ。 じゃあ早速行きましょうかー」


 俺の腕を軽く握り、フレーレさんは、俺を引っ張って行く。


「え~っと、フレーレさん、一体何処へ行くんですか?」


「決めてないわー、だから、この辺りにある店とか、ちょっと見に行ってみましょうよ」


 確かに、デートのプランなんて、朝起きてから考える時間も無かった。 フレーレさんとしても、それは同じだっただろう。


 そんな楽しくなりそうなデートの矢先。 俺達を邪魔しようとする、黒い影があった。 その影は、俺達の後ろから追い越して、ズザザっと滑りながら、目の前に現れた。 このお婆さんは、さっき追い掛けていた、お婆さんと同じ人物だった。


「おや、フルール、もしかして、その人とデートでもするのかぃ? このお祖母ちゃんに紹介してくれんかね?」


「あれー、レネンお祖母ちゃんじゃないの。 久しぶりねー。 えーっとね、この人はイバス君って言って、私の恋人なのよー」


「ほほう、なる程、この男が…………ねぇ」


 あっさり俺を恋人だと紹介するフレーレさん。 それを聴き、お婆さんは、俺を見上げ、ニヤリと笑っている。 とても嫌な笑い方だ。 絶対何か企んでいる。 この人がフレーレさんの、実のお婆さんだとすると、少々面倒なことに、なってしまうだろう。


「あ、フレーレさん。 俺、このお婆さんに、お金を…………」


「きええええええええええええええええええい!」


 俺の発言を許さず、お婆さんは、背中から取り出した杖を使い、俺に殴りかかって来た。


「おわッ! 何するんですかいきなり! 怪我したらどうするんですか!」


「お前、ちょっとこっちに来い!」


 グイっと引っ張られる俺は、お婆さんに連れられて、フレーレさんとの距離を開けられた。 ここなら話をしても、フレーレさんには聞こえないだろう。


「お前! もしワシの事を知って、フルールが悲しんだらどうするんじゃ! この場は何も言わない事をお勧めするぞぃ。 分かったら大人しく、残りの金も寄越すんじゃな! もし断ったなら、ある事無い事フルールに言いふらしてやるぞ!」


 このお婆さん、俺を脅す積もりかなのか? フレーレさんと別れるのは、別に構わないのだけど、このお婆さんの所為で、フレーレさんを悲しませるのは、少し嫌だ。


「お婆さんこそ、フレーレさんを悲しませるのは止める事ですね。 あんな詐欺みたいな真似事をして、手配書でも出たら、もう容赦出来ませんからね。 僕だけじゃなく、大勢の人達に命を狙われる事になるんですよ? 少しは考えたらどうですか」


「お前は勘違いしておるぞ。 ワシが騙したのは、お前が最初で最後じゃ。 お前さんの顔を見ていたら、なんとな~くムカついてのぅ。 ちょっと騙してやろうと思っただけじゃ! ワシが気に入らなくなるぐらいじゃから、女難の相というのも間違っていないじゃろうが!」


「あの薬と、百年前の話っていうのは?」


「ありゃワシ特性の滋養強壮薬じゃ。 それにワシ、まだ七十五じゃもん、そんなん知っとる訳ないじゃろ! ヒャ~ッヒャッヒャ!」


 クッ、このお婆さん、いきなり開き直ったじゃないか。


「じゃあ、お金を返してください。 返してくれないと言うのなら、国に詐欺師として報告しても良いんですよ?」


「材料費でトントンと言うのは嘘じゃ無いわい。 お前の払った分な、あれで丁度材料費が買えるぐらいじゃわい。 まあ全部自分で摘んで来たものじゃがな。 つまりお前さんは、あの薬を適性価格で買ったんじゃ、それで文句を言われる筋合いは無いわい!」


「うぬぬ、ああ言えばこう言う人だ。 じゃあもうそれで良いですから、もう二度としないでくださいね。 じゃあとっとと帰ってください!」


「何を言っとるか! 大事な孫の一大事なのじゃ、お前の様なヒョロっとしたモヤシが、ワシの孫と付き合おうとは片腹痛いわ! 覚悟するが良い、徹底的に邪魔をして、貴様達二人を別れさせてやるぞぃ!」


「へ~、そうなのですか? やれるものなら、やってみると良いです。 出来るものならね!」


「ヒョッヒョッヒョッヒョッヒョッ!」


「ふっふっふっふっふっ!」


 俺は別に、将来誰と恋仲になっても、構わないと、思って居るけど、それは、今の状態が、落ち着いてからにしたいと思っている。 もう少し、出来れば、平和になってからに。


 そして、このデートの邪魔をされる事は、俺にとって別にマイナスではないのだ。 今日を乗り越える為にも、是非付き合ってもらうとしようか! 


 遠くで此方を見ているフレーレさんの元に戻り、お婆さんが、このデートに付いて来る事を宣言した。


「フルールよ、このワシもこの男に興味がある。 ワシも連れてっておくれ。 安心せい、邪魔などせぬよ、ヒョッヒョッヒョッ」


「お祖母ちゃんも、ついて来るのー? う~ん、私は構わないけどー、イバス君はそれで良いの?」


「ええ、僕も構いませんよ。 じゃあ三人で色々周りましょうか」


「うむ、では出発じゃ!」


「そ、そうねー、じゃあ行きましょうか」






 お婆さんが、フレーレさんの手を握り、そして、もう片方の手で、俺の手を掴んでいる。 若干フレーレさんの額から、青筋が出てる気がした。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品