一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 運命なんて自分で切り開ける人は稀だと思う。

 ちょっと解呪薬がきいたのかなと思っていた矢先、またとんでもないピンチが訪れようとしていた。


「…………フレーレさん、私達はあの男性に御挨拶して参りますので、この場で少しお待ちください。 フレーレさんのお友達として、是非御挨拶しておかなければなりませんから。 さあ、行きますよエルさん!」


「…………ん!」


「いってらっしゃーい」


 二人がフワリと浮き上がり、アストライオスの胸の部分にシュタット着地した。 その顔をみるだけでそれが分かった。 完全に怒っていらっしゃる。


 そんな状態のお二人に、バベル君が空気を読まずに元気一杯挨拶をした。


「あはは、どうも初めましてっす! 俺っち来週にマルケシウス隊に配属される予定のバベルっす! お二人共、どうぞよろしゃしゃしゃす!」


「…………貴方は少し黙っていてもらえませんかね?! 私達わたくしたちは今この男と話しをしようとしているのです! もし貴方が邪魔をしようとするのなら、それなりの覚悟を見せていただきますわよ?」


「…………」


「了解しゃ~したあ! 俺っち少し黙っています!」


 バベル君の態度にイライラが頂点まで登ろうとしていたレアスさんは、その怒りのままに俺を睨みつけている。 目を逸らしては駄目だと思いつつ、俺はそれから目を逸らした。


「何故目を逸らすのですか? 心に何かやましい何かを抱えているのでしょうか?」


 そうだ、俺には何もやましい事はない。 何方かというと、寝ていただけの俺の方が襲われたと言って良いだろう。


「いえ、特に、何も…………」


「ほう、フレーレさんの体を弄び、それで何もやましい事が無いと? やはり世の為にも処刑した方が宜しいみたいですわね。 ではお覚悟を!」


「…………フッ!」


「ええええ、先輩ってあの破壊怪獣フレーレさんとやっちゃったんですかあああああああああ?! そいつはすげーや。 これは学校で言いふらさないと! じゃあ今日はお祝いですね!」


 絶対言いふらさないでくれ。 バベル君の何も考えてなさそうな一言に、二人の表情が更に険しく変わっていく。 もう本当に黙っていて欲しい。


 そして二人が武器を構えている、本気で俺をやるつもりなのか?! まずは言い訳・・・じゃなくて真実を言って納得してもらうしかないだろう。


「ちょちょちょちょっと待ってください! フレーレさんから何を聞いたのか分かりませんけど、僕がフレーレさんを無理やり襲うなんて事できませんって! だって僕は、この兵器を使わないと、そんなに強くないですから! そそそそそれに、僕は自分のベットで寝てただけで、何方かと言えば僕の方が襲われた訳でして…………」


「この期に及んで言い訳とは見苦しい! やはりこんな男では彼女を幸せにすることなんて出来ませんわ。 今この場で抹殺して、無かった事にしてしまいましょう!」


 二人は凄く熱そうな剣と、鋭そうな爪を構え、容赦なく襲って来た。  すげーすね先輩! これが修羅場ってやつっすか、あはは等と呑気にしているバベル君を、正直殴ってやりたくなるが、今はそんな場合ではない。 二人の武器が、もうそれが目の前にまで迫って来ていた。


「や、やめてええええええええええええええええええええええええ!」


 そんな俺を助けてくれたのが、この場にやって来たフレーレさんだった。 二人の武器をハシッと受け止めて笑っている。 まるで物語で出て来る勇者の様だ。


「もう二人、イバス君を虐めちゃ駄目よー? 彼は私と夫婦になるんだからー」


「いや、あの僕はそんな事を一言もいってませんけど…………」


「夫婦…………ですか? この男にそこまでの覚悟があるのならば、私はそれで手を打ちましょう。 でも もしフレーレさんを不幸にでもしたら、貴方を八つ裂きにして差し上げますわ!」


「…………ッ!」


 あれ、これってフレーレさんと結婚しないと、俺は死んでしまうんでしょうか? これは駄目だ、俺の人生が勝手にドンドン決まってしまう。


「さあお返事は?!」


「あの、え? えええっと…………」


「男なら今直ぐ決めなさい! フレーレさんと結婚なさるのでしょうね?!」


「そうっすよ先輩、男なんだから抱いた女には責任を取らないと! もう はいと言っちゃうしかないっしょ!」


 何だろうこの包囲網は、まるで俺を結婚させる為に集められたような?


 はッ! まさかベットで寝てた時から全てを仕組まれていた?! …………この三人ならやるかもしれない。 そう思った俺なのだけど、でもこれは、もうハイと返事をしないと収まらないかもしれない。


「ああ、もうそれで良いです…………」


 俺はもう観念して、そう返事をしてしまった。 でも言葉だけで決まった結婚なんて、そう長くは続かないだろう。


「やりましたわフレーレさん、この男の言質を取りましたわよ! ではこのわたくしが証人となりましょう。 さあフレーレさん、この瞬間貴方達は夫婦となったのですわ! おめでとうございますフレーレさん!」


「…………やった……ね!」


 この世界で結婚とは簡単なものだ、二人で結婚したと言ってしまえば成立してしまうようなものでしかない。 だからと言って何て強引な、あの四人でも此処まで強引じゃなかったんだけど。 まだ出会って二日目だというのに、俺はフレーレさんと結婚をさせられてしまった。


「イバス君、これからよろしくねー。 絶対幸せにしてあげるわー!」


「あ、どうも…………」


 抱き付いて来るフレーレさんからは、やっぱり良い匂いが漂って来ている。 このまま抱きしめたくなるのだけれど、それをすると後戻りできなくなりそうだから止めておいた。


「じゃあ早速子供でも作っちゃいましょうかー、出来ちゃえば誰も文句言わないだろうし」


「いや待ってください! 後輩も見ているし、今日は任務をしに来たんですよ! 今そんな事をしている場合じゃないでしょう! は、早く敵を倒しに行かないと…………」


「先輩、俺っちの事なら気にしないでください! 俺っち此処で何が起ころうと動揺しませんので! さあ是非どうぞ!」


 出来れば別の人トレードを希望したい。 先輩には、この後輩は使えなかったと報告しておこう。


「あ、そう言えばそんなのもあったわねー。 じゃあこの任務が終わってからのデートの時に、いっぱい頑張ろうね」


 あのデートの約束までも計算しつくされて?! いやいや、それは考えすぎだろう。


「そ、それはその時に考えます…………」


 この場にあの四人が居ない事だけが幸いだ、居たのなら色々と酷い事になっていたかもしれない。 それに問題は山積みだった。 今日のデート、それにエリメスさんとアスメライさんとのデート。


 後はあの解呪薬の事だ。 此処まで酷いとなると、あの薬は偽物なんじゃないだろうか? 次に会った時にはお金を取り返してやろう。


 一応結婚をしたとみなされた俺だが、まだ逆転の手は残されていると思っている。 まだ勝負は始まったばかりなのだ!(強がり)






 それからアストライオスを動かせないからと、女性陣三人には掌に乗って貰い、俺達は目標の魔物の元へ向かって行った。



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