一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 選べない選択肢なんて、もう選択肢じゃないと思うんだ。

「イバスさん、もう時間です。 次は私を!」


 ルシアナリアさんとレーレさんが共倒れして、エリメスさんが次は私だと騒ぎ出している。 もうそろそろ王都が見え始めてきている。


 エリメスさんと入れ替える時間もなく、俺達は近くを見回っていたべノムさん達に止められていた。 こんな巨大な物体なんだ、まあ簡単に発見されるだろう。 一応これが魔物ではないとは理解してくれているらしい。


「おいコラ、止まりやがれ! 一体これ動かしてるのは誰だ? まさかまたあの天使じゃねぇだろうな?!」


 変な勘違いをして攻撃されたくない、俺は大人しく胸のハッチを開き、べノムさんに挨拶してみた。


「べノムさんこんにちは、僕は王国のイバスです。 今ちょっと出て行きますから攻撃しないでくださいね」


「はぁ、イバスぅ? イバスってアツシの相方の奴か?」


 胸のハッチから俺が手を振り挨拶すると、べノムさんが胸のハッチへと着地した。 横に倒れて居る二人も気にしていないらしい。 こんな状況を気にしないとは、この人も色々経験しているのかもしれない。


「で、何だこりゃ? いや、これが何であれ、こんな不吉な物を王国に持ち込むんじゃねぇよ。 絶対後で良くない事が起きるぞ!」


「いやぁ、でもこれ使えそうなんですよ? 大岩だって持ち上げる事が出来ますし、魔物との戦いでも役に立つんじゃないですか?」


「はぁ、これが役に立つだとぉ? …………いや、形からしてどうにも信用出来ねぇ。 やっぱり無理だ、今直ぐ返して来い!」


 此処まで運んできた苦労を考えて欲しい、一体俺がどれ程苦労したことか。 主に色々性的に。


「今更戻しに行くのは無理ですよ、これを何とかしてくれって任務でしたし。 それに今更元の場所に戻したら、僕が上官と持ち主に怒られてしまいます」


「だったら別の場所捨てれば良い話だ。 なるべく遠くに捨てて来い! 今直ぐにな!」


「帰りが歩きになってしまうじゃないですか、そんな危険な事はしたくありません。 良いじゃないですか、形は不気味かもしれませんが、役に立つんですよ? 一度試してはもらえませんか?」


「試すねぇ…………。 うし、そこまで言うのなら試してやる、俺の部下と戦わせて、そいつが勝てばこれを認めてやろう。 ただし、負けたらそ直ぐに捨てて来るんだぞ?」


「はい、じゃあそうしましょう。」


 きっとべノムさんは最大火力でこのアストライオスを叩き潰す積もりだろう。 しかしそれは此方にも好都合だ、このアストライオスの力がどれ程の物なのか、試してみる絶好のチャンスだ。


 俺達はべノムさんの案内により、開けた大地に案内された。 地面は平で、移動に邪魔になる様な起伏も無い。 この場なら存分に戦えるだろう。


「ちょっと待ってろ、直ぐに仲間を連れて来る。 楽しみにしていろ、絶ッッッッッッ対にぶっ倒してやるからな!」


 仲間を呼びに、べノムさんが飛んで行った。 俺もべノムさんが仲間を連れて来る前に、此方もそれに備えて準備をしなければならない。 まずこの倒れて居る二人を外に出すとしよう。


 俺がその二人を降ろそうとすると、掌に乗っていた別の二人がハッチの中に登って来ていた。 さっきまで叫んでいたし、我慢が出来なかったのかもしれない。


「イバス、今の話を聞くと、この私の力が必要よね? 戦いには私を乗せなさい、きっと役に立つわよ!」


「待ちなさいアスメライちゃん、今度は私が二人っきりになる番じゃないの。 邪魔するのなら貴女でも許さないわよ!」


「ふふん、お姉ちゃんこそ魔力量も少ないくせに、どうやってイバスを手伝うっていうの? 戦いの途中で燃料切れになったら、此方の負けになってしまうじゃないの。 お姉ちゃんの分まで私が頑張るから、あの二人と一緒に外で応援してて!」


「…………やはり実力行使しかないらしいわね。 お姉ちゃんに逆らった事を、たっぷり後悔させてあげるわ!」


 また喧嘩を始めようとする二人に、俺は間に入ってそれを止めた。 確かにアスメライさんの方が魔力が多そうだし動かすには必要だとは思うけど、出来れば二人には居て貰った方が確実だ。 何とか説得して二人に乗って貰うとしよう。


「で、出来れば二人に乗って欲しいです。 どのぐらい動けるのかも分からないし、後でエリメスさんにもも時間を作りますから。 それじゃあ駄目…………ですか?」


「分かりました、ではイバスさんは特別に私とデートするということですね? 日付は何時にしましょうか? お弁当とか作って、一緒に仲良く出掛けましょうね」


「待ってお姉ちゃん、それは駄目よ! 今まで十分じゅっぷんという制限があったから良かったけど、それは十分で終わらないわ! イバス、もしやると言うなら、私とも別の日にデートしなさい!」


 なるべくそういう事はしたくないのだが、二人を乗り込ませる為には仕方ないらしい。 それに後で倒れて居る二人に知られない様にしなければならない、そうしなければまた俺の休日が減ってしまいそうだ。


「じゃ、じゃあそれで良いですけど、出来れば一時間ぐらいで…………」


「何を言ってるのですイバスさん、デートなのですから朝から次の朝までに決まっています。 それを了承してくださらないのなら、今此処で私と結婚してくれませんか!」


「そうね、デートだもんね、その位常識よね。 私はお姉ちゃんの後で構わないから、キッチリデートしてもらうわよ!」


 朝から朝までとか、もはやそれはデートじゃないし、俺の貞操も危うい。 それに、断ったら結婚とか全く意味が分からない。 しかし受けるしかないだろう、デートの事は後で対策を考えるとしよう。  


「・・・・・朝まではちょっとキツイです、出来れば夜までにしてください」


「「駄目よ!」」


「そこを何とか…………」


 時間を掛けて頑張って説得を続けた俺は、日が変わるまでと言う事で二人に納得してもらった。 そんな俺達を見ていたのが、仲間を呼びに行ったべノムさんだった。 此処に居ると言う事は、もう仲間を呼んで来たのだろう。


「よう、なんだか立て込んでるらしいが、此方の事も忘れちゃいないだろうな? キッチリ強烈な奴を連れて来てやったから、お前等は大人しくぶっ飛ばされてろ。 おしフレーレ、お前の出番だぜ。」


「何時でも良いわよー!」






 うっ…………この人が相手なのか。 大丈夫、此方は力も重さもあるし、きっと勝てるはずだ!



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