一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 大きな巨像の前で。

 魔物との戦闘は何度かあったが、俺達じゃ順当に村に到着出来た。 まずこの村の中でヒルデさんを探さなければならない。 俺は村人に聞いてみようと移動しようとしたが、その前にレーレさんが何か手掛かりを発見した。


「イバス様、これをご覧になってください。 この看板に描かれている方向がヒルデさんの居場所ではないでしょうか?」


「えっ、そうなのですか?」


 その看板を見ると、ようこそアットハインの村へ、っと書かれている。 そしてその下にはヒルデの家はこっちと矢印が印されていた。 字体が違うから、たぶん勝手に書き加えられた物だろう。 俺達がいつ来ても良い様にと書いたのだろう。 まあ探す手間が省けたから良しとしておこう。


 俺が移動しようとする前に、今度はルシアナリアさんが先頭に立ち、俺は手を引かれてしまった。


「さあご主人様、この先は私が案内致しましょう。 さあ、此方でございますよ」


「え? ああ、はい」


「「「あんたが仕切るんじゃない!」」」


 女性三人のツッコミが入り、また喧嘩になるんじゃないかと心配したが、俺が隣に居るからか、まだ大人しくしてくれているらしい。 また変な所で喧嘩しないか心配だ。


 看板の案内通りに進んで行くと、ヒルデさんの家を発見するより先に、とんでもなくおかしな物体を発見してしまう。 あれは一体なんだろうか、無駄に大きな物だ。


 巨大な象の様に見えるが、その材質は石ではない。 たぶんだが金属を加工して作ってあると思われるそれだが、あれは如何見ても天使に関わっている物だ。


 全身白く、背中には翼を生やし、頭には黄色い輪っかまであったりする。 これで天使じゃなかったなら、一体これはなんだと言わんばかりだ。


 だが天使と関わるのはとても不味い、俺の相棒からは、靴を舐めてでも天使には絶対関わるなと強く念を押されていた。 しかし上官から下された任務では仕方がない、もう諦めてやるしかないだろう。


 …………ヒルデさんからは、どうせコレを何かしろと言われるのだろうな。 ああ、もう帰りたくなって来た。


 俺達はヒルデさんの家を見つけると、俺はその扉をノックしてみた。


 コンコンコンコンっと軽く家の扉を叩くと、中から、は~い、と女性の声が聞こえて来る。 ガチャリと扉が開き、家の中から女性が現れた。 この人がたぶんヒルデさんだろう、これで違っていたらビックリだ。


「あら、貴方達は…………どなたでしょうか?」


 まあ初めて会うのだからわからなくても仕方がないだろう。 一応自分達の紹介をしておこう。


「初めましてこんにちは、僕達は王都から来兵士なのですが、貴女が連絡をくださったヒルデさんですよね? 上官から一度調べる様にと命令を受けました。 どうぞよろしくお願いします」


「ああ、やっと来てくれましたか、本当に長い間待っていたんですよ? じゃあ早速あの白いのを片付けてくださいね。 じゃあお願いします」


「あ、あれを片付けろと?」


 やはりアレの事だったか。 こんな予想なんて当たって欲しくなかったよ。


「ええ出来るだけ早くお願いしますね、別に一日でやれとは言いませんから、出来たらまた声を掛けてくださいね。 では私は色々やる事がありますので、じゃあ頑張ってください」


「あっ、はい、なるべく頑張ります…………」


 バタンと扉が閉まり、ヒルデさんは家の中に行ってしまった。 アレを見る限りどうやっても動かせそうにないけど、一応近くに行ってみるしかないだろう。 移動しようとすると、エリメスとアスメライの姉妹が俺の両腕にしがみ付いた。


「さあイバスさん、私達と一緒に行きましょう」


「そうね、あの人達が起きる前に、私達と行くわよ!」


「え? 他の二人は…………」


 残りの二人がどうなったかと首を捻り後を確認すると、後頭部から湯気が出ているような倒れ方をしていた。 どうせこの二人がやったのだろう、まああの二人もそれ程ヤワではないし、その内目を覚ますだろう。 俺は二人をそのまま残し、白い巨像の元へと歩いて行った。


 俺達三人がその像の下に到着したが、改めて見直した所で、こんな物を動かせるはずがないだろうと、思うしかないような物体だった。


 もしこれが立ち上がったとしたら、全長十五メートルはありそうだ。 材質も堅そうで、試しに剣をぶつけても、その装甲に傷すら付かない。 どうせ駄目だろうと持ち上げようとして見ても、この像はピクリとも動きはしない。 うん、分かっていた、絶対無理だよね。


 俺がどうしようかと悩んでいると、この姉妹二人も同じように悩んでいたらしい。 そんな妹のアスメライが俺に質問してきた。


「…………ねぇイバス、こんなの一体どうするの? 全員居たって動かせないでしょこれ。 いっそ壊してみる?」


「これを壊す?」


 動かすのと壊すのと、その何方がマシな作業だろうか。 今度は少し柔らかそうな間接の部分に全力で剣を振ってみるが、ゴムのような物質は、俺の剣をバンッと弾き返した。


「どうもこれは無理そうですね。 イバスさん、別の方法を考えましょう。」


 俺達三人が悩んでいると、遠くから走り寄って来る足音が聞こえて来た。 あれは・・・・・さっき気絶していた二人だ。 怒りのままに向かって来ている。 そしてまだ此方の二人は気付いていないらしい。


「「あんた達だけに、良い思いをさせるものかあああああああああああああああああああ!!」


 二人が仕掛けたのは、スライディンタックルである。 地面を滑りながらやって来る二人は、姉妹二人の脚を盛大に薙ぎ払った。 しかしその二人もやられたままにはなっていない。 さっと受け身を取り、ガチンコの勝負が始まりそうだった。


「御主人様、今この私めが邪魔者を排除してご覧に入れます、是非応援のほど、宜しく御願い致します!」


「いいえ、この私がイバス様の為、全員血祭に上げて見せましょう!」


 先ほどまで息が合っていたと思われたルシアナリアさんとレーレさんだが、その言葉一つで一気に険悪な雰囲気になっていく。 そしてそれに対する二人もやる気は十分の様だ。


「出来る物ならやってみると良いわ! イバスはもうこの私と生きると決まっているのよ、あんた達はお呼びじゃないんだから!」


「あら? アスメライちゃん、それは一体どういう意味なのかしら? まさかこの私とも対立する気じゃないでしょうね?」


 四人が四人とも敵対し、一気に戦いが始まった。 ルシアナリアさんからは植物の蔓が伸び、レーレさんは爪で、アスメライさんは魔法を使い、エリメスさんは剣を抜いている。 また血みどろの戦いが始まるのかとうんざりしている俺を後目に、四人の戦いは激しさを増して行く。


 そんな四人は天使の巨像の足元へと戦場を変え、避けた攻撃が天使の巨像へとぶつかっている。 そんな誰かの一撃が、奇跡的にも白い巨像のパーツを開いた。


 俺がそれを見ると、何かのボタンが並び、よく分からない文字で何か書いてある。 どうせ何が書いてあるのか分からないのだ、もう適当に押してみるしかないだろう。 俺は躊躇わずに、そのボタンの一つを押し込んでみた。


「てい!」


 そのボタンが押し込まれると、天使の巨像の姿が変化していく。 胸の辺りにある部品が開き、中から何か小さな空間が出来ている。 少々怖いが、ちょっと調べてみるべきだろう。






 四人が喧嘩をしている内に、俺はその部分によじ登って行った。 



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