一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

34 あれだけ頑張ったのに、その扱いは酷いでしょう!

 俺達は遺跡からブリガンテへと戻って来たのだが、会場の中は誰も残っていなかった。 観客も運営の人まで誰も居ない、たった一つ残されたスクリーンが、俺達の姿を映し出している。


「どうしましょう隊長、誰も居ませんね。」


「あん? とりあえずマリーヌ様に報告するしかねぇんじゃねぇのか? 一回城にでも行ってみるか、マリーヌ様もいらっしゃるだろうしな。」


「じゃあ行ってみましょうか。」


「だな。」


 ここまでやったというのに、随分扱いが酷いぞ。 何だか微妙に納得がいかないが、俺達はマリーヌ様に会う為にブリガンテの城に向かった。 門前でちょっとした検査を受け、何人かの見張りを付けられた。 まあ武器のを取り上げても俺達にはあんまり関係ないし、それは当然の反応だろう。


 そんな俺達はその人達の案内により、マリーヌ様のいらっしゃる部屋へと案内された。


「あら、王国の方々ではありませんか、随分と遅かったですね。 もう他国の皆様方はお帰りになられましたよ。 順位としては当然は最下位です。」


「いやまあ相当色々ありましたんでねぇ、それにあんなデカイ遺跡だとは思わなかったもんで。 一応遺跡調査の終了と、後色々報告があるんで、ちょっと時間をもらえませんかねぇ。」


「・・・・・良いでしょう。 案内ご苦労でした、貴方達は元の仕事に戻りなさい。」


「「「「「ハッ!」」」」」


 マリーヌ様は少し考え、俺達を見張って居た兵達を下がらせた。 そしてこの部屋の中には俺達とマリーヌ様だけとなった。 別に俺達を信用しているのではないだろう、むしろ逆で、俺達の力を知ってるからこそ邪魔者を下がらせたという所だろうか。


「では報告を聞きましょう。」


「んじゃ、報告いたします。 遺跡における内部の探査と、そこに巣食っていた魔物の殲滅を完了しました。 それとその遺跡には結構な財宝が眠っていたんですが、それを発見した王国側にもそれなりに見返りがあるんでしょうね?」


「ふむ、無かった物が増えるのですから、別に我々が損をするわけではありませんからね、一割位ならば構いませんよ。 それでは用意が出来次第、後程王国に送ります。 それで宜しいでしょうか?」


「はい、それで構いませんぜ。 まあ俺からの話はそんなもんなんですがね、うちのバールがおかしな物を拾ったので、それに対してちょっくら報告があるんで、まあ聞いてくれませんか?」


 二人の話に割って入ったのが、あのおかしな教授だった。


「お待ちくださいマリーヌ様! あの遺跡はこの私が最初に発見したのです! まず私にも分け前・・・報酬を与えてください! あの遺跡の探索と発見にはそれなりの時間と金額が掛かっていますので!」


「そうですね、貴方が居なければ遺跡の宝も発見できなかったでしょう。 ならば貴方には感謝状と、それなりの金を与えましょう。 貴方もそれでよいでしょう? もしもそれ以上を望むのであれば、貴方には処刑台に立ってもらいますが?」


「いえ、それで十分でございます!」


 一応納得したのか、教授が大人しく下がって行く。


「はぁ、お待たせ致しました、それではバールさんのお話を聞きしましょう。」


「はい、ではこの短剣を見て居てくれませんか。」


 ようやく俺の番かと、俺は懐からフレデリッサさんを取り出し、マリーヌ様に警戒されない様に掌へと乗せてそれを見せた。


「ほう、随分と立派な短剣ですね、これも財宝の中にあったのでしょうか? それでこの短剣を私にどうしろと?」


「実はこの短剣なのですが、遥か昔に閉じ込められた、ブリガンテの姫様が入っているのです。 マリーヌ様、どうぞフレデリッサさんの言葉を聴いてあげてください。」


「ふむ、姫・・・・ですか。 ・・・・・分かりました、では発言を許しましょう、存分にお喋りください。」 


「お初にお目にかかりますマリーヌ様、わたくしブリガンテ第六代アクストギアの娘、名をフレデリッサと申します。 どうぞお見知りおきを。」


「・・・・・どうやら嘘を言ってるのではなさそうですが、そのフレデリッサ様がこの時代に一体何をなさろうというのでしょうか? まさか今更王位を譲れなどとは言われませんよね?」


「いえ、私の時代はとうに過ぎ去りました、今更権力になど執着致しませんわ。 マリーヌ様、私はこの短剣の中から出たいのです。 私がこの短剣から抜け出せる方法をご存知でしょうか?」


「残念な事に我がブリガンテには、その様な書物は管理されておりませんね。 ノアからも聞いたかもしれませんが、貴重な古書は昔にあった大火災で、殆どが焼失してしまっているのです。 私達には貴女を助け出す事はできません。」


「では私は死ぬことも出来ずに、一生このまま・・・・・。」


 フレデリッサさんが諦めようとしている。 このブリガンテで助け出せないのならば、王国の技術なら助けだせるのではないのか?


 でもその考えは甘いのかもしれない、そんな昔には王国は本当に小さな国で、国と言っても殆どその鄭を成していない時代だ。 そんな時代の技術は、王国にももう残っていないかもしれない。 しかし、助けられる可能性はゼロじゃない。 俺はマリーヌ様にこの短剣を譲ってくれる様に交渉をした。


「あのマリーヌ様、もし宜しいのであれば、この短剣を報酬の一部としてお認めください。 そうなれば王国の物として持ち帰れますからね。 どうでしょう、駄目、でしょうか?」


「そうですね、今は物なのですから報酬として認めましょう。 昔の王族など置いておいても何の得にもなりませんからね。」


「マリーヌ様、どうも有難うございます!」


「お礼はいいですから、要件が済んだのならもう下がってくれませんか? 私にも色々と仕事が残っていますので。」


 そう言って再び仕事をし始めるマリーヌ様。 俺達は別れの挨拶をして急いで王国へと帰って行った。 かなり頑張ってトーナメントを優勝し、変な遺跡まで探索させられた俺達だが、そんな俺達を待っていたのはイモータル様からの、お怒りの言葉だった。 どうにも四位というのが駄目だったらしい。


「何故四位なのでしょうか? 貴方達はそんなにも弱かったんでしょうか? 聞いてあげるから、この私に壱から説明してみなさい! もし私を説得できなければ、貴方達四人には壱年間のトイレ掃除を命じます!」


「「「「ええええええええええええええ!」」」」 


 そして俺達は必死に説得したのだが、何を言った所で聞いてはもらえなかった。 短剣のフレデリッサさんの事はキメラ研究所に任せ、必死でトイレ掃除を続けていった。 黒くこびり付いた汚れや悪臭、掃除してくる間にも入って来る男達と戦い、そして八か月もの時間が流れた。






 この日、フレデリッサさんが短剣から解放されると聞いていた。 俺は仕事を手早く切り上げ、研究所へと見学に行った。



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