一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 クラゲは水分ばかりだが、種類によっては食べられる。

 ヌチャヌチャと進んで来る大きなクラゲは、遺跡の通路を隙間なく塞いでいる。 詰まった様に動いているから、移動速度はそれ程速くないが、体からは何本もの触手を突き出し此方に向いている。 先に進む為にはこの邪魔者を排除する必要がある。


「陸に居るとは言え、相手は水生生物だ。 エル、お前の炎で焼いちまえ!」


「ん・・・・・無理。 つか・・・れた・・・。」


 エルは遺跡の入り口近くで座り込んでいる。 相当の力を使っていたし、まだ回復してないのだろう。 このまま戦いに参加させるのは危険だな。


 だったらと、俺は前に出てガッシリと盾を構えた。 と言ってもこんなデカイ物を止められる訳がない。 ていうか、どうやっても絶対無理だ。 だからやっぱりちょっと下がった。


「テメェコラ、下がんじゃねぇよバール! 俺ぁちゃんと見てんだぞコラァ! もっと前に出ろや!」


「いや、でも隊長。 こんなもの押し返すなんて出来ませんし、俺が踏ん張っても潰されるだけですって。 だから隊長達が頑張ってください。 俺、全力で応援だけしてますから。」


「お前も手伝えこの野郎! 俺は今真面に動けねぇんだよ!」


 ああそうだった。 今隊長はアツシの姿をしているし、ノアさんに映像を映されているから、あんまり無茶な事は出来ないんだった。


「う~ん、じゃあ後からチクチク攻撃してますね。 ほら、ノアさんとエルだって護らないといけないですし、まだちゃんと動けていませんから。 大丈夫です隊長。 隊長の隣には頼れる女性が居るじゃないですか。 そいつが居れば絶対負けませんって。」


「ああ畜生! 殆ど役に立たねぇ奴等だぜ! おい行くぞフレーレ、もう後ろの奴等は戦力外だ。 俺の動きに合わせろ!」


「うん? 良いわよー?」


 隊長がクラゲの足を斬り裂いて、後ろからフレーレがその動きを真似して合わせている。 まるで分身している様だ。 ・・・・・でも全く意味はない。


「おめぇは一体何してんだ! 俺の動きを真似して遊んでんじゃねぇ!」


「えー、ちゃんと動きを合わせたじゃないのー、全く煩いわねぇ。 やっぱり組むならエルちゃんが良いわー。」


「そうじゃなくてだな! 合わせろっつったら攻撃のタイミングを合わせるんだよ! ああぁ、もう良い! 言い合ってたって時間の無駄だ! もうお前は自由にやってろや!」


「はいはーい。」


 結構バンバンと攻撃されているんだが、隊長達は余裕そうだ。 二人の攻撃は、相手の触手を一つずつ確実に潰している。 だがそのまま予定通りとは行かなかった。 少しずつ動き続けるクラゲの体は、動く度に新な触手が飛び出してきている。 再生しているのか? それともただ数が多いだけか? 何方にしろ殲滅には時間が掛かりそうだ。


「隊長、このまま続けていても埒があきません。 まだ何本あるか分かりませんし、本体を叩いてください。 俺はなんか適当に遊ん・・・・・援護しますから!」


「おいコラテメェ、今何て言おうとした? 俺の耳だと遊ぶって聞こえたんだが? クソッ、どいつもこいつもあてになんねぇな! だが何時までも時間掛ける訳にはいかねぇな。 おいフレーレ、お前も本体を狙え! 一気にぶっ倒すぞ!」


「う~ん、もうちょっと遊んでいたかったけどー。 ・・・・・分かったわー、じゃあもう少し威力を上げてみようかしら。」


 そう言ってフレーレは、遺跡の天井へとジャンプした。 そのまま天井に足の裏を張り付き、一気に天井から降下して来る。 だがただ落ちて来るだけではない。 体を回転させて踵での斬撃。 なんで踵でああなるのか理解不能だが、その威力は絶大だ。 クラゲの体が下半分から斬り裂かれている。


 クラゲは大きすぎて、フレーレの足が届く範囲しか傷が付いていないが、それでも随分とダメージがありそうだ。 傷口から透明な液体が噴き出している。 しかしそれも直ぐに収まり、傷口が塞がって行く。


 ダメージが無い訳ではない。 その拭き出した液体の分だけ、少しだけクラゲの体が縮んでいる。 遺跡とクラゲとの隙間が空いているので、たぶん間違いはないだろう。


「隊長、このクラゲはダメージを与える度に、その分縮むらしいです。  さあドンドン斬っちゃってください。」


「おい、テメェもやるんだよ! 」


「へ~い。」


 まあ良いか、そろそろ俺も活躍しないと色々言われそうだ。 俺は盾を置き、両腕を槍へと変えた。 そして俺は、一気に走り出した。 ・・・・・触手の一番少ない場所へ向かって。


 そうこれは別に逃げた分けではない。 決して逃げた分けではない! 動きの鈍い俺には、相手の攻撃を中々躱せないのだ。 これは適材適所というものだ! 逃げた分けでは無いのだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお! これでもくらっとけえええ!」


 両腕での連撃を与え、危なくなったら逃げ惑う。 完璧なヒット&ウェイを繰り返し、俺達三人の攻撃は、クラゲを元の状態から、半分以下にまで縮めている。


「オラアアアアア! このままやっちまうぞ!」


「ふぅッ!」


「よいさあああああああ!」


 縦横無尽とまではいかないけれど、隊長の素早い攻撃は、相手の体を刻み尽くす。 フレーレの強烈な一撃は、その一撃のみで相手の体積を半分も減らす。 そして俺だ。 そのぐらいになるともう必要ないと思って、俺は後に避難していた。


 体が縮んで行く分敵の攻撃範囲まで縮み、もうかなり戦いやすくなっている。 そこからは一気だった。 クラゲは最終的には拳大にまで縮みあがり、最後には隊長に踏み潰された。


「隊長、食わなくても良かったんですか?」


「テメェは一体何度言わせりゃ気が済むんだ! もう黙ってろ!」


 俺が隊長をからかっていると、ノアさんが話しかけて来た。


「ふう、皆さん中々大変でしたね。 でもこんな戦いを見たら、きっと観客の皆さんも喜んでいらっしゃるかと。 きっとマリーヌ様も満足していらっしゃるでしょう。」


「そうだと良いんだけどなぁ。 そんでよノアさん、こっちの状況は映像で送られるのは良いんだが、他の奴等の状況はこっちには分からねぇのかよ? なんつうかもう負けてるなら、無駄に疲れるより会場に戻りたいんだが。」


「残念な事に、こっちには情報は送れないんですよね。 まあ全部倒さない事にはゴール出来ない様になってるので、頑張って倒してください皆さん。」


 つまりは、全部倒さない限りは、戻って来てももう一度行って来いと? ・・・・・だったらそんな無駄な距離を行くよりかは、此処に残って全部倒した方が早いんだろうな。






 残りは三体かそれ以上か、進んで見なければ分からない。 俺達はノアさんに別の魔物の特徴を聞く事にした。



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