一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 人には色々恐れるものがある。

「いっくわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「・・・・・ふッ!」


 遺跡内部に真っ先に飛び込んだエルとフレーレだが、入り口に突っ込むと、三秒後には戻って来た。


「いやああああああああああああああああああああああ!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!」


「何だ?! 如何した?!」


 いきなり来たか! 俺はノアさんを護りつつ、戦闘体勢を整えた。 二人がとび出して来た入り口からは、大量の黒の煙が溢れ出て来ている。 いや煙じゃない、これはGだ! 大きさも形も完璧なGが、無駄に大量に発生したGの群れが、空一杯に広がって行く。


「うあぁぁぁ、これは酷い・・・・・。」


 彼女達だってそれなりの兵士だ、ゴキブリの一匹や二匹だったら撃退していただろう。 しかしこの数は多過ぎた。 百は優に超え、何千、そして万にも届きそうな程だ。 もしかしたらもっといるかもしれない。


 そんなG達は、一度は空へと散って行くかに見えたのだが、俺達全員を囲い込み、一斉に襲い掛かって来た。 これはもしかしたら、このG達はゴキブリ型の魔物なのか?!


「ひいいいいいいいいいいいいい。」


「あわわわわわわ・・・・・。」


 この二人が居れば何とでもなるだろうと思っていたのだが、今は完全に足手纏いとかしている。 エルの体から出ている炎は、自分とフレーレの体を覆い護っている。 やるのなら俺達も護って欲しいんだが。


 Gとはいえ小さな虫なので、それ程攻撃力は無い。 普通の人でも、噛みつかれても痛いですむレベルだが、これ程大量となると馬鹿に出来ない。 それに、耳の中や目に入れれると、この大きさでも十分危ないだろう。


「ノアさん! 良いというまで目を瞑って耳を塞いで居てください! 頭の中に入られたら死にますからね!」


「は、はいいいいいいいいいい!」


「このゴキブリ野郎が! このッ・・・ウェッ! ッぺ。 クソが、ちっとも減りやしねぇ。 おいエル! お前が戦わにゃ、何時まで経っても終わんねぇぞ!  全部焼き尽くしてやれ!」


「エルちゃん頑張って、私応援だけしているから!」


「・・・ううう・・・やる・・・。」


 エルは立ち上がり、大気中全体が炎に包まれた。 相当嫌だったのだろう、かなりの出力で放出された炎は、一体も逃す事なく焼き尽くして行った。  俺達全員も巻き込まれているが、特に熱さもなく、息苦しさも感じない。 むしろほんわか温かかった。 これはエルの体温ぐらいなのだろうか? とするとこれはエルに触れているのと同じ事だ。 ちょっと全身で感じておこう。


「ぬあッちゃあああああああああ!」


 俺の尻と股間辺りだけが、高熱に包まれた。 まさか俺の考えを読んだというのか? ただちょっと腰をクネクネしていただけだというのに!


 完璧に燃やされ尽くしたG達だが、しかし恐怖はまだ続くらしい。 今日の天気は完全なる無風である。 燃やされ灰となった物がパラパラと落ちてきている。 正直俺も、積極的にGに触れられる程好きじゃない。 灰になっても触りたくない。


「いやああああああああああ、頭に振って来るううううううううううう! 逃げなきゃエルちゃん! もう一度遺跡の中に避難しましょう!」


「あうう・・・・・。」


 力を使い果たしたエルを背負い、フレーレが遺跡に逃げて行ってる。 ついでにノアさんもそれに同行して行く。 やはりGのカスでも嫌だったのだろう。


「隊長、俺達も行きましょう、このまま被り続けるのは嫌ですから!」


「ああ、俺も出来るなら被りたくねぇ。」


 急ぎ遺跡の中に入って行った俺達だが、まだGが残っているのかとビクビクしている。 もうあれで全部だと嬉しいのだが。


「・・・・・はぁ、やっとG共が居なくなったぜ。 んでノアさん、もうこれで全部退治したんじゃねぇか?」


「いえ、まだです。 情報によればこの遺跡の中には、四体以上の魔物の姿が確認されています。 さっきの虫は魔物として報告されていませんから、まだ四匹はいるのでしょうね。」


「ほぅ、四匹ねぇ。 入り口があんなんだったのに、そいつは良く調べられたものだなぁ。 一体どうやったんだ?」


「遺跡から出て来たのを確認したらしいですよ? あの虫達が襲わない所をみると、逆に餌として食われていたんじゃないんですかね?」


 おう、まだ四匹もいるのか。 近くには敵の姿は見えないが、きっと俺達の事を警戒しているかもしれないな。 一応敵の特徴でも聞いておこうか。


「じゃあノアさん、その四匹の特徴も分るんですよね? 参考までに教えといてください。」


「あ、はい。 一匹目はグニョグニョした海洋生物らしいです。 何か触手がいっぱいあって、まるでタコの様だとか。 何でこんな所にいるんですかね?」


「いや、俺に言われても知らないですけど、まるでタコじゃなくて、タコそのものなんじゃないんですか? まあ知らないですけど。」


「タコねぇ、昔は王国でもたまに食えたんだよなぁ。 海産物の流通もあったんだが、最近はトンとねぇからなぁ。 魔物じゃなければ食えたかもしれんのに。 ちいと、残念だ。」


「俺はあんなもん食いたくありません、なんかグニュグニュしてて不味いじゃありませんか。 食べるなら隊長一人で食べてくださいね。」


「だから食わねぇって言ってんだろうが! 人の言う事ぐらいちゃんと聞けや!」


 そんな話をしていると、奥から何かが這いずる音が聞こえて来た。 ヌルッというかジュルっというか、兎に角そんな気持ち悪い音だ。


「おいテメェ等、何かこっちに向かって来るぞ! 全員戦闘たい・・・・・フレーレは何処行った?」


 見るとエルをこの場に残して、フレーレの姿が消えている。 何処へ行ったのか?


「あ、隊長さん、フレーレさんなら、この先に行っちゃいましたよ。 ・・・・・あ、帰って来たみたいです。」


「はぁ?!」


 奥から現れたのは嬉しそうに手を振るフレーレと、そしてあれはタコではなく、巨大なクラゲだった。 目撃した者はクラゲという生物を知らなかったのだろう。


「べノムー、得物を連れて来たよー!」


「アホかああああああああああああああ! 変なもん連れてくんじゃねぇよボケエエエエエエエエエエエ! 連れて来るにしても準備ってもんがあるだろうがよぉ!」


「隊長、もしかしたら美味いかもしれませんよ?」


「うるせぇ! 食わねぇって言ってんだろうがコラァ!」






 そして否応なしに戦いが始まった。



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